セイバー

森田金太郎

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22話

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◆儀式
 脅威は去った。ウイングは、勇になる。しかし、ウォーターとファイアはそのままだった。その事を、勇は別段問う事はなかった。勇は2人の先に見える星空を見つめ、言った。

「時間だね?」

 ウォーターとファイアは頷いた。そして、その右手に、セイブ・ストーンを乗せた。ファイアは言った。

「ウォーター、これからの説明を」
「はい」

 ウォーターは言った。

「ここからは、儀式となるんだ。だから、言葉を本来の物にする事を許してね?勇」
「うん」

 ウォーターは、息を1つ吸い、説明を始めた。

「私と教官のセイブ・ストーンは、ここ地球での戦闘許可証である。一方、守護者に与えられたセイブ・ストーンは、戦闘のための力の源である。地球の守護者、安藤勇、その手にセイブ・ストーンを」

 勇は、ウォーターとファイアに倣い、セイブ・ストーンを右手に乗せた。ウォーターは続ける。

「これより、私と教官のセイブ・ストーンに水の力、炎の力を込め、地球の守護者へ譲渡する」

 勇は、自らのセイブ・ストーンとウォーター、ファイアのセイブ・ストーンを見る。それを認めたファイアは空を見つめ言った。

「守護者承認の儀、開式を宣言する」

 すると、強い光が辺りを包む。勇は思わず目を瞑った。しかし、すぐに再び目を開ける。すると、目の前に、犬型の聖犬チャールズを連れた神聖なる老爺が立っていた。

 老爺は白い装束を着用し、冠のような帽子を被っていた。白い口髭を持ち、柔らかい白髪をたたえたその老爺の目の前に、ウォーターとファイアは跪き、頭を垂れた。ファイアは言った。

「シールドゴッド様、ここに地球の守護者を迎える事が出来ました」

 ウォーターが続ける。

「シールドゴッド様、安藤勇を地球の守護者としてお認めください」

 シールドゴッドは言った。

「識別番号、318977369、並びに、888069663、無事の育成、ご苦労だった。褒めてつかわす」

 ウォーターとファイアは、同時に返した。

「ありがたきお言葉」

 すると、シールドゴッドはその場の雰囲気に圧倒され立ち竦んでいた勇のセイブ・ストーンに光を当てた。驚く勇。すぐにその光をシールドゴッドは収め、言った。

「安藤勇を、地球の守護者とすることを認めよう」

 その言葉をきっかけに、ウォーターとファイアは立ち上がり、勇の方を見た。そして、そんな2人の間にチャールズが歩み進んで来る。それを確認したウォーターは言った。

「セイブ・ストーンに、水の力を」

 ファイアは言った。

「セイブ・ストーンに、炎の力を」

 ウォーターは水の幻影に、ファイアは炎の幻影に包まれる。その幻影は、壮大な物だった。水は、炎は、次々に右手のセイブ・ストーンに吸収されていく。その時間はしばらく続いたが、遂にウォーターとファイアから水や炎の幻影が出なくなる。

 それを静かに見守っていたチャールズが遠吠えを響かせた。

 すると、ウォーターとファイアのセイブ・ストーンはその右手から浮遊する。そして、それを追いかけるように勇の右手のセイブ・ストーンが浮遊する。

「あっ」

 勇の短い声を背に、勇のセイブ・ストーンは、ウォーターとファイアのセイブ・ストーンに囲まれる。そして、2つのセイブ・ストーンは、水と炎の幻影を醸し出しながら勇のセイブ・ストーンの周りを高速で回り始める。やがて、強い光が発せられた。

「まぶしいっ」

 勇がそう声を上げた時、無色透明の丸い3つの石だったセイブ・ストーンは、丸みを帯びた三角形の石へと変化した。無色透明のセイブ・ストーンは、ゆっくり勇の右手目指して降下。やがて、着地した。

 それを見届けたシールドゴッドは言った。

「地球の守護者、アースセイバートリプル、ここに誕生した事を宣言する!!」

 ウォーターとファイアは静かに頭を下げた。勇は言った。

「アースセイバートリプル」

 そして、人型となったチャールズが言った。

「守護者承認の儀、閉式を宣言する」

 それを受け、ウォーターは言った。

「勇、トリプルとして、この地球を守ってね?」

 ファイアは言った。

「これからは、自由に力を使えるぜ!頑張れよ!!」

 勇は返した。

「うん!わかったよ!!」

 そのやり取りが終わった後、人型のままのチャールズは遠吠えを響かせた。すると、辺りを照らしていた光が縮まっていく。勇は察した。

「お別れだね?涼!晴!僕、立派に地球を守るっ!約束するよ!!」

 ウォーターは言った。

「勇、期待してるよ!」

 ファイアは言った。

「ああ!お前だったら出来る!!」

 3人は、力強く頷いた。そして、3人は声を揃えてこう言った。

「今まで、ありがとう!!」

 そして、光は消えた。ウォーター、ファイア、シールドゴッド、チャールズの姿と共に。

 それを見届けた勇の顔は、底なしの明るい笑顔から、泣き顔に変わる。

「涼ー!!晴ー!!」

 快晴の星空の下、勇の別れの涙が雨を降らした。

◆奇跡を願う
 ウォーターとファイアはシールド星に帰還した。神殿に招かれた2人の目は潤んでいた。それを認めたシールドゴッドは犬型になったチャールズを傍らにこう言った。

「318977369、並びに、888069663、辛き事だったな。毎度の事だが」

 遂にウォーターとファイアは落涙する。しかし、その涙に負けず、ファイアは言った。

「シールドゴッド様、お心を寄せていただき、ありがとうございます」

 ウォーターの言葉は、涙に奪われる。しばらくすすり泣く声が響いたが、ウォーターが言った。

「シールドゴッド様、ミラクルボールを地球に贈りたいです」

 ファイアも言った。

「私も、そうさせていただきたいです」

 シールドゴッドは、間髪入れずに答えた。

「よかろう」

 すると、チャールズが遠吠えを2回響かせた。その音波は清らかな雰囲気をたたえた片手に乗る大きさのボールを2つ作り出した。そのボールは、ウォーターとファイアの右手に収まった。すると、無色透明だった2つのボールは、ウォーターの物は白い物に、ファイアの物は黄色い物に変化した。

 それを認めると、シールドゴッドはチャールズを伴いながら立ち去った。こんな言葉を残して。

「力の回復を図り、地球にミラクルボールを贈り給え。318977369、並びに、888069663」

 その言葉に、ウォーターとファイアは声を揃えた。

「はい」

 と。そして、ウォーターとファイアはそれから神殿の中の贈呈室と呼ばれる部屋に入室し、そこにある椅子に座り、少し休憩を取る。ウォーターが呟くように言った。

「流るる水は大いなる癒し。アースセイバーウォーター」

 それを受け、ファイアも呟いた。

「荒ぶる炎は確かな希望。アースセイバーファイア」

 ウォーターの目には、再び涙が浮かぶ。一方、ファイアは短く笑った。そのファイアは言葉を続ける。

「あれは、『肩書き』という物だったな」

 ウォーターはその頬を涙で濡らしつつ言った。

「最初は、不要だと正直思っていました。けれど、名乗れなくなった今では、愛おしくて、愛おしくて」

 ファイアは同意の頷きを見せつつ、再び涙を落とした。そして、ファイアは言った。

「勇、すげぇ贈り物だったぜ?」
「ありがとう。勇。今度は、僕たちから、贈り物をするね?」

 ウォーターはそう言うと、立ち上がった。そしてこう続けた。

「教官、私、このボールに願いを込めようと思っています」
「私もだ。お前はどんな願いを?」

 ファイアも立ち上がり、尋ねた。ウォーターはそれに答える。

「私は、『癒しの奇跡』をです」
「私は、『希望の奇跡』をだな」
「勇からもらった肩書きの恩を返す時と思っていますよ」
「そうか、そうだな。では、共に贈ろう。ミラクルボールを地球に」
「はい」

 2人は、深呼吸を一度した、そして、再び息を大きく吸い込み、言葉を紡ぎ始める。

「ミラクルボールよ、我が命に従い地球へ赴け。願わくば、癒しを与えよ」
「ミラクルボールよ、我が命に従い地球へ赴け。願わくば、希望を与えよ」

 2人の右手に収まっていたミラクルボールは、意思を持ったように浮き上がり、優しく光りながら天井の窓から外に出ていった。

 しばらくウォーターとファイアはミラクルボールが見えなくなっても天井を仰いでいたが、ファイアは視線をウォーターの方に向け、話し始める。

「さて、出るとするか」
「はい、教官」

 ウォーターも視線をファイアの方に向け、答えた。そして、2人は、贈呈室から退出して行った。その部屋の前の廊下にて、ファイアは言った。

「最後の教習は、かなりの特殊事例ではあったが、地球にて特別な経験を積んだと思っている。これからは、一人前の育成者として胸を張っていけ」
「はい。今までありがとうございました、教官。そして、教官の期間を含めて、長い間の育成者としてのお勤め、お疲れ様でした。いい奥様を見つけ、立派な父親となってくださいね」
「わかった。その言葉、死ぬまで忘れない。あわよくば、私の子が育成者となった時の教官は、お前になってもらいたいとも思っているがな」

「その際は、よき育成者となるよう、全力を注ぎます」
「そうしてくれ。そして、この言葉の意味がわかるな?」
「はい。次の星でも、次の次の星でも、生きて帰ります」
「よし、その意気だ。安心して別れられる。元気でな」
「はい、教官もお元気で」

 そして、2人は反対方向に歩を進める。決して振り返らず、自らたちの「次」を見据える。これは、888069663と318977369の今生の別れだった。
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