ブンボル王国の恋事情

森田金太郎

文字の大きさ
25 / 67

25甘:夫婦の12の過去その11

しおりを挟む
まもなく、エリザータ、アルヴェード、ティコラセーヌがビタル学園の高等部を卒業するという時期だった。アルヴェードは、自宅にティコラセーヌを誘い、また、エリザータを通じてセブレーノを招待した。また、そこにエリザータの同席を求めた。

 4人は、客間に続々と集まった。集合した事を確認すると、アルヴェードはこう切り出した。

「本日は、お集まりいただき、ありがとうございます」

 エリザータとティコラセーヌは、いつもと違うアルヴェードの言葉に首を傾げたが、セブレーノの同席があった事から、そちらに合わせたのだろうと考えた。そのセブレーノが返した。

「どういたしまして。そして、はじめまして、僕はセブレーノだよ」

 そこから全員改めて自己紹介をした。エリザータ、ティコラセーヌ、アルヴェードの順で行われたそれだったが、アルヴェードは自己紹介に続き、こう話した。

「本日は、私の謝罪と感謝を皆さんに聞いてもらいたくて、集まってもらいました」

 アルヴェードは、ティコラセーヌに向き合う。

「ティコラセーヌ。いや、ティコラセーヌさん」
「あ、アルヴェード?」

 急なアルヴェードの他人行儀にティコラセーヌは、胸騒ぎがする。

「貴女に、まずは謝罪です。これまで、私は貴女を恋人として、そして、結婚した後は、愛人として傍に置きました。しかし、最近わかった事があります。貴女をずっと『自由を与えてくれなかった家への抵抗の象徴』としか見ていなかったと。長い間、貴女には、多大なご負担をかけました。大変申し訳ありません」

 深々と頭を下げるアルヴェード。ティコラセーヌは立ち上がり、こう返した。

「アルヴェード、アルヴェード、そんな事言わないで。私、幸せだよ?」

 しかし、ティコラセーヌの心にアルヴェードからの最初のアプローチを受けた頃の恐怖がよみがえる。

「で、でも、私、こわかったかもしれない。ううん、こわかった。いつ貴方が財閥の力を振りかざして来るかって。だけど、アルヴェード、私、貴方を嫌いじゃない!エリザータに取られて悔しいの!!」
「嬉しいですね」
「け、けど、疲れちゃってる自分もいる。こわかった頃の気持ちもそうだし、今は、エリザータが嫌って気持ちとずっと戦うのも。だから、もし、いいのならアルヴェードとはここまでにしたい」
「そうですよね?貴女との別れも、覚悟の上でした。今まで、本当に申し訳ありませんでした」

 そのやり取りをエリザータは戸惑いながら聞いていた。そして、思わず口を挟んだ。

「な、何で急に別れ話になるのよ?」

 アルヴェードは、そんなエリザータに向き合う。そして、こう切り出した。

「それは、エリザータ、貴女が私に本当の恋を教えてくれたからです」
「え?私が?本当の恋?」
「はい。ここ最近、貴女への想いが止まりませんでした。おそらく、私にとっての初恋です。貴女が妻になってよかったと思い始めています」
「勝手だわ!貴方、私を愛してないって前、言ったでしょ?」
「あの時は、そうでした。それは、曲げようもない事実です。しかし、状況は変わりました。エリザータ、貴女は気づいているでしょうか?貴女は、魅力的な女性へと変わった」
「え?」
「少なくとも、私にとっては貴女の魅力は、最上の物です」

 エリザータは、言われている事がわからなかった。アルヴェードは、それでも声をかけ続ける。

「貴女の笑顔は、最高だ。それを引き出したのが私ではない事に忸怩たる思いも抱いています」
「笑顔」

 短く返したエリザータに一時視線を外し、アルヴェードはセブレーノに向き合う。

「間違いなくセブレーノさん、貴方がエリザータの魅力を引き出した。本当に感謝しています」
「そんな意図はどこにもなかったよ?エリザータの旦那さん?」
「そうですか」
「だいたいね、君がしっかりしてないから彼女は傷ついたんだよ?」
「申し開きの言葉もありません」
「そんな君に、僕はエリザータを任せられないと思ってるよ。ここに来て君は妻への愛に目覚めたようだけど、僕は、君にエリザータを渡したくはないね」
「それで、いいのです。セブレーノさん、これからもエリザータを愛し、エリザータに愛されて構いません」
「え?」

