22 / 31
若き龍の目醒め 18
しおりを挟む
「あっ……」
目が覚めた。まだ、頭はぼんやりしている。眠り足りない。それなのに九郎が起きたのは、朝の光のせいばかりではない。
誰かに、温かく湿ったものを、首筋に押し付けられたからだった。
その感触は、首筋だけではなく、脇の下や横腹でも伝わってくる。ごそごそと動いて、股間にも下りてきた。
「わわわっ」
九郎は狼狽(うろた)え、膝を立てて手を使って後ろに這い進みながら逃げる。
「きゃんっ」
その立てた膝に顎を直撃されて、悲鳴をあげたのは、小柄で毛むくじゃらな人影だった。
「ひゃぁぁぁぁ」
膝蹴りを食らわせてしまったことを謝る余裕もなく、九郎は震え上がった。
三体の犬人間が、九郎の身体に鼻をこすりつけて、匂いを嗅いでいたのだった。それほど大柄ではない。
身長は、一番大きなのが百三十センチかそこらだろうか。
柔らかな曲線からして雌(めす)―――女性というべきか―――らしい。それから胸と腹の境目あたりに膨らみがある。
あとの二人はさらに小柄で、手足も短い感じがする。
もともとそういう体形の生き物かもしれないが、九郎は子供なのじゃないかと思った。
牙をむきだして、舌を出し、彼らは丸いつぶらな瞳でこちらをじっと見つめている。
(すごい牙……。絶対、肉食だよな?僕の匂いを嗅いでた。…………まさか、く、喰われる!?)
逃げよう、と思ったが、腰が抜けて立つことができない。
九郎がどうするかを考える暇を与えず、犬人間たちのほうが先に動いた。
素早く、九郎を取り囲んだのである。
そして彼らは、九郎に向かって、一斉にくわっと口を開いた。
「……っっ!?…………?」
一瞬、恐怖に身を竦(すく)ませた九郎だったが、それはすぐに怪訝だったと気付く。
犬人間たちは噛みつこうとはしなかったのだ。柔らかく牙で触れたり、舌でそっと舐めたりしてきたのだ。
それはペットの犬が飼い主にじゃれつくのとは違い、あえて言うなれば、母犬が子犬たちを綺麗にしてやる時に近い、優しい触れ方だった。
「……きみたち」
落ち着かせようとしてくれているのだと、九郎にもわかった。
見た目は異形だが、毛皮は柔らかくて温かい。感触はサラサラしている。
きっと綺麗好きな生き物なのだと、九郎は思った。
「そうか……。助けてくれたんだね」
九郎の緊張が解けたのがわかったのだろう。犬人間たちは、体を少し離した。
改めて陽光の下でよく見てみると、昨夜の闇の中で思ったより、彼らは犬っぽくなかった。
全身が、顔まで含めて毛に覆われ、鼻面はやや尖っている。
しかし、耳はピンと立ってはいるが人間とそう大差ないし、目は正面に向かってついている。
手も、人間のものとよく似た構造だった。
(犬……?いや、ちがう)
尖った牙。それを改めて見た時に、九郎は感じた。
犬人間と呼ぶのは相応しくない。犬にとても近い、別の生き物のほうが、彼らに似ている。
彼らは野生のムードを持っている。それはほんの微妙な目の動きからも伝わってきた。くつろいでいるようでも警戒を怠らず、相手の反応に鋭敏で。
だから犬人間ではなく――――。
(狼人間……。でもだとしたら……)
九郎は、地球の歴史に、古生物学にそれほど詳しいわけではない。
小学生の頃に、父に恐竜博に連れてってもらい、少しだけ恐竜に凝った時期もあったがその程度だ。
それでも、地球に、犬類から進化した亜人間が存在した時期などないくらいは知っている。
もしかしたら化石が発見されていないだけかもしれないとも思ったが、自分でも無理があると判断できるアイデアだった。
だがそこから導かれる結論は、もっと受け入れがたい。
地球にいるはずのない生き物がいる。
ならば、ここは――――。
(ここは、僕の知っているどこでもない……?)
今まで、九郎はタイムスリップの可能性を思い描いていた。意図のない、偶然による時間旅行。
何かの超自然的な現象によって、過去に流されたのではないか、と。
あの白い光が、その原因だったのではないか、と。自分が数百万年前も昔にいる。それは、あまりにも恐ろしいアイデアだった。
もう二度と、家族にも友人にも、そして由紀子にも会えない。そんなことは考えたくもなかったから、脳裏で言葉になる前に打ち消した。
だが、現実はそれとも違ったようである。かといって、マシになったわけではない。
人間は他に誰もいないという点、九郎が孤独の世界へ放り出されたということは同じなのだ。
(ていうことは……ワープ、それともテレポート?)
