異世界最底辺職だった俺、実は全スキルに適性Sだった件~追放されたので田舎でスローライフしてたら、気づいたら英雄扱いされてた~

えりぽん

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第3話 世界が色づいた日――隠された才能

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まぶしい朝の光が差し込んだとき、俺は鳥の鳴き声で目を覚ました。夜の冷え込みのせいで体が少し強張っていたが、ぐっすり眠れたのは奇跡に近い。昨夜の神眼の発動と爆発魔法の実験で、緊張しきっていたはずなのにな。

森の木々の間を抜ける陽光がやけに鮮やかに見える。葉の一枚一枚の形がはっきりしていて、風に揺れる影が立体的だ。まるで世界全体が生まれ変わったようだった。  
神眼が常時発動しているせいか、見える景色さえ違っている。空気中の魔素の流れまで視認できるためか、世界が淡く輝いているようにも感じる。

「……おはよう、現実離れした世界」

軽く伸びをしたとき、空気の流れがひとつ変わった。神眼が自動的に反応する。  
視界に半透明の輪郭が浮かび上がり、小柄な人影が森の奥を慎重に進んでいるのが分かった。人間だ。距離は二百メートルほど。小さな背丈で、肩には籠を背負っている。

「神眼の警告は、これのことか」

襲ってくる気配ではない。むしろ怯えたような足取りだ。  
警戒しつつ近づいてみることにした。森の中を歩くと、弱々しい歌声が微かに聞こえてくる。透き通るような声だった。  

俺は藪を抜け、その姿をはっきりと確認した。  
薄茶の髪を三つ編みにして、麻の服を着た少女。年は十六、七といったところだろうか。  
腕いっぱいに摘んだ薬草を抱えていて、籠からは香草の匂いが漂ってくる。

「……!」

俺と目が合った瞬間、少女は驚いて後ずさった。素早く腰の短剣を構えたが、震える手が刃をまともに支えられていない。敵意というより、単なる警戒だ。

「待ってくれ、襲うつもりはない。旅の途中の者だ」
「た、旅人さん……?」

おそるおそる構えを下ろす少女に、俺も手を挙げて示す。近づいて顔をはっきり見た瞬間、神眼が自動解析を始めた。

【人族:シア・リーヴェント 職業:薬師見習い 潜在適性:回復術S】

潜在適性S。驚いた。本人は自覚していないようだが、こんな辺境でSランク適性を持つ人間とは珍しい。神眼によれば、今の状態では力が開花していないだけらしい。放っておくのは惜しい才能だ。

「こんな森の奥で何をしてる? 魔獣も多いだろう」
「毎朝、村のお店の薬草を集めてるんです。お父さんが病気で……私が働かないと」
「なるほど。でも昨日の夜、ここにはシャドウベアがいたぞ」
「えっ!?」

少女は顔を青くして辺りを見回した。その様子に思わず苦笑が漏れる。

「もう倒した。近くにはいない」
「た、倒した……?」

ぽかんと口を開けたままの彼女の表情が、不思議と和む。どう説明すればいいか迷ったが、余計な話は避けた方がいいだろう。  

「危ないから、村まで送る。方向はどっちだ?」
「えっと……あの丘を越えた先です。レント村って言います」
「分かった。そこまで一緒に行こう」

シアと名乗った少女は恐縮しながらも、ほっとした表情を見せた。  
歩きながら彼女の話を聞くうちに、この辺りの事情が少し見えてきた。

どうやら周辺には最近、強力な魔獣が現れるようになっており、村人たちは怯えて生活しているらしい。薬草採集も命懸けで、村では冒険者ギルドに依頼を出したが、誰も受けてくれないとか。

「そんなに危険なら、村ごと避難した方がいいんじゃないか?」
「できません。みんな畑を持ってますし、戦争のときに逃げ出したら帰れなくなるって」

小さく首を振る彼女の瞳は揺れていた。  
勇者たちの目標が魔王討伐だとすれば、こうした村の現実はまったく別の世界のようだった。俺には、守るべき場所という感覚が少しだけ羨ましく思えた。

やがて視界が開け、丘の上に小さな集落が見えた。木柵で囲われた家が十数軒並び、煙突から薄く煙が上がっている。  
あれがレント村か。

「ここまで来たら安全だろう」
「ありがとうございます、旅人さん。本当に助かりました」
「いや、少し散歩のつもりだったしな」

シアは心の底から安堵の笑みを浮かべた。だが次の瞬間、神眼が強く反応する。  
村の中心部――井戸の近くに、異様な力の塊があった。魔素の濃度が急上昇している。常人の魔力の範囲ではない。