 セブレーノは、驚愕の表情を浮かべる。

「私は、エリザータに愛されたくなりました。しかし、それを強制する事など出来ません。なので、今まで通り貴方の元へと行くエリザータを止めません。私は、エリザータの夫として、妻の身分を保証する事に専念しようと思います」
「驚いたね。そんな事を考えていたなんて」
「セブレーノさん、これからもエリザータをよろしくお願いいたします」

 アルヴェードは再び深々と頭を下げた。しばらくすると、アルヴェードは頭を上げ、エリザータに微笑んだ。

「クルーサム財閥とルルコス銀行の関係性を考えたら、エリザータ、貴女と離婚する事はリスクと考えます。なので、苦しい結婚生活から解放して差し上げる事は出来ません。その代わり、自由な恋愛を私が保証します。だから、これからも妻として私と暮らしてください。お願いいたします」
「アルヴェード」

 エリザータの心はアルヴェードの普段見せない態度に揺れた。それ故、アルヴェードの言う事を拒絶出来なかった。

「本当に、セブレーノとこれからも仲良くしていいの?」
「それは、一向に構いません。何故なら、私もずっとティコラセーヌと密会を続けていた身ですから。私がよくて、貴女は駄目と言う事は、筋が違うと考えています。心ゆくまで、セブレーノさんと愛し合ってください」
「わ、わかったわ。そ、その、これからもよろしくお願いいたします」

 その後、ティコラセーヌとセブレーノは、アルヴェードとエリザータの自宅を後にした。ティコラセーヌは、気丈に振る舞い、アルヴェードと別れたが、今までの事を思い、次第に涙を流す。傍らにいたセブレーノは、こう声をかける。

「君、ティコラセーヌちゃんって言ったね?ここで出会ったのも何かの縁だ。これから友達にならないかい?」

 ティコラセーヌの涙は止まる。そして、こう返した。

「いいんですか?」
「いいよ?」
「なら、お願いします」
「こちらこそ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

15年目のホンネ ~今も愛していると言えますか?~

深冬 芽以
恋愛
 交際2年、結婚15年の柚葉《ゆずは》と和輝《かずき》。  2人の子供に恵まれて、どこにでもある普通の家族の普通の毎日を過ごしていた。  愚痴は言い切れないほどあるけれど、それなりに幸せ……のはずだった。 「その時計、気に入ってるのね」 「ああ、初ボーナスで買ったから思い出深くて」 『お揃いで』ね?  夫は知らない。  私が知っていることを。  結婚指輪はしないのに、その時計はつけるのね?  私の名前は呼ばないのに、あの女の名前は呼ぶのね?  今も私を好きですか?  後悔していませんか?  私は今もあなたが好きです。  だから、ずっと、後悔しているの……。  妻になり、強くなった。  母になり、逞しくなった。  だけど、傷つかないわけじゃない。

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

離した手の温もり

橘 凛子
恋愛
3年前、未来を誓った君を置いて、私は夢を追いかけた。キャリアを優先した私に、君と会う資格なんてないのかもしれない。それでも、あの日の選択をずっと後悔している。そして今、私はあの場所へ帰ってきた。もう一度、君に会いたい。ただ、ごめんなさいと伝えたい。それだけでいい。それ以上の願いは、もう抱けないから。

偽りの愛の終焉〜サレ妻アイナの冷徹な断罪〜

紅葉山参
恋愛
貧しいけれど、愛と笑顔に満ちた生活。それが、私(アイナ)が夫と築き上げた全てだと思っていた。築40年のボロアパートの一室。安いスーパーの食材。それでも、あの人の「愛してる」の言葉一つで、アイナは満たされていた。 しかし、些細な変化が、穏やかな日々にヒビを入れる。 私の配偶者の帰宅時間が遅くなった。仕事のメールだと誤魔化す、頻繁に確認されるスマートフォン。その違和感の正体が、アイナのすぐそばにいた。 近所に住むシンママのユリエ。彼女の愛らしい笑顔の裏に、私の全てを奪う魔女の顔が隠されていた。夫とユリエの、不貞の証拠を握ったアイナの心は、凍てつく怒りに支配される。 泣き崩れるだけの弱々しい妻は、もういない。 私は、彼と彼女が築いた「偽りの愛」を、社会的な地獄へと突き落とす、冷徹な復讐を誓う。一歩ずつ、緻密に、二人からすべてを奪い尽くす、断罪の物語。

