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第4話 魔物襲撃と奇跡の剣
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夜空は曇り、一片の星も見えなかった。
森の奥でうごめく黒い影が、風に乗ってざわざわと鳴く。そのたびに、村人の誰かが家の中で身を縮こませる。
鍛冶場の前では、カイルが黙々と火を起こしていた。鉄を溶かすには、炎の温度を限界まで上げなければならない。失敗は許されない。
木炭の匂いが鼻を刺し、夜気の冷たさが肌を切る。
だが彼はいつものように静かだった。
「また夜通しですか?」
背後からリアナの声。灯りに照らされた金の髪が淡く光っている。
カイルは目だけを向けて答えた。
「まだ火が足りない。森の瘴気が濃いせいだ。金属が淀みを吸って、純度が落ちていく」
「そんなこと、感じ取れるんですか?」
「鉄は正直だ。何か悪い気が流れていると、音で分かる」
リアナは炉の中で揺れる炎を見つめ、静かに手を合わせた。
「それなら……この火に祝福を。燃え滅ぼすのではなく、癒やす力を与えてください、光の守護者――」
祈りの言葉が終わると同時に、火勢がぶわりと広がった。金色の炎を帯びたかのように、炉の奥で鉄が光り出す。
カイルは息を呑んだ。
「……今のは?」
「火精霊への祝祷。僅かな加護です」
「助かる」
言葉少なに返し、彼は槌を取った。
カン、と金属音が鳴る。
ひとつ、ふたつ。夜を裂くように響く音が途切れなく連なり、村の空気を張り詰めさせる。
リアナはその音が次第にリズムを帯びていくのを感じていた。まるで心臓の鼓動――鉄と人が一つになったような。
彼の手から返る火花は美しく、炎よりも明るい。
「……あなたの槌の音、まるで歌のようですね」
「歌なんて唄えないさ。代わりに鉄で唄ってるだけだ」
短くそう言い放ち、再び集中に戻った。
その頃、森の奥では異変が起きていた。
地を這うような黒霧が広がり、枯れ木の隙間から赤い光が無数に湧き上がる。
かすかな咆哮。
獣とも竜ともつかぬ鳴き声が、空気を振るわせた。
やがて村の見張りが絶叫した。
「来るぞーッ!森が動いてる!」
鐘の音が鳴り響き、戸の隙間から人々が外を覗く。
黒い霧の中、巨大な影が二つ、三つ。魔獣たちが群れを成して迫っていた。
数はざっと十を超える――牙を持ち、瘴気をまとった化け物たち。
リアナが聖印を掲げて前へ出るが、あまりの数に顔をこわばらせた。
「っ……防ぎきれない!」
その時、鍛冶場の火が再び高く燃え上がった。
カイルが炉の中から一本の剣を引き抜いたのだ。
青銀の刀身が夜の闇を裂く。鍛えたばかりの熱を帯びながら、それはまるで光柱のように輝いていた。
その姿を見たリアナが息を飲む。
「まさか……また、自ら光を!?」
カイルは答えず、剣を肩に担いだ。
「守るために打った剣だ。使わない手はないだろう」
魔獣が村の柵を蹴り倒すより早く、カイルは地を蹴っていた。
炎を背に、剣を振るう。
光が走り、最前列の魔獣二体が瞬時に両断された。
死体は黒煙とともに消え、土には燐光が残る。
リアナが祈りの声を上げた。「聖なる加護を、彼に――!」
次の瞬間、剣から飛んだ刃光が矢のように分かれ、後方の三体を撃ち抜く。
村人たちは言葉を失い、誰もがその光景に目を奪われた。
もはや戦いではない。それは神話の再現だった。
しかし群れの奥に、ひときわ大きな影があった。
背丈が屋根ほどもある巨体――首の周囲に黒い結晶を生やした異形。
リアナはその姿を見て青ざめた。
「あれは瘴気の核……この森の汚染源!」
「核、ね……ならこいつを壊せば終わるってことか」
巨獣が咆哮し、地を揺らす。
吹き上がる泥、舞い上がる砂塵。
カイルはまっすぐ立ち向かう。どんな恐怖も、彼の表情を曇らせることはなかった。
リアナが祈りの言葉を重ねると、剣身が黄金の光に染まりはじめた。
その瞬間、彼の中に聞こえた――あの“鉄の声”。
「この刃を導け」とでも言うように、音が脳裏をかすめる。
「了解だ」
小さく呟くと同時に、カイルは地を踏み込み、上段へ跳び上がった。
剣の軌跡が金色の輪を描く。
一閃。
そして轟音。
巨獣の結晶が粉砕され、光が爆ぜた。瘴気が晴れ、黒霧が後退していく。
光が消えた後、そこに立つのはただ一人。
鍛冶師の青年が、青銀の剣を支えに息をついていた。
そしてその剣――折れていない。
昨日、今日と砕け散った武器とは違い、これは傷ひとつ付いていなかった。
いや、それどころか。
刃の輝きはむしろ増し、まるで意志を持つように淡い音を立てていた。
リアナが駆け寄り、その手をそっと包む。
「……奇跡。あなたの打った剣、完全に“神器”になっています」
「神器?」
「神々が人の手で作らせた、伝説の武具。それと同じ波動を、この剣は放っているんです」
カイルは少し困ったように笑い、肩をすくめた。
「そんな大それたものを作ったつもりはない。ただ、折れにくい剣を打ちたかっただけだ」
リアナは微笑んだ。「あなたは自覚がないのね。でも……村は救われました。ありがとう、カイル」
夜明けが近づくころ、村人たちが外へ出てきた。
焼けた柵の向こう、空が少しずつ明るくなっていく。
