セイバー

森田金太郎

文字の大きさ
40 / 40

後日談・種のふるさと

しおりを挟む
◆先生になった元ヒーロー
 プラネットクラッシャーが地球から「いなくなって」から、5年。その年の4月、とある中学校の1年5組の教室にて、男性教諭がこう第一声をあげていた。

「はじめまして、僕は、安藤勇です。今日からみんなの担任になります。みんなも1年生。僕も、先生1年生。一緒に学んでいきましょう!」

 それから、その日の日程を終了し、夜遅くに勇は帰宅した。自室に入るなり、勇は言った。

「秘密ソルジャー、僕、今日1日頑張ったよー!!」

 そして、微笑みながら勇は続けた。

「秘密ソルジャードクター!今年1年、よろしくね!!」

 そう元気に言ったが、この日の疲れがどっと出て、ベッドに横たわった。そして、勇は髪の毛の一部を撫でる。

「また、ここ黒に染めなきゃなぁ。」

 そう呟くと、眠りに就いた。

◆守りの教え
 それから、数ヶ月後、勇は勤務先の中学校で暴力事件を目撃した。体育館の裏で1人の男子生徒がもう1人の男子生徒を殴っていた。それを止めに行く勇。

「暴力は良くないよ」

 殴られていた男子生徒に背中を向け、勇は殴っていた男子生徒を見つめる。

「どうして殴ったの?」
「そいつ!俺が貸した物壊しやがったんだ!!」
「そう。大事な物だったようだね?」

 殴られていた男子生徒は押し黙ったままだった。勇は振り返り、尋ねた。

「壊した事、謝った?」

 首を横に振る男子生徒。勇は言った。

「まずは、君、壊した事を謝ろう。そして、君、殴った事謝ろう。」

 勇の優しくかつ毅然とした視線に、2人の男子生徒はお互いに謝った。

「君は、壊しちゃった事、反省してね?そして、君は、強い。これからは、その強さ、何かを守るために使ってみたらいいよ」

 そして、勇はその場を立ち去った。

◆教師の休日
 それから、また月日が経った仕事の休みの日。勇は、愛と会っていた。愛は言う。

「今日も、いつもの所、行くの?」
「うん。友達だしね」

 勇は、狭い路地に入って行った。愛もそれに続く。そして、しばらく歩くと、パイプ椅子に座る男女一組を見る。愛はこう声を上げた。

「お姉ちゃん」
「いらっしゃい、愛。それに、勇くん」

 そんな累の声かけに微笑む勇は、言った。

「また来ちゃった。芯さん」
「やあ」

 短く返事した芯は、勇と愛を見て、言葉を続けた。

「相変わらず、2人には『死』は視えないね」

 勇と愛は、見つめ合う。そして、勇は言った。

「お金出す前に、『占い』しちゃ駄目だよ、芯さん」
「だって、毎月来てくれるじゃん?お得意様割引だよ」
「そうなの。ありがとう」

 それから、特に言葉を交わすことはなかったが、4人は穏やかな時間を過ごした。

「そろそろ、行こうかな?」

 勇は、そう言い、愛と手を繋いだ。芯は、言った。

「またね、勇くん」

 そうして、勇は愛と共にその場を後にした。

◆プロポーズ
 勇は、それから愛と幸せな時を過ごしつつ、教師としての経験を積んでいき、数年が経った。勇は、とある休日、愛と会っていた。

「愛ちゃん」

 勇の声は甘く、その手は愛の髪の毛を撫でていた。愛は、それに身を任せ、微笑んでいた。勇と愛は、子供の頃の勇が涼と晴と初めて出会ったあの公園のベンチで2人並んでいた。

「勇くん」

 愛の甘いため息混じりの声も響く。そんな中、勇はポケットからとある物を取り出した。そして、その中身を愛に見せる。愛は明るい声を上げた。

「指輪っ」

 愛は勇を見つめた。勇は愛に言った。

「ねぇ、愛ちゃん?僕たち結婚しない?」

 その返答は、愛からの熱烈なキスだった。勇はその愛の唇に身を委ねる。愛は言った。

「これからも、よろしくね?勇くん」
「愛ちゃん、ありがとう。幸せになろうね」

 そして、勇は再び愛の髪の毛を撫でる。

「髪の毛、これからは伸ばすといいよ。僕が、恭くんのお兄ちゃんになるからね」
「うん」

◆結婚披露宴
「安藤先生!ご結婚、おめでとうございます!!」

 式場には、勇が受け持つクラスの生徒からのビデオメッセージが流れた。勇は、にこやかにそれを見て、拍手をした。傍らの愛の目には涙。愛は言った。

「いい生徒たちだね?」
「それは!もう!かわいい生徒だよ!!」

 式場には、勇と愛の両親をはじめ、親戚が集まっていた。累や恭も家族として参列し、芯も友人として出席していた。大人となった恭は、新郎新婦の所へ行き、言った。

「何度でも言いたいっ!勇兄ちゃん!おめでとう!!愛姉ちゃん!おめでとう!!」
「ありがとう、恭くん」
「恭、ありがとう」

◆新居での
 その後、勇と愛はそれぞれの実家を出て、同居し始めた。愛は出勤する勇を見送り、勇は中学校で働く生活が板についてきた。勇は、帰りが遅い日もあった。しかし、愛は寝ずに待っていた。

