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第50話 おあずけ
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――玉鋼なくして、日本刀はなし。
これは、有名な言葉だ。
通常の鋼と違ってひも状で、粘り気のあるものが玉鋼《たまはがね》と呼ばれる。
それは、世界で一番強固で美しい日本刀の核となる。
鋼を鍛錬し、硬度の違う鋼を合わせて鍛造る。
例え能力があっても、それを生み出すのには非常に困難を極める。
大会までもう少し。時間に余裕がなく、不眠不休で能力を使用し、何度も鉄を鍛えた。
「ベルク様、無理なさらないでくださいね」
「ああ、だが必ず完成させてやる」
初めは溶解と凝固を繰り返し基礎能力を向上させた。
通常なら数十年、いや、到達できないほどの高見まで短期間で作り出そうとしている。
それも偶然の産物ではなく。
しかしその途中、情けなくも俺は倒れてしまった。
気づけばベッドの上、レナセールが、タオルを取り換えてくれているときに目を覚ます。
「……今何時だ」
「夜です。ベルク様、起き上がらないでください!」
「すまないな……試験勉強の途中だっただろうに」
「とんでもないです。私は大丈夫ですから、ゆっくりしてください。気を遣わせたら申し訳ないので、ここで勉強しますね。何かありましたら、すぐに言ってください」
「大丈夫だ。もう起きれ――」
「ダメです」
強く制止されて、ふたたび横になる。
以前はここまでハッキリと言われることはなかった。
随分と甘えていたのだろう。迷惑をかけているのが申し訳なかったが、レナセールが座学の勉強をしている姿を見ていたらいつの間にか眠っていた。
翌日の昼には身体は随分と良くなっていた。
許可をもらって再開、不思議と頭も冴えていた。
能力の限界を超えると効率が悪くなるのだろう。新たな知見、だがこれがわかったのもすべてレナセールのおかげだ。
「ベルク様ならきっとできますよ。私は、信じています」
彼女の真剣な眼差しに応えたい。
「にゃあっああ」
もちろん、サーチの為にも。
そしてついに、俺の目でも間違いなく素晴らしい『玉鋼』が作り出せた。
嬉しさのあまり叫び、レナセールが勉強している部屋に突撃したのだが、スヤスヤと眠っていた。
ビッシリと書かれた錬金術についてのノート。
今は夜中か。
「……ありがとな」
俺は幸せ者だ。そっと毛布を肩にかけて、ふたたび元の場所に戻る。
優勝すればもっと大胆な発明ができるはずだ。
素材を買い占めたり、存在感を持っても、危険は少なくなるはず。
未来の命を懸けた戦いだと言っても過言ではないかもしれない。
俺は、必ずやってみせる。
「……ベルク様」
「レナセール、どうだ。視えるか?」
「……凄いです。こんな、こんな力強い魔力が……」
翌朝、俺は間違いなく日本刀を造り上げた。
わずかな歪みもなくまっすぐに伸びる刀身。
錬金術によって鋭利に磨き上げられた刃先。
そして驚いたことに、能力と合致したおかげか、魔力をしっかり帯びていた。
剣術大会では当然、魔法でコーティングされている武器も多く出るだろう。
これなら戦える。
「レナセール、ありがとう」
「え? 私ですか?」
「ああ、君がいなければ造りだせなかった。本当に感謝してるよ」
「……えへへ、嬉しいです」
微笑むレナセール。
いつものようにキスをしようとしたが、俺はあえて額にした。
するとレナセールが、悲し気に上目遣いをする。
「どうしてなのですか?」
「ご褒美にしたいんだ。俺はずっと君に甘えていた。それがよくわかった。優勝を手にして、改めてな」
「……わかりました。私も、そうします!」
涙ぐみながら、レナセールが両こぶしをで頑張りますとポーズした。
え、そんなに!? いや、でも、よく考えると朝のキスもなしか……。
ちなみに翌朝、ちゃんと後悔した。
「ここでお別れだな。応援しているぞ」
「はい! ベルク様、私は悲しくて悲しくてたまりません。ですが、信じております。優勝、必ずしてくださいね」
「ああ」
ついに当日。
俺たちは王都の十字路で足を止めていた。
右へ行けば闘技場。左に行けば試験会場だ。
最後に一言伝えようと思ったが、思いとどまった。
十分に話した。後は、結果で語ればいい。
レナセールも同じことを考えていたらしく、目だけで合図してきた。
王都は晴れやかな垂れ幕で彩られている。
剣術大会は人気らしく、既に街も盛り上がっていた。
賭け事も合法化していることもあって、大勢から手練れが集まるだろう。
忘れていけないのはエリオットだ。
あれから自分でも調べてみたが、彼の成績はすさまじかった。
錬金術としても、剣術大会での成績も。
だが俺はそれを上回ってやる。
レナセールは既に遠くにいた。
背中が、いつもよりたくましく思える。
――ベルク・アルフォン。
一部ではこの名は有名かもしれない。
