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ユグドレミア皇国は山を背にするように建つ巨大な城を中心とした国だった。
城は山肌に埋まるようにして建っているので、そこかしこに橋がかけられている。
正しくファンタジーといった様相だった。この建築技術は魔法があるが故だろう。
中央の広場が一番発展している街の中心で下に降れば港に繋がる。
外からも攻められにくい構造だ。
ドラゴンの国のお膝元を侵略しにくる馬鹿は少ないだろうが。
イベント準備期間、といったような浮かれた雰囲気が街中にあった。活気がある。
「人間がいっぱい」
俺はといえば馬鹿みたいな感想が出た。まぁドラゴンの国から出たばかりなので。
人間を近くで見るのは割と初めてだった。ヘル兄さん達の遠乗りで遥かに下にいっぱいいる、みたいことはあったけど。
「皇太子殿下の戴冠式が近いからな。準備期間も相応に長い」
カランの親、つまり前皇帝と全皇后は既に崩御、つまり死亡している。なのでカランが実質的な最高権力者であるのだが、戴冠式を終えていないので対外的には皇太子のままだ。
戴冠式を終えて漸く名実共に皇帝となる。
ユグドレミアはドラゴンの女王に認められた唯一の国だ。その立場を明確にする為にも【竜の祝福】を大々的に公表している。それが少しでも損なわれる事は避けなければならない。
【竜の麻薬】が蔓延している国など支援したくないだろう。そして麻薬の話とは別に皇太子が母さんの元に来たのはもう一つ理由があった。
「【竜の試練】?」
知らぬ単語に俺は隣に座るガルシアを見上げながら質問した。
「ああ」
今現在、俺はガルシアが所有する屋敷に滞在している。
ユグドレミアに来てから早くも数週間が経過していた。その間、俺はガルシアの屋敷から出ていない。
監視役である彼と行動を常に共にする事。
それが人間どもが提示した条件だ。ガルシアにも仕事があるので俺に付きっきりというわけにもいかない。
が、俺を野放しにするのも出来ないという理由で彼が仕事の時には他の人間が見張りにやってくる。
わざわざ外に出向く必要性も感じていなかったので、俺は外に出ることもせずに、屋敷の中で日々を完結させていた。
人間ごときに、とドラゴンなら怒りを覚えるところだが、俺にとっては案内役がいて便利だなぁという感想しかないので気にならない。
そもそも外に出ないしな。
出ても庭先ぐらいだ。
ガルシアがなんか過保護なのは気になるけど、そういうものかで流している。
その間に人間の顔見知りというやつも何人か出来たし。
今日はガルシアがいる日だった。
用事があるらしく、俺達は二人揃って王城へ向かっている最中だ。
「皇后は【竜の試練】を受けて合格する事が必須条件となる」
その試練に必要なものを母さんに貰っていたらしい。
母さんに頼むほどのものってなんだろうか?