「愛ちゃん、遅くまで起こしてごめんね」
「いいんだよ、勇くん。私、勇くんの顔見た後じゃないと眠れないから」
「ありがとう、愛ちゃん」

 そんな生活を続けていた休日前の夜、2人はベッドの上で、向かい合わせで座っていた。勇は、愛の髪の毛を撫でた。

「随分、伸びたね?フラワーだった頃みたい」
「本当は、このくらい伸ばしたかったんだ」
「そう」

 2人の脳裏に、愛の腰まで伸びていた髪がベリーショートヘアーになった日の出来事が蘇る。

「えっ!愛ちゃんの髪!すごく短くなったね!!」

 小学校時代の勇は、愛にそう声をかけた。

「びっくりした?勇くん。」

 小学校時代の愛はそう言い、うつむく。

「あの、恭、言ってたの。『お兄ちゃんが欲しい』って。でも、私は女の子だから、本当のお兄ちゃんになってあげられないっ。だから、勇くん!恭のお兄ちゃんになってくれない?」
「うん!いいよ!愛ちゃん!!」

 2人の思考は、現実に戻る。そして、愛は言った。

「そう言う勇くんの髪、また紫の髪、出て来ちゃったね?」

 愛の手が、勇の髪の毛を撫でる。勇は返した。

「また、染めなきゃね」

 勇も愛もお互いの髪の毛を撫で続ける。2人の顔は接近。やがて、お互いへの欲求を込めた荒々しいキスへと発展した。

「勇くん」
「愛ちゃん」

 その熱のこもった声をきっかけに、全てをお互いに捧げる高揚した夜を2人は過ごした。

◆知らせと確信
 それから数週間後。

「愛ちゃん、大丈夫?」

 愛は、朝起きる事が出来なかった。勇は、心配しつつも、自分の出来る事をし、出勤して行った。

「無理しないで、休んでてね?ごめん、いってくる」
「うん、いってらっしゃい」

 愛は、ベッドで勇を見送った。一方、勇は、愛の事が気がかりではあったが、仕事に専念した。そして、少し遅い時間に帰宅する。

「ただいま。遅くなっちゃった。愛ちゃん、大丈夫?」

 愛は、リビングにて座っていた。テーブルには書類が上がっていて、勇はそれに疑問を抱いた。そんな勇に愛は短く言った。

「勇くん、私ね?赤ちゃん、出来た」

 勇の目が驚きに染まる。それを見つめる愛の両手は、自らのお腹に添えられる。勇の声は高ぶる。

「えっ!えっ!!僕、パパになるのっ?」

 愛は微笑む。そして、言った。

「そうだよ、勇くん。」

 愛はお腹を撫でた。

「きっと、女の子だよ。今日、先生は何とも言ってなかったけど、きっと、女の子」

 勇は、それに返した。

「シード」

 愛は頷く。そして、復唱するように言った。

「シードに、また、会えるね?」

◆名前
 とある休日。勇は、まだ膨らみが目立たない愛のお腹を撫でながら言った。

「ねぇ、愛ちゃん?もしよければ僕に赤ちゃんの名前、つけさせて?」
「いいよ?」
「実は、もう考えてるんだ。『叶』ってつけようって」
「『かなえ』?」
「うん!夢を叶える『叶』。僕さ、ヒーローの夢と、教師の夢、どっちも叶えたから、この子にも、そうなって欲しいなぁって思ったんだ!!」
「安藤叶。いいね?」

 そして、愛はお腹に優しい目線を落とし、言った。

「叶、早く会いたいな」

◆対面
 その日、大きなお腹をした愛に勇は見送られ、出勤して行った。愛の出産予定日まで、あと数日という所だった。

「今日も、無理は駄目だよ?愛ちゃん?」
「わかったよ、勇くん」

 夫婦の会話は、ひたすら穏やかであった。

 その日の夕方。愛は言った。

「痛い」

 お腹を押さえた愛の顔は、辛さに歪んでいた。

 勇は、その一報を受け、残りの仕事を手早く終わらせ、職場である中学校を後にした。自家用車にて走る勇。アースセイバーだった頃を思い出した。

「あの時も、走ったなぁ。今は、愛ちゃんを辛さから守るんだっ!」

 愛が運ばれた病院に勇は着いた。

「愛ちゃん!」

 初めて感じる痛みに愛は、悲鳴を上げていた。

「勇くん、痛いよ」
「愛ちゃん、頑張って!僕も一緒に戦うよ!!」

 勇は、愛の手を握った。その手の力を受け、愛は「これからの困難」と戦う決意をした。

「勇くん!勇くん!!私、頑張るっ!!」

 やがて、その時は来た。分娩室に響き渡る産声。そして、この一声がかけられた。

「女の子です」

 勇と愛の涙が、2人の娘を迎えた。

◆危惧と
 それから、勇と愛は、叶の子育てに奔走した。

 そんなある日、勇は、秘密ソルジャーシリーズのフィギュアを見せつつ、叶をあやしていた。

「ほーら、叶?秘密ソルジャーだよー?」

 愛は、さすがに苦笑いしたが、勇自身もしっくりいってないようで、こう言った。

「秘密ソルジャーじゃなくて、キュートマージがいいかな?叶、女の子だし。ちょっと勉強しようかな?」

 愛はすかさず言った。

「そんな事したら、勇くんの方が夢中になっちゃうんじゃない?叶は、叶の好きな物を大きくなったら見つけてもらおうよ」
「そうだね。僕も、秘密ソルジャーは、僕自身が好きになったんだしね」

 愛は、勇の言葉を聞きつつ、叶の顔を見つめた。すると、涙が溢れてくる。

「だんだん、叶、シードに『似てきてる』。わかってるけど、嫌だなぁ。過去に行っちゃうの」

 勇は、愛を優しく抱きしめた。

「僕も、『もうすぐ』だと思ってる。さびしいよ、正直ね」

 勇に抱きしめられつつ愛は思いっきり泣いた。勇は、言葉を続けた。

「でも、過去でシードは消えた。きっと帰って来るよ、叶は」

 その言葉に、愛の涙は止まった。

「そうだね。そう信じる。それに、叶は変な所に行くんじゃない。過去の私たちの所に来てくれたんだもんね」

 勇は穏やかに頷いた。そして、叶に向けて言った。

「叶、もうすぐ高校生だった頃のパパとママに会いに行く事になるよ。その時は、こう言って戦って来てね?『眠る種は、無限の未来!アースセイバーシード!!』ってね」

◆その日
 勇の休日。安藤家では、いつもの風景が流れていた。しかし、昼過ぎの事だった。突如、黄色い光が叶を包んだ。勇と愛ははじめ驚いたが、次第に覚悟の目でそれを見つめた。愛は言った。

「叶、必ず、帰って来てね?」

 勇は、言った。

「いってらっしゃい、叶。また、会える日を待ってるよ」

 叶は、それに言葉を返す事なく黄色い光と共に消えた。愛は、泣き崩れた。勇は、それをしっかりと受け止めた。

◆未来
 それから数日後。夫婦2人に戻った生活の中で、勇は言った。

「過去の僕、一度だけシードの言う事聞かなかったんだよね。それでさ、地球を壊しちゃった。愛ちゃんが直してくれたけど、あの時の僕、娘の言う事聞かない最悪なパパだったね」
「勇くん。それはあの時も言ったけど、私も悪かったんだよ。私も叶の言う事、聞かなかった。駄目なママだったよ」

 空いてしまったベビーベッドを2人は見る。愛は言葉を続ける。

「愛想尽かして、帰って来なかったりして」
「考え過ぎだよ、愛ちゃん。信じて待とうね?」

 愛は、涙を浮かべ頷いた。

 それから、数ヶ月後。職場から帰宅した勇が見たのは、自宅に降り注ぐ黄色い光だった。

「ま、まさか?」

 勇が急いで自宅の中に入ると、同じく黄色い光に驚いている愛を見た。やがて光は収まる。するとベビーベッドに眠る叶の姿が。勇と愛は、じわじわ涙を浮かべ、声を揃えてこう言った。

「おかえりなさい、叶」
(完)
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-

ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。 1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。 わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。 だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。 これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。 希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。 ※アルファポリス限定投稿

悪役皇子、ざまぁされたので反省する ~ 馬鹿は死ななきゃ治らないって… 一度、死んだからな、同じ轍(てつ)は踏まんよ ~

shiba
ファンタジー
魂だけの存在となり、邯鄲(かんたん)の夢にて 無名の英雄 愛を知らぬ商人 気狂いの賢者など 様々な英霊達の人生を追体験した凡愚な皇子は自身の無能さを痛感する。 それゆえに悪徳貴族の嫡男に生まれ変わった後、謎の強迫観念に背中を押されるまま 幼い頃から努力を積み上げていた彼は、図らずも超越者への道を歩み出す。

【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活

シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!

レオナルド先生創世記

ポルネス・フリューゲル
ファンタジー
ビッグバーンを皮切りに宇宙が誕生し、やがて展開された宇宙の背景をユーモアたっぷりにとてもこっけいなジャック・レオナルド氏のサプライズの幕開け、幕開け!

クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双

四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。 「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。 教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。 友達もなく、未来への希望もない。 そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。 突如として芽生えた“成長システム”。 努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。 筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。 昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。 「なんであいつが……?」 「昨日まで笑いものだったはずだろ!」 周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。 陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。 だが、これはただのサクセスストーリーではない。 嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。 陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。 「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」 かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。 最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。 物語は、まだ始まったばかりだ。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

処理中です...