曖昧な距離で愛している

山田森湖
恋愛
結婚4年目のアラサー夫婦、拓海と美咲。仲は悪くないが、ときめきは薄れ、日常は「作業」になっていた。夫には可愛い後輩が現れ、妻は昔の恋人と再会する。揺れる心、すれ違う想い。「恋人に戻りたい」――そう願った二人が辿り着いた答えは、意外なものだった。曖昧で、程よい距離。それが、私たちの愛の形。

罪悪と愛情

暦海
恋愛
 地元の家電メーカー・天の香具山に勤務する20代後半の男性・古城真織は幼い頃に両親を亡くし、それ以降は父方の祖父母に預けられ日々を過ごしてきた。  だけど、祖父母は両親の残した遺産を目当てに真織を引き取ったに過ぎず、真織のことは最低限の衣食を与えるだけでそれ以外は基本的に放置。祖父母が自身を疎ましく思っていることを知っていた真織は、高校卒業と共に就職し祖父母の元を離れる。業務上などの必要なやり取り以外では基本的に人と関わらないので友人のような存在もいない真織だったが、どうしてかそんな彼に積極的に接する後輩が一人。その後輩とは、頗る優秀かつ息を呑むほどの美少女である降宮蒔乃で――

あなたの片想いを聞いてしまった夜

柴田はつみ
恋愛
「『好きな人がいる』——その一言で、私の世界は音を失った。」 公爵令嬢リリアーヌの初恋は、隣家の若き公爵アレクシスだった。 政務や領地行事で顔を合わせるたび、言葉少なな彼の沈黙さえ、彼女には優しさに聞こえた。——毎日会える。それだけで十分幸せだと信じていた。 しかしある日、回廊の陰で聞いてしまう。 「好きな人がいる。……片想いなんだ」 名前は出ない。だから、リリアーヌの胸は残酷に結論を作る。自分ではないのだ、と。

【完結】もう一度やり直したいんです〜すれ違い契約夫婦は異国で再スタートする〜

四片霞彩
恋愛
「貴女の残りの命を私に下さい。貴女の命を有益に使います」 度重なる上司からのパワーハラスメントに耐え切れなくなった日向小春(ひなたこはる)が橋の上から身投げしようとした時、止めてくれたのは弁護士の若佐楓(わかさかえで)だった。 事情を知った楓に会社を訴えるように勧められるが、裁判費用が無い事を理由に小春は裁判を断り、再び身を投げようとする。 しかし追いかけてきた楓に再度止められると、裁判を無償で引き受ける条件として、契約結婚を提案されたのだった。 楓は所属している事務所の所長から、孫娘との結婚を勧められて困っており、 それを断る為にも、一時的に結婚してくれる相手が必要であった。 その代わり、もし小春が相手役を引き受けてくれるなら、裁判に必要な費用を貰わずに、無償で引き受けるとも。 ただ死ぬくらいなら、最後くらい、誰かの役に立ってから死のうと考えた小春は、楓と契約結婚をする事になったのだった。 その後、楓の結婚は回避するが、小春が会社を訴えた裁判は敗訴し、退職を余儀なくされた。 敗訴した事をきっかけに、裁判を引き受けてくれた楓との仲がすれ違うようになり、やがて国際弁護士になる為、楓は一人でニューヨークに旅立ったのだった。 それから、3年が経ったある日。 日本にいた小春の元に、突然楓から離婚届が送られてくる。 「私は若佐先生の事を何も知らない」 このまま離婚していいのか悩んだ小春は、荷物をまとめると、ニューヨーク行きの飛行機に乗る。 目的を果たした後も、契約結婚を解消しなかった楓の真意を知る為にもーー。 ❄︎ ※他サイトにも掲載しています。

処理中です...