だが今日、更に多くの人に広まるはずだ。
必ず――優勝してやる。
これは、有名な言葉だ。
通常の鋼と違ってひも状で、粘り気のあるものが玉鋼《たまはがね》と呼ばれる。
それは、世界で一番強固で美しい日本刀の核となる。
鋼を鍛錬し、硬度の違う鋼を合わせて鍛造る。
例え能力があっても、それを生み出すのには非常に困難を極める。
大会までもう少し。時間に余裕がなく、不眠不休で能力を使用し、何度も鉄を鍛えた。
「ベルク様、無理なさらないでくださいね」
「ああ、だが必ず完成させてやる」
初めは溶解と凝固を繰り返し基礎能力を向上させた。
通常なら数十年、いや、到達できないほどの高見まで短期間で作り出そうとしている。
それも偶然の産物ではなく。
しかしその途中、情けなくも俺は倒れてしまった。
気づけばベッドの上、レナセールが、タオルを取り換えてくれているときに目を覚ます。
「……今何時だ」
「夜です。ベルク様、起き上がらないでください!」
「すまないな……試験勉強の途中だっただろうに」
「とんでもないです。私は大丈夫ですから、ゆっくりしてください。気を遣わせたら申し訳ないので、ここで勉強しますね。何かありましたら、すぐに言ってください」
「大丈夫だ。もう起きれ――」
「ダメです」
強く制止されて、ふたたび横になる。
以前はここまでハッキリと言われることはなかった。
随分と甘えていたのだろう。迷惑をかけているのが申し訳なかったが、レナセールが座学の勉強をしている姿を見ていたらいつの間にか眠っていた。
翌日の昼には身体は随分と良くなっていた。
許可をもらって再開、不思議と頭も冴えていた。
能力の限界を超えると効率が悪くなるのだろう。新たな知見、だがこれがわかったのもすべてレナセールのおかげだ。
「ベルク様ならきっとできますよ。私は、信じています」
彼女の真剣な眼差しに応えたい。
「にゃあっああ」
もちろん、サーチの為にも。
そしてついに、俺の目でも間違いなく素晴らしい『玉鋼』が作り出せた。
嬉しさのあまり叫び、レナセールが勉強している部屋に突撃したのだが、スヤスヤと眠っていた。
ビッシリと書かれた錬金術についてのノート。
今は夜中か。
「……ありがとな」
俺は幸せ者だ。そっと毛布を肩にかけて、ふたたび元の場所に戻る。
優勝すればもっと大胆な発明ができるはずだ。
素材を買い占めたり、存在感を持っても、危険は少なくなるはず。
未来の命を懸けた戦いだと言っても過言ではないかもしれない。
俺は、必ずやってみせる。
「……ベルク様」
「レナセール、どうだ。視えるか?」
「……凄いです。こんな、こんな力強い魔力が……」
翌朝、俺は間違いなく日本刀を造り上げた。
わずかな歪みもなくまっすぐに伸びる刀身。
錬金術によって鋭利に磨き上げられた刃先。
そして驚いたことに、能力と合致したおかげか、魔力をしっかり帯びていた。
剣術大会では当然、魔法でコーティングされている武器も多く出るだろう。
これなら戦える。
「レナセール、ありがとう」
「え? 私ですか?」
「ああ、君がいなければ造りだせなかった。本当に感謝してるよ」
「……えへへ、嬉しいです」
微笑むレナセール。
いつものようにキスをしようとしたが、俺はあえて額にした。
するとレナセールが、悲し気に上目遣いをする。
「どうしてなのですか?」
「ご褒美にしたいんだ。俺はずっと君に甘えていた。それがよくわかった。優勝を手にして、改めてな」
「……わかりました。私も、そうします!」
涙ぐみながら、レナセールが両こぶしをで頑張りますとポーズした。
え、そんなに!? いや、でも、よく考えると朝のキスもなしか……。
ちなみに翌朝、ちゃんと後悔した。
「ここでお別れだな。応援しているぞ」
「はい! ベルク様、私は悲しくて悲しくてたまりません。ですが、信じております。優勝、必ずしてくださいね」
「ああ」
ついに当日。
俺たちは王都の十字路で足を止めていた。
右へ行けば闘技場。左に行けば試験会場だ。
最後に一言伝えようと思ったが、思いとどまった。
十分に話した。後は、結果で語ればいい。
レナセールも同じことを考えていたらしく、目だけで合図してきた。
王都は晴れやかな垂れ幕で彩られている。
剣術大会は人気らしく、既に街も盛り上がっていた。
賭け事も合法化していることもあって、大勢から手練れが集まるだろう。
忘れていけないのはエリオットだ。
あれから自分でも調べてみたが、彼の成績はすさまじかった。
錬金術としても、剣術大会での成績も。
だが俺はそれを上回ってやる。
レナセールは既に遠くにいた。
背中が、いつもよりたくましく思える。
――ベルク・アルフォン。
一部ではこの名は有名かもしれない。
だが今日、更に多くの人に広まるはずだ。
必ず――優勝してやる。
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