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1章

1章8話 皆が僕を狙ってる……

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「お楽しみいただけていますか、清太様?」
「シャ、シャリアーデさん……」

 席を立とうと浮きかけていた腰が止まる。
 シャリアーデさんは左手に乗せたトレイから飲み物の入ったグラスをテーブルに置いた。

「お飲み物のお代わりをお持ちいたしました」
「あ、ど、どうも……」
「当クラブはお楽しみいただけていらっしゃいますか?」

 シャリアーデさんの視線が僕の股間に向く。
 僕に馬乗りになったサリナさんのおまんこが、今にも挿入されそうなくらいの距離で僕のおちんちんに狙いを定めていた。

「あ、あの! 僕、今日はこの辺で……」
「あら、どうかいたしましたか? この穴が何か粗相を? それとも具合がよくありませんでしたでしょうか」
「あ、穴って……」
「よろしければ他の穴を連れてまいりましょうか。五つほど用意いたしますので、軽く数回ほど抽挿していただき、気に入った穴にザーメンを出していただく、というのはいかがでしょう」

 な、なに言ってるのこの人!?
 無表情でサラッとなんか、と、とんでもないこと言ってる!

「ちょっと? 私まだ入れてないんだけど?」
「あなたの穴はお気に召さないご様子です。サリナさん、控室からゴールドランクのキャストを五名ほど連れてきていただけますか」
「……はいはい。美味しいのはいつも通り上の人たちで楽しめばいいわ」

 サリナさんは僕から体を下ろし、見るからに不機嫌そうにテーブルから去っていった。

「ご迷惑をおかけして申し訳ございませんでした清太様。すぐ代わりの穴をご用意いたしますので」
「あ、あの、本当に僕、今日はもう……」
「まだ時間はたくさんございます。もう少しだけ遊んでいかれてはいかがでしょう」
「も、もう十分です! ほんとに!」
「左様でございますか? ですが……」

 ちらり、とシャリアーデさんの目線が、僕のガチガチのおちんちんに向けられる。

「うっ……」

 思いっきり勃起してるのもそうだけど、今さらながら女の人に自分の丸出しの性器を凝視されていることが無性に恥ずかしくなった。

「清太様のペニスはまだご満足いただけていないご様子」
「で、でももうほんと、十分です! 僕なんかのためにサリナさんも凄くいろいろ……だから……あ、お、お会計お願いします!」

 僕は慌てて財布をズボンから取り出すと中身に入っているお金を全て取り出してテーブルの上にばらまいた。
 散らばった数枚の硬貨に、千円札が一枚。財布をひっくり返してもそれしか出てこなかった。

「こ、これ、これしか……ご、ごめんなさい……だから、今日はもうこれ以上のサービスは……」
「…………畏まりました。ご安心ください、無理に清太様をお引止めするような真似はいたしません。サービス料も、これ以上ご請求させていただくことは決してございませんので」

 シャリアーデさんはそう言ってテーブルの上のお金を手早く集めると、トレイの上に乗せた。

「では清算してまいりますので、こちらのお席で少々お待ちくださいませ」
「は、はい……ありがとうございます」

 たおやかに一礼し去っていくシャリアーデさん。
 テーブルに一人きりになり、僕はこのクラブに来て初めて安堵の息を吐いた。

「……終わった、のかな」

 あんな小銭で料金なんて足りる訳ないけど、シャリアーデさんは決済してくれると言った。
 あとはもう波風立てず、そっと帰ろう。

 じゃないと……頭がおかしくなりそうだ。
 こうして一人になって冷静に思い返してみると、やっぱりこのクラブは異常すぎる。
 サービスももちろん……なんというか、僕に対する接客が特別すぎる。

「どうしてサリナさんもシャリアーデさんも、あんなに積極的に……」

 ただのでは説明できないほど、あの二人の僕への対応は熱烈だった。
 何か僕個人への強い執着があるかのように見えたけど……一体僕がなんだっていうんだ?

「プラチナランクがどうとか言ってたような気がするけど……」

 シャリアーデさんもサリナさんも、どっちもそのプラチナっていう言葉に反応していたように思えるけど、プラチナって何のことなんだろう?


「――――プラチナ!?」


 突如大きな声が僕の席まで届いてきた。
 見ると、少し離れた場所でシャリアーデさんと別のキャストらしき人が何かを話していた。
 そのもう一人の女性は驚いた表情で僕の方を向いた。ハッキリと目が合った。

「……ぼ、僕のこと、話してる……?」

 そう見える。
 その人は僕のことをガン見しながらシャリアーデさんの話を聞き、しばらくすると一度大きく頷いた。

 その女性は手に持っていたマイクをオンにし、数回マイクチェックを行ったあと声を発し始めた。

『――お客様にご連絡を申し上げます』

 フロア中に響き渡る女性の声。
 キャストと楽しんでいた他の男性客も何事かと周囲を確認し始める。

『本日は当クラブへご来店いただきまことにありがとうございます。日頃から当クラブをご愛顧くださっている皆様へのささやかな感謝の気持ちとして、本日限定の特別キャンペーンを実施させていただきます』

「……な、なんか」

 さっきも似たような話があったような……。

『只今から閉店時間までの間、当クラブでご利用いただける全てのサービスを無料とさせていただきます』

 ざわざわ、とフロアが色めき立つ。

『本日に限り、皆様がお楽しみいただいた、いかなるサービス、いかなるプレイにおいても、当クラブが何かしらの対価を請求することは……一切――絶対に――決して――……ございませんので、』

 そこで言葉を区切り……その女性は今度こそはっきりと僕の目を見つめながら、

『どうかご遠慮なく、当クラブをご堪能くださいませ』

 そう僕に告げて女性はマイクを切った。
 歓声に沸くフロア。興奮した男たちが近くにいるキャストに次々と声をかける。
 そんな彼らに嬉しそうに対応する女性達。

 一層の盛り上がりを見せるクラブの中で……僕の胸中はそれとは真逆。
 まるで胃が冷えていくような気持ちを味わっていた。

「……僕だ」

 これではっきりした。
 ――このクラブは僕を狙っている。
 理由は分からないけど、とにかく僕にサービスを受けさせたがっている。

「こ、これ以上ここにいちゃだめだ……ここにいたら……!」

 きっと、さっきよりももっと凄いことをされて……

「……もっと、凄いこと……」


 ――じゅぼ♡ じゅぼ♡ ぢゅりゅるるううッ♡


「――うゥッ!?♡」

 さっき味わったサリナさんのフェラチオが脳裏をよぎり、それだけでガチガチになっていた僕のおちんちんは射精してしまいそうだった。

「ぐっ……うぅ……♡」

 ――ここで待っていたらどんなことをされるんだろう?
 そんな考えが脳裏をよぎって仕方がなかった。

「五人……連れてくるって言ってた」

 
 サリナさんはそう言っていた。

 つまりサリナさん以上の女性が五人……こんな狭い隅っこのテーブルに集まって、なにをするの?
 その五人に抽挿して、気に入った人の穴に……って言ってた。
 抽挿っていうのは、つまり……。

「そ、そんなの……だめだよ」
 ごくり、と喉が鳴る。

 何がダメなのかはわからない。
 でも僕ははち切れそうなおちんちんの期待……それとは別に、何か本能的な危険を感じている。

 この場所は僕にとって、夢のサービスを受けられる場所なんかじゃない。
 むしろそれとは逆。
 僕は……何故だかわからないけど、彼女たちに狙われている獲物なんだ。

「や、やっぱり帰っ――」
「清太様」

 ひい!? 声をあげてしまう。
 僕がもたもた悩んでいる間に、シャリアーデさんがテーブルの近くまで来てしまっていた。

「お待たせいたしました。清算の件なのですが」
「あ、そ、そうだお会計! 僕、これで……!」
「その件なのですが、先ほど館内放送でもお知らせさせていただきました通り、本日は全てのサービスの料金が無料となりました。ですので、こちらはお返しさせていただきます」

 そう言ってシャリアーデさんはさっきのお金を僕に手渡してきた。

「あ、ありがとうございま……」
「――ということですので、」

 僕が財布にお金を仕舞うや否や、シャリアーデさんは、ずい、と静かに身をこちらへ寄せてきた。
 そして無表情のまま僕の瞳をじっと見つめて言った。

「せっかくですし、もうしばらく遊んでいかれます……よね?」

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