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若き龍の目醒め 4
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と、ここでまた九郎の視界がブレていく。再び、視界が晴れたときには、玖朗は林の中にいた。うっそうと緑が生い茂る林の中で、玖朗は着物にたすきをかけ、腕を組みながら棒立ちして、一見無防備に見えるが、いつ襲われてもいいよう警戒の体勢は解かない。
「かくれんぼはもうよさないか?」
目の前には草と木しかない、自分しかいないその空間に、誰ともなく問いかける。
その声に反応したのかはわからないが、玖朗より少し離れた正面の木の陰から、一人の浪人が玖朗の前に現れた。
浪人は編み笠をかぶり、伊達袴(だてはかま)を着た中肉中背の男だった。その腰には刀を帯びている。その顔は西洋の白い仮面が覆っている。
その両目は大きく上に湾曲しており、口元は頬のあたりまで大きく裂けている。まるで笑っているようだ。
だが、最も奇妙なのは、その男には生気を全くと言っていいほど感じられないことだ。
まるで幽霊や死人と対峙しているかのように思えてくる。
「貴様か?元新撰組の隊士を殺していっているのは。何が目的だ?」
「……」
仮面の男は玖朗の問いかけに答えず、ジッと玖朗を見据えている。数秒、あるいは数分にも感じられた両者の沈黙は、仮面の男が刀を鞘から抜き放ち、玖朗に向かって駆け出したことで破られた。
「問答無用、か」
一度、ため息をつき玖朗は仮面の男を迎え撃つ。刀を上段に構え、玖朗に向かって、突っ込んでくる仮面男。
玖朗は両足を肩幅まで開いて右半身になり、両腕を胸の前まであげ、両手を開いて少しだけ指を曲げて構える。
「チェストォォォォォォォォォォ!!」
気合いとともに、仮面男は上段に構えた刀を、もの凄い速さで振り下ろす。唸りを上げて眼前に迫る死の刃を、玖朗は避けようとはせず、むしろ相手の懐に身を屈めて飛び込み、がら空きになった仮面男のあごに右掌底を食らわせた。
自分の攻撃の衝撃をもろに返された、仮面の男は倒れはしないものの数歩後ずさり、よろめく。
すかさず玖朗は、仮面男のみぞおちに思い切り、蹴りを叩き込む。後ろに吹っ飛ぶ仮面男。後ろの木の幹に背中を打ち付け、力なく木の幹に寄りかかる形で、座り込む仮面男。手に持っていた刀は傍らに落としている。
「示現流か……」
倒れ込んだ仮面男に近づきながら、声をかける玖朗。
「斬られる前に一発顔に拳打を打ち込めば、無刀とてどうということはない」
まぁ、達人が相手ならそうはいかないが、と言いながら、仮面男のそばに落ちている刀を拾い上げ、その喉元に刃を突きつける。
「言え、目的は何だ?それとも誰かに頼まれたのか?」
仮面男の胸ぐらを左手で掴み、体を起こさせ、右手に持った刀を相手の顔に近づけて冷たい眼で問いただす。
「……」
だが相手は玖朗の脅しにも、動じず黙っている。
「だんまりか、まぁいい。これに懲りてもう二度とここへは近づくな。次は容赦なく殺す」
胸ぐらを掴んだ手を離し、玖朗は踵を返して仮面男から去っていく背を向けて去っていく玖朗。
少し離れたところで、急に仮面男は玖朗に飛びかかり、左手に隠し持った小刀で、玖朗の首筋を狙う。
『危ないっ!!』
《玖朗》の中にいる《九郎》が思わず声を上げてしまう。
だが玖朗はそうなることがわかっていたかのように右手に持った刀を振り向き様に横に振るい、男の顔面を仮面ごと叩き割った。
血を吹き出しながら、前のめりに倒れる仮面男。
その様子を哀れむように見つめる玖朗。
「愚かな……」
そう呟き、手を合わせて男の冥福を祈る。しかし、玖朗は男の死体がおかしいことに気が付く。
血溜まりの中で倒れ、頭から血を流して息絶えていた男の赤い血の中に混じって、何か水銀のような液体が流れ出ている。もちろん人間の体にはそんな体液は存在しない。変に思った玖朗は男の体を調べ始めた。
すると、斬られた頭の中は空洞で、そこから奇妙な物体が転がり落ちてきた。
それは黒く正四角錐……ピラミッド型の形をした物体だった。
大きさは両手より少し大きいぐらいで、持つとズッシリと重い。何より異様なのは、その四角錐の四つの面の中央に大きな赤い目玉の飾りがついていた。
玖朗は立ち上がって、そのピラミッド型の物体を拾い上げて観察していると突然、その四つの目玉が動き、ギョロリと玖朗を見た。
驚いてピラミッドを投げ捨てる玖朗。
(生きている……?)
そう、玖朗の持っていたそのピラミッド型のは、ただの物体ではなく生きていた。放り投げられたピラミッドは近くの木にぶつかり、草むらに転がり落ちる。
そして地面に落ちたピラミッドの赤い目玉が、急に光を放ち、そこかしこから細い管のようなものが伸び、右に左にと蠢き始めた。細い管は何かを探すかのように宙をさまよっている。
何秒か宙をさまよった後、玖朗の存在に気が付いたかのように宙に浮いている。すると突然、もの凄いスピードで玖朗に向かって管を伸ばしてきた。
「――――っ!?」
驚いた玖朗は飛び退き、右手に持っていた刀を投げた。刀はまっすぐに飛んでいきピラミッドの赤い目玉へと突き刺さる。
突き刺されたピラミッドは黒い煙を上げて、仮面男の血に混じっていたのと同じ、水銀のような液体を、草むらに垂れ流しながら、耳障りな騒音をまき散らした後、沈黙した。
逆ピラミッドの動きが、完全に止まったのを確認して、玖朗は体から力を抜いて構えを解く。だが周囲の気配への警戒は怠らずに、自分の後方に生えていた大きな木にもたれかかる。
「………」
体にどっと疲労が襲いかかる。誰かに命を狙われることは、新撰組にいた頃からイヤと言うほど経験しているため慣れてはいたが、さすがに何ヶ月も安穏な日々を送り、剣を握っていなかったため肉体よりも精神的な疲労が激しい。
玖朗は自分より少し離れて、息絶えている男に視線を向けた。
(こいつが沖田さん達を殺した犯人なのか?)
それならばもう心配はないが、まだ終わっていない気がする。弱すぎる。
もう現役ではないとはいえ、殺されたのはいずれも並ぶ者のいない剣の達人たちだ。この程度の敵に遅れを取るはずがない。
(まだ、終わっていない……?)
顔を上に向けると、空は夕焼けで朱く染まり、カラスが鳴いていた。
「帰るか」
玖朗は呟いて、もたれかかった木から体を離し、雪の待つ自宅へと帰っていった。
『玖朗』の中で一連の流れを視ていた『九郎』も驚いていた。特に、あの黒いピラミッド型をした謎の物体。
あれはこの時代の物ではない。
それどころか九郎の現実世界にだって存在しない。このように生き物と、機械を融合させるなど、最先端の技術をもってしても不可能だ。
『一体、何が起きているんだ……?』
ここは自分の『夢』の中で、現実とは違う世界なんだとわかってはいても、真剣に考えてしまう。
と、考え込んでいる九郎の目の前の、『視界』がまたまたブレて、再び場面が移り変わる。
『またかよ……』
次第に慣れつつある視界のブレを冷静に受け止め、次の場面を待つ九郎。これから視る夢こそが、九郎自身の運命を変えるきっかけになるとは思いもせずに……。
「かくれんぼはもうよさないか?」
目の前には草と木しかない、自分しかいないその空間に、誰ともなく問いかける。
その声に反応したのかはわからないが、玖朗より少し離れた正面の木の陰から、一人の浪人が玖朗の前に現れた。
浪人は編み笠をかぶり、伊達袴(だてはかま)を着た中肉中背の男だった。その腰には刀を帯びている。その顔は西洋の白い仮面が覆っている。
その両目は大きく上に湾曲しており、口元は頬のあたりまで大きく裂けている。まるで笑っているようだ。
だが、最も奇妙なのは、その男には生気を全くと言っていいほど感じられないことだ。
まるで幽霊や死人と対峙しているかのように思えてくる。
「貴様か?元新撰組の隊士を殺していっているのは。何が目的だ?」
「……」
仮面の男は玖朗の問いかけに答えず、ジッと玖朗を見据えている。数秒、あるいは数分にも感じられた両者の沈黙は、仮面の男が刀を鞘から抜き放ち、玖朗に向かって駆け出したことで破られた。
「問答無用、か」
一度、ため息をつき玖朗は仮面の男を迎え撃つ。刀を上段に構え、玖朗に向かって、突っ込んでくる仮面男。
玖朗は両足を肩幅まで開いて右半身になり、両腕を胸の前まであげ、両手を開いて少しだけ指を曲げて構える。
「チェストォォォォォォォォォォ!!」
気合いとともに、仮面男は上段に構えた刀を、もの凄い速さで振り下ろす。唸りを上げて眼前に迫る死の刃を、玖朗は避けようとはせず、むしろ相手の懐に身を屈めて飛び込み、がら空きになった仮面男のあごに右掌底を食らわせた。
自分の攻撃の衝撃をもろに返された、仮面の男は倒れはしないものの数歩後ずさり、よろめく。
すかさず玖朗は、仮面男のみぞおちに思い切り、蹴りを叩き込む。後ろに吹っ飛ぶ仮面男。後ろの木の幹に背中を打ち付け、力なく木の幹に寄りかかる形で、座り込む仮面男。手に持っていた刀は傍らに落としている。
「示現流か……」
倒れ込んだ仮面男に近づきながら、声をかける玖朗。
