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33甘:妹と兄
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それから、数日後の事であった。ミルーネの自宅兼アトリエに、セブレーノとティコラセーヌ夫妻が訪れた。ミルーネの入院の日が来たのだ。
「普通は、ここまでの事はしないんだけど、事情が事情だからね。手伝ってくれてありがとう。ティコラセーヌ」
セブレーノは、ミルーネの様子をつぶさに見ながら言った。ティコラセーヌは、入院の準備の手伝いをしながらこう返した。
「いいのよ。それにしても、アルヴェードも、人助けをするようになったのね」
ミルーネはそんな夫妻を交互に見ながら尋ねた。
「アルヴェードさんを、ご存知なんですね?」
「まぁ、僕はあまり面識はないですが」
「確かに、昔ね。でも、内緒にさせてくださいね?」
「そうですか。わかりました」
ミルーネは、目のみを露出した出で立ちで、更につばの幅が広い帽子を被り外に出る。
「去年の冬ぶりの外出です」
ミルーネは言った。セブレーノはこう返した。
「そんなに外に出てなかったんですか。それは、深い心労があったでしょう」
「確かに。でも、今はいませんが、兄とアルヴェードさんが支えてくれました」
ミルーネは、セブレーノの運転する車にティコラセーヌと共に乗車する。病院までの移動中、かなりの時間光を浴びていたが、火傷をする事なく無事に病院へと着いた。ミルーネは、感嘆の声を上げた。
「病気が酷くなってから、冬の曇りの日以外でこんなに長く外に出られたのは、初めてです。飲み薬の効果、凄いです」
「そうですか?なら、よかった。けれども、目標としては、再び軟膏のみで生活出来るようになるのが第一です。副作用が心配ですから。断薬出来るように治療していきましょう」
「はい。その、やっぱり少し吐き気を感じる時があって」
「そうですか、やはり。しばらくの辛抱です」
「よろしくお願いします」
そして、病室にミルーネは案内される。自宅と同じように分厚いカーテンが引かれていた。ミルーネは、尋ねる。
「これも、特別に?先生」
「そうですよ」
「ありがとうございます」
「ここで、心のケアをさせていただきます」
「はい」
無事に、ミルーネは入院を果たした。その事は、セブレーノからエリザータに伝わった。
「セブレーノ、ありがとう」
「最善を尽くすよ」
エリザータは、その一報を受け、思案した。ミルーネの入院の件は、ランディレイには伝えねばと。そして、少しの妙案が浮かんだ。
善は急げと翌日、エリザータは王宮へと行った。以前にも増してエリザータへの警戒感がなくなっている王宮。エリザータは、心の中で言った。「私という変な不倫女より、相当シュク一族、いえ、ヒュラ一族に意識が向いているのね?人質を取ってるんだから、滅多な事は起きないでしょうに」
ランディレイは、わずかな徒労感をにじませていたが、以前のようにエリザータを迎えてくれた。そんなランディレイに抱きしめられるエリザータ。
「王子、熱い抱擁、ありがたいですわ。今、夫が長期間留守をしていて、さびしいのです」
「そうかい。なら、夫が帰るまでここを君の家にしてもいいんだよ?」
「検討しますわ。それより、王子にひとつお知らせをしたくて参りました」
ランディレイは、わずかに首を傾げる。
「貴方の恋人、ミルーネさんですが、入院しましたわ」
「ミルーネがっ?いや、今は関係ない。関係を持ってはいけない女性だ」
「そうですわね。けれど、私がお知らせしたかった事です。一方的で申し訳ありませんが、聞いてくださってありがとうございます」
ランディレイの顔が動揺の色に染まっていくのを感じた。エリザータは心の中で呟く。「王子、ミルーネに未練が」と。そして、こんな一言をランディレイにかけた。
「彼女の入院を知らねばならない人、王子の他におひとり、いらっしゃいますよね?」
「誰だい?」
ランディレイは、その短い問いの中で、答えを見つける。そして、声を上げた。
「ミルフォンソ!」
「そう、私単独、もしくは、誰かの同伴でその事を伝えに行きたいのです」
ランディレイは、早速父である国王マーディルに許可を得に行った。マーディルの傍らには、相変わらず側近のギャスバーがいたが、ランディレイは臆せず言った。