空間を、膨大な距離を一瞬に渡る手段をさす用語を思い浮かべる。
狼人間たちが鼻面をこすりつけてきている。その温もりは本物だ。どうやら一人は少女らしい。
体を押し付けられると、ふくらみがあるのがわかった。胸だけでなく腹の方にまで、合計四つ。
(認めるしかないんだ。僕は別世界に来てしまった……)
ほぼ間違いない。証拠は目の前にある。あるどころか、まだ九郎を慰めるように触れてくれている。
だが、それでも、意外なくらいに落ち着いている自分が不思議で、どうしてだろうと考えてみた。
(もちろん、まだ本気で信じてないからだ)
けれど、理由はそれだけではない。絶望するより先に、奇妙な希望が心の奥で光り始めているからだ。
(来ることができたんだから帰る方法だって必ずあるはずだ)
べしゃり、と、濡れたものが頬に押しつけられた。
「きゅい?」
黙りこくっている九郎の様子をいぶかしんだのか、狼人間の一人の舌が、顔に差し伸べられた。
「あ、うん、大丈夫だよ。だ、い、じょ、う、ぶ」
答えた九郎の表情が、自然とほころんだ。確かに、人間は誰もいないのかも知れない。だが孤独ではなかった。
(玖朗は、人殺しだった。彼だって、今の僕と同じ世界の人間じゃなかった)
その玖朗に九郎はあれほど共感できたではないか。時代の差も世界の差も超えて、希望と絶望、怒りと喜びをともにした。
(だったらこの子たちとだって……)
九郎は、狼人間たちの 首に手を回して、ぎゅっと抱きしめた。わき上がってきた不安を、押さえ込むために。
男の子二人は嫌がってもがいたけれど、女の子は何かに気づいているのか逆らわず、それどころか、ずっと九郎を慰め続けてくれている。
そうしているうちに、九郎は自分の中から、再び力がわき上がってくるのを感じていた。
(諦めるのは、まだ早い!)
あの現象が何だったのかは わからないけれどもう二度と起こらないと決まったわけではない。
(そうだ、帰れるかもしれないじゃないか。あの―――ー)
----あの女性(ひと)の許に。ふっと脳裏に着物姿の女性が一瞬浮かんだ。
(違う!そうじゃない!)
〈夢〉の中で出会った女性の姿を必死で振り払う。いや、九郎だって彼女には幸せになって欲しいし、取り戻せるものなら取り戻したい、だけど。
(僕が行きたいのは―――)
ー―――由紀子のいる世界だ。九郎は、自分の望みを再確認する。もう一度、彼女と言葉をかわすことを。
(いや、ちょっと待て。なら、これはマズいだろ!?これはっ!)
九郎、はっと状況に気づいた。毛皮に覆われているからはっきりしないが、狼少女は―――当然―――オールヌードで、体が小さいのは種族の特性であって実は九郎と同じ年頃なのかもしれず……。
で、これだけ近づき合っているわけで。
「あ、いや、そのっ!」
「きゅい?」
九郎は、慌てて狼少女から身を離した。その瞬間、脳裏にうかんだのは由紀子の顔だったか、雪の顔だったのか。
どちらにしてもその視線は、激しく冷たぁぁぁぁぁいものだった。
(あ、いや、違うんですよ?決して温もりとか柔らかさを楽しんでいたわけではなく、ましてや浮気とかそういうつもりは一切なくって……!)
