ブンボル王国の恋事情

森田金太郎

文字の大きさ
65 / 67

65甘:船旅の出発

しおりを挟む
王子夫妻の結婚式から数日後。エリザータは珍しく声を荒らげた。

「駄目!これは、持っていっちゃ駄目!!」
「だが、一応だな、王宮関係者との面会があるわけだし、あまりラフな格好で会いたくはないんだ。一着だけでも持って行かせてくれ」
「駄目!それでも駄目!!スーツなんて着たら仕事しちゃうでしょ?貴方!」
「仕事はしない。大丈夫だ」
「駄目!」
「わかった。置いて行く」
「それでいいわ。王宮の皆もわかってくれるわよ」

 翌日、ベルカイザ号にエリザータとアルヴェードは乗る。その準備を進めていたのだ。荷物の最終チェックを終えたエリザータは、安心してその場を離れた。アルヴェードは、置いて行くと決めたスーツを見上げ、苦笑した。

「あそこまで言われたんだ。絶対に仕事はしないぞ」

 翌日、エリザータとアルヴェードは港へ行った。乗船予定の客が大勢いたが、そこにティコラセーヌがいた。アルヴェードは、棒立ちになった。声をかけるか躊躇していたが、ティコラセーヌが気づき、軽く会釈した。アルヴェードは、それに返し、会釈をした。

「何?誰かいた?」

 エリザータは疑問を口にしたが、アルヴェードの視線の先を見て、微笑んだ。

「久しぶりに、話しをしてきたら?」
「そうだな」

 アルヴェードは、ティコラセーヌの方に足を向けた。ティコラセーヌは、予想外の事に少し後ずさりした。しかし、意を決してアルヴェードに歩み寄る。

「お久しぶりです。ティコラセーヌさん」
「アルヴェードさん、お久しぶりです」

 少し離れた所でそのやり取りを聞いていたエリザータは、呟いた。

「私とセブレーノのようには、いかないようね」

 ぎこちないアルヴェードではあったが、ティコラセーヌに尋ねた。

「その、もしかして王子から指名されたんですか?」
「ええ。主人のセブレーノが最初に指名されて、私も行っていいって言われて、お言葉に甘えました」
「そうですか。奇遇ですね、私も指名されたんですよ」
「旅の最中は、よろしくお願いします」
「こちらこそ」

 アルヴェードは、最初の愛人との会話を終えた。ティコラセーヌとすれ違う形で、キャナリーンが来る。

「アルヴェードさん、エリザータ」
「おお、キャナリーンさん」

 アルヴェードは。気持ちを切り替える。

「貴女も指名されたんですね?」
「はい。王子妃から、直々に」

 エリザータは、先ほどティコラセーヌの隣にセブレーノがいなかった事を思い出した。そして、キャナリーンの隣にもミルフォンソがいない。思い切って尋ねた。

「あの、ミルフォンソさんは?」
「王子の側近だから、王宮からこっちに来るようになってるんです」
「そうでしたよね」

 一方、王宮では、王子夫妻が港へ向けて出発の時を迎えていた。ランディレイとミルーネは国王マーディル、王妃ランクーナに挨拶していた。

「父上、母上、行って参ります」
「国王陛下、王妃陛下、行って参ります」

 マーディルは返した。

「世界を、見てくるのだぞ」
「はい、父上」

 ランクーナも返した。

「くれぐれも、お体を大事にね」
「はい、王妃陛下」

 そして、王子夫妻は、国王夫妻に見送られながら、ミルフォンソ、セブレーノと共に港へと出発した。

 その頃、港では、一般の乗客や指名された同行者が続々とベルカイザ号に乗船していった。そして、全員が乗船した時、王子夫妻らは港へ着いた。船から乗客たちが見守る中、王子夫妻はミルフォンソとセブレーノを従えベルカイザ号に乗船する。4人が乗船した事を確認し、定刻となった為、ベルカイザ号は、ゆっくりとブンボル王国の港を出発して行った。

「この度は、我々の新婚旅行に同行してくれて、ありがとう」

 ランディレイは、テラスに集まった人々の前でそう言った。傍らのミルーネは軽く頭を下げる。そして、言った。

「この旅を、皆さんと一緒に楽しみたいと思います。よろしくお願いします」

 乗客の拍手が轟いた。エリザータとアルヴェードも手が痛くなるほどランディレイとミルーネに拍手を贈った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

15年目のホンネ ~今も愛していると言えますか?~

深冬 芽以
恋愛
 交際2年、結婚15年の柚葉《ゆずは》と和輝《かずき》。  2人の子供に恵まれて、どこにでもある普通の家族の普通の毎日を過ごしていた。  愚痴は言い切れないほどあるけれど、それなりに幸せ……のはずだった。 「その時計、気に入ってるのね」 「ああ、初ボーナスで買ったから思い出深くて」 『お揃いで』ね?  夫は知らない。  私が知っていることを。  結婚指輪はしないのに、その時計はつけるのね?  私の名前は呼ばないのに、あの女の名前は呼ぶのね?  今も私を好きですか?  後悔していませんか?  私は今もあなたが好きです。  だから、ずっと、後悔しているの……。  妻になり、強くなった。  母になり、逞しくなった。  だけど、傷つかないわけじゃない。

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

離した手の温もり

橘 凛子
恋愛
3年前、未来を誓った君を置いて、私は夢を追いかけた。キャリアを優先した私に、君と会う資格なんてないのかもしれない。それでも、あの日の選択をずっと後悔している。そして今、私はあの場所へ帰ってきた。もう一度、君に会いたい。ただ、ごめんなさいと伝えたい。それだけでいい。それ以上の願いは、もう抱けないから。

偽りの愛の終焉〜サレ妻アイナの冷徹な断罪〜

紅葉山参
恋愛
貧しいけれど、愛と笑顔に満ちた生活。それが、私(アイナ)が夫と築き上げた全てだと思っていた。築40年のボロアパートの一室。安いスーパーの食材。それでも、あの人の「愛してる」の言葉一つで、アイナは満たされていた。 しかし、些細な変化が、穏やかな日々にヒビを入れる。 私の配偶者の帰宅時間が遅くなった。仕事のメールだと誤魔化す、頻繁に確認されるスマートフォン。その違和感の正体が、アイナのすぐそばにいた。 近所に住むシンママのユリエ。彼女の愛らしい笑顔の裏に、私の全てを奪う魔女の顔が隠されていた。夫とユリエの、不貞の証拠を握ったアイナの心は、凍てつく怒りに支配される。 泣き崩れるだけの弱々しい妻は、もういない。 私は、彼と彼女が築いた「偽りの愛」を、社会的な地獄へと突き落とす、冷徹な復讐を誓う。一歩ずつ、緻密に、二人からすべてを奪い尽くす、断罪の物語。

曖昧な距離で愛している

山田森湖
恋愛
結婚4年目のアラサー夫婦、拓海と美咲。仲は悪くないが、ときめきは薄れ、日常は「作業」になっていた。夫には可愛い後輩が現れ、妻は昔の恋人と再会する。揺れる心、すれ違う想い。「恋人に戻りたい」――そう願った二人が辿り着いた答えは、意外なものだった。曖昧で、程よい距離。それが、私たちの愛の形。

罪悪と愛情

暦海
恋愛
 地元の家電メーカー・天の香具山に勤務する20代後半の男性・古城真織は幼い頃に両親を亡くし、それ以降は父方の祖父母に預けられ日々を過ごしてきた。  だけど、祖父母は両親の残した遺産を目当てに真織を引き取ったに過ぎず、真織のことは最低限の衣食を与えるだけでそれ以外は基本的に放置。祖父母が自身を疎ましく思っていることを知っていた真織は、高校卒業と共に就職し祖父母の元を離れる。業務上などの必要なやり取り以外では基本的に人と関わらないので友人のような存在もいない真織だったが、どうしてかそんな彼に積極的に接する後輩が一人。その後輩とは、頗る優秀かつ息を呑むほどの美少女である降宮蒔乃で――

あなたの片想いを聞いてしまった夜

柴田はつみ
恋愛
「『好きな人がいる』——その一言で、私の世界は音を失った。」 公爵令嬢リリアーヌの初恋は、隣家の若き公爵アレクシスだった。 政務や領地行事で顔を合わせるたび、言葉少なな彼の沈黙さえ、彼女には優しさに聞こえた。——毎日会える。それだけで十分幸せだと信じていた。 しかしある日、回廊の陰で聞いてしまう。 「好きな人がいる。……片想いなんだ」 名前は出ない。だから、リリアーヌの胸は残酷に結論を作る。自分ではないのだ、と。

処理中です...