追放された鍛冶師、異世界で最強の神器を作ってしまう ~国を捨てたら聖女と龍姫と精霊王に囲まれた件~

えりぽん

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第5話 感謝と契約、聖女との絆

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夜明けは柔らかい金色だった。  
瘴気の消えた森から漂う朝露の匂いに、村はゆるやかな静けさを取り戻していた。  
鳥の声が響き、人々が再び畑へと戻り始める。昨日までの恐怖が、まるで遠い夢のようだった。

村の中央では、カイルが青銀の剣を手にしたまま座り込んでいた。  
炉の火を絶やさぬように薪を足しながら、何度も刀身に光を映す。  
燃え盛る炎を受けて、剣はかすかに呼吸しているかのように脈打っていた。  
金属なのに、生きている。そう思わずにはいられない光だった。

リアナが水瓶を手にして近づく。  
「お疲れさま、カイルさん。みんな、あなたにお礼を言いたがっています」  
「礼なら俺じゃなく、あの剣に言ってくれ。勝手に動いて勝手に光ったんだ」  
「それを“勝手”と言う人、世界に一人もいませんよ」  
リアナは微笑み、湯気の立つ木の杯を差し出した。「お茶です。休んでください」

カイルは受け取りながら、不思議な気分で彼女を見た。  
王都では「聖女」など貴族の象徴でしかなかった。けれどこの少女は、土に膝をつき、村人と同じ目線で話をする。  
祈りながら笑い、涙を見せる。  
そんな姿が、どこか懐かしかった。かつて鍛冶の師匠が言っていた言葉を思い出す。  
――本当に強い人間は、誰かのために迷う人だ。

「なあ、リアナ」  
「はい?」  
「お前、なんでそこまで頑張るんだ?この村は、お前が守らなくてもいい場所だろ」  
リアナは少し驚いたように目を瞬かせるが、すぐに柔らかく笑った。  
「この村の人たちは、神でも王でもない“誰か”を信じてくれたんです。祈り続ける意味をくれた。それを守らずに、どうして聖女なんて名乗れますか」  

カイルは一瞬言葉を失い、その後で小さく笑った。  
「なるほど。お前、鍛冶の火と似てるな」  
「え?」  
「表面は優しいけど、中は燃えてる。誰かを温めながら、自分も焦げる。俺も似たようなもんだ」

その時、村の年寄りが二人のもとへやってきた。  
「カイル殿、この村の者一同から感謝を。あなたがいなければ、わしらは生き延びられなかった」  
「そう言ってもらえるなら、ありがたいです。でも――」  
カイルが言いかけた時、年寄りは穏やかに両手を掲げた。  
「ただ礼を言うだけでは済まん。聖女リアナ様とも相談したんだが、この村の“守護契約”をあなたに頼みたい」  

「守護契約?」  
リアナが頷く。「はい。この村の中心に祈祷の祭壇があって、そこに“守りの象徴”を据えるのがしきたりです。魔物を祓い、悪意を遠ざける。その象徴になってほしいのです、カイルさん」  
「俺が?」  
「あなたが打った武具、そしてあなたの力には、既に加護が宿っています。形として“契約”を交わせば、この地を守る聖なる結界に繋がるはずです」

カイルはしばらく考え、やがて頷いた。  
「少し大げさに聞こえるが……そういう儀式なら付き合う。やってみよう」  



その日の夕刻、村の中央に簡素な祭壇が設けられた。  
白布が敷かれ、中央には例の青銀の剣が立てられる。  
周囲を取り囲む村人たちは手を合わせ、リアナが静かに祈りを始めた。  
薄紅の光が彼女の手のひらに集まり、空へと昇っていく。  
そしてその光が、まるで糸のように剣に絡みついた。

「光の守護者よ、この地を汚す闇を封じ、我らのあがないの証を受けたまえ……」  
リアナの声が響くたび、剣が低く鳴動した。  
刀身の青銀が金色を帯び、やがて村全体を包む柔らかな光となる。  

「これで……契約は完了です」  
リアナは胸に手を当て、深く息をついた。  
「この剣が、この村の結界の中心になります。もう魔物の侵入を恐れる必要はありません」  

村人たちが一斉に歓声を上げる。  
子供たちが駆け寄り、カイルの手を引いた。  
「カイル兄ちゃん、すごいよ!剣が光った!」  
「兄ちゃんじゃない、鍛冶師だ」と言いながら、彼の頬に小さな笑みが浮かぶ。

リアナはそんな様子を見て、そっと肩を並べた。  
「みんな、あなたをもう村の仲間だと思っていますよ」  
「俺は旅の途中だ。炉さえあれば、どこでもやっていける」  
「でも、ここで作った剣は“守るための剣”です。それがあなたの魂なら……この村も、あなたの作品の一部ですね」  
彼女の言葉に、カイルは少しだけ俯いた。答えずに、空を見上げる。  
金色の光が緩やかに消え、青い夜が戻り始めていた。



夜。人々が眠りについたあと、リアナが一人で祭壇の前に立っていた。  
冷たい風に金の髪が揺れる。  
彼女の瞳には、微かな不安の影があった。  
契約は確かに成功した。瘴気の気配も薄れた。だが――何かの気配が、まだ森の奥で微かに脈打っている。

「封じきれなかった……?」

そこへ、背後から足音。  
「眠れないのか」  
振り向くと、カイルがいた。  
火の粉に染まった手を拭いながら、静かに近づく。  
「鍛冶師殿こそ、こんな時間に」  
「炉の火が落ち着かなくてな。風の流れが妙なんだ。お前も感じてるんだろ」  

リアナはうなずいた。  
「……はい。もしかしたら、森の奥に“源”があるのかもしれません。瘴気を生み出すもの。けれど、私では行けない。結界の維持が必要です」  
「なら、俺が行く」  
「危険です。あなたは鍛冶師であって、戦士では――」  
「でも、剣は俺が作った。使い方ぐらい理解してる」  
リアナは口を開きかけたが、何も言えなかった。カイルの瞳がまっすぐで、思わず言葉が凍る。

「それに、契約ってやつを結んだんだろ?守り手は一人増えた。もうお前だけの村じゃない」  
その言葉に、リアナの頬がわずかに赤く染まった。  
「……頼りにしています、カイルさん」  
「安心しろ。森が落ち着いたら、もう少し丈夫な剣を打つ。あの神器の改良版だ」  
そう言って炉の方を指差し、軽く笑った。

リアナはその笑顔を見送りながら、胸の内で静かに祈った。  
――この人が、どうか自分の火で焼かれてしまいませんように。

夜風が吹き抜け、祭壇の剣がかすかに鳴いた。  
それはまるで、新たな運命の予兆のように響いていた。
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