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1章
1章1話 淫欲のクラブ1
しおりを挟む「ごめんなさい、君とは付き合えません」
詩織先輩はそう言って僕に向かって頭を下げた。
春の日差しが降り注ぐ放課後の校舎裏。
僕の初恋は見事に玉砕したのだった。
小作清太、16歳。高校二年生。
でも未だに小学生と間違えられるくらいの童顔で、身長も159センチしかない。自己紹介するときは精一杯160センチだと申告している。
女子からは可愛い可愛いとからかわれ続けた16年。まともな恋愛なんてできないと思っていた。
「うぅ……詩織先輩……」
そんな僕が本気で恋をした、花宮詩織先輩。
彼女のことを思いながら、僕は夜の繁華街を歩いていた。
派手さはないけど誰もが美少女だと認めるおっとりとした見た目。
化粧っ気もなく地味な容姿に似つかわしくないドデカイおっぱい。
噂では100センチを超えてるとか。
そんな詩織先輩と一年前に学校の廊下の曲がり角でぶつかったのが出会いだった。
その大きすぎるおっぱいに顔がぽよんと吹っ飛ばされて尻もちをつくという……なんとも情けない様を晒した僕に、「大丈夫?」と手を差し伸べてくれた詩織先輩の姿。
一目惚れだった。
図書委員をしている詩織先輩に会いたいがために、読みもしない本を借りに図書室に通った。
一年かけて世間話ができるくらいの仲になった。
話せば話すほど先輩が好きになった。
こんな僕でもワンチャンあるんじゃないかと、告白を決意。
実行に移す勇気を得るまで数か月を要し、意を決して思いを伝えたのがついさっきのこと。
「……結局、僕なんかが先輩に釣り合うはずなかったんだよなあ」
先輩と見るつもりだった恋愛映画。2枚用意したチケットも結局自分一人分しか使えなかった。
失恋したばかりの僕にはスクリーンの中の美男美女たちの甘酸っぱい恋物語は全く響かない。
でも映画の主役のイケメン俳優を見て一つ理解できたのは、僕みたいな低身長な童顔少年は絶対に恋愛の対象にはならないということだ。
「……そうだよね。先輩には僕なんかじゃなくて、もっとかっこよくて、背が高くてイケメンの彼氏の方が……」
自分を納得させるためとはいえ言ってて悲しくなってきたのでやめた。
「はあ……」とため息を吐いて夜の繁華街を歩く。
映画を見終わった帰り道。
そのまま駅に向かえばよかったんだろうけど、なんだかまだ家には帰りたくない気分だったから適当に街をぶらついた。
「詩織先輩……」
歩きながらも考えることは先輩のことばかりだった。
自分がもっと背が高ければ、顔が童顔じゃなければ、筋肉がついていれば……そんなことばかり考える。
だからだろうか。
「――あれ、先輩?」
いるはずのない先輩の後ろ姿を見たような気になった。
多くの人が往来する繁華街でも、なぜかその後ろ姿はハッキリ目に留まった。
「――いや、別人……か」
と思ったけど、よく見れば全然違う人だった。
先輩は栗色の三つ編みだけど、その人は真っ黒なロングストレートの後ろ髪だった。
よく観察すれば、なんで一瞬とはいえ先輩に見えたのか分からないくらい別人だった。
でもなんか、歩き方というか、気配みたいなものが先輩に似ている気がした。
「いよいよ重症かな、僕も」
失恋の傷が深すぎて別人が先輩に見えてしまっているのかと、呆れて苦笑する。
――と、そのとき。
その人が、ポトリ、となにかを鞄から落とすのが見えた。
「あっ」
後ろを歩いていた僕は数歩歩いてそれを拾い上げる。
すべすべした手触りの、手のひらサイズの真っ黒な封筒のようだった。
「あの――」
落としましたよ、と声をかけようとすると、その女性は近くのビルの中に入っていくところだった。
「あ、あの! これ……!」
追いかけてビルの中に入ると――中には誰の姿もなかった。
「あれ……おかしいなあ」
その小さなビルのホールは一本道で、正面のエレベーター以外に移動できる場所はない。
エレベーターに乗ったのかと入ってみるけど、誰の姿もなかった。
どの階に移動したのかもわからないし、これ以上は追いかけられない。
「そもそもコレなんなんだろう」
興味本位で封筒を開けてみる。
すると、中には一枚のカードが入っていた。
真っ白な無地のカード。
クレジットカードのような質感だけど、見たことのない模様が中央に描かれている以外は何も情報が記されていない。
「カード……? ――あれ?」
ふと視線をエレベーター内のボタンに向けると、まさにそこにカードリーダーらしきくぼみがあるのを見つけた。
「カードリーダー? どうしてエレベーターにこんなものが……」
もしやという予感に突き動かされ、僕は試しにそのカードをリーダーに通してみた。
直後――ゴウン、とエレベーターが駆動を開始した。
「え、ちょ……!?」
な、なんで!?
僕、行き先ボタンを押してないけど!?
戸惑う僕など気にせずエレベーターは移動を続ける。どうやら地下に下りていってるらしい。
それも、結構な距離を下りていた。エレベーター内に階数は表示されていなかったけど、三十秒くらい下りている気がする。
何かおかしなことが起こってるらしいことは察せられて、僕は身をすくませた。
やがて、チン、という音とともにエレベーターのドアが開くと……
「…………え?」
目の前に広がる異様な光景に、僕はしばし言葉を失った。
それが僕の運命の分岐点。
肉欲のうずまく魔境、サキュバスクラブとの出会いだった。
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