この大地に花束を

蘇鉄

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9 麻薬

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「これが【竜の麻薬】?」
 ツンツン、と指先で小瓶を揺らす。
 なんかこう、竜って名前のつくものって液体じゃないとダメな縛りでもあんのかな。
 今回の色味はグラデーションだった。クリームソーダかカクテルみたい。
 上の方は赤色で、下にいくにつれて透明になっている。
 澄んだ色合いは綺麗だが、これは麻薬である。
「そうだ。これは貴族連中が隠し持っていたものを押収した」
「貴族にも広まっているのか。効能は?」
「高い依存性と、魔力量の増加、多量摂取による異形化、だ」
 俺は思わず笑った。
「いい趣味してる」
 作ったやつはサイコーにクレイジーだな。
 ついでに言うと、金儲けが目的じゃなさそうだ。
 確実に皇族に何かしらの恨み辛みを持っていて、ついでにドラゴンに対しても喧嘩を売りにきている。
 高い依存性で、どんどん摂取量が増えていき、最終的に異形化する。
 客を確保するなら依存性が高いのは悪くないが、多量摂取で異形化が確定、となると異形化させる事が目的なのだろう。
 俺は徐に小瓶を手に取ると蓋を開けた。
 瞬間、ものすごい俊敏な動きで両手を掴まれ、俺の手ごと蓋が閉められる。
「あんま聞いてもしょうがない気がするけど、聞いておこうか。何をするんだ」
 俺は数秒、大きな手で挟まれた自分の手を見つめてから、背後を振り返るようにして仰ぐ。
 ガルシアの大層な美貌が間近にあった。
 俺を背中から包み込むような形で抑え込んでいるので、必然的にバックハグ状態だ。
 少し振り返るだけでも互いのまつ毛が視認できるほど距離が近い。
「近い」
 思わず言ってしまう程度には近かった。筋肉があるからか、近づかれるだけでなんか温いし。
 だがガルシアは離れずに俺の両手ごと小瓶を掴んだまま。
「それは危険なものだ。小瓶に入っている一滴だけでもその薬に耐性のない人間を依存症に落とす」
「ああ、人間ならな。俺は人間じゃないって何度も言ってるだろ。基本人間のものなんぞ効かないよ」
 そもそも持ち合わせている耐性が異なるので人間用に調整されたものなど俺にとっては毒にもならない。
 逆に言うと犬猫にたまねぎやチョコレートを与えると死ぬように予期しないものでダメージを喰らう可能性はある。
 だからまぁ、油断はできない。
 できないけどこの薬は別に問題なさそうだなぁというのが俺の感想だった。
 感想でこのクソ度真面目仕事人間を説得できないのが辛い。
 ガルシアの表情は真剣だった。
「基本は、だろう。ドラゴンであれど酩酊する可能性もある」
「たかが一滴で?動物ってのは体積に応じて許容量が変わる。馬鹿でかいドラゴンが一滴でふらふらになるとでも思ってるのか?」
「君は、人間の姿をしている。人間と同じ許容量だと判断した」
 話が平行線だ。
 俺はため息を吐き出す。仕方ない。
「わかった、わかった。とりあえず今は開けない。まずは確認してからにする。開ける時はお前に言う。これでいいか?」
「構わない」
 す、と腕から力を抜いてくれたのを確認して、強制的に閉じさせられていた手のひらを離す。
 ガルシアは俺の背後に立ったままだった。
 怖いんだけど。
 離れる気はなさそうなので頑張って無視しつつ、小瓶をそうっと持ち上げる。
 蓋は開けないまま、軽く振るとトロミがついているのが確認できた。ちょっとした油のような粘性を感じる。
 じぃ、と俺の魔眼で見つめると内容が視えてきた。
 結果として、
「これ麻薬っていうより、異形化の薬……」
 副産物として麻薬としての効果があっただけで、元々の目的は異形化だ。
「ガルシア」
「なんだ」
「開けたい。問題はないはずだ」
「シデン殿、」
「中身を知らないとどうしようもないだろ」
 帰ってきたのは葛藤する唸り声だった。なんか獣の威嚇みたいで怖いんだけど。
 なんでドラゴンの俺が人間の唸り声にビビらなきゃならんのだ。怖いから言わないけどさ。
 なんかこう、命の危険的なものを感じるんだよなぁ。
「危険だと判断したらすぐにやめさせる」
「普通に止めるし、中毒になることはないから安心しろ」
 なんで仕事として調べるだけなのにこんなに疲れるんだ……。
 背後にでっかいものを背負いつつ、小瓶を開ける。
 たったそれだけで胸焼けしそうなほどに甘ったるい香りが漂った。
 甘すぎて苦く感じるほどだ。
 血の匂いにも似ている。甘くて、苦い。
 この匂いは。
「サマー・リリス、か?」
「材料もわかるのか?」
「匂いだけなら。他にも色々混ぜているとは思う。薬だし。でもだいぶ特徴的な匂いだからサマー・リリスがベースなのは確かだな」
 サマー・リリスという花がある。
 白百合のようにラッパのような花弁を大きく広げて甘ったるい匂いを振り撒く魔法の花だ。
 白の花弁に繊細なレースで刺繍を描いたように金の模様が入っている特徴的な見た目をしている事からサマー、太陽の名前が入っている。
 加えて、サマー・リリスは魔力と非常に相性が良い。魔力をサマー・リリスに流すと淡く発光し、魔力を蓄えることができる。
「サマー・リリスは此方でも魔法薬の材料になることが多い。……群生地を見に行った方がいいな」
「あとは魔法の効果をあげる鉱石…、この色だとファイヤストーンか?砕いて中に入れてるな。うへぇ、麻薬で頭が馬鹿になるとこんなゲテモノ飲むのか?」
 最初は一滴と聞いたので心理的な壁は低いのだろうか。
 中身を知らないから問題ないのか。
 見た目だけなら綺麗だけど、綺麗なものは大体やばいものがぶち込まれて整えられているだけだ。
 鉱石を砕いたものが入っているなんて、俺ならゾッとするね。まぁたまにドラゴンの中にも変り種がいて、鉱石やら宝石を好んだり、特定の植物だけを食ったりするんだけど。
 ドン引きの俺とは別にガルシアには納得のいく理由があるらしい。
「魔力総量をあげられる、というのは人間にとって死活問題だ。特に、魔法を扱えることにステータスを感じる貴族にとってはな」
「総量が多くあっても扱う肉体の耐性がなけりゃ無意味だろうに」
 ガラスの器に熱湯を注いだら割れるように、入れること自体は出来ても入れられる側に耐性がなければ意味がない。
 愚かだな、と口に出せばガルシアが苦笑した。
「人間とは、愚かな生き物だよ」
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