「……シア、少し離れろ」
「え?」

俺は視線をそちらへ定める。井戸の縁で、一人の男がうずくまっていた。肌が黒く変色し、背中には赤い紋様のようなものが浮かび上がっている。  
神眼の文字が現れる。

【憑依体:低位悪霊種 発生源:魔導汚染】

やはり魔獣だけじゃない、悪霊まで現れている。  
男が呻き声を上げ、目を光らせた。次の瞬間、黒い霧が周囲に広がる。シアが悲鳴をあげ、後ずさる。

「下がってろ!」

俺は咄嗟に魔法を連鎖発動させる。  
光と風の融合魔法――名も知らぬ新しい形の呪文が、自動的に練り上がった。

「聖風《せいふう》よ、穢れを払え!」

眩しい光が吹き荒れ、霧を一掃した。悪霊が断末魔を上げて崩れ落ちる。浄化の風が村の中心を吹き抜けた。  
完全に無意識の発動だった。それなのに、精緻な制御と完璧な威力。自分で自分の力が恐ろしい。

「……すごい……今の、全部見てました」

村人たちは家から飛び出してきて、口々に感謝の言葉を叫んだ。シアは目を潤ませながら、俺の前に立った。

「旅人さん、あなた……勇者様なんですか?」
「いや、違う。ただの雑用士だ」
「そんなはずないです! あんな魔法、初めて見ました!」

困惑して頭をかいた。確かに見た目は派手だったし、村人たちには信じがたい光景だろう。だが俺にとっては、ただの実験の延長みたいなものだ。

村長らしき老人が寄ってきて、深々と頭を下げた。
「おお、命の恩人じゃ。あの男は昨日から様子がおかしかった。もしあんたがいなければ、村は全滅しておったかもしれん」

周囲の歓声の中で、俺は少しだけ息苦しさを覚えた。  
まただ。俺は特別なつもりもないのに、人々が勝手に“救い主”を見る目を向ける。まるで勇者アリアンが持っていた、あの扱いそのものだ。

「礼はいらない。ちょっと通りがかっただけだ」
「せめて泊まっていってください。今夜は料理を用意しますから!」

押し切られるように俺は村に泊まることになった。夕食は久しぶりに温かいスープと焼きたてのパン。村人全員が宴のような雰囲気ではしゃいでいた。  
俺は隅の席で静かにそれを味わっていたが、シアが隣に座って微笑んだ。

「旅人さん……じゃなくて、レオンさん。私、今日あなたを見て、すごく励まされたんです。あんなふうに強くて優しい人になりたい」
「俺が強い? いや、たまたまだ」
「でも、あの時本当に怖くなかったんですか?」
「怖かったさ。でも、誰かを守るのに理由はいらないだろう」

自分で言って少し照れくさくなった。だがシアは真剣な目で頷く。

「私、もっと勉強します。お父さんの病気を治すために、そしてレオンさんみたいに人を助けられる薬師になります」

純粋なその瞳を見て、不思議と心が温かくなった。  
こんな小さな村にも、ちゃんと夢を持つ人がいる。本来、勇者が守るべきはこういう場所なのかもしれない。

食事を終え、夜空の下で一人になると、神眼が静かに反応した。  
シアが見つめていた時の彼女の内なる輝き――潜在S適性が、まるで呼応するかのように光を強めていた。

「人って、本当に面白いな」

この世界は俺が想像していたより、ずっと広く、美しい。  
かつての旅では見えなかった景色が、今は確かに色づいている。  

俺は見上げた夜空に、ぽつりと呟く。

「雑用士でも、悪くないな」

そのとき遠く、東の空がぼんやりと赤く照らされた。  
神眼が警告を発する。  
【高濃度魔素反応:勇者パーティー、王都方面で魔王軍と交戦中】

「……あいつら、もう戦ってるのか」

胸の奥に微かなざらつきが生まれる。  
倒すとか、復讐とか、そんな単純な感情じゃない。ただ――俺という存在を、彼らはどう見るのだろう。

焚き火の光が揺れ、夜風が頬を撫でる。俺は静かに目を閉じた。  
世界がいま、確かに動き出している。
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