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クルムロフ城
第85話:クルムロフ城
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鉄箱《マリス》の力によって、転移魔法をくぐったアイレの先に待ち構えていたのは、すべてのきっかけとなる場所だった。
フェアと初めて会ったときに見せてくれた映像が脳裏に浮かぶ。
湾上に浮かぶ孤島の上に、立派で今までで見たことがないほど大きな城がそびえ立っている。その手前には、一本道の横に広い橋が架かっていて、周囲は海に囲まれいる。
「ここは……」
アイレが唖然《あぜん》としているすぐ後ろから、ヴェルネルたちも続いて現れる。セーヴェルの姿は当然のようにない。
「ああ……ここは――」
ヴェルネルが橋の奥にある城を眺めながら、何かを思い返す。その横でインザームとフェアが曇った表情をしている。
全ての始まり、そして終わりを告げた――
「クルムロフ城……」
アイレが囁くようにぼやく。ここでようやく、一人足りないことに気づいて、
「……セーヴェルは?」
「……亡くなったわ」
「なっ!? 鉄箱《マリス》を使ったんじゃないのか!?」
目を見開いて驚くアイレに、ヴェルネルが、
「……いくら鉄箱《マリス》といえども、これだけの人数を転移させるには相応の魔力が必要だ。彼女は……僕たちのために犠牲になると言ってくれた」
視線を背けながら、顔を曇らせる。アイレは怒りで身体を震わせながら、ヴェルネルの胸ぐらを掴んだ。
「てめぇ……知ってたのかよ! 何で言わなかった!」
「……君のことだ、言えばここへ来ることはなかっただろう。転移魔法の術式は彼女しか知らない。こうするしかなかったんだ、わかってくれ」
「お前……何にも変わってねえじゃねぇか!」
「……セーヴェルは……彼女はこの世界を愛していた。僕も……死ぬからわかる。最後に……正しいことをしたかったんだ」
その眼には涙が浮かんでいる。それを見かねたインザームが駆け寄って、
「やめんか! 今はそんなことをしている場合じゃなかろう!」
二人を引き離すように止める。
「……死んだやつのことはとやかく言わね~が、つまらない喧嘩で間に合いませんでしたは洒落《しゃれ》になんねーぜ」
「そうですね、急ぎましょう」
グレースとアズライトが少しあきれるように、
「……ここは僕たちがずっと拠点にしていところだ。まさか戻ってきてるなんて……。フェア、感知できるか?」
「……さっきからずっと調べてるけど……結界が邪魔をしてるみたい」
「私もダメです。フェアさんほど上手にもできないし……だけど、結界を展開している箇所がわかれば、消滅させることが出来ると思います」
インザームが気合を入れるように自分の顔を手の平でぱんぱんと叩く。ヴェルネルが先導するように走り出した。
「僕は……もうあまり力になれるかどうかわからない、くれぐれも気を付けてくれ」
「レムリを助けるまでは……死ぬなよ」
ヴェルネルが死を悟ったような悲しい声で、横に走っているアイレを見た。幸いにも橋は問題なく渡りきることが出来たが、そこで足が止まる。
目の前にはクルムロフ城の正門の扉が、なぜか不気味に開いている。人の気配は全く感じられない。
「どうしたんだ?」
「……おかしい。ここはいつも閉まっていたはずだ」
「急いでたんじゃないの? さすがに私たちがここへ来るだなんて、予想は出来てもこんなに早いとは思ってないはずよ」
そう言いながら、フェアが何気なしに正門に目を向けた――
「……待って!――これは……糸……?」
目に凝らしてみると、魔力の糸が無数に張り巡らされていた。試しにフェローがその場にあった石を投げてみると、接触した瞬間に糸はまるで生き物のように動くと、石を細かく切り刻んだ。
その様子を見て、全員が小さな悲鳴を漏らす。
「クリア、頼む」
「はい! 魔法消滅《マジックディスパリショーン》」
フェぇローの指示で、クリアが罠を解除する。何かを考えこむようにヴェルネルが、
「……こんな罠は見たことない。もしかしたらシンドラはこうなることも予想していたかもしれないな……」