あたふたと言い訳を思い浮かべる。どちらかというと動物やぬいぐるみとかにすがるのに近い気持ちだったのだが今更、彼女を動物扱いするのも失礼だろう。
「きゅっ?」
何を感じたのか、狼少女の目つきもどことなく険しくなる。それはそれであたふたせざるを得ない。 今、この世界で頼れるのは彼らだけなのだ。
「うぅん、あのぅ、いや、君がね、悪いんじゃなくて……」
慌ててしどろもどろに口を開きかけた時だった。
「がうがっ!!」
「うわっ!」
突然の吠え声に九郎は飛び上がる。なぜか狼少女たちも一緒に飛び上がり、九郎にしがみついてすくみあがっている。
「ぐるぅぅぅぅ!」
そして吠え声に続いて岩陰から、ひときわ大きな体格の狼人間が現れた。九郎を助けた三人は、こうして比べてみると、やっぱり子供なのだとわかる。
身長こそ九郎より低いが、胸の厚みや肩幅はかなりのものであり、なにより、ずらっと並んだ牙がぎらぎらと輝いて、威圧的だった。毛むくじゃらの異種族でも、怒りの表情は、はっきりと輝いていた。
ただし、殺気や食欲などという九郎にとって不吉な感情はない。
「あの……もしかして、お父さん、ですか……?」
大人の狼人間は、険しい目つきで彼と、そして子供たちを交互に見つめている。どんな種族であれ、きっちりわかりやすい瞳の色であった。
「いや、あの、これ、ち、違いますよ?そういうあれじゃないですからね……?」
九郎は、狼少女から慌てて手を離して、手のひらをぶんぶんと振ってみせた。だが、九郎の必死の否定も異種族である大人の狼人間には通じるわけもなく、その顔はますます険しくなっていった。
すると九郎の後ろに隠れていた狼少女が尻尾を股の下に丸めながら―――おそらく父親であろう狼人間―――に近づき、キャンキャンと何かを訴えている。言っている意味はわからないが、多分、これまでの経緯を説明しているのだろう。
説明を聞き終わった父狼がこちらに近づいてきた。嫌な予感がするが、抵抗はしないほうがいいだろう。
(あー……最近、犬に関わるとロクなことがない気がする……)
九郎はこれからのことを思うと肩が重くなるような気分になっていった。
夜は空け始めていた
目が覚めた。まだ、頭はぼんやりしている。眠り足りない。それなのに九郎が起きたのは、朝の光のせいばかりではない。
誰かに、温かく湿ったものを、首筋に押し付けられたからだった。
その感触は、首筋だけではなく、脇の下や横腹でも伝わってくる。ごそごそと動いて、股間にも下りてきた。
「わわわっ」
九郎は狼狽(うろた)え、膝を立てて手を使って後ろに這い進みながら逃げる。
「きゃんっ」
その立てた膝に顎を直撃されて、悲鳴をあげたのは、小柄で毛むくじゃらな人影だった。
「ひゃぁぁぁぁ」
膝蹴りを食らわせてしまったことを謝る余裕もなく、九郎は震え上がった。
三体の犬人間が、九郎の身体に鼻をこすりつけて、匂いを嗅いでいたのだった。それほど大柄ではない。
身長は、一番大きなのが百三十センチかそこらだろうか。
柔らかな曲線からして雌(めす)―――女性というべきか―――らしい。それから胸と腹の境目あたりに膨らみがある。
あとの二人はさらに小柄で、手足も短い感じがする。
もともとそういう体形の生き物かもしれないが、九郎は子供なのじゃないかと思った。
牙をむきだして、舌を出し、彼らは丸いつぶらな瞳でこちらをじっと見つめている。
(すごい牙……。絶対、肉食だよな?僕の匂いを嗅いでた。…………まさか、く、喰われる!?)
逃げよう、と思ったが、腰が抜けて立つことができない。
九郎がどうするかを考える暇を与えず、犬人間たちのほうが先に動いた。
素早く、九郎を取り囲んだのである。
そして彼らは、九郎に向かって、一斉にくわっと口を開いた。
「……っっ!?…………?」
一瞬、恐怖に身を竦(すく)ませた九郎だったが、それはすぐに怪訝だったと気付く。
犬人間たちは噛みつこうとはしなかったのだ。柔らかく牙で触れたり、舌でそっと舐めたりしてきたのだ。
それはペットの犬が飼い主にじゃれつくのとは違い、あえて言うなれば、母犬が子犬たちを綺麗にしてやる時に近い、優しい触れ方だった。
「……きみたち」
落ち着かせようとしてくれているのだと、九郎にもわかった。
見た目は異形だが、毛皮は柔らかくて温かい。感触はサラサラしている。
きっと綺麗好きな生き物なのだと、九郎は思った。
「そうか……。助けてくれたんだね」
九郎の緊張が解けたのがわかったのだろう。犬人間たちは、体を少し離した。
改めて陽光の下でよく見てみると、昨夜の闇の中で思ったより、彼らは犬っぽくなかった。
全身が、顔まで含めて毛に覆われ、鼻面はやや尖っている。
しかし、耳はピンと立ってはいるが人間とそう大差ないし、目は正面に向かってついている。
手も、人間のものとよく似た構造だった。
(犬……?いや、ちがう)
尖った牙。それを改めて見た時に、九郎は感じた。
犬人間と呼ぶのは相応しくない。犬にとても近い、別の生き物のほうが、彼らに似ている。
彼らは野生のムードを持っている。それはほんの微妙な目の動きからも伝わってきた。くつろいでいるようでも警戒を怠らず、相手の反応に鋭敏で。
だから犬人間ではなく――――。
(狼人間……。でもだとしたら……)
九郎は、地球の歴史に、古生物学にそれほど詳しいわけではない。
小学生の頃に、父に恐竜博に連れてってもらい、少しだけ恐竜に凝った時期もあったがその程度だ。
それでも、地球に、犬類から進化した亜人間が存在した時期などないくらいは知っている。
もしかしたら化石が発見されていないだけかもしれないとも思ったが、自分でも無理があると判断できるアイデアだった。
だがそこから導かれる結論は、もっと受け入れがたい。
地球にいるはずのない生き物がいる。
ならば、ここは――――。
(ここは、僕の知っているどこでもない……?)