「人質の件ですが、その人質の家族に重大案件が発生しました。父上、その事をその家族の使者から人質へ案件の概要を伝えさせてよろしいでしょうか?」
それに頷きかけるマーディルを遮り、ギャスバーが声を上げた。
「王子、人質のミルフォンソに関する事をお考えになるのは止めていただきましょうか?」
「ギャスバー、僕はあの時反省したよ。あくまで僕は王宮の側に立ち続けなければならない立場だと」
ランディレイは、毅然とした表情で続ける。
「だからこそ、今度は警戒の為に僕がその場に立ち会うんだ。使者に下手な真似をさせない為の監視役だよ」
「王子、何という御心構え。このギャスバー、感心致しました。陛下、ご判断を」
マーディルは頷き、短い返答をする。
「許す」
「父上、ありがとうございます」
ランディレイは一礼をし、王の間から退出した。そして、エリザータの所へ戻る。その道すがら、ランディレイは「エリザータ、話の流れとは言え、君を悪者にしてごめん」と心の中で言った。
「エリザータ、いいよ。『監獄』へと行こう」
「王子も共に?」
ランディレイは、エリザータに耳打ちする。
「表向きは、君の監視役だよ。僕は」
「そうでしたの」
エリザータも小声でそれに返した。そして、エリザータはランディレイと共にミルフォンソの元へと行った。
「誰だい」
無造作な髭面となったミルフォンソが来訪者の気配に気づき弱々しい声で言った。目線を上げると、驚いた声を上げる。
「王子!」
「ミルフォンソ、君に伝えたい事があるんだ。その内容は、彼女から聞いてくれ」
「ミルフォンソさん?はじめまして、エリザータと申します。ひとつお知らせが。貴方の妹さん、ミルーネさんが入院しました」
「ミルーネがっ?」
悲壮な声を上げるミルフォンソ。
「ご安心ください。私が信頼している医師が最善を尽くすと申しております」
「ミルーネ、ミルーネ!ミルーネ!!会いたい!!」
ランディレイは、寄り添うように言った。
「その気持ちは痛い程わかる。だけど、今は耐えてくれ。今、僕と彼女で君がここから出られる方法を探している」
「そう、ですか」
ミルフォンソは、脱力する。そして、うずくまるように泣いた。
「頼むっ。お願いだ。ミルーネに会わせてくれっ」
「全力を尽くしますわ」
エリザータは、底なしの優しい声を、ミルフォンソに降らせた。
「普通は、ここまでの事はしないんだけど、事情が事情だからね。手伝ってくれてありがとう。ティコラセーヌ」
セブレーノは、ミルーネの様子をつぶさに見ながら言った。ティコラセーヌは、入院の準備の手伝いをしながらこう返した。
「いいのよ。それにしても、アルヴェードも、人助けをするようになったのね」
ミルーネはそんな夫妻を交互に見ながら尋ねた。
「アルヴェードさんを、ご存知なんですね?」
「まぁ、僕はあまり面識はないですが」
「確かに、昔ね。でも、内緒にさせてくださいね?」
「そうですか。わかりました」
ミルーネは、目のみを露出した出で立ちで、更につばの幅が広い帽子を被り外に出る。
「去年の冬ぶりの外出です」
ミルーネは言った。セブレーノはこう返した。
「そんなに外に出てなかったんですか。それは、深い心労があったでしょう」
「確かに。でも、今はいませんが、兄とアルヴェードさんが支えてくれました」
ミルーネは、セブレーノの運転する車にティコラセーヌと共に乗車する。病院までの移動中、かなりの時間光を浴びていたが、火傷をする事なく無事に病院へと着いた。ミルーネは、感嘆の声を上げた。
「病気が酷くなってから、冬の曇りの日以外でこんなに長く外に出られたのは、初めてです。飲み薬の効果、凄いです」
「そうですか?なら、よかった。けれども、目標としては、再び軟膏のみで生活出来るようになるのが第一です。副作用が心配ですから。断薬出来るように治療していきましょう」
「はい。その、やっぱり少し吐き気を感じる時があって」
「そうですか、やはり。しばらくの辛抱です」
「よろしくお願いします」
そして、病室にミルーネは案内される。自宅と同じように分厚いカーテンが引かれていた。ミルーネは、尋ねる。
「これも、特別に?先生」
「そうですよ」
「ありがとうございます」
「ここで、心のケアをさせていただきます」
「はい」
