異世界最底辺職だった俺、実は全スキルに適性Sだった件~追放されたので田舎でスローライフしてたら、気づいたら英雄扱いされてた~

えりぽん

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第2話 追放の夜、知られざるスキル『神眼』覚醒

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山を下りた俺は、とりあえず近くの森を抜けて平原を目指していた。追放を言い渡されたのが今朝だったから、その日のうちに寝床を見つけなければならない。戦闘で食料も尽きているし、金もほんのわずか。野宿するしかないだろう。

夕日が沈む赤い空を見上げながら、俺は即席で見つけた倒木の側に腰を下ろした。薄い雲が西の空を染め、虫の声が聞こえる。これまで魔王討伐の旅で野宿の経験は何度もあるが、パーティーを外された今は、冷え込む空気がやけに胸に刺さった。

「……ま、気楽でいいか」

声に出してみたものの、やはり苦笑がこぼれる。実際は気楽どころの話じゃない。だが、誰に見張られることもなく、仕事を詰め込まれることもない今の状況は、妙な開放感を伴っていた。

ポーチの中を探ると、干し肉が二切れ。水筒に水が三分の一。焚き火を起こそうと、昨日覚えた魔法を試すことにした。軽く手を翳すと、炎が指先に灯る。自然すぎる流れに、自分でも驚く。

木の枝を燃やして焚き火を整えると、温かい光が辺りを包んだ。火の明かりを見ていると、ようやく自分が追放されたという実感が沸いてきた。

「……無能、か」

アリアンにそう言われた時の、あの冷たい目を思い出す。あいつは生まれながらの勇者。光の加護と最高ランクの聖剣、そして仲間に恵まれていた。俺みたいな雑用士を見下すのは当然だったのかもしれない。

だけど――俺だって、全部が無駄だったわけじゃない。装備の整備や食材の管理、スキルの調整……目立たなくても、あのパーティーを支えていた。口では言わなかったが、誰よりも仲間の動きを観察して、支援できるよう努力してきた。

「まさか全部、無駄じゃなかったってことかよ。封印されてたスキルなんて、そんな話……」

思い返す。昼間、突然現れたあの“声”のこと。脳裏に直接流れ込んだ言葉――スキル適性S、封印解除。

全スキル適性Sなんて聞いたこともない。そんな存在がいたら、とっくに英雄か神になってる。だが俺自身の体が変化しているのも確かだった。火を灯すだけでなく、感覚も鋭く、世界の細部までもが見える。

視界の端で何かが光る。試しにその方向を見つめると、木の葉の表面に小さな数字が浮かんでいた。

【耐久力:2/寿命:1日】

「……なんだ、これ」

思わず声が出た。木の葉に数字なんて、本来見えるはずがない。だが視線を別の対象に移すと、石にも、焚き火の炎にも、同じような情報が浮かんでいた。

そして、自分の手を見た瞬間、心臓が跳ねた。

【レオン 職業:雑用士 適性:全S 固有スキル:神眼】

目を疑った。神眼――読んで字のごとく、神の目。全てを見る力だという。今まさにそれが発動している。無意識にしていたのかもしれない。

「俺に……こんなスキルが?」

呟いた瞬間、視界が広がった。焚き火の先、夜の闇に隠れた森の奥まで、昼間のように鮮明に見える。しかも、そこにいる生物の動きまでもが分かる。風下を歩く小動物の位置、空を飛ぶ鳥の羽ばたきの角度まで、俺の意識が拾っている。

なぜ今になって発動したのかは分からない。だが直感的に分かる。これが俺の覚醒した力――すべての基点だ、と。

「……封印を解く条件が“追放”だった、なんて話も笑えねぇな」

勇者パーティーにいたとき、たびたび感じた異様な息苦しさ。魔法を使おうとしても力が噛み合わず、何かに押さえつけられるような感覚があった。あれが封印の影響だったのだろうか。

ならば皮肉な話だ。英雄たちが俺を追放したおかげで、世界が本来の俺を解放したのかもしれない。

夜風が吹き、焚き火が揺らぐ。森の中から、不意に大きな影が現れた。狼よりはるかに大きな、熊のような魔獣。全身が黒く、金色の瞳を光らせてこちらを睨んでいる。昼間のグラウルとは比べ物にならない。

