最後の出会いと別れ

氷上ましゅ。

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6話。

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私はその独特としか言い様のない匂いに顔を軽くしかめた。
由真さんは逆にそれを深く吸って、ゆっくりと吐いた。
吐いたついで、と言った感じに呟く。
呟いた言葉に私は思わず目を見開いた。

「…懐かしいなぁ、兄さん」

………え?
私は思わずカメラを支えていた腕を落とした。
…懐か、しい……?
少なくとも私は血の匂いを嗅いでそんな事を言う人を見たのは初めてだ。
何となく、亡くなったお兄さんの事を思い出しているのだろうか、と思った。
どこからかまた風が吹いてくる。全く、都合のいい風だ。
由真さんは風になびく髪を邪魔そうにかきあげた。
大きく整った目は、まだ湖の方をぐと睨みつけていた。
やはり、綺麗な人だ。しかも髪もツヤがかっている。
私は何も言わずに由真さんにカメラを向けてシャッターを
切った。
切り取られた画面を見る。良い出来だ。
コンテストに出せそうなくらい、いいがそこにはあった。
こんなに上手く撮れたのは、これが初めてであった。
由真さんの方を見る。
由真さんは振り向かなかった。
ただひたすらに、唇を噛んで湖を睨んでいた。
私は声をかける事が出来なかった。
私はなんだかやるせなくなって、またカメラに視線を戻した。
切り取られた情景の中には、どこか侘しくて、哀らしげで、不安定で、けれど柔らかな雰囲気が漂っていた。
私はこんな図が大好きだった、昔から。
物騒に思えるかも知れないが、私はやはり変わっていた。
人に言われた事が数回、自分で思ったことが何百回。
この短い一生の中で、私は心のどこかで疎外感を感じ、それをかき消すかのように何かに手を出した。
勉強、遊び、芸に性…
けれどもそれらは私にとって全くピンと来ないものばかりで、また侘しくなった。
でもその孤独を私は勝手にとしのせいだと決めつけて、今まで過ごしてきた。
女だから、職場では最低限の化粧はしなければなかった。
私はそこで出来物ひとつない肌をありがたく思った。
けれども仕方がわからない。
母は職業柄、そんな事に無頓着であったから自分で調べる他無かった。そもそも私は父似なのだ。
私は基本的に言われた事はすぐになんでも出来てしまう人間だったので、あまり苦労しなかった。
でもそれが仇となったのかもしれない。
やっぱり職場でも苦労した。
学歴は良く、おまけにいつも成績上位だったからすっと仕事には就けたが、そこからが大変だった。
愛想笑いが得意で本当に良かった。
いつも一人、という事は無かったがやっぱり疎外感は消えなかった。
だからもう終わりにしようと思い、賃貸だった家を引き払ってビジホ生活を約一ヶ月間した。
それは意外と快適であった。
帰ってきたら布団がシワひとつなくピンと張っているのだ。
面白い。洗濯はコインランドリーを使用すれば問題は無いし、ルームサービスも着いていたからフロントに電話すれば色々持って来てくれる。
なんか富豪の遊びのような気がして楽しかった。
そんなこんなで、寂しさは、少し解消されていた。
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