7 / 7
花の手紙が運ぶもの
しおりを挟む
「メッセージカップとは何だ?」
親方は、アンネリーンの手の中にあるカップを、ちょいと失礼と声をかけると取り上げた。
「親方さん、ここに文字がみえるでしょう?」
アンネリーンの妹が、得意顔でカップに描かれたガーベラの中心を指さす。
「待ってくれ、その話はちょっと待ってくれ、親方それをこっちに……」
カレルが大声で言って、親方からカップを取り上げようとしたが、彼はひょいっと身をかわしてしまった。
「ああ? 文字ってなんだ。俺は老眼で見えねえな。おい眼鏡もってきてくれ」
親方が大声で言うと、若い職人が「私にみせてくださいよ」と出てきた。
「だ、だめだ、返してくれ!」
あまりに必死で取り返そうとするカレルを面白がって、職人たちが彼の腕やら足やらをつかんで、動けないようにする。騎士団にいたカレルである、4人に取り囲まれてやっと動きが止められたが、なおもじたばたした。
「ああ本当だ。ガーベラの中に何かある。花芯の模様に見えるけど、小さなアルファベットが書いてある。それにしても髪の毛で書いたみたいに小さいな。ええと並べて文字をつくると……どれどれ、『あなたに』」
妹がここから読み始めるのです、と親切に説明している。カップに大きく描かれた4輪のガーベラの1つに職人が目を近づけた。
「どれどれ、『わたしの』」
一つ目の花を読み上げる。その場にいる者は、しんと静まり返って、その声に集中した。
「すべてを」
「あなたに」
ああやめてくれ!とカレルは心のなかで叫んだ。
目を大きく見開いた職人がカレルの顔を見た、そして満面の笑顔を浮かべ、驚くほどの大きな声で言った。
「私の全てをあなたに捧げます!」
うわあ!とその場が歓声でわいた。ひゅーひゅー口笛をならされ、はやし立てられた。
「すげえ告白の言葉だな。愛していますより強烈だ。それにさっき、このお嬢さんも『私も同じ気持ちです』って叫んでたぞ。カレルやったな、おめでとう!」
皆が興奮して、よかったねえ、この幸せ者などと口々に祝福のことばを浴びせかける。
カレルはもう立っていられなくなって、恥ずかしさのあまり顔をおおってへたり込んだ。
「カレルここで求婚しろよ」と声をかける者がいたが、カレルは顔を上げると、大きく首を横に振った。
なんで、どうしてと不満声のなかで、「分かっておやりよ」と年配の女性が言った。
「いまの見習いじゃあねえ、とてもお嫁さんはもらえないよ」
その声に皆黙った。アンネリーンが「カレルさん、私はそんなつもりでは……」と消えそうな小さな声でつぶやいた。
「おいカレル」
メガネをかけて、カップをまじまじと見ながら、親方が厳しい声で呼んだ。
カレルはすぐに起き上がって、親方の前に立った。
「なんでしょう」
親方はやっとカップから目を上げて、眼鏡をずらすとカレルをじっとみすえた。
「これはお前が考えたのか?」
カレルが頷くと「そうか」と言って彼はしばらく考え込んだ。
「よし、決めた。お前このアイディアをこの工房で使わせてくれ。その代わり今日からお前に給金を出し、このアイディア分も加算する。このお嬢さんを嫁に迎えても暮らせるだけの金を払おう」
カレルはしばらく棒立ちになって、親方の申し出をぐるぐる何度も頭の中で考えた。
そうして自分が今ここで、できることに思い当たった。
カレルは親方に返事をするもの忘れて、勢いよく振り返り、そのままアンネリーンの元に跪いた。
一生の誓いをするに相応しい、美しい騎士の姿がそこにあった。
「私の愛、私の魂、私の生涯の全てをあなたに捧げます。愛していますアンネリーン、どうか私の妻になってください」
アンネリーンの若草色の瞳が、涙で潤んでくる。
「すぐに夫婦にならなくてもいい、何年でも私は待つ、あなたがいいと思ったときに私の元に来て欲しい」
彼女はゆっくり息を吸って大きく吐くと、カレルの好きな凛とした瞳で真っすぐに見つめてくれた。
「時間がかかるかもしれません、でもあなたのそばにいてもいいですか?」
「もちろんだよ、どんな時もあなたのそばにいるよ」
アンネリーンが震えながら手を伸ばした。ゆっくりと手を差し出すと、カレルの指先に、まるで蝶がとまるように彼女の指が触れた。
◇◇◇ ◇◇◇
恋人たちの愛の贈り物として、花のメッセージカップは国中で大人気になった。
花の手紙は愛を運ぶ。
二人はゆっくりと時間をかけて夫婦となり、子供や孫に囲まれながら、老いても仲良く花のカップでお茶を飲んでいる。
親方は、アンネリーンの手の中にあるカップを、ちょいと失礼と声をかけると取り上げた。
「親方さん、ここに文字がみえるでしょう?」
アンネリーンの妹が、得意顔でカップに描かれたガーベラの中心を指さす。
「待ってくれ、その話はちょっと待ってくれ、親方それをこっちに……」
カレルが大声で言って、親方からカップを取り上げようとしたが、彼はひょいっと身をかわしてしまった。
「ああ? 文字ってなんだ。俺は老眼で見えねえな。おい眼鏡もってきてくれ」
親方が大声で言うと、若い職人が「私にみせてくださいよ」と出てきた。
「だ、だめだ、返してくれ!」
あまりに必死で取り返そうとするカレルを面白がって、職人たちが彼の腕やら足やらをつかんで、動けないようにする。騎士団にいたカレルである、4人に取り囲まれてやっと動きが止められたが、なおもじたばたした。
「ああ本当だ。ガーベラの中に何かある。花芯の模様に見えるけど、小さなアルファベットが書いてある。それにしても髪の毛で書いたみたいに小さいな。ええと並べて文字をつくると……どれどれ、『あなたに』」
妹がここから読み始めるのです、と親切に説明している。カップに大きく描かれた4輪のガーベラの1つに職人が目を近づけた。
「どれどれ、『わたしの』」
一つ目の花を読み上げる。その場にいる者は、しんと静まり返って、その声に集中した。
「すべてを」
「あなたに」
ああやめてくれ!とカレルは心のなかで叫んだ。
目を大きく見開いた職人がカレルの顔を見た、そして満面の笑顔を浮かべ、驚くほどの大きな声で言った。
「私の全てをあなたに捧げます!」
うわあ!とその場が歓声でわいた。ひゅーひゅー口笛をならされ、はやし立てられた。
「すげえ告白の言葉だな。愛していますより強烈だ。それにさっき、このお嬢さんも『私も同じ気持ちです』って叫んでたぞ。カレルやったな、おめでとう!」
皆が興奮して、よかったねえ、この幸せ者などと口々に祝福のことばを浴びせかける。
カレルはもう立っていられなくなって、恥ずかしさのあまり顔をおおってへたり込んだ。
「カレルここで求婚しろよ」と声をかける者がいたが、カレルは顔を上げると、大きく首を横に振った。
なんで、どうしてと不満声のなかで、「分かっておやりよ」と年配の女性が言った。
「いまの見習いじゃあねえ、とてもお嫁さんはもらえないよ」
その声に皆黙った。アンネリーンが「カレルさん、私はそんなつもりでは……」と消えそうな小さな声でつぶやいた。
「おいカレル」
メガネをかけて、カップをまじまじと見ながら、親方が厳しい声で呼んだ。
カレルはすぐに起き上がって、親方の前に立った。
「なんでしょう」
親方はやっとカップから目を上げて、眼鏡をずらすとカレルをじっとみすえた。
「これはお前が考えたのか?」
カレルが頷くと「そうか」と言って彼はしばらく考え込んだ。
「よし、決めた。お前このアイディアをこの工房で使わせてくれ。その代わり今日からお前に給金を出し、このアイディア分も加算する。このお嬢さんを嫁に迎えても暮らせるだけの金を払おう」
カレルはしばらく棒立ちになって、親方の申し出をぐるぐる何度も頭の中で考えた。
そうして自分が今ここで、できることに思い当たった。
カレルは親方に返事をするもの忘れて、勢いよく振り返り、そのままアンネリーンの元に跪いた。
一生の誓いをするに相応しい、美しい騎士の姿がそこにあった。
「私の愛、私の魂、私の生涯の全てをあなたに捧げます。愛していますアンネリーン、どうか私の妻になってください」
アンネリーンの若草色の瞳が、涙で潤んでくる。
「すぐに夫婦にならなくてもいい、何年でも私は待つ、あなたがいいと思ったときに私の元に来て欲しい」