子どもたちが歓声を上げ、大人たちは涙を拭った。
小さな村に戻った静寂は、まるで祝福のようだった。
カイルは剣を見つめながら、ぽつりと呟く。
「偶然かもしれない。でも、もし本当に“神器”っていうなら――まだ先がありそうだ」
リアナが隣で目を細める。
「ええ。私たちの旅は、きっとここから始まるのでしょうね」
朝の光が二人を包み、空に鳥の声が響いた。
こうして、追放された鍛冶師が初めて打った“奇跡の剣”は、世界の運命を動かす第一歩となった。
森の奥でうごめく黒い影が、風に乗ってざわざわと鳴く。そのたびに、村人の誰かが家の中で身を縮こませる。
鍛冶場の前では、カイルが黙々と火を起こしていた。鉄を溶かすには、炎の温度を限界まで上げなければならない。失敗は許されない。
木炭の匂いが鼻を刺し、夜気の冷たさが肌を切る。
だが彼はいつものように静かだった。
「また夜通しですか?」
背後からリアナの声。灯りに照らされた金の髪が淡く光っている。
カイルは目だけを向けて答えた。
「まだ火が足りない。森の瘴気が濃いせいだ。金属が淀みを吸って、純度が落ちていく」
「そんなこと、感じ取れるんですか?」
「鉄は正直だ。何か悪い気が流れていると、音で分かる」
リアナは炉の中で揺れる炎を見つめ、静かに手を合わせた。
「それなら……この火に祝福を。燃え滅ぼすのではなく、癒やす力を与えてください、光の守護者――」
祈りの言葉が終わると同時に、火勢がぶわりと広がった。金色の炎を帯びたかのように、炉の奥で鉄が光り出す。
カイルは息を呑んだ。
「……今のは?」
「火精霊への祝祷。僅かな加護です」
「助かる」
言葉少なに返し、彼は槌を取った。
カン、と金属音が鳴る。
ひとつ、ふたつ。夜を裂くように響く音が途切れなく連なり、村の空気を張り詰めさせる。
リアナはその音が次第にリズムを帯びていくのを感じていた。まるで心臓の鼓動――鉄と人が一つになったような。
彼の手から返る火花は美しく、炎よりも明るい。
「……あなたの槌の音、まるで歌のようですね」
「歌なんて唄えないさ。代わりに鉄で唄ってるだけだ」
短くそう言い放ち、再び集中に戻った。
その頃、森の奥では異変が起きていた。
地を這うような黒霧が広がり、枯れ木の隙間から赤い光が無数に湧き上がる。
かすかな咆哮。
獣とも竜ともつかぬ鳴き声が、空気を振るわせた。
やがて村の見張りが絶叫した。
「来るぞーッ!森が動いてる!」
鐘の音が鳴り響き、戸の隙間から人々が外を覗く。
黒い霧の中、巨大な影が二つ、三つ。魔獣たちが群れを成して迫っていた。
数はざっと十を超える――牙を持ち、瘴気をまとった化け物たち。
リアナが聖印を掲げて前へ出るが、あまりの数に顔をこわばらせた。
「っ……防ぎきれない!」
その時、鍛冶場の火が再び高く燃え上がった。
カイルが炉の中から一本の剣を引き抜いたのだ。
青銀の刀身が夜の闇を裂く。鍛えたばかりの熱を帯びながら、それはまるで光柱のように輝いていた。
その姿を見たリアナが息を飲む。
「まさか……また、自ら光を!?」
カイルは答えず、剣を肩に担いだ。
「守るために打った剣だ。使わない手はないだろう」
魔獣が村の柵を蹴り倒すより早く、カイルは地を蹴っていた。
炎を背に、剣を振るう。
光が走り、最前列の魔獣二体が瞬時に両断された。
死体は黒煙とともに消え、土には燐光が残る。
リアナが祈りの声を上げた。「聖なる加護を、彼に――!」
次の瞬間、剣から飛んだ刃光が矢のように分かれ、後方の三体を撃ち抜く。
村人たちは言葉を失い、誰もがその光景に目を奪われた。
もはや戦いではない。それは神話の再現だった。
しかし群れの奥に、ひときわ大きな影があった。
背丈が屋根ほどもある巨体――首の周囲に黒い結晶を生やした異形。
リアナはその姿を見て青ざめた。
「あれは瘴気の核……この森の汚染源!」
「核、ね……ならこいつを壊せば終わるってことか」
巨獣が咆哮し、地を揺らす。
吹き上がる泥、舞い上がる砂塵。
カイルはまっすぐ立ち向かう。どんな恐怖も、彼の表情を曇らせることはなかった。
リアナが祈りの言葉を重ねると、剣身が黄金の光に染まりはじめた。
その瞬間、彼の中に聞こえた――あの“鉄の声”。
「この刃を導け」とでも言うように、音が脳裏をかすめる。
「了解だ」
小さく呟くと同時に、カイルは地を踏み込み、上段へ跳び上がった。
剣の軌跡が金色の輪を描く。
一閃。
そして轟音。
巨獣の結晶が粉砕され、光が爆ぜた。瘴気が晴れ、黒霧が後退していく。
光が消えた後、そこに立つのはただ一人。
鍛冶師の青年が、青銀の剣を支えに息をついていた。
そしてその剣――折れていない。
昨日、今日と砕け散った武器とは違い、これは傷ひとつ付いていなかった。
いや、それどころか。
刃の輝きはむしろ増し、まるで意志を持つように淡い音を立てていた。
リアナが駆け寄り、その手をそっと包む。
「……奇跡。あなたの打った剣、完全に“神器”になっています」
「神器?」
「神々が人の手で作らせた、伝説の武具。それと同じ波動を、この剣は放っているんです」
カイルは少し困ったように笑い、肩をすくめた。
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