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112.字が書けるということ

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下は6歳から上は40歳までの生徒が学ぶ『寺子屋フジヤマ』

今日は50音の書き取りと朗読を行っている。


このアルヴィエール王国は、文字はカタカナを使用している。
東の国は漢字と平仮名を使用しているので、より日本に近いのが東の国なのである。


『ホタル ガ トンデ ヰマス アチラ ニモ、コチラ ニモ、ホタル ヲ ヨブ コヱ ガ シマス』

みんなで教科書の文を音読する。


イザックは、2回音読をさせると、最後に自分の名前をノートに書くように言った。

みんな、50音の表を見ながら、一生懸命に書き写している。

「せんせい~わかんなくなっちゃった~」
最年少の生徒が手を挙げる。

「はい。どこですか?」
イザックは、生徒の横でノートを覗き込み、
「先生がお手本を書きます」
と言って、『マルコ』と少し大き目にお手本を書いた。

「ノートに大きく書いていいんだよ。君の名前を」
「いいの?こんなに上等なものに書いても……」
「いいんだよ。さぁ、書いてみよう」

マルコはお手本を見ながら、なんとか書き写す。
「あってる?」
「あってるよ」
良かったと微笑むマルコを見て、イザックは可愛らしく思った。

「先生!俺もいいかい?」
今度は最年長のシモンが手を挙げた。
「はい!今行きます!」

イザックがシモンの席まで行くと
「先生よ、俺の名前はこれであってるかい?」
「シの点をもう少し縦に並べて書いた方がいいですね。これだとツモンなので、シモンと書きましょう」
「分かった」

一生懸命書くシモン。
「いいですね。あってます」
シモンは、ホッとした顔を見せる。

「先生よ、マリアってのは、どう書くんだ?この『マ』と『ア』の違いが俺には分かんねえんだよ」

「これは確かに難しいんですよ」
そう言って、イザックは黒板に
『マ』と『ア』を書いた。

「マは、最後の一角は点のように、斜めに下がるように少し短めに書きます。アは、最後の一角はノを書く感じですね。角度はあまりつけずにまっすぐに書いて、終わりをはらう感じです」
イザックは全員に説明をすると、シモンの元へ戻った。

「どうですか?今の説明で、違いが分かりましたか?」
「あぁ、『マリア』どうだ?」
「いいですね!あってます」

「そうか」
シモンは嬉しそうにもう一度『マリア』と書いた。


「どなたのお名前ですか?」
「嫁の名前なんだ。俺らは二人とも字の読み書きができないからな。これで、嫁にも教えてやれる」

そう言ってシモンはもう一度『シモン』『マリア』と書いた。


イザックは熱いものが込み上げてくるのを感じた。

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