追放された鍛冶師、異世界で最強の神器を作ってしまう ~国を捨てたら聖女と龍姫と精霊王に囲まれた件~

えりぽん

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第3話 初めて打った「偶然の神器」

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カイルが辺境の村に腰を落ち着けてから三日。村の人々はようやく平穏を取り戻しつつあった。畑を耕す者、倒れた柵を修復する者、そして夜になると神への祈りを捧げる声が村に満ちる。その中心に立つ聖女リアナは、常に微笑みを忘れず、誰よりも早く動いていた。  
だが村の復興を進める中でも、焼けた防壁や折れた農具など、鍛冶の力を要する場面は多かった。カイルは炉を設け、毎日ひたすら鉄を打っていた。

「すごい……あなた、一晩中叩いていたの?」  
リアナが朝日を背に炉のそばへやってきた時、カイルの手の甲は赤く腫れていた。  
「寝てないだけだ。村に武器と道具を揃える方が先だろう」  
「私が祈っても倒せなかった魔物を倒した人が、それを“普通”と言うんですね」  
リアナは苦笑し、空になった皮袋を手にした。「水を汲んできます。少しは休んでください」

カイルはうなずくと、半ば溶けかけた鉄塊を取り出した。青銀の鉱石と村の鉄を混ぜ、何度も叩いて鍛える。やがて、かすかな輝きが生まれた。見たこともない――光る金属の層。  
「……またこれか。火の中でも広がっていく光。まるで鉄が自分で形を決めたみたいだ」  
そう呟くと、ドローンのように一瞬、耳に「キン」と高い音が響く。金属が鳴いた。あのときと同じ。抑え切れぬ好奇心が顔に浮かぶ。

昼頃、リアナが戻る頃にはもう一本の剣ができていた。  
「できたの?また昨日みたいに……」  
「いや、ただの試作品だ。打ち方を変えた。今度は力よりも耐久重視だ」  
彼女がそっと刃に触れると、ごく微かな光が波紋のように走った。  
リアナは息をのむ。「……また光が……」

その午後、村人の少年が怯えた声で駆け込んできた。  
「リアナ様っ、大変です!森の奥から蜥蜴の化け物が!」  
リアナが一気に顔色を変える。「まさか、まだ残っていたなんて……!カイルさん、お願い、また同行を!」  
彼女の呼び方に“さん”が付くようになっているのを、カイルは少しだけ気にした。

二人は村を出て森の奥へ向かった。陽射しが差し込まず、湿った匂いが濃く漂う。最初の魔獣「クロウファング」と違い、今度の敵は人の背丈を越えるほど巨大だった。鱗が岩のように硬く、目は毒色に光っている。

「リザードベイン……亜竜種に近い。私の結界でも長くは持ちません」  
「なら、一撃で決める」

カイルは剣を抜いた。昨日打った青銀の剣、そして今日作ったばかりの試作剣を両手に。  
怪物が咆哮し、木々をなぎ倒して突進してくる。リアナの祈りが白い膜となってカイルを包む。その一瞬、カイルの身体は軽くなり、風を切った。  
跳ね上がりながら、右手の剣を振り下ろす。金属が悲鳴を上げるような音、そして閃光。  
一撃でリザードベインの首が宙を舞った。

だが同時に、カイルの手の中で剣が砕け散る。青銀の輝きが消え、灰のように風に散った。  
「ちっ……耐久が足りなかったか」

リアナが駆け寄る。「大丈夫ですか!?」  
「俺は平気。でも完成してないようだな……ただ、それでも斬れた。あの鱗を、一瞬で」  
リアナは剣を握っていた彼の手を包み込む。  
「あなたはきっと、自分で気づいてないだけなのよ。この世界の理に“干渉”している。普通の鍛冶じゃ、絶対にあり得ない現象です」

彼は照れたように笑って肩をすくめた。  
「理なんて知らないさ。ただ、鉄の音を聞いてると、どんな形にすれば喜ぶか分かるんだ。……不思議だけどな」  
リアナは静かに呟く。「それこそ“神聴(しんちょう)の印”です。伝承にしか残っていない、神の音を聞く者の話……」

二人が村へ戻ると、既に村人たちは崇めるような目でカイルを見ていた。  
「聖女様とあの鍛冶師が、また魔物を倒したって!」  
「村が救われたんだ!この人は神様が遣わしたに違いない!」  
ざわめく中、カイルは困ったように頭をかいた。  
リアナが一歩前に出て、静かに言う。  
「皆さん、感謝の気持ちは分かります。でも英雄はこの人ではありません。この人の作る“技”です。この方は、ただ人々のために武具を打つだけの職人です」

その言葉に、村人たちは頷きながらも、目の奥の尊敬の色を隠せなかった。  
やがて夜が訪れ、星が輝く中で、カイルは炉の前に再び立った。  
「今日の剣が砕けたのは、金属層の結びが甘かったせいだ。明日は配合を変える」  
となりで焚き火を見ていたリアナが言う。  
「普通、あんな連戦の後にすぐ鉄を打つ気にはなれませんよ。あなた、炎の中に何かを見てるみたい」  
カイルは微かに笑みを浮かべた。  
「確かに……火は正直だからな。俺みたいなやつには言葉より分かりやすい」

火花が舞い、炎が揺れる。静かな夜風が二人の間を通り抜けていく。  

「……リアナ」  
「はい?」  
「この村、まだ完全に安全じゃないと思う。森の奥の空気が妙に濃い。まるで何かが封じられてるみたいだ」  
「気づいていたんですね」  
リアナの瞳がわずかに揺れた。「ずっと感じていました。瘴気の根が消えていない。けれど、私一人じゃ届かない。あなたの“火”があれば、きっと……」

カイルは少しだけため息をついた。  
「結局、また剣を打つことになるんだな。まあ、嫌いじゃないけど」

リアナは微笑んだ。  
「不思議な人ですね。追放されたのに、こんな辺境で村人を救って、次は世界まで救うつもりですか?」  
「いや、そんな大それたことは考えてない。ただ……鍛えるほど、この鉄は俺に教えてくれる気がするんだ。まだ何か、“作れるもの”があるって」

その言葉に、リアナは小さく息を呑んだ。  
「なら、私はあなたの隣で祈ります。あなたが打つものが、世界を照らすなら」

二人の視線が炉の炎に重なった。  
その瞬間、再び鉄が鳴いた。  
澄んだ音が夜空に広がり、それはどこまでも高く伸びていくようだった。

誰も知らない。  
それが、後に「最初の神器」と呼ばれる剣の誕生を告げる音だったことを。
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