老衰で死んだ僕は異世界に転生して仲間を探す旅に出ます。最初の武器は木の棒ですか!? 絶対にあきらめない心で剣と魔法を使いこなします!

菊池 快晴

文字の大きさ
99 / 114
クルムロフ城

第91話:交わらない想い

しおりを挟む
 ヴェルネルが生きていたことに、アイレとフェアは、ほっと胸を撫で下ろした。つい最近までは殺したい、殺さないといけないと考えていたはずなのに
 感情はこうも簡単に変化してしまう。これが正しいのか、間違っているのかはわからなかった。

 だが、グレースは違った。まだ恨みの目でヴェルネルを睨んでいる。復讐の呪いの連鎖は、断ち切れない。

「はぁはぁ……」

 ヴェルネルが、肩で息をしながら剣の重みで腕がぐったりと垂れる。魔力がもう残り少なくなっている上に、カルムを倒すのにかなり費やしてしまった。
 このままでは、レムリを助ける前に死んでしまうかもしれない。そんなことを予感させるほど、魔力が微々たるものになっていた。

 アイとレッグは、足元を氷漬けにされていたが、特にそれに対して何か喚《わめ》くこともなく、カルムが殺される瞬間を眺めていた。

 アイレが今まで見てきた印象としては、カルムに対してなんの思い入れもなさそうだと感じていた。どちらかというと、命令されるから仕方なくといった様子で、違和感を感じざるおえなかった。 魔法使いたちは、糸が切れたかのようにその場でぐったりと倒れた。これが、死霊使《ネクロマンサー》いの能力なのかわからないが、死体を弄《もてあ》ぶ卑劣な行為には違いない。

 アイレが、二人に顔を向けてから、

「アイ、レッグ、お前らは……ほんとうにフェローのことを知らないのか?」

 ふたたび、同じ質問をした。この二人が、そんなに悪いようには見えなかった。

「フェロー……」
「知らないっていってるだろ、お前もしつこいな」

 レッグは怒っていたが、アイは違う感情を現した。淡々と無感情だった顔に少し変化を見せ、下を向いて考えこんでいる。

「アイレくん、シンドラの行方は? それに、フェローさんとクリアさんから何かありましたか?」
「いや、まだ何も手がかりは掴めていない」

 フェアは、すぐヴェルネルの身体を支えるために走っていた。龍でえぐられたはずの肩は何もダメージを受けていない。

「本当に、ここに、シンドラはいるのか?」

 アイレがヴェルネルに視線を変えた。

「それは間違いない。感知が使えれば……」

 全員の頭の中に、フェローとクリアのことが浮かぶ。
 そして、レッグはタメ息をつきながら、考えこんでいるアイをチラリと見てから視線を変えて、

「……そのフェローってのは俺たちの知り合いなのか?」

 先ほどまでとは違う、丁寧な物言いで質問をした。アイレは不思議そうに、

「そうだ。というか、記憶を失ってるのか? フェローはお前たちのことを嬉しそうに語っていたぞ」

 アイレの言う通り、あの後、フェローは珍しく饒舌《じょうせつ》に過去の話しをした。あんな笑顔は、今までみたことがないとクリアも話していた。
 仲間というのはいいもんだな、とぼそっと言った言葉が頭に残っている。

「……オレたち、昔の記憶がすっぽり抜けてるんだ。俺ともう一人アームっているんだが、アイはもっとひどい。自分の名前も時々忘れるんだよ」

 突然に、どこか性格が変わったかのように丁寧に話しはじめた。もしかして、カルムを殺したことが関係しているのかもしれない。

「会えば……何か思い出すかもしれない。俺とアイをフェローに会わせてくれないか?」

 どこかしおらし気にレッグは言った。グレースが怪訝《けげん》そうな顔をしていたが、インザームが、

「ふむ……。まぁよいじゃろう、じゃがワシたちはお前たちを信用しておらぬ。レムリをルチルを誘拐したのはそちらじゃろう?」
「いや……。俺たちは命令されていただけだ。うまく説明は出来ないけど……、頭の中でカルムの声が響くんだ。それで動いていたような……気がする」

 その言葉に補足するように、ヴェルネルが口を開いた。フェアが身体を支えてくれている。

「死霊使《ネクロマンサー》いは、文字通り死人を操ることができる。おそらく、その可能性はあるだろう」

 死人、自分たちに向けられた言葉に気づいて、レッグとアイが表情を曇らせる。何か事情がありそうだと、アイレもインザームに同意して、

「わかった。なら、そのアームってやつにも話を聞いた上で、フェローたちと合流しよう。ここの感知を遮ってる魔法具があるはずだが、場所わかるか?」

 するとここで、ようやくアイが口を開いて、

「……屋上、城のてっぺんに設置してたはずだよ」

 小さな声で、淡々と答えた。やはりアイも少し変わった気がする。感情の変化が乏しいのは、記憶がないと言っていたレッグの言葉と関係があるかもしれない。

「なら、俺たちもそこに向かおう、アイ、レッグ、何か変なことをしたら、容赦なく殺す」

 少しだけぶっきらぼうに、アイレは冷徹に注意した。もう仲間が殺されるのは見たくない。
 二人は頷くと、アズライトが脚を封じ込めていた氷だけを破壊した。
 グレースはやはり不機嫌なままで、納得していないようだったが、渋々了解してくれた。

 そしてアイレたちは、フェローたちを探しに、上に続く階段を探して走り出した。


 しかし、フェローたちはすでに城のてっぺん付近にたどり着いていた。城の瓦のような、少し平坦な場所で、二人の男と対峙している。

 一人は、アイレたちもよく知る人物。シェル。 フェローとクリアはその姿を見るやいなや、複雑な感情を抱いた。
 もう一人は、アイとレッグの仲間である、アームという少年。フェローの元戦友だが、やはりそれは覚えてない様子。

「シェル……」

 クリアが立っているその場所はとても高く、数メートル先を歩けば落下して死ぬ。その前には、シェルが立っている。
 その横でフェローもアームと対峙していて、少しだけ会話したが記憶はなく、お互いに戦闘態勢を取った。

「クリア、すまない。僕は……君を傷つけるつもりはなかった」

 シェルの言葉が、クリアの心を揺れ動かす。それならいっそ、ぶっきらぼうに冷たくしてくれるほうが、気持ちを切り替えることができた。
 そして、

「罠のことも、僕は知らなかったんだ。ただあそこで時間を稼いで、レムリさんを……誘拐しようとした。リンさんを殺したのも、ルチルを誘拐したのも、僕は……したくなかった」

 そのまま少しシェルは黙った。おそらく本当は本位ではなかったかもしれないが、事実は変わらない。

「だけど、僕はアクアを生き返らせたい。わかってくれとは言わないが、そのために全力を尽くすつもりだ」
「シェル……。私は、あなたを許さない。絶対にその行動は間違ってる。アクアさんが喜ぶはずがない」

 クリアは覚悟を決めて、魔法の杖をぎゅっと握りしめた。その横で、フェローが二人のやり取りを黙って見ていた。

「おーい! 俺のこと見えてるか?」

 赤髪の短髪、いかにも活発そうな声で、フェローの視線を集めるために手をぶんぶんと振る。レッグと比べても、少しだけ子供っぽく見える。
 しかしその姿は、フェローが知っているアームそのままで、昔からこうやって元気で皆に笑いを与えてくれた。過酷な環境の中でも、アームは皆の士気をあげてくれる人物だった。

「……お前、覚えてないのか?」
「はぁ? だから、さっきから何の話だ?」

 とぼけてるといった様子ではなく、本当に知らないといった呆れ顔だった。
 フェローもそれに驚くことはなく、こんなこともあるかもしれないと少しは想定していた。それに、戦う覚悟も決意も、はじめから持ち合わせている。

「なら、余計なことはもういいな、そこの魔法具に用がある。シンドラのお使いと話してる時間はねえ」

 フェローの視線の先には、少しだけ大きな蒼い宝石なものが先端についた、砂時計のようなものが置いてあった。おそらくアレが魔法具。

「はっ、まさか城の外を登ってくる奴がいるとはなぁ、シェルが想像した通りだぜ」

 アームは嬉しそうに笑って、腕をぶんぶんと振り回した。その魔力は計り知れない。

「無駄口を叩くのは昔から変わらないな」
「だから、知らねぇっつてんだろ――」

 アームは、危険な足場をものともせず、フェローに突進した。
 そして、その隣で、

「シェル、私はあなたを倒す。絶対に間違ってる」
「すまない、クリア。僕も、自分のために戦う」

 二人も、覚悟と決意を決めた。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編

神様、ちょっとチートがすぎませんか?

