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最後の戦い
第97話:切望
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シンドラは最後に勢いよく叫ぶと、空中で手を振った。
それに対し、誰かが何かを叫んだが、瞬時に地面から魔法陣が現れた。
すぐに蒼い光が天まで立ち昇り、その周囲一帯を明るくさせた。眩しさで目もあけられないほどだったが、それが晴れると……。
大型の魔物と過去に滅ぼされた国の兵士たちが突然現れた。その場所は、アイレたち、各国の兵士たちから見て、前方約三百メートルほど。
それに気が付くと、今まで静かにしていた兵士や文句を言っていた全員が唾を飲む。
ここにいる誰もが、それなりの手練れだった。戦闘経験はもちろんのこと、一人でも魔物と戦える戦闘力を持ち合わせていた。そのため、今から何がはじまるのか、それを瞬時に理解した。
シンドラは浮遊していたが、そのままゆっくりと地面に向かってふわふわと落ちていった。そして着地すると、指をパチンと鳴らした。
すると、するすると地面から王の椅子のような物が出現した。それにドカっと座り、長い前髪をかき上げた。
シンドラの位置は、大型の魔物たちの遥か後方、そして、
「戦闘開始」
嬉しくてたまらないと言った表情を浮かべて、囁いた。その言葉に反応したのか、大型の魔物が大きな叫び声をあげると、猛スピードで突進した。それに続いて、滅ぼされたことのある国の兵士達も続いた。その眼は虚ろで真っ白で、カルムの命令を聞いていた魔法使いたちと同じ。
間違いなく、シンドラが操っている。そして全員が戦闘態勢を構えた。
「な、なんだあれは……」
アイレは驚きで声を漏らした。さらにその場にいるほとんどが恐怖で悲鳴をあげたが、覚悟を決めたものは真顔で敵を見据えた。まるで戦国時代の合戦のような戦いが今から始まる。正面から大きな軍勢が一つの塊となって真正面で動いている。その姿は、幾多の戦闘経験者ですら震え上がらせた。しかし、戦うしか道はない。
すると、その兵士達に紛れていたガルダスとアゲートがそれぞれ声をあげた。戦闘の指揮と全員の士気をあげるために。まずはガルダスが、
「恐れるな! あの魔法使いレムリはきっと魔物で偽物だ。俺たちは最高の兵士だ。いついかなる時でも戦えるように訓練をしたはずだ! 武器を持て、前を向け、今は何も考えるな、魔物を敵を殺せ,進め! 俺に着いてこい!」
誰よりも早く、一人駆けた。ルクレツィアの兵士たちは歓声をあげてそれに続いた。
そしてアゲートも少し遅れを取って、
「我らは誇り高きオストラバ王国の戦士。このような魔術の類に恐れるなかれ、騎士としての高みを目指して我らは精進してきた。今こそ、その力を見せるときだ。同じく、この戦いに説明は不要。敵は憎むべき魔物たち、いざ行かん!」
ガルダスの後に続いて、馬に乗って駆けた。他国の兵士たちも、それに続く。
アズライトはアゲートの存在に気づくと、少しだけ笑みを浮かべて続いて追いかけた。あの毅然とした態度が尊敬した父の姿。
そして、世話が焼けるぜ……。と舌打ちをしながら、グレースがアズライトを追い駆けた。
残されたアイレたちはすぐに顔を合わせた。この訳の分からない状態を、どうするかと話し合ってる時間はない。今、わかっていることはただ一つ、シンドラを殺さないといけないこと。レムリが元に戻るかどうかはわからない、だけど……。あの姿のまま好き勝手させるわけにはいかない。
「俺は行くぜ」
一言だけ発すると、アイレは駆けた。それに無言でインザーム、フェアも続く。
残されたフェローとクリアはゆっくり後を追った。レッグ、アーム、アイもやれやれと、フェローたちを追い駆ける。
