ブンボル王国の恋事情

森田金太郎

文字の大きさ
37 / 67

37甘:王宮のひとつの焦り

しおりを挟む
エリザータの不安は、どうにも収まらなかった。いても立ってもいられず、ランディレイの顔を見て、少しでも気持ちを落ち着かせようと考えた。そして、エリザータは王宮に辿り着く。

「今、私は、王子に甘えに行く。昔、セブレーノにしたように。まるで成長してないわね、私」

 そんな嘲笑を伴った独り言を言った後、エリザータは王宮へと入って行った。迎えたのは、ランディレイの侍女リンデンスだった。

「エリザータ様。あいにく王子は公務があり、留守です」
「そ、そうでしたの」
「折角ですが、お引き取りください」
「わ、わかりましたわ。事情も知らず、お邪魔しました」

 エリザータは、一礼すると踵を返した。その目には、今にもこぼれそうな涙があった。そんなエリザータの耳に、男性の焦りの声が届いた。

「非常にまずいぞ。レトにベルカイザ号が」

 ベルカイザ号という単語にエリザータは引き寄せられるようにその男性の元へと行く。そして、必死に情報を取ろうとした。

「あの、ベルカイザ号の事、何か動きがあったのですかっ?」
「ん?ここの人間ではないな?情報を取りたければ名を名乗れ!無礼者が!!」
「あ、あの、失礼いたしました。私、エリザータと申します。その、ベルカイザ号に乗船しているクルーサム財閥の次期総帥、アルヴェードの妻です」

 そのやり取りを遠目で見ていたリンデンスは、小声で呟く。

「エリザータ様の事を知らない王宮の人間はいない筈。何をそんなに荒れているの?ギャスバー」

 眉をひそめるリンデンスの視線の先で、ギャスバーは喚く。

「全く!あの船は!よりにもよってレトに!!」

 見かねたリンデンスは、エリザータに声をかける。

「エリザータ様?少しギャスバーは混乱しているようです。今は、正常な情報は取れないかと」
「その様子ですわね。改めて御暇しますわ」

 リンデンスの頷きに見送られ、エリザータは王宮を出た。そんなエリザータの背中を見送ったリンデンスは、ギャスバーに話しかける。

「貴方の熱しやすい性格は、王宮の中の周知の事実ですが、今日の貴方は、おかしいですよ?ギャスバー?」
「うるさい!王子の侍女風情が!!」

 とりつく島はないと、リンデンスは一瞥しながらその場を立ち去る。ギャスバーは、それを見ることもなく、焦りの声を上げた。

「レトとの正しい歴史が、知らされてなければいいが。万が一『それ』があったら、エウル一族は。そして、シュク一族は」

 一方、帰路についているエリザータは、道中、呟きが止まらなかった。

「王子に会えないのなら、セブレーノに会いに行こうかしら?ううん、駄目よ。私は、甘えちゃいけないのよ。そんな立場じゃないのよ。だから、関係ない事だけど、王宮の人に怒鳴られたんだわ。これは、罰ね」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

15年目のホンネ ~今も愛していると言えますか?~

深冬 芽以
恋愛
 交際2年、結婚15年の柚葉《ゆずは》と和輝《かずき》。  2人の子供に恵まれて、どこにでもある普通の家族の普通の毎日を過ごしていた。  愚痴は言い切れないほどあるけれど、それなりに幸せ……のはずだった。 「その時計、気に入ってるのね」 「ああ、初ボーナスで買ったから思い出深くて」 『お揃いで』ね?  夫は知らない。  私が知っていることを。  結婚指輪はしないのに、その時計はつけるのね?  私の名前は呼ばないのに、あの女の名前は呼ぶのね?  今も私を好きですか?  後悔していませんか?  私は今もあなたが好きです。  だから、ずっと、後悔しているの……。  妻になり、強くなった。  母になり、逞しくなった。  だけど、傷つかないわけじゃない。

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

離した手の温もり

橘 凛子
恋愛
3年前、未来を誓った君を置いて、私は夢を追いかけた。キャリアを優先した私に、君と会う資格なんてないのかもしれない。それでも、あの日の選択をずっと後悔している。そして今、私はあの場所へ帰ってきた。もう一度、君に会いたい。ただ、ごめんなさいと伝えたい。それだけでいい。それ以上の願いは、もう抱けないから。

偽りの愛の終焉〜サレ妻アイナの冷徹な断罪〜

紅葉山参
恋愛
貧しいけれど、愛と笑顔に満ちた生活。それが、私(アイナ)が夫と築き上げた全てだと思っていた。築40年のボロアパートの一室。安いスーパーの食材。それでも、あの人の「愛してる」の言葉一つで、アイナは満たされていた。 しかし、些細な変化が、穏やかな日々にヒビを入れる。 私の配偶者の帰宅時間が遅くなった。仕事のメールだと誤魔化す、頻繁に確認されるスマートフォン。その違和感の正体が、アイナのすぐそばにいた。 近所に住むシンママのユリエ。彼女の愛らしい笑顔の裏に、私の全てを奪う魔女の顔が隠されていた。夫とユリエの、不貞の証拠を握ったアイナの心は、凍てつく怒りに支配される。 泣き崩れるだけの弱々しい妻は、もういない。 私は、彼と彼女が築いた「偽りの愛」を、社会的な地獄へと突き落とす、冷徹な復讐を誓う。一歩ずつ、緻密に、二人からすべてを奪い尽くす、断罪の物語。

曖昧な距離で愛している

山田森湖
恋愛
結婚4年目のアラサー夫婦、拓海と美咲。仲は悪くないが、ときめきは薄れ、日常は「作業」になっていた。夫には可愛い後輩が現れ、妻は昔の恋人と再会する。揺れる心、すれ違う想い。「恋人に戻りたい」――そう願った二人が辿り着いた答えは、意外なものだった。曖昧で、程よい距離。それが、私たちの愛の形。

罪悪と愛情

暦海
恋愛
 地元の家電メーカー・天の香具山に勤務する20代後半の男性・古城真織は幼い頃に両親を亡くし、それ以降は父方の祖父母に預けられ日々を過ごしてきた。  だけど、祖父母は両親の残した遺産を目当てに真織を引き取ったに過ぎず、真織のことは最低限の衣食を与えるだけでそれ以外は基本的に放置。祖父母が自身を疎ましく思っていることを知っていた真織は、高校卒業と共に就職し祖父母の元を離れる。業務上などの必要なやり取り以外では基本的に人と関わらないので友人のような存在もいない真織だったが、どうしてかそんな彼に積極的に接する後輩が一人。その後輩とは、頗る優秀かつ息を呑むほどの美少女である降宮蒔乃で――

あなたの片想いを聞いてしまった夜

柴田はつみ
恋愛
「『好きな人がいる』——その一言で、私の世界は音を失った。」 公爵令嬢リリアーヌの初恋は、隣家の若き公爵アレクシスだった。 政務や領地行事で顔を合わせるたび、言葉少なな彼の沈黙さえ、彼女には優しさに聞こえた。——毎日会える。それだけで十分幸せだと信じていた。 しかしある日、回廊の陰で聞いてしまう。 「好きな人がいる。……片想いなんだ」 名前は出ない。だから、リリアーヌの胸は残酷に結論を作る。自分ではないのだ、と。

処理中です...