パーティーから追い出された劣等賢者ですが、最強パーティーを育てて勇者を世界から追い出そうと思います。

遥風 かずら

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第4章:辿り道

51.ベナークの最後

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 これで良かったのか……? 

 考える間もなく、パナセであってパナセではない禍々しい刃が、ベナークの体に突き刺さった。

 万能変異者への発動条件は、パナセ自身に関係する者の血を見ることだったが、一命を取り留めたとはいえ、ルシナの弱々しい姿と相まって、パナセの意識が黒い方に向かってしまったのだろう。

 黒騎士に言われていたことを守れなかった罪は、この俺自らが受けるべきと考えた結果、その刃は奴を貫通して俺にまで届いた。

 護身用にとパナセにも渡していた短剣は、禍々しき気配を纏わせ、鋭き刃となって一直線に向かって来た。

「ア、アクさまっっ!?」
「主(あるじ)!」

 防御に徹し、ベナークとの時間稼ぎを凌ぎ切ったクリュスとストレは、俺への悲痛な叫びをあげた。

 痛覚への遮断は要素を充ててはいたが、致命傷に準ずる痛みが襲って来ている。

 身動きを封じたベナークの野郎がまだ人間部分を残していたのは、急所に近い部分……つまり、胸から下腹部辺りまでだったが、パナセのソレはたとえ不死身だったとしても、関係無かっただろう。

「……ガ、ガハッ……く、そったれが――」
「良かったではないか、お望み通りの結末になって」
「ふ……ざけ――んな……薬師(くすし)ごとき女に、やられ……貴様と……何故」
「パナセを甘く見たお前の負けだ……ぐぅっ」

 魔女にして魔王の現身だったデニサを消したまでは良かったが、まさかベナークの野郎がここまで卑劣な行動を取るようになるまで成り下がっていようとは、堕ちるとこまでおちたということらしい。

 刃を貫き通したところで、パナセはその場で意識を失い、その場に崩れていく。

 俺の手でベナークにトドメを……とは思ったが、パナセがしてくれたそれだけでも、俺の役目は終わりを告げたと言っていい。

 そうして意識を落としてどれくらい経ったか分からない頃、顔にのしかかる温かな重みを感じていた。

「――ん……む?」

「ふぎゅぅぅぅぅ~ぐすっぐすっ……どうしてどうして、アクセリさまが……」

 俺の顔に伝って来ているのは、パナセの涙か。

 良かった、元通りのパナセとして目が覚めたみたいだ。

 しかし涙かよだれかは不明だが、怒涛のパナセはいつまで経っても止んでくれない。

「はぎゅっはぎゅぅっ……ズビビビー」
「……死ぬわけじゃないんだから、泣き止めパナセ」
「はぎゃっ!?」
「おっと、すまんな。ついつい手が動いてしまった」
「あうぅぅ……ひどいです~」
「っっ……く……お前がパナセで合っているか? お前の記憶の底に眠る忌まわしき恨みつらみは、無くなったのか? そうでないなら俺の要素で消すことも出来るが……」

 ベナークは俺とパナセより少し離れた所で、息絶えたように見えるが、まずはパナセだ。

 血の記憶……かつて奴隷として生きていた間の辛い記憶が残るパナセから、万能変異なる力を消すことが可能ではあるが、同時に万能者としての能力が失われてしまう可能性は否めない。

「お、お願いしますです~……アグゼリざば~グズッ」
「わ、分かったから、いい加減泣き止め」

 俺の体は辛うじての状態ではあるが、パナセにいつまでも泣かれては処置も出来ない。

 多少疲れはするが、まずはパナセの中に眠る長きにわたる変異者を取り除き、その後にベナークの肉体をこの世界から追い出すとする。

「――ふぅっ……我が要素、盟約に従いて深く底に眠りし不詳の影……我がパナセより、変異の刻から解き放たん。イレーズ……く……うぅぅ」

「ほえっ? アクセリさま?」

 やはりとも言うべきか、傷を抱えたままの要素唱えは意識を奪うようだ。

 パナセの内に眠る影を除いたところで、俺は意識を遠のかせてしまった。

「パナ……?」
「ルシナちゃん! だ、大丈夫?」
「……うん、アクセリの回復が効いたから。そ、それよりも、アクセリの意識は?」
「どうしよ、どうじよぉ~アクセリさまがぁぁ……」
「し、死んでないからね? き、きっと疲れているはずだし、パナを落ち着かせる為に頑張っていたみたいだから」
「フン……アクさまを勝手に死なせるなんて、玉ねぎ女は変わらずの低劣ぶりだな」
「う~う~玉ねぎ女じゃないです~~!!」

 どうやら俺の仲間たちは無事を通り越して、変わらずの状況を作り出しているようだ。

 オハードと召喚娘のアミナスだけが微妙に放置気味ではあるが、放って置いても害をなさないだろう。

 さて、意識が戻り次第、パナセからは影が消え万能者として失われているかどうかを確かめてみるか。

 その後は最後の要素を使って、まだここに在るベナークをこの世界から消してやる。


「……ふ、さてと……」
「アクセリさま?」
「あぁ、トドメを刺しにな」
「ええっ!? あの人はまだ生きているんですか?」
「ベナークは腐っても勇者だったからな。耐性も備わっているし、魔王に魂を売り飛ばし済みだ。俺を追い出した奴をこの世界から追放することこそが、俺からの恩情だ」

 どうやらパナセは自分がしたことを、少しは覚えているようだ。

 意識が変異者に取られていたとはいえ、直に刃を手にした感触は残したくないだろう。

「で、でででも~」
「自惚れるな。パナセの為じゃないぞ。これをする……いや、しなければ俺が受けた呪いは解けないだけだ」
「じゃ、じゃあ……あのあの、どうぞ!」
「……何の真似だ?」

 どういうわけか、パナセは目を閉じ何かを待つようにして、つま先立ちをしている。

「アクセリ、パナのパートナーなのでしょ? それならその通りにしてあげなさいよ」
「確かにそうだが、その通りとは何だ?」
「……はぁ。賢者のくせに、それが分からないなんて……」
「ん? ルシナが何のことを言っているか、クリュスは分かるか?」
「そのことを、アクさま……わたくしに言わせるおつもりですか? それと、された後はクリュスではなく、ロサとお呼びになって、頬を思いきり叩いてくださいませ」
「あ、あぁ……そのうちな」

 ルシナが言っていること、クリュスが態度で示していることも何となくは分かるが、何故この場でやらねばならんのか。

 油断を生めば、たちまち俺は意識を落としてしまうというのに。

 パナセなりの謝罪なのかもしれないが、何も今やるべきことではないはずだ。

「――アクセリさま、アクセリさまぁぁぁ!! はーやーくー!」
「わ、分かった。そうねだるな」

 アミナス、ストレは子供のようなもののせいか見られても関係無いが、ルシナとクリュスが見ている前でそれをするのは何の罰なのか。

 パートナーとして選んだ手前、これからも求められることになるのは必至か。

「――んんっ……アクセリさま……」
「……あぁ」

 口づけは何度か交わしているが、パナセから流れ込んで来たのは幸せの鼓動だ。

 同時に、万能の力も注がれている感じを受けている。

「む……? パナセ?」
「この力は、あなたに捧げます。わたしは、アクセリさまの為……永遠にお傍にいます」
「し、しかし、これは――」
「あなたへの償い……禍々しき力は、力ある賢者さまにお預けしたいのです」
「……お前の想いを全て受け止めてやろう」

 パナセが求めた口づけは、俺への求めと償いが入っていた。

 口づけを通して、パナセの中に眠っていた万能変異の力が俺に注がれ、同時に俺の傷は治され、パナセは変異の能力を失ったようだ。

 万能の力よりも、おかしなパナセだけになってしまったが、力を取り戻した俺が守っていくしかあるまい。

「――お気をつけて」
「そうだな、それも奴への贐(はなむけ)となるだろう」

 ルシナ、ロサ、そして愛するパナセの期待を背に、俺はベナークの元に近づく。

「……ア、アクセリ、てめえが俺に呪い……追放の術をかけられるわけがない……」
「その通りだ。俺は魔王から力を注がれていないのでな。だが、呪い魔法でなくともお前を地獄に送るのは可能だ」
「ぐ、くそ……あの女の力は何なんだ……たかが奴隷ごときが……」
「奴隷ではなく、万能者だ。デニサの元に行かせてやる。それがせめてもの礼だ」
「礼……?」
「ここに来たことで、彼女の呪いを引き出せたのだからな」
「……礼なら、今ここでてめえに返してやる!! き、消えろ……賢者め!」

 魔に魂を売り飛ばし、心酔したベナークにまだ力が残っていたか。

 横たわっていたベナークだったが、この俺に手をかざし、デニサからもらった呪いの力を放とうとしている。

 奴は変異のパナセによって、刃で突き刺されたが苦鳴をあげず、俺の為だけに力を残していたようだ。

「き、消えやがれ、劣弱賢者がーー!!」

 殺さず生かしたまま俺をPTから追い出し弱くしたのは、ベナークの弱さだったのかもしれないな。

 勇者としても強さは平凡、剣の動きも弱いままだったのが運の尽きか。

「命を乞え、この地この生に飢えを覚えた勇者ベナーク、我が望み、我が声をその者の身に委ねん……サナトス!」

『な、何っ!? な、何だ、それは……っ!?』

「呪いでなくとも、お前に”死”を与える黒魔法程度なら使えるからな」

『が……あ、あぁぁ……く、そ……』

 俺を追放した重力系呪術では無いが、この黒魔法は死の宣告のようなものだ。

 かつて俺を閉じ込めた黒い球体のようなものに近いが、恐らくベナークの全身を包んでいる黒の空間は、闇の存在どもの元に連れて行くカタチに近いはず。

「もう一度、地の底から這いあがって来い。そこで魔のモノどもを倒せたらな」
「……ぎぁぁぁぁぁぁ、ひ、た、助け……ア、アクセリィィィ」
「自ら償うことだ……勇者ベナーク」

 最後にして助けを求めて来たが、ベナークの肉体は人間の形を残したままの人形に過ぎない。

 そのまま血の塊だけを残し、ここから完全に消え、ベナークの意思は消滅。

 これで俺が受けた呪いも弱かった力も、全て終結した。
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