ブンボル王国の恋事情

森田金太郎

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66甘:それぞれの船旅

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王子と王子妃の短い演説が終わった後、アルヴェードはその夫婦の元へと歩み寄る。

「お疲れ様でした。王子、王子妃。ご案内したい所があります。お付き合いいただけますか?」

 ランディレイとミルーネは快諾し、アルヴェードについて行った。エリザータは、後を追った。アルヴェードが案内したのは、ラウンジであった、そう、ミルーネの世界地図を模した絵が堂々と飾ってある所だ。ミルーネは、感嘆の声を上げた。

「わあっ!まさか、飾られている所を見せてもらえるとは、思いませんでした!!」
「これは?ミルーネ」
「私が、この船の為に描き下ろした絵よ?貴方様」
「そうなんだ!」

 アルヴェードは、ゆっくり頭を下げ、言った。

「これを描いていただき、本当にありがとうございました。王子妃」

 ミルーネは微笑んだ。その様子を、エリザータは静かに見守っていたが、わずかに眉間に皺を寄せ始める。一方、ランディレイはこう言った。

「そろそろ、休もうか?ミルーネ」
「ええ」
「アルヴェード、ミルーネの為に特別な暗い部屋を設けてくれたって?」
「はい。そちらも、ご案内します」

 アルヴェードは、再び王子夫妻を先導する。エリザータはそれを追いかける。そして、ミルーネの休憩室とされた分厚いカーテンが設置されている部屋に到着。ミルーネは、こう礼を言い、ランディレイと共に入室して行った。

「心から感謝します。これから、ここで休みながら、旅を楽しみます。貴方たちも、楽しんでくださいね」

 アルヴェードは、深々と頭を下げた。廊下に取り残されたエリザータとアルヴェード。エリザータは、アルヴェードに近寄るが、別の方向から、船のスタッフが来る。そして、その女性は、こう言った。

「次期総帥、ご指示をいただきたい事があります」
「何だ?」

 そして、女性スタッフは、内容を話し始める。それにアルヴェードは指示を出そうとした。その時、エリザータは口を挟んだ。

「アルヴェード!仕事しちゃ駄目!」
「だが」
「『だが』じゃないわよ!もう!貴女も主人を次期総帥としてじゃなくて、客として見て!」
「あ、ふ、夫人、申し訳ありません」
「もう、仕方ないから、これだけは仕事して?後は、仕事禁止よ!!」
「わかった」

 そして、気を取り直しアルヴェードは仕事として女性スタッフに指示をした。

「承知しました。その、次期総帥、夫人、大変申し訳ありませんでした」
「構わない」
「しっかりしてよ?」

 女性スタッフは、その場を立ち去った。それを見送ったエリザータはアルヴェードに言った。

「『構わない』じゃないわよ。貴方はお客さんよ!忘れないで!!」
「すまない。これからは、楽しむよ」
「本当に?」
「ああ、本当だ。何に誓えばいいかわからないが」
「じゃ、キス!キスで誓って?」
「わかった」

 そして、アルヴェードは軽いキスをエリザータにした。エリザータは、一転笑顔になった。

「この話は、ここまで!遊びに行きましょ?」
「ああ、そうだな、エリザータ」

 エリザータは、アルヴェードの腕を引き、娯楽の場へと向かって行った。

 それとすれ違うようにして、セブレーノは傍らにティコラセーヌを伴いミルーネの休憩室の前を訪れた。

「ここ、何の部屋なの?セブレーノ」
「王子妃の休憩室だよ。容態が心配で来たんだけど」
「大丈夫だよ、セブレーノ。セブレーノの腕を信じて?」
「そうかな?」
「それに、王子様とお妃様の新婚旅行だよ?お医者さんだけど、ちょっとお邪魔かも」
「そ、そうだね?」
「ね?呼ばれたら行ったらいいよ」
「わかった、ティコラセーヌ。そうするよ。君は優しいね」
「そう?」

 セブレーノとティコラセーヌは、笑い合い、船の内部を散策する事にした。

 一方、テラスに残っていたミルフォンソは、隣のキャナリーンを見つめていた。キャナリーンは、光り輝く海を見る事に夢中になっていた。

「ねえ、キャナリーン?」

 ミルフォンソは、わからなかった。これから言う言葉が恋人ごっこの延長線の言葉なのか、それとも、本気の言葉なのか。しかし、キャナリーンなら受け止めてくれる。そんな信頼の元、自らを見たキャナリーンに言った。

「キャナリーン、僕と、結婚してください」
「えっ!」

 ミルフォンソが見せた婚約指輪をキャナリーンは凝視した。キャナリーンの思考は短い間ではあったが、回る。自分が言ってもらいたかった事をミルフォンソが察して言ってくれたのか、それとも、純粋に自分へ言っているのかはわからなかった。しかし、どちらにせよ、その言葉と輝く指輪は、キャナリーンの返答をひとつに決めさせた。

「はい。喜んで、ミルフォンソ」
「キャナリーン、ありがとう」

 受け入れてくれた事に安堵したミルフォンソと婚約指輪をはめたキャナリーンは、愛おしそうに抱き合った。

 その夜、エリザータとアルヴェードは就寝するのみとなった。並ぶそれぞれのベッドに2人は横たわりながら、眠気を待っていた。アルヴェードは、呟くように言った。

「昼間はすまなかった。仕事モードになってしまって」
「本当よ」

 エリザータは柔らかく返した。そして、つらつらと呟くように話を続けた。

「前、貴方がこの船に乗った時は、仕事だったから、息つく暇なんて、そうそう無かったと思うのよ。それに」

 エリザータの言葉が止まる。アルヴェードは、エリザータの方を見て声をかけた。

「それに?」
「こ、こわかった、と、思って」

 エリザータの声が震え始める。アルヴェードは、ベッドから出て、エリザータの方に行く。すると、エリザータは涙を浮かべていた。

「俺が?しかし、泣くな」
「ご、ごめんなさい。だって、海賊船に囲まれたりしたんでしょう?色んな意味で、こわかったでしょ?」
「そうか。確かに、命の危険だけじゃない恐怖を抱いたのは事実かもな。あの時は、色々必死で、細かい自分の感情は覚えてないがな」
「なら、いいけど。でも、この船を、貴方の悪い思い出の船にしたくなかったのよ。だから、だから、王子たちが楽しんでって誘ってくれたこの旅は、貴方が心から楽しめる旅にしてあげたくて、つい、きつく言っちゃった。ごめんなさい、ごめんなさい」

 アルヴェードは、エリザータの涙を拭ってやりつつ、こう返した。

「ありがとう、エリザータ。本当に、感謝する。だから、泣くな。この船を、お前が泣いた船にしたくない」

 エリザータは、はっとした。そして、必死に涙を抑える。未だ涙に震えているエリザータだったが、笑顔を作った。

「そうだ、エリザータ。笑ってくれ」
「ええ」

 アルヴェードは、エリザータを慰める為、エリザータのベッドに入り、抱きしめた。エリザータはそんなアルヴェードを抱き返す。

「ご、ごめんなさい、やっぱり、少し泣かせて」
「わかった」

 エリザータは、アルヴェードの胸の中で泣く。やがて、感情の波は収まり、エリザータはようやくちゃんとした笑顔をアルヴェードに見せる事が出来た。アルヴェードも笑い、こう言った。

「今夜は、このまま寝るか」
「そうしてくれる?」
「ああ」

 そして、2人はお互いのぬくもりに包まれ、就寝した。
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