この大地に花束を

蘇鉄

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8 竜の試練

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 まぁそうなるよなぁ、というのが俺の感想だった。
「シデン殿、これは」
 吐血し、床に転がって痙攣しているサーシャを冷たく眺めているとガルシアが恐る恐る問いかけてくる。
 俺は肩を軽くすくめた。
「想定内じゃね?即死しなかったから多分死なないと思うけど」
「どういう事!?何があって、お姉ちゃんがこうなってるのよ!」
 悲鳴じみた叫びを上げるのはサーシャとよく似た顔の女。こちらは彼女より少し幼い。加えて、お姉ちゃん発言。
 妹か。こちらも随分とまぁ礼儀知らずなようだ。
 倒れ込む姉に駆け寄り、手を添えながら彼女は俺を睨んだ。
 睨まれても知らんのだが。
 呆れながら俺は教えてやった。
「試練だって言ってんだろ。肉体の損壊や病気を回復させる治癒や、元々持っている身体能力向上、いわゆるバフをかけて能力をブーストさせるものとは話が違うんだ。そもそも【ない】ものを無理やり生み出させているんだから、そりゃあ内臓に負担がかかって当然だろ」
 【竜の祝福】を受け取る為には人間側に魔力耐性がないと話にならない。これはドラゴン自体が魔力の塊でもあるせいだ。だからこそ範囲のでかい強大な魔法が使えるし、肉体も強靭かつ寿命が長い。
 その恩恵を受ける為には器を作る必要がある。
 その為の、【竜の試練】。
「じゃあ、じゃあアンタが祝福とやらをすれば良いじゃない!そうすれば全部解決するはず!」
 サーシャの妹がそう叫び、周りの空気が凍る。
 思わず俺は目を見開いた。
 ぱちぱちと何度か目を瞬かせる。
 無知もここまで極まると滑稽だな。
 祝福を授ける、授けない以前の話なので俺がそれをやったら死ぬんだけどなぁ。
 うーん、と少し考えて、面倒くさくなったので俺は自分の手のひらを自分の爪で裂いた。
 普通の剣でブッ刺したところで剣が折れるだけだが、自前の爪なら傷つけられる。
 ドラゴンの血だ。たったの一滴ですら、人間にとっては凄まじい効果が期待できる。
 赤い血が溢れた。溢れないように手で受け止めつつ、俺は言う。
「ほら、飲ませたら良い。ドラゴンの血だ」
 サーシャの妹が俺の血を手で受け止める。ぽた、と真っ赤な血が白い肌に触れた。
 俺は続ける。
「まぁ、飲ませたら即死するか化け物になるかの二択だが」
 カランの迅速な対応がサーシャの妹に、ガルシアの迅速な対応が俺に炸裂し、無事にサーシャはそのままだった。
 チッ。
 すぐに飲ませなかった俺の血はサーシャの妹を傷つける。悲鳴があがった。
 ガルシアが俺に叫ぶ。
「何故そんな事をするんだ君は!?」
 理不尽な言葉に俺は言い返す。
「祝福しろって言ったのそっちだろ。言われた通りにやったのに文句を言われる筋合いはないね。俺だと攻撃性が強すぎて、マトモな人間なら死ぬってだけさ」
「わかっているならやるんじゃない!」
「俺に命令するんじゃねぇよ」
 サーシャの妹の肌に触れた血は泡立ち、彼女の肌を火傷させていた。痛い痛いと騒ぐ彼女の腕を控えていた兵士達が治癒の魔法をかけていた。
 俺の血は俺の意思に反応する。特に何の思い入れもない相手ならこんなものだ。
 ヘル兄さんもそうだし、母さんも同じような結果になるだろう。与えられている【竜の祝福】も希釈されて問題ないように薄められたものだ。原液なんてとてもじゃないが耐えられない。
 サーシャとサーシャの妹は担架に乗せられて運び出されていった。
 傷ついた皮膚を自分の舌で舐め上げる。唾液が付着すれば瞬く間に傷が塞がっていった。血を利用されてはたまらないので自分で自分の血を舐めとるしかない。
「うえ、まずい」
 苦い血の味だ。
 これに魔力が含まれているのだからファンタジーってやつはよくわからない。
 べろりと舌を出していると、痛ましげな顔をしたカランがそっと近寄ってきた。
「サーシャは、大丈夫だろうか」
「死にはしないだろうけど、あの状態だったら生きている方がしんどいかもな。視た限りだいぶ魔力耐性が低いようだし」
 サーシャは元々の魔力耐性が皆無な状態だった。
 そこから【竜の祝福】に耐え切れるような肉体に組み替えるとなると相当な時間がかかるし、肉体にかかる負担も相応に重くなる。
 国の代表である皇后を能力ではなく、本人の性格などで選んだからサーシャは今、苦しんでいる。
 その責任はカランにあるが、皇后になるのであれば避けられない義務でもある。
 ロイヤルファミリーの一員となるのだ。それ相応の責任が発生する。何も出来なくても大丈夫、なんて御伽話の中だけだ。現実はシンデレラストーリーで終わらない。その裏には苦難がある。
「腹ん中掻き回されているような痛み、嘔吐と吐血、異常な寒気、あとは幻覚」
 ツラツラと並べるとガルシアの顔がハッとした。
「まさか、」
「これから落ち着くまでの間、アレが感じるだろう不調だ。ゾッとするな?」
 もう少し魔力耐性が高いやつが飲めば吐血と寒気ぐらいで済むが、サーシャには無さすぎる。普通、こういう状況のヒロインってもっと特別な能力を持っているものなのだが、本当にサーシャは平民そのものだった。
 むしろ何故、カランと出会えたのか不思議でならない。
「戴冠式まで時間はあるし、それまでに何とか落ち着くといいな」
 結局、強大な存在がもたらすものは良きものだけとは限らないという話だ。
 自分の今持っている肉体を無理やり変化させて、自分達の暮らしをより豊かにさせる。
 俺からすれば恐ろしい生き物だと思う。
 祝福を得たからといって、変わるのは自分の肉体だけだ。それも他の人間と比べて多少長生きして、頑丈になるだけ。
 残酷なことに【竜の試練】を受けた人間は逆にあまり長生きは出来ないはずだ。
 適性があれば話はまた変わってくるが、サーシャの様子を見るに無理そうだし。
「人間って難儀だなぁ」
 元々は俺も人間だったし、前世は人間のはずなのに。
 やっぱりこの辺り、俺もドラゴンっぽいってことなのかね?
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