今まで、九郎はタイムスリップの可能性を思い描いていた。意図のない、偶然による時間旅行。
何かの超自然的な現象によって、過去に流されたのではないか、と。
あの白い光が、その原因だったのではないか、と。自分が数百万年前も昔にいる。それは、あまりにも恐ろしいアイデアだった。
もう二度と、家族にも友人にも、そして由紀子にも会えない。そんなことは考えたくもなかったから、脳裏で言葉になる前に打ち消した。
だが、現実はそれとも違ったようである。かといって、マシになったわけではない。
人間は他に誰もいないという点、九郎が孤独の世界へ放り出されたということは同じなのだ。
(ていうことは……ワープ、それともテレポート?)
空間を、膨大な距離を一瞬に渡る手段をさす用語を思い浮かべる。
狼人間たちが鼻面をこすりつけてきている。その温もりは本物だ。どうやら一人は少女らしい。
体を押し付けられると、ふくらみがあるのがわかった。胸だけでなく腹の方にまで、合計四つ。
(認めるしかないんだ。僕は別世界に来てしまった……)
ほぼ間違いない。証拠は目の前にある。あるどころか、まだ九郎を慰めるように触れてくれている。
だが、それでも、意外なくらいに落ち着いている自分が不思議で、どうしてだろうと考えてみた。
(もちろん、まだ本気で信じてないからだ)
けれど、理由はそれだけではない。絶望するより先に、奇妙な希望が心の奥で光り始めているからだ。
(来ることができたんだから帰る方法だって必ずあるはずだ)
べしゃり、と、濡れたものが頬に押しつけられた。
「きゅい?」
黙りこくっている九郎の様子をいぶかしんだのか、狼人間の一人の舌が、顔に差し伸べられた。
「あ、うん、大丈夫だよ。だ、い、じょ、う、ぶ」
答えた九郎の表情が、自然とほころんだ。確かに、人間は誰もいないのかも知れない。だが孤独ではなかった。
(玖朗は、人殺しだった。彼だって、今の僕と同じ世界の人間じゃなかった)
その玖朗に九郎はあれほど共感できたではないか。時代の差も世界の差も超えて、希望と絶望、怒りと喜びをともにした。
(だったらこの子たちとだって……)
九郎は、狼人間たちの 首に手を回して、ぎゅっと抱きしめた。わき上がってきた不安を、押さえ込むために。
男の子二人は嫌がってもがいたけれど、女の子は何かに気づいているのか逆らわず、それどころか、ずっと九郎を慰め続けてくれている。
そうしているうちに、九郎は自分の中から、再び力がわき上がってくるのを感じていた。
(諦めるのは、まだ早い!)
あの現象が何だったのかは わからないけれどもう二度と起こらないと決まったわけではない。
(そうだ、帰れるかもしれないじゃないか。あの―――ー)
----あの女性(ひと)の許に。ふっと脳裏に着物姿の女性が一瞬浮かんだ。
(違う!そうじゃない!)
〈夢〉の中で出会った女性の姿を必死で振り払う。いや、九郎だって彼女には幸せになって欲しいし、取り戻せるものなら取り戻したい、だけど。
(僕が行きたいのは―――)
ー―――由紀子のいる世界だ。九郎は、自分の望みを再確認する。もう一度、彼女と言葉をかわすことを。
(いや、ちょっと待て。なら、これはマズいだろ!?これはっ!)