「そういえば……また転移魔法を使われたらどうするんだ?」
「それはない、転移魔法はかなりの魔力を要するんだ。時間的に考えても、すぐに移動できないはずだ」
無事に正門をくぐると、その先は大きな広場になっていた。城を支える細い柱が等間隔に並んでいて、中心には手入れのされていない芝生が生い茂っている。
その上の吹き抜けから綺麗な光が差し込んでいた。
突然、ヴェルネルが後ろを振り向いて、
「城内に魔法感知不可領域が展開されてるみたいだ。これのせいでどこに誰がいるかわからなくしてる。それに、ここから先は部屋がいくつもある。手分けして探したほうがいいが、さっきの罠のことを考えると……」
「いや、時間がもったいない。何人かに分かれて探そう」
「そのほうが良さそうですね、どうやって分けましょうか」
話し合いの末、フェローが適正を考えてチームを3に分けることにした。
① アイレ、ヴェルネル、フェアは大きな部屋や広場を主に探索する。
➁インザーム、アズライト、グレースは小さな部屋や地下室を探索する。
③フェロー、クリアは魔法不能領域を展開している核となる部分を探して消滅させる。
①チームと ➁チームはシンドラを探す。 ③チームは魔法不能領域を展開し続けているであろう魔法具を探す。それさえ消滅させれば、すぐにでも居場所が特定できる。
「侵入してきたのはすでにバレているだろう、どこに誰がいるかわからない。僕の知らないシンドラの仲間もいるはずだ、くれぐれも注意してくれ」
「もしシンドラを見つけたとしても、感知が出来なければ合流が難しいです。フェローさん、クリアさん、宜しくお願いします」
「ああ、お前たちも死ぬなよ」
最後にアイレが全員の眼をしっかりと見てから、
「もう誰も死んでほしくない。レムリもルチルも……シェルも無事に助け出す。ここで……すべてを終わらせよう」
今までのことを思い返しながら無事を祈った。その中にシェルの名前が入っていたことで、クリアの心が締め付けられながらも少し嬉しくなる。
それから全員、城内にいるであろうシンドラ、レムリ、ルチルを探すために走り出した。
あるものは世界のため、あるものは復讐のため、あるものは人のため、あるものは使命のため。
それぞれの想いを胸に抱えながら、最後の戦いの幕が上がる。
フェアと初めて会ったときに見せてくれた映像が脳裏に浮かぶ。
湾上に浮かぶ孤島の上に、立派で今までで見たことがないほど大きな城がそびえ立っている。その手前には、一本道の横に広い橋が架かっていて、周囲は海に囲まれいる。
「ここは……」
アイレが唖然《あぜん》としているすぐ後ろから、ヴェルネルたちも続いて現れる。セーヴェルの姿は当然のようにない。
「ああ……ここは――」
ヴェルネルが橋の奥にある城を眺めながら、何かを思い返す。その横でインザームとフェアが曇った表情をしている。
全ての始まり、そして終わりを告げた――
「クルムロフ城……」
アイレが囁くようにぼやく。ここでようやく、一人足りないことに気づいて、
「……セーヴェルは?」
「……亡くなったわ」
「なっ!? 鉄箱《マリス》を使ったんじゃないのか!?」
目を見開いて驚くアイレに、ヴェルネルが、
「……いくら鉄箱《マリス》といえども、これだけの人数を転移させるには相応の魔力が必要だ。彼女は……僕たちのために犠牲になると言ってくれた」
視線を背けながら、顔を曇らせる。アイレは怒りで身体を震わせながら、ヴェルネルの胸ぐらを掴んだ。
「てめぇ……知ってたのかよ! 何で言わなかった!」
「……君のことだ、言えばここへ来ることはなかっただろう。転移魔法の術式は彼女しか知らない。こうするしかなかったんだ、わかってくれ」
「お前……何にも変わってねえじゃねぇか!」
「……セーヴェルは……彼女はこの世界を愛していた。僕も……死ぬからわかる。最後に……正しいことをしたかったんだ」
その眼には涙が浮かんでいる。それを見かねたインザームが駆け寄って、
「やめんか! 今はそんなことをしている場合じゃなかろう!」
二人を引き離すように止める。
「……死んだやつのことはとやかく言わね~が、つまらない喧嘩で間に合いませんでしたは洒落《しゃれ》になんねーぜ」
「そうですね、急ぎましょう」
