セイバー

森田金太郎

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14話

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◆埋め合わせ
 それから、1週間後のお昼過ぎの事だった。勇の自宅の呼び鈴が鳴る。勇の母親がそれに応対する。勇は、リビングにてそれを遠くに聞く。

「愛ちゃん?」
「あの、勇くんいる?」
「待っててね?」

 その声に勇は驚く。

「愛ちゃん?」

 そして、母親に呼ばれる前に玄関へと行った。

「ど、どうしたの?愛ちゃん?」

 その勇の問いに愛は答えた。

「今夜、花火大会があるでしょ?付き合って?」
「あ、あの時の埋め合わせだね?」
「うん」
「ごめん!愛ちゃんに考えさせて!行くよ!!」
「よかった。浴衣着てきて、断られたらどうしようって思ってたよ」
「すぐに出かける用意するよ!待ってて!!」

 そのやり取りを聞いた勇の母親は、こう言った。

「待ってる間、上がってて?愛ちゃん」
「あ、ここで待ってる。大丈夫だよ」
「いいの?」

 愛は頷いた。間もなく勇はセイブ・ストーンを忍ばせた小さなバッグを持ち、愛の元へ。

「お待たせ!」
「ほら、すぐに来てくれた。行こ?」
「うん!」

 そして、勇と愛は、遊んだ海に程近い花火大会の会場へと歩を進めて行った。すると、愛の目に、痣を持つ勇の右腕が映る。

「勇くん!どうしたの?」
「え?あ、ああ、えっと、バイオレットとの戦いで無茶しちゃった?って言うのかな?」
「痛そう」
「ま、まぁ、痛みは引いたよ?戦った後よりは」

 そうだ、愛はこの勇の状態を見に来たのだ。「埋め合わせの花火大会」は隠れ蓑だった。

「セイブ・ストーンとかが、すぐに治してくれたらいいのに。それ、やってくれないんだ?」
「うーん、ある程度治してくれるような気がする。けど、本当にあの日は無茶したから、セイブ・ストーンも追いつかなかったんじゃないかな?」
「そう」

 愛は、一瞬うつむく。そして、言った。

「涼くんと晴くんより、私の方が勇くんと付き合い長いのに、何も力になれなくてごめんね?」
「え、大丈夫だよ!!」

 そして、勇は腕の痣をあえて愛に再び見せ、言った。

「これの事は忘れて花火楽しもう?今日はさ!!」

 勇はニカッと笑った。愛は、もどかしい表情を浮かべる。

「かわいい浴衣着た愛ちゃんと、海の埋め合わせ、僕楽しみになってきた!ほら!笑って?笑って?」
「う、うん」

 愛は微笑んだ。すると、バス停に着く。そして、程なく来たバスに乗り込み、花火大会会場へと辿り着く。勇は言った。

「さすがに人多いねぇ!!」
「そうだね?」
「そう言えば、恭くんは?」
「恭も来るんだけど、中学の友達と見るって。だから、私たちとは別行動なんだ」
「へぇ。じゃ、2人っきりだね?」
「うん」

 その後、出店の焼きそばなどを購入し、夕飯とする勇と愛。それが終わると、花火大会は開会。夕闇が迫る空に、最初の一発が上がる。勇は言った。

「さすがに、近くで見ると音大きい!!」

 矢継ぎ早に上がる花火の音にその勇の言葉は愛に届かなかったが、それ以降、勇と愛は花火に照らされる笑顔を交換し続けた。

◆涙を受けて
 花火大会の花火も終盤に差し掛かる。フィナーレを迎えはじめ、花火の勢いは増すばかり。勇と愛の興奮は最高潮に達した。そんな興奮の中、花火大会は終了する。勇と愛は、余韻の中、しばらくそこを動かなかったが、名残惜しそうに勇が言った。

「帰ろうか?」
「うん」

 そして、帰りのバスを目指し、バス停へと歩を進める。しかし、無情にもセイブ・ストーンが勇の荷物の中から飛び出し、プラネットクラッシャーの襲来を告げる。曇る愛の顔。勇はすぐに気持ちを切り替え、周囲を見渡す。

「今度は、どこっ?バイオレット?オレンジ?」

 駆け出そうとする勇の左腕を、愛は両手で掴んだ。

「あ、愛ちゃんっ?」
「怪我してるのに、また戦ったら勇くんが傷ついちゃうよ!私、嫌だ!!」
「愛ちゃん」

 駆け出そうとする足を勇は止める。そして、愛の顔を見る。その瞳は、出店などの光に照らされていた。その光は、愛の涙を勇に知らせた。

「泣かないで、愛ちゃん」
「行かないで。何で?何で!こんな時にあの人たちっ!!」
「愛ちゃん、心配してくれてありがとう。けど、僕が戦わなきゃ。ここにいる人たちが痛い思い、しちゃうからね?」

 愛の涙は、落ちる。

「泣かせちゃってごめん。愛ちゃんの気持ち、嬉しい!その気持ちが僕を守ってくれそう!!絶対に今日は怪我しないように戦うから!行ってくるね!!」

 勇は、愛の手をほどき、走って行った。

「勇くん!!」

 愛は泣き崩れた。一方、勇は走りつつ右腕の痣に目を落とす。

「愛ちゃんを守るためにも、今日は無傷で帰らなきゃ!」

 そう呟いた。そんな勇の目の前に涼と晴が。

「涼?晴?花火大会来てたの?」
「まあな」
「そんなとこ」

 そして、涼と晴と共に勇はセイブ・ストーンに導かれながらプラネットクラッシャーを探した。しかし、なかなか見つからない。勇は焦る。

「セイブ・ストーンは、確実にプラネットクラッシャーが来てるって言ってるのに」

 その瞬間だった。大会は終わったと言うのに、花火の上がったような音がした。勇、涼、晴は、上空を見上げる。すると、紫と橙色の花火のような物が空に浮かんでいた。それは1つ1つ星のようになり、地上めがけて落ち始める。涼が言った。

「あれに当たったら、危ない!破壊される!!」

 晴が叫ぶ。

「変身だ!!」

 そして、3人は矢継ぎ早にこう言い、3人揃って空へと行った。

「解き放て!守りの力!!」
「はためく翼は強き盾!アースセイバーウイング!!」
「流るる水は大いなる癒し。アースセイバーウォーター」
「荒ぶる炎は確かな希望!アースセイバーファイア!!」
「レッツ!セイブ!!」

 空へと行く途中、ウイングは慌てて言う。

「僕の盾!いっぱい展開して!!」

 ウイングは何度も自らの翼を開き、その度に全ての羽根を盾に変える。花火大会の客や関係者、そして、通りすがりの人々に与えるためだ。しかし、その人数は膨大。ウォーターが叫ぶ。

「ウイング!それじゃ間に合わない!」
「どうしよう!!」

 ウイングは焦った。焦りの中ではあったが、必死に考えた。それを受け、ファイアは言った。

「とにかく、バイオレットとオレンジを叩くしかねぇ!!」
「でもっ!あの星みたいなのは2人を倒しても残りそうじゃん?」

 ウイングは更に混乱した様子でそう返したが、ウォーターが言う。

「それは、ウイングの盾しか対応出来ないよ!」
「あいつらは、俺とウォーターでどうにかする!ウイングは、何か考えろ!!」

 ウイングは、なんとか気持ちを落ち着かせ、迫る「星」を見ながら返した。

「わかった!お願いっ!!」

 二手に分かれるアースセイバーではあったが、更にカラミティの集団が降って来る。それは、ウォーターとファイアにも襲いかかる。

「くっ、なんて事だっ!」
「ふざけんなよ!!」

 上空にてカラミティと戦闘状態になるウォーターとファイア。その更に上にバイオレットとオレンジの姿をやっと見る事が出来た。空は暗く、表情はうかがい知ることは不可能だったが、おそらく、笑っているであろうとウイングは思った。そして、ウイングは言った。

「思い通りにはさせない!」

 そう言った瞬間、勇にとあるアイディアが浮かぶ。

「僕の翼自体を、1つの大きな盾にすればいいんだ!!」

 そして、ウイングは叫んだ。

「みんなを守るための大きな盾を!僕の背中にちょうだい!!」

 すると、開かれた翼はぐんぐん大きくなり、一帯の傘のようになる。上空の高い所にいた バイオレットは言った。

「なんだとぉ?あんな盾は見た事ない!」

 オレンジは言った。

「ターゲット・デモリッションも地上に届かないじゃない!!」

 ウイングは、地上を見下ろすような体勢を取り、傘のような翼の盾を大きく広げつつ、翼から3つの小さな盾を更に作った。

「ウォーターと、ファイアを守ってあげて?僕の盾。そして、今日は特別に僕も守って?怪我、したくないんだ。愛ちゃんを、もう、泣かせたくないから」

 すると、盾は1つずつウイング、ウォーター、ファイアを守る。

「ありがとう!ウイング!!」
「助かるぜ!ウイング!!」

 そんな中、バイオレットとオレンジのターゲット・デモリッションとカラミティは、ウイングの所に到達した。しかし、大きな盾となったウイングの翼に阻まれ、地上に達する事は不可能であった。それを受け、ウォーターとファイアは、こう言った。

「セイブ・ウォーター・ソード・レイン!」
「セイブ・ファイア・クロス・エクスプロージョン!」

 それを聞いたウイングは、言った。

「セイブ・ウイング・ミラー・シールド!!」

 大きな盾は、鏡のようになり、カラミティの悪しき力とターゲット・デモリッションをプラネットクラッシャーに返す。

 3人の攻撃を受けたバイオレットとオレンジは、力を失い、落下していく。その最中、オレンジは言った。

「花火みたいに、攻撃すれば、壊せると思ったのに」

 バイオレットは言った。

「別の手を考えるしかねぇな」

 そして、気を失い、海に落ちて行った。

◆静まりかえる
 脅威は去った。ウイング、ウォーター、ファイアは上空で変身が解ける。勇は言った。

「おっ!落ちるっ!!」

 しかし、ゆっくり地上へと涼と晴と共に降りていく。勇は続ける。

「セイブ・ストーン。ありがとう」

 降りて行った先には、愛がいた。

「勇くん!そして、涼くん!晴くん!」

 駆け寄る愛を、勇は思わず抱きしめた。そして、言った。

「今日は、怪我しなかったよ。愛ちゃんの思い、本当に僕を守ってくれた。ありがとう!」
「よかったっ」

 それから、勇たちはそれぞれの帰るべき所に帰って行った。

 その後、ひと月ほど夏休みは残っていたが、その期間、セイブ・ストーンは反応を示す事はなく、また、街中に出てもプラネットクラッシャーに出くわす事もなかった。勇は言った。

「静かだなぁ。けど、これでいいんだ」

 わずかに疑問を抱きながらだったが、勇は心ゆくまで夏休みを堪能した。
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