九郎、はっと状況に気づいた。毛皮に覆われているからはっきりしないが、狼少女は―――当然―――オールヌードで、体が小さいのは種族の特性であって実は九郎と同じ年頃なのかもしれず……。
で、これだけ近づき合っているわけで。
「あ、いや、そのっ!」
「きゅい?」
九郎は、慌てて狼少女から身を離した。その瞬間、脳裏にうかんだのは由紀子の顔だったか、雪の顔だったのか。
どちらにしてもその視線は、激しく冷たぁぁぁぁぁいものだった。
(あ、いや、違うんですよ?決して温もりとか柔らかさを楽しんでいたわけではなく、ましてや浮気とかそういうつもりは一切なくって……!)
あたふたと言い訳を思い浮かべる。どちらかというと動物やぬいぐるみとかにすがるのに近い気持ちだったのだが今更、彼女を動物扱いするのも失礼だろう。
「きゅっ?」
何を感じたのか、狼少女の目つきもどことなく険しくなる。それはそれであたふたせざるを得ない。 今、この世界で頼れるのは彼らだけなのだ。
「うぅん、あのぅ、いや、君がね、悪いんじゃなくて……」
慌ててしどろもどろに口を開きかけた時だった。
「がうがっ!!」
「うわっ!」
突然の吠え声に九郎は飛び上がる。なぜか狼少女たちも一緒に飛び上がり、九郎にしがみついてすくみあがっている。
「ぐるぅぅぅぅ!」
そして吠え声に続いて岩陰から、ひときわ大きな体格の狼人間が現れた。九郎を助けた三人は、こうして比べてみると、やっぱり子供なのだとわかる。
身長こそ九郎より低いが、胸の厚みや肩幅はかなりのものであり、なにより、ずらっと並んだ牙がぎらぎらと輝いて、威圧的だった。毛むくじゃらの異種族でも、怒りの表情は、はっきりと輝いていた。
ただし、殺気や食欲などという九郎にとって不吉な感情はない。
「あの……もしかして、お父さん、ですか……?」
大人の狼人間は、険しい目つきで彼と、そして子供たちを交互に見つめている。どんな種族であれ、きっちりわかりやすい瞳の色であった。
「いや、あの、これ、ち、違いますよ?そういうあれじゃないですからね……?」
九郎は、狼少女から慌てて手を離して、手のひらをぶんぶんと振ってみせた。だが、九郎の必死の否定も異種族である大人の狼人間には通じるわけもなく、その顔はますます険しくなっていった。
すると九郎の後ろに隠れていた狼少女が尻尾を股の下に丸めながら―――おそらく父親であろう狼人間―――に近づき、キャンキャンと何かを訴えている。言っている意味はわからないが、多分、これまでの経緯を説明しているのだろう。
説明を聞き終わった父狼がこちらに近づいてきた。嫌な予感がするが、抵抗はしないほうがいいだろう。
(あー……最近、犬に関わるとロクなことがない気がする……)
九郎はこれからのことを思うと肩が重くなるような気分になっていった。
夜は空け始めていた
0
あなたにおすすめの小説
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
愛していました。待っていました。でもさようなら。
彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。
やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
アルバートの屈辱
プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。
『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。
私はもう必要ないらしいので、国を護る秘術を解くことにした〜気づいた頃には、もう遅いですよ?〜
AK
ファンタジー
ランドロール公爵家は、数百年前に王国を大地震の脅威から護った『要の巫女』の子孫として王国に名を残している。
そして15歳になったリシア・ランドロールも一族の慣しに従って『要の巫女』の座を受け継ぐこととなる。
さらに王太子がリシアを婚約者に選んだことで二人は婚約を結ぶことが決定した。
しかし本物の巫女としての力を持っていたのは初代のみで、それ以降はただ形式上の祈りを捧げる名ばかりの巫女ばかりであった。
それ故に時代とともにランドロール公爵家を敬う者は減っていき、遂に王太子アストラはリシアとの婚約破棄を宣言すると共にランドロール家の爵位を剥奪する事を決定してしまう。
だが彼らは知らなかった。リシアこそが初代『要の巫女』の生まれ変わりであり、これから王国で発生する大地震を予兆し鎮めていたと言う事実を。
そして「もう私は必要ないんですよね?」と、そっと術を解き、リシアは国を後にする決意をするのだった。
※小説家になろう・カクヨムにも同タイトルで投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる