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第3章:目覚めの力
35.禍罪の勇者
しおりを挟む「……んんんっ? ふぇっ!?」
「ちょっ、パナ、静かにっ!」
油断をした隙に連れられたパナセ、ルシナの二人は荷車に乗せられて、行き先の分からぬ道に驚いていた。
「え? えええ? アクセリさまは?」
「……しっ! 黙ってて――あっ……」
『くく、こんな惚けた女が役に立つとか、正気かあ?』
真紅の瞳で灰色の長い髪をした女は、疑いの目でパナセを見ながら、冷やかしの声を浴びせた。
「な、ななな、何ですかっ! 誰なのですか~!!」
「うるせえ! 誰でもねえんだよ! あぁ、強いていやあ勇者ってやつだな。崇めの勇者ってやつだ。ほら、アタシを崇めなよ! 薬師」
「……勇者? あなたが? どう見てもその瞳は魔族の……」
「お前も役に立たねえ薬師かよ? 知識だけはそこの女よりありそうだが、アタシを知っているかよ、あぁ?」
言葉も態度も勇者と程遠く、風貌も似つかわしくない……そう見ていたルシナだったが、腰の辺りに隠していた短剣の反応に気付き、すかさず女から目を逸らした。
「――! アクセリから貰った短剣?」
「何だぁ? おい、何を隠し持って……ぐっ!?」
「え……」
ルシナの短剣に手を触れた女勇者の手は、すぐに弾き返され、激痛を走らせているようだった。
「くそが! 賢者の短剣を忍ばせていやがったな!?」
「……あなたは何者? 何故短剣に苛まれているというの?」
「アタシはヴェレーノ……毒持つ者。そのふざけた短剣をとっとと仕舞いやがれ! くそが!」
「……そう、毒を弾く短剣なんだ。勇者かどうかなんて知らないけど、私とパナ……その子を傷つけないって約束してくれるなら、短剣を使ってどうこうするつもりはないけど、どうする?」
「ちっ……」
ルシナに持たせていたアシッドガードにたじろいだヴェレーノは、ルシナの言葉に従うように口を閉ざした。
「はふぅ……ルシナちゃん、すごい~!」
「私じゃなくて、アクセリのおかげ。ただの護身用短剣かと思っていたけど、何かの要素でも込めていたとすれば、大したことある奴かも……」
「これからわたしたち、どこに行くのかなぁ?」
「分からないけど、いなくなったことを知って、きっと大騒ぎで泣いてるかもね」
「アクセリさまが大泣き? あぅ……グズッ……」
「ちょっと、何でパナが泣いているの!?」
◇◇◇
「……はぁ? 仲間にならなくていいけど、薬師の女を救い出すのに協力しろだぁ?」
「そうだ」
「何で俺がそんなことをしなくちゃならねえんだよ! てめえに味方する気はねえって何度も……」
分かっていたことだが、この期に及んでもオハードが俺の頼みなどを聞く筈もなく、無駄な時間だけが過ぎている。
「アクさま、こうすればよろしいのでは?」
「ん?」
見かねたロサは、俺にこっそり耳打ちをして来た。
幸いか、そうでないかは即座に判断をしかねるが、城の中には俺とロサ、アミ……そして、強情なオハードと黒騎士が立っている。
「おい、強情男……ならば、俺の話をしっかり聞け! 出来れば近くでだ」
「何でてめえに近づかなきゃいけねえんだよ!」
「俺の仲間……薬師の女の一人は、お前を痺れさせた女だ。それを恥と思わぬのか?」
「あんなもん、下らねえ油断だろうが! それを言うならアクセリ、てめえもだ!」
「……だが風魔法を自分で出しておきながら、痺れを理由に制御出来なかったのは、魔戦士の名が廃るな」
「俺のメインは戦士だ。魔法はてめえの実力に合わせただけで……」
こいつの気性は面倒なくらい荒いが、深く思考を巡らせるほど賢くは無い。
黒騎士に惚れていることを利用すれば、協力せざるを得ないはずだ。
「――オハードが痺れていた時、薬師を救ったのは黒騎士だ。お前の惚れている黒騎士が救った女を見捨てるのか?」
「……う」
「しかもお前が放った風をあっさりと消したぞ? 悔しくないのか?」
「あぁ、くそっ……口先もずる賢い奴め。く、黒騎士に出来て俺に出来ねえはずがねえだろうが! やってやらあ!」
「その意気だ」
単純思考かつ、惚れた弱みに付け込まれるオハードに感謝せばならんな。
今の会話を聞こえていたかそうでないかはともかくとして、恐らく黒騎士もついて来るだろう。
そうでなければ、パナセたちをどうにかできる程、甘い相手では無いだろうしな。
「アミナスもきっちりと、強そうな獣を召喚しておけ。いいな?」
「任せるのだ! 偉そうなアクセリの為に動いてやるのだ」
「……味方には当てるなよ?」
「もちろんなのだ!」
黒騎士に言葉を求めても無駄だろうし、仲間でもない以上は言葉をかけることは不要か。
「よし、行くぞ!」
『……劣弱、勇者は俺に殺らせろ。あの女には借りがある……』
「ほう? いいだろう……女勇者を知っているということならば、エウダイ……お前が勝手にやればいい」
何とも不思議な組み合わせではあるが、勇者に何かしらの因縁があると見ていた黒騎士。
黒騎士を追うオハードには、大いに役立ってもらうとしよう。
「フフッ、楽しそうにしていますわ」
「必死にしたところで、アレらが協力するわけではないからな。そうしたまでだ」
「わたくしもアクさまの抱擁を目指して、陰ながら敵の隙を突くことにしますわ……」
「期待しとく」
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