グレースとアズライトが少しあきれるように、
「……ここは僕たちがずっと拠点にしていところだ。まさか戻ってきてるなんて……。フェア、感知できるか?」
「……さっきからずっと調べてるけど……結界が邪魔をしてるみたい」
「私もダメです。フェアさんほど上手にもできないし……だけど、結界を展開している箇所がわかれば、消滅させることが出来ると思います」
インザームが気合を入れるように自分の顔を手の平でぱんぱんと叩く。ヴェルネルが先導するように走り出した。
「僕は……もうあまり力になれるかどうかわからない、くれぐれも気を付けてくれ」
「レムリを助けるまでは……死ぬなよ」
ヴェルネルが死を悟ったような悲しい声で、横に走っているアイレを見た。幸いにも橋は問題なく渡りきることが出来たが、そこで足が止まる。
目の前にはクルムロフ城の正門の扉が、なぜか不気味に開いている。人の気配は全く感じられない。
「どうしたんだ?」
「……おかしい。ここはいつも閉まっていたはずだ」
「急いでたんじゃないの? さすがに私たちがここへ来るだなんて、予想は出来てもこんなに早いとは思ってないはずよ」
そう言いながら、フェアが何気なしに正門に目を向けた――
「……待って!――これは……糸……?」
目に凝らしてみると、魔力の糸が無数に張り巡らされていた。試しにフェローがその場にあった石を投げてみると、接触した瞬間に糸はまるで生き物のように動くと、石を細かく切り刻んだ。
その様子を見て、全員が小さな悲鳴を漏らす。
「クリア、頼む」
「はい! 魔法消滅《マジックディスパリショーン》」
フェぇローの指示で、クリアが罠を解除する。何かを考えこむようにヴェルネルが、
「……こんな罠は見たことない。もしかしたらシンドラはこうなることも予想していたかもしれないな……」
「そういえば……また転移魔法を使われたらどうするんだ?」
「それはない、転移魔法はかなりの魔力を要するんだ。時間的に考えても、すぐに移動できないはずだ」
無事に正門をくぐると、その先は大きな広場になっていた。城を支える細い柱が等間隔に並んでいて、中心には手入れのされていない芝生が生い茂っている。
その上の吹き抜けから綺麗な光が差し込んでいた。
突然、ヴェルネルが後ろを振り向いて、
「城内に魔法感知不可領域が展開されてるみたいだ。これのせいでどこに誰がいるかわからなくしてる。それに、ここから先は部屋がいくつもある。手分けして探したほうがいいが、さっきの罠のことを考えると……」
「いや、時間がもったいない。何人かに分かれて探そう」
「そのほうが良さそうですね、どうやって分けましょうか」
話し合いの末、フェローが適正を考えてチームを3に分けることにした。
① アイレ、ヴェルネル、フェアは大きな部屋や広場を主に探索する。
➁インザーム、アズライト、グレースは小さな部屋や地下室を探索する。
③フェロー、クリアは魔法不能領域を展開している核となる部分を探して消滅させる。
①チームと ➁チームはシンドラを探す。 ③チームは魔法不能領域を展開し続けているであろう魔法具を探す。それさえ消滅させれば、すぐにでも居場所が特定できる。
「侵入してきたのはすでにバレているだろう、どこに誰がいるかわからない。僕の知らないシンドラの仲間もいるはずだ、くれぐれも注意してくれ」
「もしシンドラを見つけたとしても、感知が出来なければ合流が難しいです。フェローさん、クリアさん、宜しくお願いします」
「ああ、お前たちも死ぬなよ」
最後にアイレが全員の眼をしっかりと見てから、
「もう誰も死んでほしくない。レムリもルチルも……シェルも無事に助け出す。ここで……すべてを終わらせよう」
今までのことを思い返しながら無事を祈った。その中にシェルの名前が入っていたことで、クリアの心が締め付けられながらも少し嬉しくなる。
それから全員、城内にいるであろうシンドラ、レムリ、ルチルを探すために走り出した。
あるものは世界のため、あるものは復讐のため、あるものは人のため、あるものは使命のため。
それぞれの想いを胸に抱えながら、最後の戦いの幕が上がる。
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