冷たい左手

池子

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第二章

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ホールへ戻り今の状況を説明すると、全員顔を青くした。
杏奈は顔を両手で覆い、項垂れる。
「じゃあ真琴先生を殺した犯人がいるこの別荘に、ずっと閉じ込められたままでいないといけないの」
「明日には帰る予定だったから、俺が家に帰らなかったら親が連絡をしてくると思うし、連絡が付かないと分かったら、不審に思って別荘に来てくれるだろう」
「でもそれでは早くても救助は明後日にしか来ないと言う事でしょう。そんなの私耐えられないわ」
慎二が杏奈を宥めようとするが、杏奈は相当疲弊しているようでその場にしゃがみ込んでしまった。
「一度客間に移動しよう。此処にずっといるのは精神的に良くない」
倫太郎の言葉で全員客間へ移動をする。
のり子が落ち着くようにと全員にハーブティーを出してくれたが、誰も手をつける者はいなかった。
「昨日の夜の事を確認していくけれど、死亡時刻と思われる夜中の二時から三時の間にアリバイがある人はいるかい」
倫太郎が問うと、
「そんな時間皆寝てると思うけどな。アリバイある奴なんていないだろ」
と慎二が周りを見ながら答える。
「別荘の片付けや施錠を行なってくれたのはのり子さんですが、昨夜俺達が部屋に戻った後はどのような行動をしていましたか」
「昨日は皆様が部屋に戻られた後、使用したティーカップを洗いその後入浴を済ませました。その後食堂へ行き水をコップ一杯分飲んだ後、戸締りを確認し部屋に戻り休みました。確か午前一時くらいだったかと思います。」
「お前まさかのり子さんを疑っているのかよ。この人がそんな事する筈がないだろう」
「俺はこの別荘にいる全員に可能性があると思っているよ。もちろん慎二、君もね」
「ならお前もだろうが」
倫太郎と慎二が互いに睨み合い今にも口論が始まりそうだ。僕は慌てて口を挟む。
「僕夜中一度トイレに行きたくて目を覚ましました。確か二時四十五分頃だった筈です」
「その時何か気になるような事はあったかい」
「トイレに行く為に真琴先生の部屋の前を通った時に、扉の隙間から部屋の光が漏れていました。トイレが終わって部屋に戻ろうとした時は、暗かったので眠ったのかなと思ってたんですが、もしかしたら電気がついていた時には真琴先生以外に誰かが部屋に居て、その時に犯行を行なっていたのではと思いました」
「なるほど、やはり死亡推定時刻に間違いはなさそうだな。」
「それとトイレで用を足していた時に、足音のような物音が聞こえた気がします。誰かトイレに来るのかなと思ったんですが、すぐに音は止んでしまったので気のせいと思いその時はあまり気にしませんでした。もしかしたらその時に犯人は、僕が起きてきた事に気づき慌てて電気を消して、気づかれない様にしたのではないかと思います」
「なんでその時に叔父さんの様子を確認しなかったんだよ」
慎二が責めるように僕を口撃する。僕は何も答えられず俯いた。
「ここで海斗を責めるのはお門違いだよ。慎二も同じ状況だったら気にも止めなかった筈だ。話を戻すけど海斗の記憶が正しければ、その足音と思われるものはおそらく犯人のものだろうね。まさか睡眠薬で眠らせた人が起きてくる筈ないと思って油断していたところに、海斗が目を覚ましたので、思わず驚いて物音をたててしまったのだろう」
「睡眠薬?」
杏奈が驚いたように大声を上げる。
「皆昨日の夜は妙に眠かったとは思わないかい。俺はどちらかというと眠りは浅い方でね、夜中に一度は必ず起きてしまうんだ。しかし昨日はそれが無く、起きた時には既に夜が空けていた」
倫太郎の言う通り、昨夜は妙に眠かったのは確かだ。
でもいつのタイミングで睡眠薬なんて飲まされたのだろうか。
「昨日のハーブティーなんじゃないか。寝る前はあのハーブティーしか口にしてないし、考えられるとしたらそれしかないと思う」
荒井が遠慮がちにボソボソと話す。
「それだとハーブティーを用意した美波とのり子さんが怪しいってことにならないかしら。二人ともどうなのよ」
杏奈は青白い顔で二人を睨みつける。
「確かにハーブティーを入れたのは私と美波様ですが、見たところ美波様は不審な行動はしておりませんでした」
「私ものり子さんは特に変なことしてなかったと思います」
「あなた達嘘ついてるじゃないでしょうね。どちらかが相手を庇って嘘の証言をしてる可能性もあるじゃない」
「私そんな事してません」
美波が涙を溜めた目で、キッと杏奈を睨み返した。
「まあ一旦落ち着いて。杏奈が二人を疑う気持ちも分かるが今は争っている場合ではない。のり子さんハーブティーのお湯は、どちらのものを使用しましたか」
「冷蔵庫にある二リットルのペットボトルの水を使用しました。この水は皆様が別荘にいらっしゃる前に烏間家の使用人が買い込んでおいた物です。夕食時は他の飲み物をお出ししておりましたので、その水を使用したのはハーブティーを入れた時が初めてです。昨日眠る前に私が飲んだ水もそのペッドボトルの水でした」
「なるほど、では冷蔵庫の中にあったペットボトルには、誰でも睡眠薬を入れる事ができたって事だね」
倫太郎の言葉に全員が静まり返った。
全員に睡眠薬を飲ませ、その後真琴先生を殺害した犯人がこの中にいる。
考えたくないが実際に殺人は起こっているのだ。改めて僕の心は恐怖に侵された。


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