うちのお母さんは最低だ

ツバサ

文字の大きさ
15 / 23

15

しおりを挟む
ゴールデンウィークが終わり、進級して最初の定期テストを無事に終わって、五月も終わりを告げようとしていた。
「……いい天気」
家を出て、空を仰ぎながら呟く。
今日は六月を目前に控えた最後の日曜日。
今日は一ヶ月前から予定していた北野さんとの初のオフ会の日だ。それに加えて、先のゴールデンウィーク中に作った衣装の初披露や初のコスプレイベント参戦など、私にとって初めてが盛りだくさんの日である。
そんな記念するべき日が晴れであってくれたのはありがたいけど。
「でも、夕方から雨か。帰り、大丈夫かな」
駅に向かう道すがら、ケータイの天気予報で時間を確認する。
今日の天気は晴れのち曇り、夕方からは雨が降るらしい。それも結構な雨になるとのことだ。念のためバッグの中に折り畳み傘も入れてきたけど、使わないで済むと嬉しいな。
心の中で晴れが続くことを祈りながら、ケータイを閉じる。
『おはよう、ココロちゃん。私、もう電車に乗ったよ』
電車に乗ると、私はスマホでココロちゃんにラインを送った。すると、一瞬で既読がついて返信がくる。
『おはよう、雫ちゃん。急行だよね? 何両目?』
『急行だよ。右から三番目の車両に乗ってるよ』
『はーい』
最後にスタンプを送って、ラインでのやり取りは一旦終わり。しばらくして、私の車両にココロちゃんが乗ってくる。休日だからか、電車の中に乗ってくる人はココロちゃんだけだった。
「おはよ~。雫ちゃん」
「おはよう、ココロちゃん」
「雫ちゃん、大丈夫? 昨日はちゃんと寝られた?」
「もちろん! ずっと今日を楽しみにしてたんだもん。最近はぐっすり寝られて、お肌の調子も万全だよ」
席はスカスカなのに、私達は立ったまま会話を続ける。
普段、睡眠不足に悩まされている私だけど、北野さんに誘われてから今日まではゆっくり眠れていた。遠足とか楽しみなことを直近に控えていると眠れなくなるって言うけど、私の場合は逆だったらしい。
「そっか。それなら、コスプレもバッチリ決まるね~。イベント、楽しめるといいね」
「うん。でも、本当にいいの? せっかくのお休みなのに、私の代わりに勉強なんてして」
「うん。だいじょうぶだよー。どうせ今日は予定もないし、雫ちゃんのお役に立てるなら本望です」
謝る私に、ココロちゃんは笑いながら胸に手を当てた。某漫画の影響で有名になった、心臓を捧げよのポーズだ。
「じーっ」
ポーズを解いたあと、ココロちゃんはじーっと私の全身を舐め回すように観察した。
「ココロちゃん? どうかした?」
視線がくすぐったくて尋ねると、ココロちゃんはニコっと笑って、口を開いた。
「雫ちゃん。私服、かわいーね!」
「そう? お母さんが決めたやつを着てきただけなんだけど……」
私は複雑な顔でスカートの裾を引っ張った。
私のクローゼットにはよそ行きのちょっと可愛い服が引っかかっている。そこからお母さんが取り出したプリーツスカートと肌を隠せるトップスを着ただけ。私に選択権なんてなかった。
「そうなんだ。じゃあ、雫ちゃんのお母さんってすっごくセンスがいいんだね」
「アハハ。かもね」
身内を褒められた私は、冷え切った声で笑う。お母さんが褒められても、みじんも嬉しいだなんて思わない。むしろ、私がお母さんのビスクドールだと言われてる気がして、嫌な気持ちになる。我ながら、被害妄想が甚だしいと思うけど。
ネガティブな気持ちが全身を駆け巡る。必死に表に出さないよう務めたものの、限界はある。限界が訪れる前に、流れを変えたかった。だけど、特に言うことが思い浮かばない。もし、ココロちゃんが私服だったら、ココロちゃんの私服もかわいいね。と返していた。でも、今日のココロちゃんは制服だ。午前中のオープンキャンパスに参加した後、部活をするらしい。制服なのに、かわいいねなんて褒めるのは変だ。だから、笑って誤魔化す。
「あ、そうだ。忘れないうちに渡しておくね。これ、衣装の入ったカバンね」
「うん。ありがとう」
ふと、ココロちゃんが思い出したように、肩にかけていたカバンを貸してくれる。服が一着入るくらいのちょっと大きめなサイズのカバンだ。
「じゃあ、これ。私も渡すね」
「ほいほーい」
代わりに私は自分のカバンを渡す。突然、持ち物の交換会を始めた私達を、優先席に座ったおばあさんが不思議そうに眺めている。
実はコレオ、ココロちゃんが提案してくれたお母さんを騙すための作戦だった。
私が今までに作ってきた衣装は、部屋のクローゼットの上の段の左のボックスに隠してある。衣装はすべてそこに隠しておいて、着たくなった時にそこから出して、着るようにしていた。特に鍵をかけたりはしていないけど、大丈夫。冬服や秋服など、よく使うものはすべて下の箱に入れてあるから、お母さんがわざわざ苦労して上の箱を出すこともない。それに、もう二年近くバレていないのだ。この先もバレることはないと思う。ただ、衣装を持ち帰るときはそうも行かない。学校の部室で作った衣装を持ち帰る。その時ばかりはバッグの中に入れていくしかない。いつかのように、お兄ちゃんとお風呂のタイミングが重なって、お母さんにカバンを強奪される日もある。そういう日が来て、ふとカバンを改められたらジ・エンドだ。だから、そういうときは生きた心地がしない。今回のイベントのために、私はそんな生き地獄を往復するつもりだった。でも、今日は違う。
今回、イベントに持っていく衣装は、ゴールデンウイーク中に作ったあれにすると決めていた。だから、完成した品は家庭科室の準備室のトルソーに着せておいた。そして、あらかじめ化粧道具や諸々の備品を入れたバッグに入れておいたのだ。それを朝、ココロちゃんに学校に寄ってもらって、持ってきてもらったのだ。本当は自分で取りに行きたかったんだけど、あいにく私は今日制服を着ていない。学校には私服で入ってはいけない決まりがある。こっそり忍び込むことも出来るかもしれないけど、わざわざ怒られるリスクを踏む必要はない。だから、それもココロちゃんに頼んだ。
今回に当たって、私はココロちゃんには本当にお世話になっている。相談に乗ってもらったことから、オープンキャンパスの替え玉まで、本当に何から何までやってもらって、頭が上がらない。それだけの恩を返せる日が来るのだろうか。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

俺様上司に今宵も激しく求められる。

美凪ましろ
恋愛
 鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。  蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。  ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。 「おまえの顔、えっろい」  神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。  ――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

巨乳すぎる新入社員が社内で〇〇されちゃった件

ナッツアーモンド
恋愛
中高生の時から巨乳すぎることがコンプレックスで悩んでいる、相模S子。新入社員として入った会社でS子を待ち受ける運命とは....。

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

処理中です...