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第2章
おやすみなさい、お姉ちゃん※
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ホテルの室内は、深い静寂に包まれていた。厚いカーテンが夜の喧騒を遮り、柔らかな間接照明がベッドの白いシーツを淡く染める。
ベッドの上で眠る由紀は、さっきよりも呼吸が落ち着いていた。少しだけ汗ばんだ額にかかった髪が、眼鏡のない無防備な表情を際立たせている。亮は彼女の手を握ったままその顔をずっと見ていた。それだけで、心がいっぱいになりそうだった。指先が彼女の華奢な手首に触れるたび、鼓動が喉元で疼く。
この十数年、どれだけの瞬間に彼女を思い出してきただろう。どれだけの夜を、子どもの時よりも邪になった恋心で埋めてきたのか。
合同説明会の壇上で、毅然と語る由紀の姿に、再び心を奪われたあの日。
『エデンフィールド』で雪だるま姿でドジを踏んだ瞬間さえも、亮には愛おしくてたまらなかった。
──その時だった。
彼女の脚がわずかにずれて、ストッキングに伝線が走っているのが目に入った。踵のあたりから細く伸びた破れは、今日1日、彼女がどれだけ緊張して頑張っていたかを物語っていた。
亮は躊躇いがちに、それでもおもむろにその部分に指を這わせていた。柔らかな肉に指を沈めれば伝線した糸が当たる。ストッキング越しに感じる彼女の体温が、理性を揺さぶった。
足が、窮屈そうだ。
ふと、このままでは気持ちが悪いのではないか、と思った。
純なる気持ちで、ベッドに膝を埋める。
至極冷静に対応していた亮だが、彼自身も想い人を目の前に相当ワインをあおっていた。心臓がうるさく鳴り、彼女の寝息に合わせるように高ぶる。
──ちょっとごめんね、ゆき姉ちゃん。
そう小さく声をかけてから、ロングスカートの中に手を差し入れる。下着を見ないように、ストッキングの縁に指をかけると、腰を浮かせて、器用に脱がせていった。由紀は寝入ったまま、気付かない。そっとベッドから降りる。
白い足がシーツに映え、亮の視線を絡めとった。手に残ったのは丸まったベージュ色のストッキング。横目で彼女の姿を見やり、不意にそれに鼻を寄せる。繊維質な匂いの他は、彼女の香りなど何もしなかった。亮はため息をついた。
自分は何をやっているのだろう。
まるで変態じゃないか。
頭がかっと熱くなる。だけれども。みるみると興奮してしまう自分を抑える事ができなかった。
***
バスルームの扉を開け、ストッキングをゴミ箱に捨てる。やや性急に服を脱ぐ。鏡には引き締まった美事な姿体が映し出されていた。窪んだ腸腰筋から、親指を差し入れ下着を押し下げれる。硬くなった欲が跳ね返るように現れた。
バスタブに入って、シャワーカーテンを閉める。冷水を頭から浴びれば、いくらか酔いも熱もさめるかと思った。けれども意識が鮮明になっていくにつれ、逆にこもって痛いぐらいだった。
長く、ため息をつく。
自身のものを強く握れば、少しだけ落ち着く。壁に肘をつけ、目を閉じてベッドの上に眠る由紀を思い浮かべてた。
彼女は華奢なのに、どこもかしこも柔らかそうで。
抱きしめたら、艶やかな黒髪からはどんな香りがするんだろう。
締まったふくらはぎに、足を絡ませたらどんな声をあげるんだろう。
由紀の全てが、蠱惑的だった。
割れ目から滾み出た液を指にまとわせると、ものをゆっくりとしごく。これまで何度も、彼女を思い浮かべてこうしてきた。いつも以上に、想像の由紀がリアルだ。それはそうだ。すぐそこに。手の伸ばせてしまう範囲に、寝ているのだから。
「く……う……っ」
低い唸り声は、打ち付ける水音に溶けていた。額に浮かぶ汗も、すぐに流されていく。
いっそ手を伸ばせたら。
口付けて。舐めて。
いれて、揺さぶって。抱きしめたい。
屈めた姿態が痙攣するように震え、腹筋に力が入る。
ゆき姉ちゃん、おねぇちゃん、ぼくのゆき──。
はち切れたように溢れ出たそれは、排水溝に渦を巻き吸い込まれていった。天井を見上げ濡れた髪をかき上げる。換気扇が回るが耳に響く。何かから解放されたように胸が空くと共に、どうしようもない虚無と罪悪感がひしめく。自分の行動が、由紀への純粋な恋心を汚した気がした。
***
着ていた服を再び着る気になれず、バスローブを羽織る。髪を軽く乾かした後にベッドの近くでしゃがみ込んだ。
由紀は静かな寝息を立てていた。
まだ、あの男の夢を見ているのかもしれない。
そう思うと、奥歯がきちりと鳴った。
これからどう、外堀を埋めていくか。考えを巡らせながら、由紀にそっと布団をかける。どんな男も、女でさえも、彼女に近寄らせたくなかった。
薄く赤らんだ柔らかな頬を、中指で滑るように撫でる。
「おやすみなさい、ゆき姉ちゃん」
亮のブルーサファイアにも似た目は、どこまでも澄んでいた。だが、その奥には、由紀を独占したいという執着と、彼女に届かない焦れったさが渦巻いていた。
ベッドの上で眠る由紀は、さっきよりも呼吸が落ち着いていた。少しだけ汗ばんだ額にかかった髪が、眼鏡のない無防備な表情を際立たせている。亮は彼女の手を握ったままその顔をずっと見ていた。それだけで、心がいっぱいになりそうだった。指先が彼女の華奢な手首に触れるたび、鼓動が喉元で疼く。
この十数年、どれだけの瞬間に彼女を思い出してきただろう。どれだけの夜を、子どもの時よりも邪になった恋心で埋めてきたのか。
合同説明会の壇上で、毅然と語る由紀の姿に、再び心を奪われたあの日。
『エデンフィールド』で雪だるま姿でドジを踏んだ瞬間さえも、亮には愛おしくてたまらなかった。
──その時だった。
彼女の脚がわずかにずれて、ストッキングに伝線が走っているのが目に入った。踵のあたりから細く伸びた破れは、今日1日、彼女がどれだけ緊張して頑張っていたかを物語っていた。
亮は躊躇いがちに、それでもおもむろにその部分に指を這わせていた。柔らかな肉に指を沈めれば伝線した糸が当たる。ストッキング越しに感じる彼女の体温が、理性を揺さぶった。
足が、窮屈そうだ。
ふと、このままでは気持ちが悪いのではないか、と思った。
純なる気持ちで、ベッドに膝を埋める。
至極冷静に対応していた亮だが、彼自身も想い人を目の前に相当ワインをあおっていた。心臓がうるさく鳴り、彼女の寝息に合わせるように高ぶる。
──ちょっとごめんね、ゆき姉ちゃん。
そう小さく声をかけてから、ロングスカートの中に手を差し入れる。下着を見ないように、ストッキングの縁に指をかけると、腰を浮かせて、器用に脱がせていった。由紀は寝入ったまま、気付かない。そっとベッドから降りる。
白い足がシーツに映え、亮の視線を絡めとった。手に残ったのは丸まったベージュ色のストッキング。横目で彼女の姿を見やり、不意にそれに鼻を寄せる。繊維質な匂いの他は、彼女の香りなど何もしなかった。亮はため息をついた。
自分は何をやっているのだろう。
まるで変態じゃないか。
頭がかっと熱くなる。だけれども。みるみると興奮してしまう自分を抑える事ができなかった。
***
バスルームの扉を開け、ストッキングをゴミ箱に捨てる。やや性急に服を脱ぐ。鏡には引き締まった美事な姿体が映し出されていた。窪んだ腸腰筋から、親指を差し入れ下着を押し下げれる。硬くなった欲が跳ね返るように現れた。
バスタブに入って、シャワーカーテンを閉める。冷水を頭から浴びれば、いくらか酔いも熱もさめるかと思った。けれども意識が鮮明になっていくにつれ、逆にこもって痛いぐらいだった。
長く、ため息をつく。
自身のものを強く握れば、少しだけ落ち着く。壁に肘をつけ、目を閉じてベッドの上に眠る由紀を思い浮かべてた。
彼女は華奢なのに、どこもかしこも柔らかそうで。
抱きしめたら、艶やかな黒髪からはどんな香りがするんだろう。
締まったふくらはぎに、足を絡ませたらどんな声をあげるんだろう。
由紀の全てが、蠱惑的だった。
割れ目から滾み出た液を指にまとわせると、ものをゆっくりとしごく。これまで何度も、彼女を思い浮かべてこうしてきた。いつも以上に、想像の由紀がリアルだ。それはそうだ。すぐそこに。手の伸ばせてしまう範囲に、寝ているのだから。
「く……う……っ」
低い唸り声は、打ち付ける水音に溶けていた。額に浮かぶ汗も、すぐに流されていく。
いっそ手を伸ばせたら。
口付けて。舐めて。
いれて、揺さぶって。抱きしめたい。
屈めた姿態が痙攣するように震え、腹筋に力が入る。
ゆき姉ちゃん、おねぇちゃん、ぼくのゆき──。
はち切れたように溢れ出たそれは、排水溝に渦を巻き吸い込まれていった。天井を見上げ濡れた髪をかき上げる。換気扇が回るが耳に響く。何かから解放されたように胸が空くと共に、どうしようもない虚無と罪悪感がひしめく。自分の行動が、由紀への純粋な恋心を汚した気がした。
***
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由紀は静かな寝息を立てていた。
まだ、あの男の夢を見ているのかもしれない。
そう思うと、奥歯がきちりと鳴った。
これからどう、外堀を埋めていくか。考えを巡らせながら、由紀にそっと布団をかける。どんな男も、女でさえも、彼女に近寄らせたくなかった。
薄く赤らんだ柔らかな頬を、中指で滑るように撫でる。
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