この大地に花束を

蘇鉄

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12 竜の誓い

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 とんでもない轟音で目が覚めた。
 洞窟の中で横になっていた俺は空気を震わせる音と振動に目を開ける。
 洞窟の入り口、逆光になっていてわかりにくいが、ドラゴンのシルエットが見えた。ヘル兄さんだろう。
 すっごい荒れてんな。
 原因は俺とガルシアだろうな。十中八九昨日のあれこれだろうし。
 やだなぁ、家族にヤッたこと知られてんの。
 気まずい。
 横になっていた状態から身体を起こすと隣に人がいることに気づいた。
 ガルシアだ。ガルシアじゃないと困る。
 きちんと服を着込んでいるヤツとは真逆に、俺はまだ真っ裸であった。
「起きたか」
 水、と言おうとして声が出ない事に気がついた。
 自分の喉に手を当てて、眉を寄せるとガルシアが苦笑するのが見える。
 なんだよ。
 むっとしていると何かを煽ったガルシアが俺の顎に手をかける。そのまま口が重なった。
 重なった唇から少し温くなった水が流し込まれる。
 包まった毛布ごと抱き寄せられ、膝の上に乗せられた。
「ん、……ッ、ふ、」
 何回か水のやり取りと舌を絡めるキスを繰り返して、ようやく口を離した。
 至近距離で大層な美貌がトロリと蕩けている。
 俺の腰を支えながら、彼は問うた。
「身体はどうだ、痛みは?」
「内臓と腰が痛い」
 股関節は震えてるし、腹の中にはまだ何か挟まっているような感覚がするし。奥の方なんてなんか疼くし。
「そうか」
 後悔はしていないのか、謝られはしなかった。
 至近距離で覗き込むと魔眼を使わなくてもわかるほど情愛と独占欲に塗れた目と目が合う。
 おい、あれだけやって次の日に復活とかヤバすぎるだろ。
 慄く俺に気付いてるのかいないのか、巻いていた毛布を落として身体を拭いてくれるガルシア。
 とはいえ先に綺麗にしてくれていたのか、不快感はなかった。腹のやつも掻き出してくれているみたいだし。
 それはそうとして手つきが怪しいのはなんでだ?
 特に腰あたりを触る手がやらしい。
 やらんからな?
「服をよこせ」
「一人で着替えられるか?」
「当たり前だ、馬鹿」
 人間達が着込んでいる服装とは別に、俺が常日頃纏う服はシンプルだ。元々服なんて必要ないドラゴンの中にあって、俺だけが着ている服なのでオーダーメイドな上にシンプルである。
 名残惜しそうなガルシアを放って服を着れば昨日の情事などなかったように見える。
 その割には俺の足が小鹿だが。
 歩くたびに震えてしまうのでガルシアに運ばせる事にした。
 嬉しそうなので良いだろう。
 上機嫌なのは結構だが、洞窟の外にヘル兄さんが待っているのを忘れるなよ。
 俺らのあれこれを知っちゃってるから怒髪天ついてるぞ。
『人間風情がぁぁぁぁッッッ!!』
 待っていたのはご想像通りのブチギレ兄さんだった。
 いや、想像の倍はキレてるな。
 鞭のようにしなったヘル兄さんの尻尾がぶん回され、問答無用で俺達に襲いかかる。
 軽く振り回すだけで土砂崩れを引き起こせる威力だ。
 不意打ちだったが、俺を抱えたままガルシアは簡単に回避する。獲物を捉え損なった尻尾がうねりを上げて空気を裂いていた。
『避けるな、人間んんッッッ!』
「避けねば流石に命の危機だ。それに、俺はシデンを抱えている。弟御に怪我をさせるおつもりか?」
『我が弟に怪我などさせるものか!』
 ごぅ、と吠えるヘル兄さんを見て、ガルシアはそこで首を傾げた。片腕で抱えられた俺は、その様を見下ろす。
 ガルシアが顔をあげて俺を見た。
「シデン、ドラゴンの言葉がわかる」
「そりゃそうだろ。俺とヤッたんだから」
 ドラゴンの体液には特別な力がある。血を使った祝福だとかがあるんだから当然、唾液なども同じだ。
「俺の唾液だろ。あとは精液とか」
「シデン」
「なんだよ」
 特に気にするような性格でもないので明け透けに言ったのだが気に障ったか?とガルシアを見つめる。
 曇りなきまなこで奴は言った。
「明け透けな単語を出されると興奮する。控えて欲しい」
「斜め上の回答が来たんだが。流石に予想外~」
 興奮する、じゃねぇのよ。真面目な顔で何言ってんだこいつ。
 俺と性行為したせいでなんか壊れてない?
『俺の、俺達の弟によくも手を出しやがって、』
「まぁまぁヘル兄さんも落ち着けよ。一応、合意の上だぜ」
『当たり前だ!』
 怒られた。俺の言葉は火に油を注ぐだけだったらしい。
 ぐるぐると物騒な唸り声を上げながら、ヘル兄さんは首を持ち上げてガルシアを見下ろした。
 瞬間、ぶわりと魔力が解放され、人間には息苦しいほどの圧がかけられる。
『人間、貴様、我が末の弟に手を出したからには責任を持って一生涯何よりも大切に慈しみ、優先し、愛して、尽くせよ。出来ねば殺す。我が弟に相応しくないと判断しても殺す』
 超絶物騒な宣言がなされた。
 それは、竜との約束だ。
 契約というほど縛りはしないが、約束を破れば即座に感知される。
 魔力を伴った魔法の約束。
 俺を地面に降ろしたガルシアはヘル兄さんの前に片膝をついた。
「必ず。我が命をかけて」
 空気を漂う魔力が形を成してガルシアとヘルシングを繋ぐ。
 安易に受け入れてやがって。良いのかなぁとも思うが、拒否できる流れではない。
 最悪、ヘル兄さんと戦うだろうし、なんとでもなるだろう。
 というか俺の意見はないのか。
 良いんだけどさぁ、わかってて受け入れたし?
 愛想尽かしたら殺せば良いよとか言われそう。
「さぁ、シデン」
 手を差し出され、その手を見下ろす。それからヘル兄さんをちらりと見上げると心底不服そうながらも静観の姿勢だ。
 一旦、約束を結んだから許すらしい。
「じゃあ、宜しく」
 一言だけ言って、俺はガルシアの手を取った。
 末長く、になるように願っているよ。
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