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Case04.
12.ジェシカが食堂で働くことになった理由
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「ジェシカはなんで食堂で働こうと思ったの?」
マリアさんが訊いた。
そういえば、誰にも聞かれたことなかったし、言ったこともなかったな。
「住むところも、働くところも無くなったので、王都に出てきて、寮があって学歴を問わないところを探していて、見つけました」
「住むところがなくなったの?」
「はい。父が領地を手放したので。借金が返せずに」
主任とパトリックさんが顔を見合わせる。
「ジェシカ。お前、貴族なの?」
パトリックが言った。
「は、はい。一応……でも、さっきも言ったように、領地を手放して父も兄も、今は文官として働いていますし、ずっと貧しくて、私は学園にも通えずに、ずっと領地で畑仕事をして暮らしていたので……そもそも貴族といえるものは何も無くて、籍だけですかね。貴族なのは……」
私はパトリックさんの顔も、主任の顔も見れなくて、俯いて、ポツポツと話すのが精一杯だった。
「そうだったの。あなた、貴族なのね」
マリアさんが優しく言う。
「没落しましたけど」
私が貴族らしかったことなんて、一度も無いのに。
「そうか……そうだったのか。じゃあ、今は父君や兄君とは連絡を取っていないのか?」
パトリックさんも優しく訊いてくる。
「もともと、対人スキルゼロのふたりなので、私のことなんて、忘れてるんだと思いますよ」
領地を離れると決まったとき、父は自分の職だけを、決めてきて、お前はどうするんだ?と言ったのだ。どうするんだ?って……こっちが訊きたいよ!私はどうなるの?どうしたらいいの?って!
「対人スキルゼロって……」
パトリックさんが苦笑いする。
と、黙って聞いていた主任がつぶやいた。
「対人スキルゼロの文官。没落貴族のセシル……」
再びパトリックさんと主任が顔を見合わせる。
「ジェシカ・セシル。あなたのお兄さんはいくつ?」
主任が訊いた。
「兄は私の5つ上なので26歳です」
「王都の学園には通ってた?」
「通ってました。優秀な成績だったそうです。本当かどうかは、知りませんけど」
「お兄さんの名前って?」
「ケヴィンです。ケヴィン・セシル」
「ジェシカ!お前、ケヴィンの妹なのか!!」
とパトリックさんは大きな声で言った。
「兄を知ってるんですか?」
私は恐る恐る訊いた。
兄がパトリックさんに多額の借金をしていたら、どうしよう……
「知ってるもなにも、私たち同級生よ」
「ケヴィンは首席で卒業して、文官として働きながら、上級学院で学んだ秀才だよ」
主任とパトリックさんが兄について知っているのが不思議な感じだ。
そうか、本当に兄は優秀な人だったんだな。
「そうなんですね。私、兄が優秀だというのは、領民たちの嘘なんだと思っていました」
「嘘?」
マリアさんが聞き返した。
「はい。兄がそんなに優秀なら、どうして領民たちもみな貧しいんだろうって。みんな、兄は王都で優秀な成績で頑張っているんだから、きっとそのうち楽になる。豊かになるって、そう言ってたけど、結局豊かにはならなかったし。きっと嘘だったんだって。みんな夢をみたかっただけなんだってそう……思ってました」
マリアさんが訊いた。
そういえば、誰にも聞かれたことなかったし、言ったこともなかったな。
「住むところも、働くところも無くなったので、王都に出てきて、寮があって学歴を問わないところを探していて、見つけました」
「住むところがなくなったの?」
「はい。父が領地を手放したので。借金が返せずに」
主任とパトリックさんが顔を見合わせる。
「ジェシカ。お前、貴族なの?」
パトリックが言った。
「は、はい。一応……でも、さっきも言ったように、領地を手放して父も兄も、今は文官として働いていますし、ずっと貧しくて、私は学園にも通えずに、ずっと領地で畑仕事をして暮らしていたので……そもそも貴族といえるものは何も無くて、籍だけですかね。貴族なのは……」
私はパトリックさんの顔も、主任の顔も見れなくて、俯いて、ポツポツと話すのが精一杯だった。
「そうだったの。あなた、貴族なのね」
マリアさんが優しく言う。
「没落しましたけど」
私が貴族らしかったことなんて、一度も無いのに。
「そうか……そうだったのか。じゃあ、今は父君や兄君とは連絡を取っていないのか?」
パトリックさんも優しく訊いてくる。
「もともと、対人スキルゼロのふたりなので、私のことなんて、忘れてるんだと思いますよ」
領地を離れると決まったとき、父は自分の職だけを、決めてきて、お前はどうするんだ?と言ったのだ。どうするんだ?って……こっちが訊きたいよ!私はどうなるの?どうしたらいいの?って!
「対人スキルゼロって……」
パトリックさんが苦笑いする。
と、黙って聞いていた主任がつぶやいた。
「対人スキルゼロの文官。没落貴族のセシル……」
再びパトリックさんと主任が顔を見合わせる。
「ジェシカ・セシル。あなたのお兄さんはいくつ?」
主任が訊いた。
「兄は私の5つ上なので26歳です」
「王都の学園には通ってた?」
「通ってました。優秀な成績だったそうです。本当かどうかは、知りませんけど」
「お兄さんの名前って?」
「ケヴィンです。ケヴィン・セシル」
「ジェシカ!お前、ケヴィンの妹なのか!!」
とパトリックさんは大きな声で言った。
「兄を知ってるんですか?」
私は恐る恐る訊いた。
兄がパトリックさんに多額の借金をしていたら、どうしよう……
「知ってるもなにも、私たち同級生よ」
「ケヴィンは首席で卒業して、文官として働きながら、上級学院で学んだ秀才だよ」
主任とパトリックさんが兄について知っているのが不思議な感じだ。
そうか、本当に兄は優秀な人だったんだな。
「そうなんですね。私、兄が優秀だというのは、領民たちの嘘なんだと思っていました」
「嘘?」
マリアさんが聞き返した。
「はい。兄がそんなに優秀なら、どうして領民たちもみな貧しいんだろうって。みんな、兄は王都で優秀な成績で頑張っているんだから、きっとそのうち楽になる。豊かになるって、そう言ってたけど、結局豊かにはならなかったし。きっと嘘だったんだって。みんな夢をみたかっただけなんだってそう……思ってました」
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