俺の疑問にガルシアはあっさり答えてくれた。
「代々皇族の方々には【竜の祝福】が受け継がれている。皇太子は皇帝となられるにあたり祝福を飲む。そして皇帝の子を生む皇后には【竜の試練】が与えられる」
祝福と同じように何かしらの効果を込めた液体を飲むらしい。何かを討伐してこいなどと言われるよりマシだな。
その必要性は俺にも理解ができた。
何故なら、
「ああ、魔力耐性を上げるためか。子供ができた時に魔力耐性が低すぎると調整された【竜の祝福】でも危険だし」
「そうだ。特に今回、選ばれたのは平民出身だ。貴族よりも遥かに魔力耐性が低い。だからこその試練だな。側妃であればそう強くないものでいいが、正妃となるとそれなりに厳しいものになるだろう」
人間なんてピンキリなので魔力が高い低い、耐性があるなしは一律にどうとは言えない。だが、貴族であれば魔力の高い者が生まれやすい傾向にあった。
魔法とは先天性なものだ。
生まれついての能力なのでこればっかりは仕方ない。
「というか、皇族なら能力の良し悪しで伴侶を選ぶんじゃねぇの?」
「その場合が多いが、今回は特別だ。だからこその【竜の試練】がある」
「ふぅん?」
つまり、平民だけどバチクソに魔力が高いという話ではなさそうだ。揉めに揉めた色恋沙汰で決まりました、とかだったら笑える。
ちなみにドラゴンが自分の番を決める場合、大抵は力の強さになる。強ければ強いほど良い。
母さんみたいに雌が強い時もあるし、雄が強い時もある。
とはいえ相手の性格も考慮して相手を決める傾向があった。愛が重、……愛情深い種族なので相手にも同じ熱量を求めるのだ。そこの釣り合いが取れて漸く伴侶として認めるところがあるので、意外とドラゴンの番は少なかったりするんだよな。
同じ愛情でも家族愛に注ぐドラゴンが多いのはそのせいだ。母さん達が過保護なのは俺が末っ子だっていう理由もある。一番下が一番可愛いみたいなノリだ。
ガルシアが首を傾けた。
「そういえば、君も祝福を人間に授けられたりは出来るのだろうか?」
「出来るよ。試してみた事はないけど、出来るか出来ないかで言ったら出来る。これでも母さんの息子だしね」
ドラゴンにもランクがある。
上位種、中位種、下位種の三種類に分類される。その中での最上位が母さん、虹龍だ。
母さん一体で規格外を体現しているので除外するが、他のドラゴンはこの三種類で分類できる。
【竜の祝福】と呼ばれる特別な力を付与できるのは上位種のみ。現在だと俺を含めた虹龍の子供達にあたる。
虹龍の血統を除くとあとは中位種と下位種のみ。彼らの血液にも特別な力はあるが他人に影響を及ぼせるような力はない。
言い方は悪いが、例え討伐されてしまっても鱗や肉が希少な素材となるだけである。
だからこその特別なのだ。
「まぁ、何とも思ってない人間に対して祝福できるのはセリーナ姉さんぐらいだけどな」
「そうなのか?だが、虹龍も含めて祝福は授けられるんだろう?」
「特別に思う個に対しては問題ないよ。でも何も知らねえ関係のない他人に自分の力を分け与えろって言われたら嫌だろ。ドラゴンの祝福は与えたいって本気で思わないと変な方向に作用して呪いになったりするし、かといって今回みたいな次代継承がある場合だと毎回毎回与えたいと思うような人間だとも限らない」
だから数世代に渡っても問題ないような祝福を与えられるセリーナ姉さんは相当珍しい存在だ。人間という種族に対して祝福を与えられる。
俺も人間という種族に対して何か悪感情……例えば嫌悪感を抱いているわけでもないが博愛主義ではない。
個人としては好ましければ良いけれど、そうじゃないなら知らないし、どうでもいい。
だからこそセリーナ姉さんの祝福は貴重だ。良くも悪くも人を選ばない祝福といえる。
「今日はその試練の為に王城に出向くんだっけ」
「そうだ。漸く準備が整ったからな。せっかくならシデン殿にも見守ってもらおうという意向だ。少人数での儀式になるからシデン殿の負担にもならないだろう、と」
「俺がいてもしょうがないと思うけど。見ていればいいの?」
「問題があったときに頼りにしている」
「他力本願だな。ある程度なら常識の範囲で対応するけど、俺の領分じゃないし、助けなくても文句言うなよ」
俺は先に言っておいた。
後から文句言われても俺には関係ないが、ぎゃいのぎゃいの言われるのは面倒だ。
ユグドレミア皇国に蔓延する【竜の麻薬】の事件を解決する。
それが仕事だ。
人間どものいざこざなど知ったことではないし、どうでもいいから見捨てられる。
俺を便利な道具扱いするならそれ相応の対応をする。
「勿論、理解している。シデン殿はいわばドラゴンの国からの賓客。君への無礼は女王陛下への無礼だろう」
理解しているようで何よりだ。
下手な真似をしたらマジでドラゴンが攻撃してくる羽目になるからな。
王城の中は栄えている国特有の豪華さがあった。
あちらこちらで豪華な飾り付けがなされ、城は清潔に保たれている。
ガルシアと共に呼ばれた王座の間に入った俺を出迎えたのは複数人の男女だった。
全員割と年若い。
護衛なのだろう、剣を下げた人間の方は見覚えがあった。確か何回か俺の監視に来てたやつだよね。
目が合うとぺこりとお辞儀をされる。
その内の一人、カランの隣にいた女が不躾に話しかけてきた。
「アナタがドラゴンの国から来た人?ドラゴンって言ってたのに人間じゃない!」
こいつ、殺してやろうか。
物騒な気配が漏れたのか、ガルシアがそっと俺の前に出かかった。
そうしないと本気で何かすると思ったのかもしれない。
いや、思ったけどさ。確かにぶっ叩いて潰してやろうかと考えたけどさ。これは仕方なくないか?
