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花の手紙が運ぶもの
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「メッセージカップとは何だ?」
親方は、アンネリーンの手の中にあるカップを、ちょいと失礼と声をかけると取り上げた。
「親方さん、ここに文字がみえるでしょう?」
アンネリーンの妹が、得意顔でカップに描かれたガーベラの中心を指さす。
「待ってくれ、その話はちょっと待ってくれ、親方それをこっちに……」
カレルが大声で言って、親方からカップを取り上げようとしたが、彼はひょいっと身をかわしてしまった。
「ああ? 文字ってなんだ。俺は老眼で見えねえな。おい眼鏡もってきてくれ」
親方が大声で言うと、若い職人が「私にみせてくださいよ」と出てきた。
「だ、だめだ、返してくれ!」
あまりに必死で取り返そうとするカレルを面白がって、職人たちが彼の腕やら足やらをつかんで、動けないようにする。騎士団にいたカレルである、4人に取り囲まれてやっと動きが止められたが、なおもじたばたした。
「ああ本当だ。ガーベラの中に何かある。花芯の模様に見えるけど、小さなアルファベットが書いてある。それにしても髪の毛で書いたみたいに小さいな。ええと並べて文字をつくると……どれどれ、『あなたに』」
妹がここから読み始めるのです、と親切に説明している。カップに大きく描かれた4輪のガーベラの1つに職人が目を近づけた。
「どれどれ、『わたしの』」
一つ目の花を読み上げる。その場にいる者は、しんと静まり返って、その声に集中した。
「すべてを」
「あなたに」
ああやめてくれ!とカレルは心のなかで叫んだ。
目を大きく見開いた職人がカレルの顔を見た、そして満面の笑顔を浮かべ、驚くほどの大きな声で言った。
「私の全てをあなたに捧げます!」
うわあ!とその場が歓声でわいた。ひゅーひゅー口笛をならされ、はやし立てられた。
「すげえ告白の言葉だな。愛していますより強烈だ。それにさっき、このお嬢さんも『私も同じ気持ちです』って叫んでたぞ。カレルやったな、おめでとう!」
皆が興奮して、よかったねえ、この幸せ者などと口々に祝福のことばを浴びせかける。
カレルはもう立っていられなくなって、恥ずかしさのあまり顔をおおってへたり込んだ。
「カレルここで求婚しろよ」と声をかける者がいたが、カレルは顔を上げると、大きく首を横に振った。
なんで、どうしてと不満声のなかで、「分かっておやりよ」と年配の女性が言った。
「いまの見習いじゃあねえ、とてもお嫁さんはもらえないよ」
その声に皆黙った。アンネリーンが「カレルさん、私はそんなつもりでは……」と消えそうな小さな声でつぶやいた。
「おいカレル」
メガネをかけて、カップをまじまじと見ながら、親方が厳しい声で呼んだ。
カレルはすぐに起き上がって、親方の前に立った。
「なんでしょう」
親方はやっとカップから目を上げて、眼鏡をずらすとカレルをじっとみすえた。
「これはお前が考えたのか?」
カレルが頷くと「そうか」と言って彼はしばらく考え込んだ。
「よし、決めた。お前このアイディアをこの工房で使わせてくれ。その代わり今日からお前に給金を出し、このアイディア分も加算する。このお嬢さんを嫁に迎えても暮らせるだけの金を払おう」
カレルはしばらく棒立ちになって、親方の申し出をぐるぐる何度も頭の中で考えた。
そうして自分が今ここで、できることに思い当たった。
カレルは親方に返事をするもの忘れて、勢いよく振り返り、そのままアンネリーンの元に跪いた。
一生の誓いをするに相応しい、美しい騎士の姿がそこにあった。
「私の愛、私の魂、私の生涯の全てをあなたに捧げます。愛していますアンネリーン、どうか私の妻になってください」
アンネリーンの若草色の瞳が、涙で潤んでくる。
「すぐに夫婦にならなくてもいい、何年でも私は待つ、あなたがいいと思ったときに私の元に来て欲しい」
彼女はゆっくり息を吸って大きく吐くと、カレルの好きな凛とした瞳で真っすぐに見つめてくれた。
「時間がかかるかもしれません、でもあなたのそばにいてもいいですか?」
「もちろんだよ、どんな時もあなたのそばにいるよ」
アンネリーンが震えながら手を伸ばした。ゆっくりと手を差し出すと、カレルの指先に、まるで蝶がとまるように彼女の指が触れた。
◇◇◇ ◇◇◇
恋人たちの愛の贈り物として、花のメッセージカップは国中で大人気になった。
花の手紙は愛を運ぶ。