ななくさ ゆう
ファンタジー
【大きすぎるチートは呪いと紙一重だよっ!】 未熟な神さまの手違いで『常人の“200倍”』の力と魔力を持って産まれてしまった少年パド。 本当は『常人の“2倍”』くらいの力と魔力をもらって転生したはずなのにっ!!  おかげで、産まれたその日に家を壊しかけるわ、謎の『闇』が襲いかかってくるわ、教会に命を狙われるわ、王女様に勇者候補としてスカウトされるわ、もう大変!!  僕は『家族と楽しく平和に暮らせる普通の幸せ』を望んだだけなのに、どうしてこうなるの!?  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇  ――前世で大人になれなかった少年は、新たな世界で幸せを求める。  しかし、『幸せになりたい』という夢をかなえるの難しさを、彼はまだ知らない。  自分自身の幸せを追い求める少年は、やがて世界に幸せをもたらす『勇者』となる――  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 本文中&表紙のイラストはへるにゃー様よりご提供戴いたものです(掲載許可済)。 へるにゃー様のHP:http://syakewokuwaeta.bake-neko.net/ --------------- ※カクヨムとなろうにも投稿しています

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~

うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」  これしかないと思った!   自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。  奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。  得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。  直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。  このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。  そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。  アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。  助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。

【村スキル】で始まる異世界ファンタジー 目指せスローライフ!

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕の名前は村田 歩(ムラタアユム) 目を覚ますとそこは石畳の町だった 異世界の中世ヨーロッパの街並み 僕はすぐにステータスを確認できるか声を上げた 案の定この世界はステータスのある世界 村スキルというもの以外は平凡なステータス 終わったと思ったら村スキルがスタートする

独身貴族の異世界転生~ゲームの能力を引き継いで俺TUEEEチート生活

髙龍
ファンタジー
MMORPGで念願のアイテムを入手した次の瞬間大量の水に押し流され無念の中生涯を終えてしまう。 しかし神は彼を見捨てていなかった。 そんなにゲームが好きならと手にしたステータスとアイテムを持ったままゲームに似た世界に転生させてやろうと。 これは俺TUEEEしながら異世界に新しい風を巻き起こす一人の男の物語。

攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】

水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
【HOTランキング一位獲得作品】 【一次選考通過作品】 ---  とある剣と魔法の世界で、  ある男女の間に赤ん坊が生まれた。  名をアスフィ・シーネット。  才能が無ければ魔法が使えない、そんな世界で彼は運良く魔法の才能を持って産まれた。  だが、使用できるのは攻撃魔法ではなく回復魔法のみだった。  攻撃魔法を一切使えない彼は、冒険者達からも距離を置かれていた。 彼は誓う、俺は回復魔法で最強になると。  --------- もし気に入っていただけたら、ブクマや評価、感想をいただけると大変励みになります! #ヒラ俺 この度ついに完結しました。 1年以上書き続けた作品です。 途中迷走してました……。 今までありがとうございました! --- 追記:2025/09/20 再編、あるいは続編を書くか迷ってます。 もし気になる方は、 コメント頂けるとするかもしれないです。

無職が最強の万能職でした!?〜俺のスローライフはどこ行った!?〜

あーもんど
ファンタジー
不幸体質持ちの若林音羽はある日の帰り道、自他共に認める陽キャのクラスメイト 朝日翔陽の異世界召喚に巻き込まれた。目を開ければ、そこは歩道ではなく建物の中。それもかなり豪華な内装をした空間だ。音羽がこの場で真っ先に抱いた感想は『テンプレだな』と言う、この一言だけ。異世界ファンタジーものの小説を読み漁っていた音羽にとって、異世界召喚先が煌びやかな王宮内────もっと言うと謁見の間であることはテンプレの一つだった。 その後、王様の命令ですぐにステータスを確認した音羽と朝日。勇者はもちろん朝日だ。何故なら、あの魔法陣は朝日を呼ぶために作られたものだから。言うならば音羽はおまけだ。音羽は朝日が勇者であることに大して驚きもせず、自分のステータスを確認する。『もしかしたら、想像を絶するようなステータスが現れるかもしれない』と淡い期待を胸に抱きながら····。そんな音羽の淡い期待を打ち砕くのにそう時間は掛からなかった。表示されたステータスに示された職業はまさかの“無職”。これでは勇者のサポーター要員にもなれない。装備品やら王家の家紋が入ったブローチやらを渡されて見事王城から厄介払いされた音羽は絶望に打ちひしがれていた。だって、無職ではチートスキルでもない限り異世界生活を謳歌することは出来ないのだから····。無職は『何も出来ない』『何にもなれない』雑魚職業だと決めつけていた音羽だったが、あることをきっかけに無職が最強の万能職だと判明して!? チートスキルと最強の万能職を用いて、音羽は今日も今日とて異世界無双! ※カクヨム、小説家になろう様でも掲載中

処理中です...