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第3章:目覚めの力
36.かつての味方は敵となりけり
しおりを挟む狙い通り、単純なオハードを同行させることに成功した。
オハードに関係ないながらも、勇者に何かしらの因縁がありそうな黒騎士までも動かせたのは、ある意味で成功と言えるだろう。
「そんで、アクセリよぉ……」
「何だ?」
「てめえはベナークの野郎に裏切られたんだってな? しかも弱くされた上に追放とか。だから言ったじゃねえかよ! あの野郎はキナ臭えってな……」
「お前の言い方だと、ベナークを怪しく感じたから、わざとPTに加わらなかったと言っているようだが?」
「ったりめえだろ! それをてめえは、本性を隠しながらずっとヘコヘコしやがって! ああいう奴を調子に乗せれば、痛い目を見んのは明らかだっただろうが!」
女に裏切られた奴がよく言う。
だが仮にも一国の王となり得た男の言うことが、的を得ているのは事実だ。
今思えばとなってしまうが、劣弱となる運命は、俺自身の見誤りということになる。
「アクさま……岩娘は放っておいてよろしいのです?」
「馬よりも小竜の方がいいって言うからな。子供は子供同士で波長が合うのだろう」
ロサのいう岩娘とは召喚士アミナスのことだが、ロサは昔から仲間となった者の名を勝手に遊ぶ癖があった。
それで慣れている俺も大概、ロサに甘いということになるだろうが。
アミナス以外の俺たちは、魔族の気配を残した女勇者の足取りを追う為に、馬に乗っている。
黒騎士だけは一定の距離を置き、自分の姿を見せることのない後方から追いかけて来ているようだ。
途中で裏切らないとも限らないが、それはオハードにも同じことが言える以上、このPTにおける絶対的な仲間はロサとおまけのアミナスということになる。
いずれにしても、パナセとルシナが攫われたのは、俺の油断だ。
しかしルシナに与えた短剣がやる気を出してくれさえすれば、あの子らは傷を負うことは無いだろう。
パナセの潜在能力である痛み移しは、どういうわけか苦痛と同時に、俺の魔力を回復させる効果があることが分かった。
尤もパナセの能力は、幸いなことに賢者の俺だけにしか働かないようだ。
パナセの能力に気付いての拉致であれば、黒幕は間違いなくロサを傀儡にした奴に違いない。
面識のない女勇者はこの際黒騎士に任せるとしても、黒幕の正体は、俺自らが暴いて裁くほか無いだろう。
◇◇◇
「ねえルシナちゃん、わたしたちどうなるの~?」
「分からないけど、そもそもどうしてあの時、素直に返事をしたの? たとえ助けてくれる見込みが無かったとしても、叫べばアミナスも気付いただろうし、あそこにいた男連中が助けてくれたかもしれなかったんだよ!?」
「……男の人は駄目だよ。わたしが嬉しいのはアクセリさまだけなの。それに、ルシナちゃんは知らないだろうけど、とっても懐かしい感じのする女の人が近くにいたの。だから悪い人じゃないのかなぁって」
「こうして眠らされて連れて来られているんだから、悪い人に決まってるでしょ! 全くもう……」
パナセの素直さにほとほと呆れるルシナだったが、賢者以外の男を拒む姉には何も言えなかった。
『薬師の女、降りろ!』
「ほえっ? 到着?」
「ほら、パナから降りて。な~んか、いかにもな洞窟の隠れ家っぽいけど」
「洞窟? 来たことがあるような無いような~?」
パナセの言葉に首を傾げるルシナは、背後を歩くヴェレーノに気を張りながら前を進むことにした。
きょろきょろと洞窟内を見渡すパナセには、それ以上声をかけることなく、やがて洞窟奥にたどり着く。
『薬師のパナセ……我が砦ファルクスへようこそ……』
パナセたちの前に姿を見せたのは、三白眼をしたキツネの女性だった。背が高く、隠しようの無い長い尻尾は、パナセたちを威圧することなく垂れ下げている。
「あーー!」
「え、何? パナ、どうしたの?」
「え、えっと、お別れも言えなかったけど、わたしを覚えているんだよね? シヤちゃん!」
「……知っている人なの? パナ」
「もちろんだよ! だって、シヤちゃんは――」
『その無駄口を切り裂いてやろうか? 女……』
興奮するパナセに苛立つヴェレーノは、切っ先の鋭い鎌をパナセの頭上で構えようとしている。
「や、やめて……! パナを傷つけないで!!」
「……だ、大丈夫、大丈夫だよ。シヤちゃんはそんなことしないよね?」
「な、何者なの? どうしてパナを……」
ルシナの問いに応えるかのように、”シヤ”と呼ばれた彼女は、三白眼を大きく見開いて口を開いた。
「……あなたも薬師ですね。そこのパナセとはかつて、パディンという町で仲良くして頂いた者」
「え? そ、そうなんだ……じゃあ、パナのことを知っていて連れ去りを? どうしてこんな……」
「そ、そうだよ! どうしてなの? シヤちゃん!」
「――パナセの能力は”あの方”に捧ぐべきであり、賢者などではない……」
「えっ? シヤちゃんがどうしてアクセリさまを拒むの? シヤちゃん、シヤちゃんってば!」
「劣弱賢者に仕えては、パナセはまた捨てられる……そうなる前に、救ったまで」
「違うよ! アクセリさまは今まで出会った男……人間たちとは違うの! 駄目だよそんなの……」
パナセの言葉に抗うかのように、目の前のシヤは冷気を纏い、威圧し始めた。
『シヤ・ルテールは、賢者ごとき人間に従うつもりはない! パナセは目を覚ませ!』
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