7 / 12
7話。
しおりを挟む
私はそこまで思い出すと、何故か胸が苦しくなって、すぅ、と深く息を吸った。
鈍い鉄の匂いが喉を通り過ぎるのがわかって、奥歯を噛み締めた。
由真さんはまだ湖を睨んでいた。
何故か、由真さんを見ていると胸がざわつく。
いや、目の保養にはなって良いのだが...
私は首を横に振って、松尾を見た。
真剣に絵を描いている。
私はそのまま視線をキャンバスに移した。
驚いた。今見ているそのままの風景がモノクロになってそこに投下されているのだ。
少しずつニュアンスの違う線が何重にも何重にも、綺麗な湾曲を流れる様に重ねられている。白い軸を軽く持ち、松尾は少しずつ、でも大胆に線を削っていく。
天才とはこういうものだと、私は初めて思い知らされた様な気がした。
絵に対しての知識は無いに等しい私でも、その絵は凄いと思った。
たった0.数ミリの違いで印象が大きく変わってしまう様で、
松尾は幾度も幾度も、細く先の鋭った4Hという見たこともない濃さの鉛筆で、細かく線を描き加えていく。
それを見て、私は松尾の居る方向と真逆の方に走った。
離れた地点で、私はカメラの解像度を極限まであげ、めいっぱいにレンズを伸ばし、ピントを合わせた。
ほのかに色味を変えたカメラで、私は松尾を撮った。
松尾は気付いてすらいない様だった。
私は撮れた画をいつも通り確認する。
長い前髪で顔は隠れてしまっているが、ピアスが代わりにと言う感じで存在感を顕にしている。
私ははぁ、とため息をついた。
なんでこんなにも今頃いい画が沢山撮れるんだろう。
これ以上撮ると生きる意味を見出してしまいそうで怖い。
また緩く風が吹いてきた。
今度は地を這うような風だ。
足元を撫でるように吹いてくる。
ただ気味が悪い。
それに便乗るかの様に、どこからかボックスシューズの少し重い足音が響いた。
私はその方向を見た。
別にもう驚くことはしなかった。
目線の先にはさっき同じバスに乗っていた可憐な女性が日傘を差して歩いていた。
ロリータ、という分類なのだろうか。
私と同じくらい、嫌少し高い背に小花柄で淡い桃色のフリルの沢山着いた七分丈のくすんだピンクのワンピースを着ていた。まるで子供の時に見たフランス人形の着ている服の様だった。
膝下からがむき出した脚には白いタイツ、靴は艶やかで高そうなヴィヴィアンのボックスシューズ、そして首からは靴と揃いのヴィヴィアンのネックレスをかけていた。
なんと言うか、物凄くお嬢様っぽい。
その女性は木陰に入ると、すんなりと日傘を閉じた。
日傘も、ワンピースと似たピンクで、フリルが沢山着いていた。
髪は毛先だけ緩くウェーブがかかったような長髪で、分かりにくいがショコラブラウンの色をしている。
毛束を左右対称にふたつだけ摘み、それぞれ括ってから造花で飾っている。
顔立ちも整っていて中性的で、まさに人形の様だ。
その女性はこちらに気づいた様で、首を傾けながらにっこりと愛らしく微笑んだ。
何故か胸がギと音を立てた。
その女性は靴音を鳴らしながら、こちらに近付いてきた。
鈍い鉄の匂いが喉を通り過ぎるのがわかって、奥歯を噛み締めた。
由真さんはまだ湖を睨んでいた。
何故か、由真さんを見ていると胸がざわつく。
いや、目の保養にはなって良いのだが...
私は首を横に振って、松尾を見た。
真剣に絵を描いている。
私はそのまま視線をキャンバスに移した。
驚いた。今見ているそのままの風景がモノクロになってそこに投下されているのだ。
少しずつニュアンスの違う線が何重にも何重にも、綺麗な湾曲を流れる様に重ねられている。白い軸を軽く持ち、松尾は少しずつ、でも大胆に線を削っていく。
天才とはこういうものだと、私は初めて思い知らされた様な気がした。
絵に対しての知識は無いに等しい私でも、その絵は凄いと思った。
たった0.数ミリの違いで印象が大きく変わってしまう様で、
松尾は幾度も幾度も、細く先の鋭った4Hという見たこともない濃さの鉛筆で、細かく線を描き加えていく。
それを見て、私は松尾の居る方向と真逆の方に走った。
離れた地点で、私はカメラの解像度を極限まであげ、めいっぱいにレンズを伸ばし、ピントを合わせた。
ほのかに色味を変えたカメラで、私は松尾を撮った。
松尾は気付いてすらいない様だった。
私は撮れた画をいつも通り確認する。
長い前髪で顔は隠れてしまっているが、ピアスが代わりにと言う感じで存在感を顕にしている。
私ははぁ、とため息をついた。
なんでこんなにも今頃いい画が沢山撮れるんだろう。
これ以上撮ると生きる意味を見出してしまいそうで怖い。
また緩く風が吹いてきた。
今度は地を這うような風だ。
足元を撫でるように吹いてくる。
ただ気味が悪い。
それに便乗るかの様に、どこからかボックスシューズの少し重い足音が響いた。
私はその方向を見た。
別にもう驚くことはしなかった。
目線の先にはさっき同じバスに乗っていた可憐な女性が日傘を差して歩いていた。
ロリータ、という分類なのだろうか。
私と同じくらい、嫌少し高い背に小花柄で淡い桃色のフリルの沢山着いた七分丈のくすんだピンクのワンピースを着ていた。まるで子供の時に見たフランス人形の着ている服の様だった。
膝下からがむき出した脚には白いタイツ、靴は艶やかで高そうなヴィヴィアンのボックスシューズ、そして首からは靴と揃いのヴィヴィアンのネックレスをかけていた。
なんと言うか、物凄くお嬢様っぽい。
その女性は木陰に入ると、すんなりと日傘を閉じた。
日傘も、ワンピースと似たピンクで、フリルが沢山着いていた。
髪は毛先だけ緩くウェーブがかかったような長髪で、分かりにくいがショコラブラウンの色をしている。
毛束を左右対称にふたつだけ摘み、それぞれ括ってから造花で飾っている。
顔立ちも整っていて中性的で、まさに人形の様だ。
その女性はこちらに気づいた様で、首を傾けながらにっこりと愛らしく微笑んだ。
何故か胸がギと音を立てた。
その女性は靴音を鳴らしながら、こちらに近付いてきた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
壊れていく音を聞きながら
夢窓(ゆめまど)
恋愛
結婚してまだ一か月。
妻の留守中、夫婦の家に突然やってきた母と姉と姪
何気ない日常のひと幕が、
思いもよらない“ひび”を生んでいく。
母と嫁、そしてその狭間で揺れる息子。
誰も気づきがないまま、
家族のかたちが静かに崩れていく――。
壊れていく音を聞きながら、
それでも誰かを思うことはできるのか。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる