老衰で死んだ僕は異世界に転生して仲間を探す旅に出ます。最初の武器は木の棒ですか!? 絶対にあきらめない心で剣と魔法を使いこなします!

菊池 快晴

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最後の戦い

第98話:覚悟を決める者たち

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 アイレたちから見て遥か前方、少しだけ高い岩の上から、シンドラは椅子に座って嬉しそうにゲームを眺めている。
 フェローとクリアは、シェルの複雑な歪んだ表情で、この仕業が間違いなくシンドラだということを察した。

 アクアは無言で笑みを浮かべると魔法の杖を構えている。

 シェルは過去のことを思い返していた。二人でカルレ村を飛び出し、冒険者になると誓った日。アクアに何があっても守ると伝えた。だが、炎の矢に心臓を貫かれ、約束を果たすことは出来なかった。それからフェローと出会い、弟子として修行を受けている間も、そのことが植物の根のように心に巻き付いていた。アクアにもう一度会いたい――

 そのとき、シンドラの甘い囁きに負けてしまう。アイレたちの時間を稼げと命令されたが、まさか魔物の大群を召喚するとは考えもしなかった。さらにはカルムがリンを殺してしまった際は、自身の過ちを後悔した。しかし戻ることはできない。悪魔に魂を売った自分は前に進むしかない。

 そして今、望み通りにアクアが目の前に立っている。

 しかしそれは、シンドラのただお遊び。フェローとクリアはそんなシェルの心中を察した。
 仲間への裏切りは到底許されるものではない。しかし、同じ釜の飯を食べた者として同情をしてしまう。

 一方でグレース。
 いつも頭の片隅にはロックがいた。幼いころ、命を助けられてからまるで親同然だった。善悪を教わり、むやみやたらに人を傷付けることはせず、傭兵としての誇りを大切にしていたロック。決して善人ではなかったが、根っからの悪人ではない。
 好きだった。そのことにようやく気が付いたが、時はすでに遅く気持ちを伝えることが出来なかった。シェルと同じく、グレースも心の中に根強く残っていた。
 ユークを殺したとしても復讐の心は潰《つい》えることなく、その矛先はヴェルネルに向けられた。しかし突然の出来事で怒りの方向を見失ってしまう。自身がどうしたらいいのか、苛立ちを隠せないままこの戦場に立っている。

「お前、太ったんじゃねえのか?」

 続けざま、ロックが生前のように皮肉を言う。しかし魔力と敵意は明らかに自分に向けられている。これは間違いなくシンドラの仕業で、数秒後にどうなるのかグレースは理解している。
 笑みを浮かべてロックに言い返す。

「……さぁね。そっちはやつれたか?」

 ロックは会話を求めているわけではなく、揺さぶりにきている。どうにか溢れる想いを落ち着かせた。

 同時にアズライトはずっと嫌な予感が拭えなかった。ここに転移されたとき、あの魔法にルチルを感じた。シンドラも転移魔法を使用できるが、微妙に違う。
 長年一緒にいたアズライトだけは、そんな些細なことに気が付いた。そして予感は見事に的中してしまう。

「ルチル……」

 空中で浮遊しているルチルが目の前に現れた。いつものほがらかな表情とは明らかに違う顔で敵意をこちらに向けている。死人として蘇ったのか、それとも操られているのか、アズライトは剣を構えた。

 ルチルは人を傷つけることを嫌っていた。転移魔法を使用しているのは、必要以上に何も傷つけたくないという願いが生んだ産物。生来高い魔力を有するエルフの中でも、特別な力を持ち合わせている。攻撃魔法を使用するのを見たことがあるのはたった一度だけ。

 それは唯一、過去にアズライトが魔物に襲われて命の危険が脅かされたとき、防御魔法では守れないと判断し、敵を消し去った。
 たとえ魔物でも攻撃するのを躊躇していたルチルがこちらに掌を向けている。その意味は十二分に理解した。

「絶対に許されることではありません」

 アズライトは、ルチルを一切侮ってはいない。少しでも油断をすれば自身の死は免れない。瞬《まばた》きすら許されないと、剣を構えたのだ。アイレ、インザーム、フェアは後ろから続いていたが、大型の魔物が邪魔をしていて動けなかった。

 そんな中、遠くでアクアがシェルに魔法を放っていた。懐かしい声が心を抉《えぐ》る。

「鋭く貫け、氷《グラース・》の矢《フレッシュ》」

 生前とは比べ物にならないほどの巨大な氷の矢が掌から放たれた。シェルはそれを呆然《ぼうぜん》と眺めている。直撃する瞬間、「バカ野郎」とフェローが勢いよく飛び出し、シェルの体を押し出した。
 そのまま二人とも地面に倒れるが、お構いなしにアクアはふたたび詠唱をはじめる。

「死ぬ気か! 何考えてるんだ!」

 フェローが激怒した。シェルの目には生気が一切なく、もうどうにでもなれと言った表情だ。
 そのままフェローが胸ぐらを掴み、シェルの体を少し持ち上げる。

「ぼさっとすんな!」
「一体……あんたに俺の気持ちのなにがわかるってんだよ……」

 そのときアクアが氷の矢をふたたび放つが、クリアが魔法防御を展開しつつ前に出る。直後、シェルに顔を向け、

「ばかシェル! アクアさんを二度も苦しめるな! このままでは間違いなく人を殺すよ! それでいいの!?」

 その言葉でシェルは、少しだけハッとした表情を浮かべ「僕は……」と口籠《くちご》もる。

 アクアは無言で、また詠唱をはじめた。フェローが、

「うるせえ! 誰だって躓《つまづ》く。立ち上がって前を向け! 好きな女に殺されるのがお前の望みか? なら死ね! そうじゃないなら戦え! 誰のために冒険者になろうと思ったんだ? 村のためか? 違うだろ!」

 いつにもなく素直な感情をぶつけた。クリアは武器を所持しておらず、今の魔法防御のせいで残った魔力をほとんど失った。もう何も出来ない。
 そして無情にもアクアは魔法を放った。

 しかし、シェルは立ち上がり、氷の矢を剣で弾いた。

「アクア、守れなくてごめん。――僕は君を助けるために戦う」

 折れた心を二人のおかげで繋ぎ合わせた。仲間を裏切った過去を取り消すことはできないが、これからの生き方は決めることが出来る。

 そしてアイレは大型の魔物に手こずっていたが、ようやく前に進むことが出来た。すると、アズライトの体が吹き飛んでくる。何とか受け止めることは出来たが、全身にダメージを負っているらしく呻《うめ》いている。

「大丈夫か?」
「彼女を……ルチルを……」

 前を向くと、ルチルが掌を翳《かざ》していた。アズライトを一撃で倒すほどの魔力を有している。レムリの体を乗っ取ったシンドラにも勝るとも劣らない――

「ねぇ、殺していい?」

 この世界ではじめてルチルと対面したとき、あの時はただインザームに守ってもらうしかなく地面に倒れていた。次は自分が守る番だと、インザームとフェアにアズライトの体を預けた。剣を構え、ルチルに真正面から距離を詰めた。

「ばいばい」

 ルチルが放った魔法は、今までのどんな攻撃よりも凄まじい威力をしていた。しかし直撃する前に神速《ディビーツ》を詠唱して躱《かわ》すと、横からルチルに攻撃を嗾《けしか》けた。
 空中に浮遊して避けられたものの、前回の恐怖を乗り越えられるほど険しい道を歩んできたのだ。

               to be continued



 
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