無事に、ミルーネは入院を果たした。その事は、セブレーノからエリザータに伝わった。
「セブレーノ、ありがとう」
「最善を尽くすよ」
エリザータは、その一報を受け、思案した。ミルーネの入院の件は、ランディレイには伝えねばと。そして、少しの妙案が浮かんだ。
善は急げと翌日、エリザータは王宮へと行った。以前にも増してエリザータへの警戒感がなくなっている王宮。エリザータは、心の中で言った。「私という変な不倫女より、相当シュク一族、いえ、ヒュラ一族に意識が向いているのね?人質を取ってるんだから、滅多な事は起きないでしょうに」
ランディレイは、わずかな徒労感をにじませていたが、以前のようにエリザータを迎えてくれた。そんなランディレイに抱きしめられるエリザータ。
「王子、熱い抱擁、ありがたいですわ。今、夫が長期間留守をしていて、さびしいのです」
「そうかい。なら、夫が帰るまでここを君の家にしてもいいんだよ?」
「検討しますわ。それより、王子にひとつお知らせをしたくて参りました」
ランディレイは、わずかに首を傾げる。
「貴方の恋人、ミルーネさんですが、入院しましたわ」
「ミルーネがっ?いや、今は関係ない。関係を持ってはいけない女性だ」
「そうですわね。けれど、私がお知らせしたかった事です。一方的で申し訳ありませんが、聞いてくださってありがとうございます」
ランディレイの顔が動揺の色に染まっていくのを感じた。エリザータは心の中で呟く。「王子、ミルーネに未練が」と。そして、こんな一言をランディレイにかけた。
「彼女の入院を知らねばならない人、王子の他におひとり、いらっしゃいますよね?」
「誰だい?」
ランディレイは、その短い問いの中で、答えを見つける。そして、声を上げた。
「ミルフォンソ!」
「そう、私単独、もしくは、誰かの同伴でその事を伝えに行きたいのです」
ランディレイは、早速父である国王マーディルに許可を得に行った。マーディルの傍らには、相変わらず側近のギャスバーがいたが、ランディレイは臆せず言った。
「人質の件ですが、その人質の家族に重大案件が発生しました。父上、その事をその家族の使者から人質へ案件の概要を伝えさせてよろしいでしょうか?」
それに頷きかけるマーディルを遮り、ギャスバーが声を上げた。
「王子、人質のミルフォンソに関する事をお考えになるのは止めていただきましょうか?」
「ギャスバー、僕はあの時反省したよ。あくまで僕は王宮の側に立ち続けなければならない立場だと」
ランディレイは、毅然とした表情で続ける。
「だからこそ、今度は警戒の為に僕がその場に立ち会うんだ。使者に下手な真似をさせない為の監視役だよ」
「王子、何という御心構え。このギャスバー、感心致しました。陛下、ご判断を」
マーディルは頷き、短い返答をする。
「許す」
「父上、ありがとうございます」
ランディレイは一礼をし、王の間から退出した。そして、エリザータの所へ戻る。その道すがら、ランディレイは「エリザータ、話の流れとは言え、君を悪者にしてごめん」と心の中で言った。
「エリザータ、いいよ。『監獄』へと行こう」
「王子も共に?」
ランディレイは、エリザータに耳打ちする。
「表向きは、君の監視役だよ。僕は」
「そうでしたの」
エリザータも小声でそれに返した。そして、エリザータはランディレイと共にミルフォンソの元へと行った。
「誰だい」
無造作な髭面となったミルフォンソが来訪者の気配に気づき弱々しい声で言った。目線を上げると、驚いた声を上げる。
「王子!」
「ミルフォンソ、君に伝えたい事があるんだ。その内容は、彼女から聞いてくれ」
「ミルフォンソさん?はじめまして、エリザータと申します。ひとつお知らせが。貴方の妹さん、ミルーネさんが入院しました」
「ミルーネがっ?」
悲壮な声を上げるミルフォンソ。
「ご安心ください。私が信頼している医師が最善を尽くすと申しております」
「ミルーネ、ミルーネ!ミルーネ!!会いたい!!」
ランディレイは、寄り添うように言った。
「その気持ちは痛い程わかる。だけど、今は耐えてくれ。今、僕と彼女で君がここから出られる方法を探している」
「そう、ですか」
ミルフォンソは、脱力する。そして、うずくまるように泣いた。
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