「やれやれ、安眠はお預けか」

立ち上がり、息を整える。神眼が自動で解析を始めた。

【魔獣:シャドウベア 危険等級:B 弱点:視覚遮断】

映し出された情報に思わず息を呑む。脳裏に直接、弱点のイメージが流れ込んできた。どうやらこの神眼、敵の構造や弱点までも可視化できるようだ。

シャドウベアは吠え、地を蹴った。巨体が突進してくる。俺は咄嗟に腕をかざした。

「……風よ、刃となれ」

空気が震え、突風が熊の体を斬り裂いた。わずか一瞬の出来事。熊が悲鳴を上げる間もなく、血煙を残して崩れ落ちた。

「使いこなせる気がしねぇ……」

あまりの威力に、自分でも困惑する。まさか雑用士だった俺が、こんな戦闘を一瞬で終わらせるとは。

だが同時に、神眼がさらに情報を流してきた。頭の奥に響く無機質な声――。

【神眼補助機能解放:スキル融合システム起動】

「スキル融合……?」

目の前に半透明の光の板が現れた。まるでステータスウィンドウのようだ。そこには大量のスキル項目が並んでいる。剣術、体術、薬草調合、炎魔法、水魔法、結界術――すべてがSランクで記されていた。

足が震えた。冗談じゃない、完全にバランスブレイカーだ。だが神眼の声は淡々と続ける。

【融合例:炎魔法+風魔法=爆裂魔法/錬金術+回復魔法=自動再生ポーション】

まるでレシピのように、スキル同士が組み合わさって新しい技を生み出していく。閃いたら即座に構築、発動も思考ひとつで完了できる仕組みらしい。

俺は恐る恐る、試してみた。

「炎魔法と風魔法……融合」

瞬間、目の前に紅蓮の光球が生まれ、空へと放たれた。爆発した炎が夜空を赤く染め、地面を揺らす。まるで隕石の衝突だ。

「……おいおい、どこが雑用士だよ」

あまりの威力に背筋が寒くなる。神眼の表示にはこうあった。

【融合魔法『爆裂球』習得】

呆れて笑うしかなかった。俺が今まで知らなかっただけで、こんな破壊力を内に秘めていたのか。恐ろしくもあるが、それ以上に――少しだけ胸が高鳴った。

「やばいな……このまま王都に戻ったら、逆に討伐対象になりそうだ」

苦笑しつつ、地面に腰を下ろす。爆発の影響で森がざわめいているが、神眼の視界で周辺に新しい魔物はいないことが分かる。安全圏だ。

改めてステータスを確認する。どれもS。だが下の方に小さな項目が追加されていた。

【称号:追放者】  
【効果:行動制約解除、封印技能開放】

それを見た瞬間、思わず息を呑んだ。追放されたことで、すべての制約が解かれた……そういうことか。つまり、勇者パーティーにいた間、俺は意図的に力を封じられていた可能性がある。

「……アリアン、お前……」

あの時の勇者の冷たい目を思い出す。もし、あいつが俺の本当の力に気付いていたとしたら――追放は偶然じゃない。

怒りではなく、妙な静けさが胸に落ちた。復讐したいとは思わない。だが、このまま黙っていられるほど、俺は聖人じゃない。

「せっかく自由になったんだ。好きに生きさせてもらう」

呟きながら、空を見上げる。夜空には無数の星が瞬き、その一つ一つの光までもが、神眼の視界で細かな構造として見えていた。星の表面で輝く粒子の動き、遠い天の流れ。世界は、こんなにも美しかったのか。

灯りが尽きかけた焚き火に新しい枝をくべ、体を横たえる。疲れが一気に押し寄せる。だが不思議と心は軽かった。

「明日は――もう少し歩いて、村を探すか」

まぶたが下り、意識が薄れていく。その目を閉じる寸前、神眼が最後の通知を表示した。

【索敵範囲内に知的生命体接近 距離:400メートル】

「……誰か、来る?」

返事を待つ間もなく、眠気が勝った。警戒の意識を残しながら、俺は静かに目を閉じた。

追放の夜の終わりに。俺はまだ、自分が“伝説”と呼ばれる存在になることを知らない。
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