俺に対して失礼すぎるだろ、この女。
せめて自己紹介してから言えよ。
「さ、サーシャ」
大慌てなカランだったが俺は先に言い放った。
「随分なご挨拶だな。喧嘩を売られてるなら買うが。内臓をぶちまける準備は出来てるか?」
「ま、待ってくれ!彼女に悪気はないんだ!ほら、サーシャ、挨拶をしてくれ。頼む」
俺が指先をドラゴンの爪のように混ぜた手を軽く揺らすとカランが女を守るように前に出て、ガルシアが自分の剣に手をかけた。
良いね、判断が早い事は良いことだ。
まぁ俺が本気になったら人間の視認速度なんぞ越える攻撃が炸裂するけどな。
でもガルシアの場合、予備動作でバレて先制攻撃される可能性がある。巨体のドラゴン相手でも油断できない相手だし。
カランに促された女は首を傾げていた。
「カラン様、どうして?」
どうしてってそりゃあ俺が虹龍の息子だからである。
これが国の皇后で大丈夫なんだろうか。
幾らなんでも無知だし、皇族になる覚悟があるようにも思えない。知識とかないのかなぁ。
人間の王族、皇族って帝王学とかそういうのを学ばされるはずだけど。
「どうしてもだ。お願いだよ、サーシャ」
「まぁ良いわ。サーシャ・ネイサンよ」
敬語を使えとは言わねぇけどさぁ。もう少し敬意を払えんのか。
俺が人間の見た目をしているからダメなのかなぁとも思ったが周りの人間の顔色が青色通り越して土気色になっているのでこの女が特別馬鹿なだけだと納得した。
馬鹿相手に真面目に対応すると疲れるだけなので俺は流してやる。
「シデンだ。で、このお嬢さんが【竜の試練】とやらに挑むのか?」
ひとまず無礼な人は横に置いて、カランに視線を向けた。余計な事を言って俺の機嫌が悪くなると困るのか、カランも即座に話題に対応してくる。
「そうだ。彼女が今回の試練に挑戦する」
言いながら皇太子様が取り出したのは小さなガラスの小瓶。手のひらで包める程度の、さほど大きくないものだ。
小瓶の口はドラゴンを形作っていてそれだけで芸術品じみた美しさがある。
その中には澄んだ青色の液体が半分ほど入っていた。液体というには少しとろみの付いたもので、揺れるたびにとぷとぷと波打っている。
……あんなどキツイ色をしたカラフルな液体、俺なら飲みたくない。
蛍光色じゃん。身体に悪そうっていうか、よくそんな色出せるものを作ったなっていうか。
「これを飲めばいいのね?」
ドン引きしているのは俺だけだった。
周りの人間達は嬉々として準備に入っているものだから感心した。
といっても大仰な準備がいるわけではない。行ってしまえばサーシャの心の準備だけで事足りる。
彼女はカランから渡された小瓶を受け取ると特に気負う様子もなく瓶の口を開ける。
炭酸水が入ったペットボトルを開けた時みたいな、ぷしゅ、という液体が弾ける音がした。
マジであれ飲むのか。
サーシャは小瓶に口をつけるとそのまま一気に傾ける。
液体を口に含み、ごくんとその喉が上下した。