「あいつはいつもこうだな……」
レッグは呆れて声を出した。アイもそうね、と答える。あーあ、俺たちっていつもこんな感じで振り回されてたよな、とアームも呟いて続いた。
そして、誰よりも早く駆けたアズライトの目に飛び込んできたのは……。一人の男だった。過去に一度だけ、ほんの少しだけだが会ったことがある。その理由は……。後ろから追い駆けてきているグレースが答えを知っていた。
グレースはアズライトが足を止めていることに眉をしかめつつ、ようやく追いついたと声をかけた。「おい、なにしてんだよ?」と問いかけたが、アズライトが見ている視線を追って、すぐに目を見開いた。するとその男が、グレースに声をかけてきた。
「よぉ、久しぶりじゃねえか」
その口調、その佇《たたず》まい、不精髭《ぶしょうひげ》から何まで。完全に記憶と一致する。
唾を飲み込んで、グレースが口を開いた。
「ロ……ック……」
するとロックはニヤリと笑い、魔力を漲らせて剣を構えた。そのオーラは生前の比ではないことをグレースだけは感じた。
その後ろで、同じように、フェローとクリアの前に、一人の少女が現れた。それはある男の子からよく聞かされていた特徴的な黒と白のローブに、幼い顔立ちで黒い髪の毛。
もしかして……と思ったとき、横から突然シェルが現れた。シンドラに転移魔法で呼ばれていたのか、それとも虎視眈々とこちら側の誰かを殺そうとしていたのか、二人にはわからなかった。ただ、シェルは力が抜けたように剣をだらんと下ろしている。その表情は明らかに歪んでいた。
シェルが、その少女の顔を懐かしむように見つめながら、
「アクア……」
と、囁いた。アクアは無言でロックと同じように笑みを浮かべると、戦闘態勢を構えた。懐かしい魔法の杖がシェルの心を刺すようにつついた。その様子を、フェローとクリアは呆然《ぼうぜん》と眺めた。本物か、それとも偽物か、しかし恐らく答えは一つ。
シンドラの仕業だということだけは、間違えようがなかった。
それに対し、誰かが何かを叫んだが、瞬時に地面から魔法陣が現れた。
すぐに蒼い光が天まで立ち昇り、その周囲一帯を明るくさせた。眩しさで目もあけられないほどだったが、それが晴れると……。
大型の魔物と過去に滅ぼされた国の兵士たちが突然現れた。その場所は、アイレたち、各国の兵士たちから見て、前方約三百メートルほど。
それに気が付くと、今まで静かにしていた兵士や文句を言っていた全員が唾を飲む。
ここにいる誰もが、それなりの手練れだった。戦闘経験はもちろんのこと、一人でも魔物と戦える戦闘力を持ち合わせていた。そのため、今から何がはじまるのか、それを瞬時に理解した。
シンドラは浮遊していたが、そのままゆっくりと地面に向かってふわふわと落ちていった。そして着地すると、指をパチンと鳴らした。
すると、するすると地面から王の椅子のような物が出現した。それにドカっと座り、長い前髪をかき上げた。
シンドラの位置は、大型の魔物たちの遥か後方、そして、
「戦闘開始」
嬉しくてたまらないと言った表情を浮かべて、囁いた。その言葉に反応したのか、大型の魔物が大きな叫び声をあげると、猛スピードで突進した。それに続いて、滅ぼされたことのある国の兵士達も続いた。その眼は虚ろで真っ白で、カルムの命令を聞いていた魔法使いたちと同じ。
間違いなく、シンドラが操っている。そして全員が戦闘態勢を構えた。
「な、なんだあれは……」
アイレは驚きで声を漏らした。さらにその場にいるほとんどが恐怖で悲鳴をあげたが、覚悟を決めたものは真顔で敵を見据えた。まるで戦国時代の合戦のような戦いが今から始まる。正面から大きな軍勢が一つの塊となって真正面で動いている。その姿は、幾多の戦闘経験者ですら震え上がらせた。しかし、戦うしか道はない。
すると、その兵士達に紛れていたガルダスとアゲートがそれぞれ声をあげた。戦闘の指揮と全員の士気をあげるために。まずはガルダスが、
「恐れるな! あの魔法使いレムリはきっと魔物で偽物だ。俺たちは最高の兵士だ。いついかなる時でも戦えるように訓練をしたはずだ! 武器を持て、前を向け、今は何も考えるな、魔物を敵を殺せ,進め! 俺に着いてこい!」
誰よりも早く、一人駆けた。ルクレツィアの兵士たちは歓声をあげてそれに続いた。
そしてアゲートも少し遅れを取って、
「我らは誇り高きオストラバ王国の戦士。このような魔術の類に恐れるなかれ、騎士としての高みを目指して我らは精進してきた。今こそ、その力を見せるときだ。同じく、この戦いに説明は不要。敵は憎むべき魔物たち、いざ行かん!」
ガルダスの後に続いて、馬に乗って駆けた。他国の兵士たちも、それに続く。
アズライトはアゲートの存在に気づくと、少しだけ笑みを浮かべて続いて追いかけた。あの毅然とした態度が尊敬した父の姿。
そして、世話が焼けるぜ……。と舌打ちをしながら、グレースがアズライトを追い駆けた。
残されたアイレたちはすぐに顔を合わせた。この訳の分からない状態を、どうするかと話し合ってる時間はない。今、わかっていることはただ一つ、シンドラを殺さないといけないこと。レムリが元に戻るかどうかはわからない、だけど……。あの姿のまま好き勝手させるわけにはいかない。
「俺は行くぜ」
一言だけ発すると、アイレは駆けた。それに無言でインザーム、フェアも続く。
残されたフェローとクリアはゆっくり後を追った。レッグ、アーム、アイもやれやれと、フェローたちを追い駆ける。
「あいつはいつもこうだな……」
レッグは呆れて声を出した。アイもそうね、と答える。あーあ、俺たちっていつもこんな感じで振り回されてたよな、とアームも呟いて続いた。
そして、誰よりも早く駆けたアズライトの目に飛び込んできたのは……。一人の男だった。過去に一度だけ、ほんの少しだけだが会ったことがある。その理由は……。後ろから追い駆けてきているグレースが答えを知っていた。
グレースはアズライトが足を止めていることに眉をしかめつつ、ようやく追いついたと声をかけた。「おい、なにしてんだよ?」と問いかけたが、アズライトが見ている視線を追って、すぐに目を見開いた。するとその男が、グレースに声をかけてきた。
「よぉ、久しぶりじゃねえか」
その口調、その佇《たたず》まい、不精髭《ぶしょうひげ》から何まで。完全に記憶と一致する。
唾を飲み込んで、グレースが口を開いた。
「ロ……ック……」
するとロックはニヤリと笑い、魔力を漲らせて剣を構えた。そのオーラは生前の比ではないことをグレースだけは感じた。
その後ろで、同じように、フェローとクリアの前に、一人の少女が現れた。それはある男の子からよく聞かされていた特徴的な黒と白のローブに、幼い顔立ちで黒い髪の毛。
もしかして……と思ったとき、横から突然シェルが現れた。シンドラに転移魔法で呼ばれていたのか、それとも虎視眈々とこちら側の誰かを殺そうとしていたのか、二人にはわからなかった。ただ、シェルは力が抜けたように剣をだらんと下ろしている。その表情は明らかに歪んでいた。
シェルが、その少女の顔を懐かしむように見つめながら、
「アクア……」
と、囁いた。アクアは無言でロックと同じように笑みを浮かべると、戦闘態勢を構えた。懐かしい魔法の杖がシェルの心を刺すようにつついた。その様子を、フェローとクリアは呆然《ぼうぜん》と眺めた。本物か、それとも偽物か、しかし恐らく答えは一つ。
シンドラの仕業だということだけは、間違えようがなかった。
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