ドラゴン・ゾルダード~二つの魂~

ばくだんいわ

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若き龍の目醒め 11

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「沙耶、おっそーい……って、九郎くんも一緒だったんだ?おはよー!」

 出迎えたのは、クラスメートで本日、日直の馬野 杏だった。トレードマークのポニーテールをポンポンと揺らしながら教室に着いた二人に挨拶をする。

「おはよう。朝から元気だな、馬野は」

 九郎も挨拶をする。

「当然!つーか沙耶ぁ~、あんた……」

「ちっ、違うよ!駅でたまたま会っただけっ!そんなんじゃ……」

 眼鏡の奥の瞳が急に泳ぎはじめ、沙耶は真っ赤な顔で杏に反論する

「またまたぁ~、あんたも見かけによらず……ねぇ~?」

「そんなんじゃないったらっ!」

「……?」



 杏と沙耶の二人が、何か言い合っていたが、いつものじゃれあいだろうと思い、かまわず九郎は自分の席に座る。
 自分のカバンから、教科書やらノートを机にしまっていると、親友の鴻二が九郎の後ろから、羽交い締めにしてきた。

「オィッス、九郎!朝から役得じゃねぇか!?」

「ん、何が?」

 鴻二の言っている意味がわからず聞き返す九郎。

「いや、だから、ほら、兵藤と……ね?」

「言ってる意味がわからないよ死ねカス」

「ひどくねっ!?ってあれ?九郎」

「ん?」

「お前のその右手の甲、痣なんかあったっけ?怪我したのか?」

 親友のキツい返事に全力でツッコもうとした鴻二が九郎の右手の甲に巻かれた包帯に気が付く。九郎が朝、目立たないようにと包帯で隠したのだ

「あ、あぁ……朝起きたときに寝ぼけてぶつけたみたいでさ。大したことないよ」

 九郎は慌てて右手を隠して適当に返事をした。朝起きて気が付いたらこの変な痣があったなんて言ったら、変な目で見られてしまうかも知れない。
目立つことが嫌いな九郎はとっさにウソをついた。

「……そっか。痛くねぇの?」

「うん、全然。もうなんともないよ」

「ふーん……。あ、そういやさ――――」

 “痛くない”という九郎の答えに満足し、興味をなくした鴻二はほかの話題へと移る。九郎も、優のとりとめない会話に入っていく。
 この竜の形に似た痣は、どうしてもあの〈夢〉を思い出してしまうので、無理やりにでも忘れようといつもより明るく振る舞って過ごした。


 そんな九郎を、少し離れた場所で、杏はジッと見つめている。
 その視線は、哀れみと同情と、そして――――期待と不安が入り交じっていた。



 しかし、その空元気も長くは続かなかった。やはり、どうしてもまた、あの〈夢〉を考えてしまう。
 考えても仕方がない、あれは夢だと、何度も自分に言い聞かせても、頭にこびりついて離れないのだ。
 そんないつもと様子が違う九郎を気遣ってか、鴻二を始め、友人たちは、今日一日九郎に、声をかけようとはしてこなかった。





 ――――結局、その日、自分が何をして過ごしていたのか、九郎は覚えていなかった。気が付けば、最後の授業を終え、帰り支度をしていた。
 帰りのHRを終え、帰宅しようと教室を出ようとしたところに、鴻二が声をかけてきた。


「九郎ちゅわ~ん!今日帰りに、飯食いに行かね?腹減っちまってよ~」

「……腹減ったって、昼休みに食べたんじゃないのか?」

「購買のパンなんかじゃ、俺様の胃袋は満たされねぇよ!なんだったらオゴるぜ?付き合ってくれよ~」

 鴻二はさも自分の用事を誘っているように言っているが、九郎はわかっている。今日一日元気の無かった自分に、気遣ってくれているのだ。そんな不器用な友人の優しさに感謝をする。

 だが。

「ゴメン……今日はまっすぐ家に帰るよ。気ぃ遣わせちゃって悪いな?」

 まだ、遊びに行く気分になれない。そうすると、鴻二は、いつものおどけた表情から、急にマジメな顔で九郎に語りかける。

「何があったか知らねぇけどさ、悩みがあるなら言えよ。俺たち友達じゃねぇか。話すだけでも楽になるぜ?」

 正面きって言うのは照れくさくて、もう背をむけてせかせかと歩きながら、鴻二はそう言った。九郎が、どんな表情でいるのか、気にはなったけれど、振り返りはしない。

「ほんと、ゴメン……」

 小さく呟いて、歩き出す。鴻二の心づかいは嬉しかったが、やはり話す気になれなかった。
 恥ずかしいとか、おかしく思われるんじゃないかというより、自分でも整理のつかないあの〈夢〉のことを言いたくない。

 話すとすれば、たった一人。

(今日、由紀ちゃんに電話しよう)

 どう話せば、一番わかってもらえるだろう。そう考えながら、九郎は校門に向かった。どうせ、電話をかければ思ったことをそのまま喋ってしまうのだが、それが由紀子にちゃんと理解してもらえるか自信がなかった。
 しかし、自分の言っていることが、支離滅裂で日本語になっていなくても、由紀子は的確に九郎の気持ちを理解してくれるし、どんなに長い話でも黙って聞いてくれる。
 この学校に、進学しようかどうか迷った時も、決断をくだせたのは由紀子のアドバイスのおかげだった。
 自分が、由紀子の話にきちんと対応できているのか自信はないけれど、由紀子はそうだと言ってくれる。
 少なくとも、彼女が一生をかけたいと言っていたバスケを、中学二年の時の交通事故で膝を砕かれ、諦めなければならなかった時、立ち直れたのは九郎の一言のおかげだと言う。

『人の可能性が一つだけとは限らない。前を向いて歩いていれば、必ず次の夢は見つかるはずだ。才能がなくたって、好きになれればそれでいい』


 そんなことを九郎は言って、今の由紀子はずいぶんと多趣味らしい。この星凰学院に進学を、そっくりそのまま同じ言葉を返されたからだ。

(で、今度の夏休み、やっぱり会いに……)

 考えているうちに、もう校門だった。

(あれ?あれは……)

 校門の横で、馬野 杏が誰かと話していた。彼女も、女子としては背が高い方だが、相手はもっと高い。
 杏が話している相手は、膝を越えるほどの長い髪を持った美少女だった。背中しか見えなくても、美少女だってわかる。あんな髪は、この学校で一人しかいない。
 理事長の孫にして生徒会副会長、『綾姫』こと鳳松院 綾乃である。

(へぇ、馬野の知り合いなんだ……)

 クラスの女友達の、意外な交友関係に少し驚きながら、歩く速度をゆるめる。すると、杏がこちらに向かって、手を振ってきた。
 さよならのつもりで、九郎も手を振る。ところが、どういうわけか、杏は綾乃にぺこりと一礼すると九郎のほうに駆けてきた。
 そして、綾乃も振り返り、九郎を見て、優雅な笑みを浮かべ会釈を送ってきた。神秘的な、女神にもたとえられる美貌が、九郎に向けられているのだ。
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