彼女はゆっくり息を吸って大きく吐くと、カレルの好きな凛とした瞳で真っすぐに見つめてくれた。
「時間がかかるかもしれません、でもあなたのそばにいてもいいですか?」
「もちろんだよ、どんな時もあなたのそばにいるよ」
アンネリーンが震えながら手を伸ばした。ゆっくりと手を差し出すと、カレルの指先に、まるで蝶がとまるように彼女の指が触れた。
◇◇◇ ◇◇◇
恋人たちの愛の贈り物として、花のメッセージカップは国中で大人気になった。
花の手紙は愛を運ぶ。
二人はゆっくりと時間をかけて夫婦となり、子供や孫に囲まれながら、老いても仲良く花のカップでお茶を飲んでいる。
43
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
これは王命です〜最期の願いなのです……抱いてください〜
涙乃(るの)
恋愛
これは王命です……抱いてください
「アベル様……これは王命です。触れるのも嫌かもしれませんが、最後の願いなのです……私を、抱いてください」
呪いの力を宿した瞳を持って生まれたサラは、王家管轄の施設で閉じ込められるように暮らしていた。
その瞳を見たものは、命を落とす。サラの乳母も母も、命を落としていた。
希望のもてない人生を送っていたサラに、唯一普通に接してくれる騎士アベル。
アベルに恋したサラは、死ぬ前の最期の願いとして、アベルと一夜を共にしたいと陛下に願いでる。
自分勝手な願いに罪悪感を抱くサラ。
そんなサラのことを複雑な心境で見つめるアベル。
アベルはサラの願いを聞き届けるが、サラには死刑宣告が……
切ない→ハッピーエンドです
※大人版はムーンライトノベルズ様にも投稿しています
後日談追加しました
雪解けの白い結婚 〜触れることもないし触れないでほしい……からの純愛!?〜
川奈あさ
恋愛
セレンは前世で夫と友人から酷い裏切りを受けたレスられ・不倫サレ妻だった。
前世の深い傷は、転生先の心にも残ったまま。
恋人も友人も一人もいないけれど、大好きな魔法具の開発をしながらそれなりに楽しい仕事人生を送っていたセレンは、祖父のために結婚相手を探すことになる。
だけど凍り付いた表情は、舞踏会で恐れられるだけで……。
そんな時に出会った壁の花仲間かつ高嶺の花でもあるレインに契約結婚を持ちかけられる。
「私は貴女に触れることもないし、私にも触れないでほしい」
レインの条件はひとつ、触らないこと、触ることを求めないこと。
実はレインは女性に触れられると、身体にひどいアレルギー症状が出てしまうのだった。
女性アレルギーのスノープリンス侯爵 × 誰かを愛することが怖いブリザード令嬢。
過去に深い傷を抱えて、人を愛することが怖い。
二人がゆっくり夫婦になっていくお話です。
溺愛王子の甘すぎる花嫁~悪役令嬢を追放したら、毎日が新婚初夜になりました~
紅葉山参
恋愛
侯爵令嬢リーシャは、婚約者である第一王子ビヨンド様との結婚を心から待ち望んでいた。けれど、その幸福な未来を妬む者もいた。それが、リーシャの控えめな立場を馬鹿にし、王子を我が物にしようと画策した悪役令嬢ユーリーだった。
ある夜会で、ユーリーはビヨンド様の気を引こうと、リーシャを罠にかける。しかし、あなたの王子は、そんなつまらない小細工に騙されるほど愚かではなかった。愛するリーシャを信じ、王子はユーリーを即座に糾弾し、国外追放という厳しい処分を下す。
邪魔者が消え去った後、リーシャとビヨンド様の甘美な新婚生活が始まる。彼は、人前では厳格な王子として振る舞うけれど、私と二人きりになると、とろけるような甘さでリーシャを愛し尽くしてくれるの。
「私の可愛い妻よ、きみなしの人生なんて考えられない」
そう囁くビヨンド様に、私リーシャもまた、心も身体も預けてしまう。これは、障害が取り除かれたことで、むしろ加速度的に深まる、世界一甘くて幸せな夫婦の溺愛物語。新婚の王子妃として、私は彼の、そして王国の「最愛」として、毎日を幸福に満たされて生きていきます。
届かぬ温もり