「斬られる前に一発顔に拳打を打ち込めば、無刀とてどうということはない」
まぁ、達人が相手ならそうはいかないが、と言いながら、仮面男のそばに落ちている刀を拾い上げ、その喉元に刃を突きつける。
「言え、目的は何だ?それとも誰かに頼まれたのか?」
仮面男の胸ぐらを左手で掴み、体を起こさせ、右手に持った刀を相手の顔に近づけて冷たい眼で問いただす。
「……」
だが相手は玖朗の脅しにも、動じず黙っている。
「だんまりか、まぁいい。これに懲りてもう二度とここへは近づくな。次は容赦なく殺す」
胸ぐらを掴んだ手を離し、玖朗は踵を返して仮面男から去っていく背を向けて去っていく玖朗。
少し離れたところで、急に仮面男は玖朗に飛びかかり、左手に隠し持った小刀で、玖朗の首筋を狙う。
『危ないっ!!』
《玖朗》の中にいる《九郎》が思わず声を上げてしまう。
だが玖朗はそうなることがわかっていたかのように右手に持った刀を振り向き様に横に振るい、男の顔面を仮面ごと叩き割った。
血を吹き出しながら、前のめりに倒れる仮面男。
その様子を哀れむように見つめる玖朗。
「愚かな……」
そう呟き、手を合わせて男の冥福を祈る。しかし、玖朗は男の死体がおかしいことに気が付く。
血溜まりの中で倒れ、頭から血を流して息絶えていた男の赤い血の中に混じって、何か水銀のような液体が流れ出ている。もちろん人間の体にはそんな体液は存在しない。変に思った玖朗は男の体を調べ始めた。
すると、斬られた頭の中は空洞で、そこから奇妙な物体が転がり落ちてきた。
それは黒く正四角錐……ピラミッド型の形をした物体だった。
大きさは両手より少し大きいぐらいで、持つとズッシリと重い。何より異様なのは、その四角錐の四つの面の中央に大きな赤い目玉の飾りがついていた。
玖朗は立ち上がって、そのピラミッド型の物体を拾い上げて観察していると突然、その四つの目玉が動き、ギョロリと玖朗を見た。
驚いてピラミッドを投げ捨てる玖朗。
(生きている……?)
そう、玖朗の持っていたそのピラミッド型のは、ただの物体ではなく生きていた。放り投げられたピラミッドは近くの木にぶつかり、草むらに転がり落ちる。
そして地面に落ちたピラミッドの赤い目玉が、急に光を放ち、そこかしこから細い管のようなものが伸び、右に左にと蠢き始めた。細い管は何かを探すかのように宙をさまよっている。
何秒か宙をさまよった後、玖朗の存在に気が付いたかのように宙に浮いている。すると突然、もの凄いスピードで玖朗に向かって管を伸ばしてきた。
「――――っ!?」
驚いた玖朗は飛び退き、右手に持っていた刀を投げた。刀はまっすぐに飛んでいきピラミッドの赤い目玉へと突き刺さる。
突き刺されたピラミッドは黒い煙を上げて、仮面男の血に混じっていたのと同じ、水銀のような液体を、草むらに垂れ流しながら、耳障りな騒音をまき散らした後、沈黙した。
逆ピラミッドの動きが、完全に止まったのを確認して、玖朗は体から力を抜いて構えを解く。だが周囲の気配への警戒は怠らずに、自分の後方に生えていた大きな木にもたれかかる。
「………」
体にどっと疲労が襲いかかる。誰かに命を狙われることは、新撰組にいた頃からイヤと言うほど経験しているため慣れてはいたが、さすがに何ヶ月も安穏な日々を送り、剣を握っていなかったため肉体よりも精神的な疲労が激しい。
玖朗は自分より少し離れて、息絶えている男に視線を向けた。
(こいつが沖田さん達を殺した犯人なのか?)
それならばもう心配はないが、まだ終わっていない気がする。弱すぎる。
もう現役ではないとはいえ、殺されたのはいずれも並ぶ者のいない剣の達人たちだ。この程度の敵に遅れを取るはずがない。
(まだ、終わっていない……?)
顔を上に向けると、空は夕焼けで朱く染まり、カラスが鳴いていた。
「帰るか」
玖朗は呟いて、もたれかかった木から体を離し、雪の待つ自宅へと帰っていった。
『玖朗』の中で一連の流れを視ていた『九郎』も驚いていた。特に、あの黒いピラミッド型をした謎の物体。
あれはこの時代の物ではない。
それどころか九郎の現実世界にだって存在しない。このように生き物と、機械を融合させるなど、最先端の技術をもってしても不可能だ。
『一体、何が起きているんだ……?』
ここは自分の『夢』の中で、現実とは違う世界なんだとわかってはいても、真剣に考えてしまう。
と、考え込んでいる九郎の目の前の、『視界』がまたまたブレて、再び場面が移り変わる。
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