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第3章:目覚めの力
37.奮起の魔戦士、恩を売る
しおりを挟む「ふははー! これは借りだからな? アクセリ! 覚えておけよ?」
「……何をだ?」
「決まってんだろうが! 弱っちいてめえを助けて貸しを作っとくってことだ!」
「役に立つ働きが出来ればの話だな……」
「けけけっ! ダークエルフや召喚のガキなんぞよりも、戦士の方が機敏な動きが出来るってことを見せてやるよ!」
勇者PTから外された後の数年間、果たしてコイツは鍛錬を続けて来たのだろうか。
魔戦士の魔法部分はまるで話にならないが、戦士としての実力があるならリルグランの中だけで、燻っているような奴では無いのだが……。
「アクさま、間もなく到着しますが突っ込みますか?」
「そうだな……いつもなら慎重に行くところだが、助っ人がいることだ。思いきり行ってもらおう」
「承知しましたわ」
「ロサはアミについてやってくれ」
「……あのまま空の上で遊ばせていてもよろしいのでは?」
召喚士アミナスは種族に関係なく子供そのものなので、パナセたちが連れ去られたことにもあまり危機感を感じずに、小竜の乗り心地に夢中になっているようだ。
その時点で戦うメンバーにはなり得ないが、敵は嘘か真か勇者と聞いている……隠し玉は取っておく方がいいと判断した。
遊ぶだけ遊んだ後は地上に降りて来るだろうし、誰もいなければ泣き出して厄介な獣を呼び出しかねない。
「お前には制止の才能があるからな。だからこそ、頼む! それをしたら、お前の望むことをしてやろう」
「ほ、本当でございますね!? それでしたら、影に徹させて頂くとしますわ」
「ああ。俺はオハードが暴れている隙に、パナセたちを助ける」
「お気をつけて」
さて、今回の救出に関してはオハードの実力に賭けるしか無いが、黒騎士はどこまで踏み込んで来るのか、そもそも因縁とは何なのか気になる所ではある。
真意がどうであれ、パナセを救ったことも関係しているとすれば、パナセに関係があることなのかもしれん。
「よそ見してんじゃねえぞ! ……あそこが入り口なんじゃねえのか?」
リルグランの馬を駆って魔族の気配を追って来たが、オハードが指し示した入り口は洞窟のようだ。
洞窟の中となると、構造上は入り組んだ小道だろうし、袋小路になるのは目に見えているが……。
「おいおい、今からビビッてんのかぁ? てめえは腐っても賢者だろうが! 俺が突っ込んでやるから、無駄な策でも立てて奥まで進みやがれ!」
「……ふ、珍しくやる気を出しているじゃないか。お前一人で雑魚をやれると?」
「誰に物言ってやがる! 居眠りして弱くなったてめえとは、力の違いを見せつけてやるぜ!!」
「ほぅ? 丁度いい、洞窟周りにいる者どもを一掃してくれ」
「面白ぇ! 強さをアピールして惚れてもらうチャンスってわけだ」
そういうことだろうと思ったが、今の時点で近くに黒騎士の姿は見えない。
恐らく黒幕と女勇者が出て来てから動くのだろう。
『うおおおおおおおおおおおおおお!! どきやがれぇぇぇ!』
パナセとルシナが攫われたことに気付き、急いで向かっていた俺たちだったが、落日に向かって暗闇の洞窟に向かって攻めかかるのも、遠く古い日を思い出すようだった。
洞窟の入り口には、魔族の気配とは程遠い雇われの傭兵を散らばせていたが、いきり立ったオハードが突っ込んでいくと、突然のことで驚いたのか、一斉に怯み出していた。
さして大柄でもない男だが、落日に紛れて降り注がれる矢の雨すらも、蚊に刺された程度にしか感じない程の強靭な肉体をしていて、全く痛みを感じていないようだ。
「ちっ、こんなもんかよ、あぁ!?」
「なるほど、怠ってはいなかったか。黒騎士にああいう態度を取った時点で使えないと思っていたが、撤回しよう」
「けっ! 劣弱賢者に成り果てたてめえも、少しはマシになってんだろうな?」
「……そう願う」
「世話が焼けやがる。捕らわれた女どもなんざ、とっとと助け出しやがれ!」
口と態度は悪いが、素直じゃないだけで悪ではないし、悪を見せることはないのはコイツのいい所だ。
とはいえ、黒騎士を本当にどうにかするつもりがあるのなら、実力を見せつけるようでなければ戦ってもくれないだろう。
『おらぁぁぁぁぁぁ!! どけどけどけどけぇぇ!』
オハードは、立ちはだかる……というより、狭い洞窟内に潜んでいた目に付く者たちを、力任せと勢いで仰け反らせているに過ぎない。
おかげでスムーズに奥へ進むことが出来ているが。
それにしてもこの洞窟は、いつぞやに訪れた跫音の洞窟に近い造りに見えるが、真似して掘った人工洞窟ということのようだ。
この時点で、パナセを攫ったのが誰なのかも察してしまったが、果たしてどっちなのか。
「ちぃっ! おい、アクセリ! 厄介な鎌使いがいやがる。てめえは奥まで進みやがれ! 俺は鎌使いを鎮めてやる。てめえはてめえの女どもを守れ!」
「一人で平気か? 要素で支援してやるぞ?」
「魔法なんざ、邪魔なんだよ! こういう得体の知れねえ野郎は、力でねじ伏せるのが一番だ。行きやがれ!」
「ふ……生きろよ」
「こっちのセリフだ! くそが!」
魔の気配を感じる鎌使いの女の視線を横目に感じながら、この場はオハードに任せて奥に進むことにした。
暗闇で良く見えなかったが、魔の気配をさせている女が勇者なのか?
そうだとするとベナークの野郎のことも聞き出せそうだが、今は先に片付けねばならないことがあるようだ。
奥へ奥へと足を進めると、やはりというべき黒幕の姿が目に飛び込んできた。
「なるほど……お前か」
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