HARUKA
恋愛
夫には忘れられない人がいた。それを知りながら、私は彼のそばにいたかった。愛することで自分を捨て、夫の隣にいることを選んだ私。だけど、その恋に答えはなかった。すべてを失いかけた私が選んだのは、彼から離れ、自分自身の人生を取り戻す道だった·····
◆◇◆◇◆◇◆
読んでくださり感謝いたします。
すべてフィクションです。不快に思われた方は読むのを止めて下さい。
ゆっくり更新していきます。
誤字脱字も見つけ次第直していきます。
よろしくお願いします。
いつか終わりがくるのなら
キムラましゅろう
恋愛
闘病の末に崩御した国王。
まだ幼い新国王を守るために組まれた婚姻で結ばれた、アンリエッタと幼き王エゼキエル。
それは誰もが知っている期間限定の婚姻で……
いずれ大国の姫か有力諸侯の娘と婚姻が組み直されると分かっていながら、エゼキエルとの日々を大切に過ごすアンリエッタ。
終わりが来る事が分かっているからこそ愛しくて優しい日々だった。
アンリエッタは思う、この優しく不器用な夫が幸せになれるように自分に出来る事、残せるものはなんだろうかを。
異世界が難病と指定する悪性誤字脱字病患者の執筆するお話です。
毎度の事ながら、誤字脱字にぶつかるとご自身で「こうかな?」と脳内変換して頂く可能性があります。
ご了承くださいませ。
完全ご都合主義、作者独自の異世界感、ノーリアリティノークオリティのお話です。菩薩の如く広いお心でお読みくださいませ。
小説家になろうさんでも投稿します。
望まぬ結婚をさせられた私のもとに、死んだはずの護衛騎士が帰ってきました~不遇令嬢が世界一幸せな花嫁になるまで
越智屋ノマ
恋愛
「君を愛することはない」で始まった不遇な結婚――。
国王の命令でクラーヴァル公爵家へと嫁いだ伯爵令嬢ヴィオラ。しかし夫のルシウスに愛されることはなく、毎日つらい仕打ちを受けていた。
孤独に耐えるヴィオラにとって唯一の救いは、護衛騎士エデン・アーヴィスと過ごした日々の思い出だった。エデンは強くて誠実で、いつもヴィオラを守ってくれた……でも、彼はもういない。この国を襲った『災禍の竜』と相打ちになって、3年前に戦死してしまったのだから。
ある日、参加した夜会の席でヴィオラは窮地に立たされる。その夜会は夫の愛人が主催するもので、夫と結託してヴィオラを陥れようとしていたのだ。誰に救いを求めることもできず、絶体絶命の彼女を救ったのは――?
(……私の体が、勝手に動いている!?)
「地獄で悔いろ、下郎が。このエデン・アーヴィスの目の黒いうちは、ヴィオラ様に指一本触れさせはしない!」
死んだはずのエデンの魂が、ヴィオラの体に乗り移っていた!?
――これは、望まぬ結婚をさせられた伯爵令嬢ヴィオラと、死んだはずの護衛騎士エデンのふしぎな恋の物語。理不尽な夫になんて、もう絶対に負けません!!
私を簡単に捨てられるとでも?―君が望んでも、離さない―
喜雨と悲雨
恋愛
私の名前はミラン。街でしがない薬師をしている。
そして恋人は、王宮騎士団長のルイスだった。
二年前、彼は魔物討伐に向けて遠征に出発。
最初は手紙も返ってきていたのに、
いつからか音信不通に。
あんなにうっとうしいほど構ってきた男が――
なぜ突然、私を無視するの?
不安を抱えながらも待ち続けた私の前に、
突然ルイスが帰還した。
ボロボロの身体。
そして隣には――見知らぬ女。
勝ち誇ったように彼の隣に立つその女を見て、
私の中で何かが壊れた。
混乱、絶望、そして……再起。
すがりつく女は、みっともないだけ。
私は、潔く身を引くと決めた――つもりだったのに。
「私を簡単に捨てられるとでも?
――君が望んでも、離さない」
呪いを自ら解き放ち、
彼は再び、執着の目で私を見つめてきた。
すれ違い、誤解、呪い、執着、
そして狂おしいほどの愛――
二人の恋のゆくえは、誰にもわからない。
過去に書いた作品を修正しました。再投稿です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる