ドラゴン・ゾルダード~二つの魂~

ばくだんいわ

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若き龍の目醒め 8

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 玖朗は力なく倒れる雪を両腕で抱き止める。まだ息は微かに残っているが、その姿は悲惨だった。
 着ていた着物は自身の血で真っ赤に染め上がり、体中が銃弾で穿たれ、もう長く保ちそうにない。
 だが、家から逃げる際に持って出たあの細長い包みだけはしっかりと握りしめていた。

「……雪!しっかりしろ!?今、医者に連れて行ってやる!!だから……!」

 もう長くは保たないとわかっていてもそう言わずにはいられない。この現実を認められない。

「……」

 玖朗の呼びかけに反応したのか、微かに雪は目を開ける。もうその瞳には何も写してはいない。

「……く……ろぅ……ま……」


 玖朗の名前を呼び、雪は最後の力を振り絞り、左手に持った細長い包みを渡そうとする雪。その少しだけ上げた左手をしっかりと握り、その包みを受け取る玖朗。
 見てみると、中から一振りの刀が顔を覗かせていた。
 刀を渡せたことに満足したのか、微笑みながら、口を動かし何かを言おうとするが、声が出ない。

「もういいっ!!しゃべるな!」

 涙を流し、雪に抱きすがる玖朗。

「死ぬなっ!二人で東京に遊びに行くんだろっ!?洋服を着たいんだろう!?だったら死ぬな!!」
 
 雪の手を握り、抱き締め、泣き叫ぶ。
 一瞬だけ、雪は玖朗の手を握り返し、そして……。




 雪の瞳から、命の光が消えた。




「……おい?雪?雪っ!?返事してくれっ!!なぁ!?」

 何度も、何度も雪の体を揺さぶるが、もう雪は玖朗の声に応えることはなかった。
 悲しみの咆哮が夜空に轟く。




 雪が死んだ。

 ゆきがしんだ。

 ユキガシンダ。


 この言葉が受け入れらんない。
 心がそれを認めようとしない。認められない。認めたくない。


 玖朗の脳裏に、雪との想い出が駆け巡る。


 会いに行けば笑顔で出迎えてくれた。

 結婚を申し込んだら涙を流し、承諾してくれた。

 自分が迷えば、それを叱りつけ、慰めてくれた。

 手鏡を買ってやれば、子供のように喜んでくれた。

 敵に襲われれば、一緒に戦うと言ってくれた。


 そして、自分を愛してくれた。




 許せない……。

 赦せない……!

 ゆるせない……!!

 ユルセナイ……!!!





 玖朗は、雪の亡骸をソッと地面に寝かせ、光りの失ったまま見開いた瞳を閉じてやり、自分の傷の痛みも無視して立ち上がり、これまでにない怒りの表情で、仮面の男たちを睨みつける。
 そして感情を剥き出しにしたまま、刀を抜き、男たちに挑みかかる。
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