二人はゆっくりと時間をかけて夫婦となり、子供や孫に囲まれながら、老いても仲良く花のカップでお茶を飲んでいる。
親方は、アンネリーンの手の中にあるカップを、ちょいと失礼と声をかけると取り上げた。
「親方さん、ここに文字がみえるでしょう?」
アンネリーンの妹が、得意顔でカップに描かれたガーベラの中心を指さす。
「待ってくれ、その話はちょっと待ってくれ、親方それをこっちに……」
カレルが大声で言って、親方からカップを取り上げようとしたが、彼はひょいっと身をかわしてしまった。
「ああ? 文字ってなんだ。俺は老眼で見えねえな。おい眼鏡もってきてくれ」
親方が大声で言うと、若い職人が「私にみせてくださいよ」と出てきた。
「だ、だめだ、返してくれ!」
あまりに必死で取り返そうとするカレルを面白がって、職人たちが彼の腕やら足やらをつかんで、動けないようにする。騎士団にいたカレルである、4人に取り囲まれてやっと動きが止められたが、なおもじたばたした。
「ああ本当だ。ガーベラの中に何かある。花芯の模様に見えるけど、小さなアルファベットが書いてある。それにしても髪の毛で書いたみたいに小さいな。ええと並べて文字をつくると……どれどれ、『あなたに』」
妹がここから読み始めるのです、と親切に説明している。カップに大きく描かれた4輪のガーベラの1つに職人が目を近づけた。
「どれどれ、『わたしの』」
一つ目の花を読み上げる。その場にいる者は、しんと静まり返って、その声に集中した。
「すべてを」
「あなたに」
ああやめてくれ!とカレルは心のなかで叫んだ。
目を大きく見開いた職人がカレルの顔を見た、そして満面の笑顔を浮かべ、驚くほどの大きな声で言った。
「私の全てをあなたに捧げます!」
うわあ!とその場が歓声でわいた。ひゅーひゅー口笛をならされ、はやし立てられた。
「すげえ告白の言葉だな。愛していますより強烈だ。それにさっき、このお嬢さんも『私も同じ気持ちです』って叫んでたぞ。カレルやったな、おめでとう!」
皆が興奮して、よかったねえ、この幸せ者などと口々に祝福のことばを浴びせかける。
カレルはもう立っていられなくなって、恥ずかしさのあまり顔をおおってへたり込んだ。
「カレルここで求婚しろよ」と声をかける者がいたが、カレルは顔を上げると、大きく首を横に振った。
なんで、どうしてと不満声のなかで、「分かっておやりよ」と年配の女性が言った。
「いまの見習いじゃあねえ、とてもお嫁さんはもらえないよ」
その声に皆黙った。アンネリーンが「カレルさん、私はそんなつもりでは……」と消えそうな小さな声でつぶやいた。
「おいカレル」
メガネをかけて、カップをまじまじと見ながら、親方が厳しい声で呼んだ。
カレルはすぐに起き上がって、親方の前に立った。
「なんでしょう」
親方はやっとカップから目を上げて、眼鏡をずらすとカレルをじっとみすえた。
「これはお前が考えたのか?」
カレルが頷くと「そうか」と言って彼はしばらく考え込んだ。
「よし、決めた。お前このアイディアをこの工房で使わせてくれ。その代わり今日からお前に給金を出し、このアイディア分も加算する。このお嬢さんを嫁に迎えても暮らせるだけの金を払おう」
カレルはしばらく棒立ちになって、親方の申し出をぐるぐる何度も頭の中で考えた。
そうして自分が今ここで、できることに思い当たった。
カレルは親方に返事をするもの忘れて、勢いよく振り返り、そのままアンネリーンの元に跪いた。
一生の誓いをするに相応しい、美しい騎士の姿がそこにあった。
「私の愛、私の魂、私の生涯の全てをあなたに捧げます。愛していますアンネリーン、どうか私の妻になってください」
アンネリーンの若草色の瞳が、涙で潤んでくる。
「すぐに夫婦にならなくてもいい、何年でも私は待つ、あなたがいいと思ったときに私の元に来て欲しい」
彼女はゆっくり息を吸って大きく吐くと、カレルの好きな凛とした瞳で真っすぐに見つめてくれた。
「時間がかかるかもしれません、でもあなたのそばにいてもいいですか?」
「もちろんだよ、どんな時もあなたのそばにいるよ」
アンネリーンが震えながら手を伸ばした。ゆっくりと手を差し出すと、カレルの指先に、まるで蝶がとまるように彼女の指が触れた。
◇◇◇ ◇◇◇
恋人たちの愛の贈り物として、花のメッセージカップは国中で大人気になった。
花の手紙は愛を運ぶ。
二人はゆっくりと時間をかけて夫婦となり、子供や孫に囲まれながら、老いても仲良く花のカップでお茶を飲んでいる。
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