大した事ないわね!と言いたげな顔で、胸を張ったサーシャだったが、彼女は数秒して自身の腹に手を置いた。
困惑した顔付きになった途端、彼女の口から盛大に血が溢れ出す。
ごばぁ、とそのまま吐血した。
城は山肌に埋まるようにして建っているので、そこかしこに橋がかけられている。
正しくファンタジーといった様相だった。この建築技術は魔法があるが故だろう。
中央の広場が一番発展している街の中心で下に降れば港に繋がる。
外からも攻められにくい構造だ。
ドラゴンの国のお膝元を侵略しにくる馬鹿は少ないだろうが。
イベント準備期間、といったような浮かれた雰囲気が街中にあった。活気がある。
「人間がいっぱい」
俺はといえば馬鹿みたいな感想が出た。まぁドラゴンの国から出たばかりなので。
人間を近くで見るのは割と初めてだった。ヘル兄さん達の遠乗りで遥かに下にいっぱいいる、みたいことはあったけど。
「皇太子殿下の戴冠式が近いからな。準備期間も相応に長い」
カランの親、つまり前皇帝と全皇后は既に崩御、つまり死亡している。なのでカランが実質的な最高権力者であるのだが、戴冠式を終えていないので対外的には皇太子のままだ。
戴冠式を終えて漸く名実共に皇帝となる。
ユグドレミアはドラゴンの女王に認められた唯一の国だ。その立場を明確にする為にも【竜の祝福】を大々的に公表している。それが少しでも損なわれる事は避けなければならない。
【竜の麻薬】が蔓延している国など支援したくないだろう。そして麻薬の話とは別に皇太子が母さんの元に来たのはもう一つ理由があった。
「【竜の試練】?」
知らぬ単語に俺は隣に座るガルシアを見上げながら質問した。
「ああ」
今現在、俺はガルシアが所有する屋敷に滞在している。
ユグドレミアに来てから早くも数週間が経過していた。その間、俺はガルシアの屋敷から出ていない。
監視役である彼と行動を常に共にする事。
それが人間どもが提示した条件だ。ガルシアにも仕事があるので俺に付きっきりというわけにもいかない。
が、俺を野放しにするのも出来ないという理由で彼が仕事の時には他の人間が見張りにやってくる。
わざわざ外に出向く必要性も感じていなかったので、俺は外に出ることもせずに、屋敷の中で日々を完結させていた。
人間ごときに、とドラゴンなら怒りを覚えるところだが、俺にとっては案内役がいて便利だなぁという感想しかないので気にならない。
そもそも外に出ないしな。
出ても庭先ぐらいだ。
ガルシアがなんか過保護なのは気になるけど、そういうものかで流している。
その間に人間の顔見知りというやつも何人か出来たし。
今日はガルシアがいる日だった。
用事があるらしく、俺達は二人揃って王城へ向かっている最中だ。
「皇后は【竜の試練】を受けて合格する事が必須条件となる」
その試練に必要なものを母さんに貰っていたらしい。
母さんに頼むほどのものってなんだろうか?
俺の疑問にガルシアはあっさり答えてくれた。
「代々皇族の方々には【竜の祝福】が受け継がれている。皇太子は皇帝となられるにあたり祝福を飲む。そして皇帝の子を生む皇后には【竜の試練】が与えられる」
祝福と同じように何かしらの効果を込めた液体を飲むらしい。何かを討伐してこいなどと言われるよりマシだな。
その必要性は俺にも理解ができた。
何故なら、
「ああ、魔力耐性を上げるためか。子供ができた時に魔力耐性が低すぎると調整された【竜の祝福】でも危険だし」
「そうだ。特に今回、選ばれたのは平民出身だ。貴族よりも遥かに魔力耐性が低い。だからこその試練だな。側妃であればそう強くないものでいいが、正妃となるとそれなりに厳しいものになるだろう」
人間なんてピンキリなので魔力が高い低い、耐性があるなしは一律にどうとは言えない。だが、貴族であれば魔力の高い者が生まれやすい傾向にあった。
魔法とは先天性なものだ。
生まれついての能力なのでこればっかりは仕方ない。
「というか、皇族なら能力の良し悪しで伴侶を選ぶんじゃねぇの?」
「その場合が多いが、今回は特別だ。だからこその【竜の試練】がある」
「ふぅん?」
つまり、平民だけどバチクソに魔力が高いという話ではなさそうだ。揉めに揉めた色恋沙汰で決まりました、とかだったら笑える。
ちなみにドラゴンが自分の番を決める場合、大抵は力の強さになる。強ければ強いほど良い。
母さんみたいに雌が強い時もあるし、雄が強い時もある。
とはいえ相手の性格も考慮して相手を決める傾向があった。愛が重、……愛情深い種族なので相手にも同じ熱量を求めるのだ。そこの釣り合いが取れて漸く伴侶として認めるところがあるので、意外とドラゴンの番は少なかったりするんだよな。
同じ愛情でも家族愛に注ぐドラゴンが多いのはそのせいだ。母さん達が過保護なのは俺が末っ子だっていう理由もある。一番下が一番可愛いみたいなノリだ。
ガルシアが首を傾けた。
「そういえば、君も祝福を人間に授けられたりは出来るのだろうか?」
「出来るよ。試してみた事はないけど、出来るか出来ないかで言ったら出来る。これでも母さんの息子だしね」
ドラゴンにもランクがある。
上位種、中位種、下位種の三種類に分類される。その中での最上位が母さん、虹龍だ。
母さん一体で規格外を体現しているので除外するが、他のドラゴンはこの三種類で分類できる。
【竜の祝福】と呼ばれる特別な力を付与できるのは上位種のみ。現在だと俺を含めた虹龍の子供達にあたる。
虹龍の血統を除くとあとは中位種と下位種のみ。彼らの血液にも特別な力はあるが他人に影響を及ぼせるような力はない。
言い方は悪いが、例え討伐されてしまっても鱗や肉が希少な素材となるだけである。
だからこその特別なのだ。
「まぁ、何とも思ってない人間に対して祝福できるのはセリーナ姉さんぐらいだけどな」
「そうなのか?だが、虹龍も含めて祝福は授けられるんだろう?」
「特別に思う個に対しては問題ないよ。でも何も知らねえ関係のない他人に自分の力を分け与えろって言われたら嫌だろ。ドラゴンの祝福は与えたいって本気で思わないと変な方向に作用して呪いになったりするし、かといって今回みたいな次代継承がある場合だと毎回毎回与えたいと思うような人間だとも限らない」
だから数世代に渡っても問題ないような祝福を与えられるセリーナ姉さんは相当珍しい存在だ。人間という種族に対して祝福を与えられる。
俺も人間という種族に対して何か悪感情……例えば嫌悪感を抱いているわけでもないが博愛主義ではない。
個人としては好ましければ良いけれど、そうじゃないなら知らないし、どうでもいい。
だからこそセリーナ姉さんの祝福は貴重だ。良くも悪くも人を選ばない祝福といえる。
「今日はその試練の為に王城に出向くんだっけ」
「そうだ。漸く準備が整ったからな。せっかくならシデン殿にも見守ってもらおうという意向だ。少人数での儀式になるからシデン殿の負担にもならないだろう、と」
「俺がいてもしょうがないと思うけど。見ていればいいの?」
「問題があったときに頼りにしている」
「他力本願だな。ある程度なら常識の範囲で対応するけど、俺の領分じゃないし、助けなくても文句言うなよ」
俺は先に言っておいた。
後から文句言われても俺には関係ないが、ぎゃいのぎゃいの言われるのは面倒だ。
ユグドレミア皇国に蔓延する【竜の麻薬】の事件を解決する。
それが仕事だ。
人間どものいざこざなど知ったことではないし、どうでもいいから見捨てられる。
俺を便利な道具扱いするならそれ相応の対応をする。
「勿論、理解している。シデン殿はいわばドラゴンの国からの賓客。君への無礼は女王陛下への無礼だろう」
理解しているようで何よりだ。
下手な真似をしたらマジでドラゴンが攻撃してくる羽目になるからな。
王城の中は栄えている国特有の豪華さがあった。
あちらこちらで豪華な飾り付けがなされ、城は清潔に保たれている。
ガルシアと共に呼ばれた王座の間に入った俺を出迎えたのは複数人の男女だった。
全員割と年若い。
護衛なのだろう、剣を下げた人間の方は見覚えがあった。確か何回か俺の監視に来てたやつだよね。
目が合うとぺこりとお辞儀をされる。
その内の一人、カランの隣にいた女が不躾に話しかけてきた。
「アナタがドラゴンの国から来た人?ドラゴンって言ってたのに人間じゃない!」
こいつ、殺してやろうか。
物騒な気配が漏れたのか、ガルシアがそっと俺の前に出かかった。
そうしないと本気で何かすると思ったのかもしれない。
いや、思ったけどさ。確かにぶっ叩いて潰してやろうかと考えたけどさ。これは仕方なくないか?
俺に対して失礼すぎるだろ、この女。
せめて自己紹介してから言えよ。
「さ、サーシャ」
大慌てなカランだったが俺は先に言い放った。
「随分なご挨拶だな。喧嘩を売られてるなら買うが。内臓をぶちまける準備は出来てるか?」
「ま、待ってくれ!彼女に悪気はないんだ!ほら、サーシャ、挨拶をしてくれ。頼む」
俺が指先をドラゴンの爪のように混ぜた手を軽く揺らすとカランが女を守るように前に出て、ガルシアが自分の剣に手をかけた。
良いね、判断が早い事は良いことだ。
まぁ俺が本気になったら人間の視認速度なんぞ越える攻撃が炸裂するけどな。
でもガルシアの場合、予備動作でバレて先制攻撃される可能性がある。巨体のドラゴン相手でも油断できない相手だし。
カランに促された女は首を傾げていた。
「カラン様、どうして?」
どうしてってそりゃあ俺が虹龍の息子だからである。
これが国の皇后で大丈夫なんだろうか。
幾らなんでも無知だし、皇族になる覚悟があるようにも思えない。知識とかないのかなぁ。
人間の王族、皇族って帝王学とかそういうのを学ばされるはずだけど。
「どうしてもだ。お願いだよ、サーシャ」
「まぁ良いわ。サーシャ・ネイサンよ」
敬語を使えとは言わねぇけどさぁ。もう少し敬意を払えんのか。
俺が人間の見た目をしているからダメなのかなぁとも思ったが周りの人間の顔色が青色通り越して土気色になっているのでこの女が特別馬鹿なだけだと納得した。
馬鹿相手に真面目に対応すると疲れるだけなので俺は流してやる。
「シデンだ。で、このお嬢さんが【竜の試練】とやらに挑むのか?」
ひとまず無礼な人は横に置いて、カランに視線を向けた。余計な事を言って俺の機嫌が悪くなると困るのか、カランも即座に話題に対応してくる。
「そうだ。彼女が今回の試練に挑戦する」
言いながら皇太子様が取り出したのは小さなガラスの小瓶。手のひらで包める程度の、さほど大きくないものだ。
小瓶の口はドラゴンを形作っていてそれだけで芸術品じみた美しさがある。
その中には澄んだ青色の液体が半分ほど入っていた。液体というには少しとろみの付いたもので、揺れるたびにとぷとぷと波打っている。
……あんなどキツイ色をしたカラフルな液体、俺なら飲みたくない。
蛍光色じゃん。身体に悪そうっていうか、よくそんな色出せるものを作ったなっていうか。
「これを飲めばいいのね?」
ドン引きしているのは俺だけだった。
周りの人間達は嬉々として準備に入っているものだから感心した。
といっても大仰な準備がいるわけではない。行ってしまえばサーシャの心の準備だけで事足りる。
彼女はカランから渡された小瓶を受け取ると特に気負う様子もなく瓶の口を開ける。
炭酸水が入ったペットボトルを開けた時みたいな、ぷしゅ、という液体が弾ける音がした。
マジであれ飲むのか。
サーシャは小瓶に口をつけるとそのまま一気に傾ける。
液体を口に含み、ごくんとその喉が上下した。
大した事ないわね!と言いたげな顔で、胸を張ったサーシャだったが、彼女は数秒して自身の腹に手を置いた。
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