目指せ地獄の門 ~改訂版~

黒山羊

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3章・迷宮探索!

第6階 ミザリ売店

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「はぁーーー。」

疲れ切った アルルが、大きな ため息を吐いている。
その様子を心配そうに見つめるエイト。

「アルル、だいぶ疲れてるね。」

エイトに笑顔で軽く手を振って返すアルル。
しかし、その様子を見ると、やはり疲れ切っている様子が伺える。
レヴィアも心配そうにアルルに話しかける。

「そうだね。魔物の食べれる部分も少ないみたいだから、解体の連続になるからかな?」

「いや、大丈夫です。あと2~3匹くらいなら!」

パーティに心配かけまいと、精いっぱいの笑顔で小さくガッツポーズをして見せるアルルに、レヴィアが四次元ポシェットに余った肉を詰めながら言う。

「予備の食料が貯まるまでだとすると、これを朝昼晩 あと2日は必要だね。」

「・・・。」

アルルの顔が引きつっている。
流石に体力の限界だろうか・・・。
そこで、エイトが何かを思いついたように、ニコニコしながら口を開く。

「そうだ!いま持ってる宝石や道具を売ったらいいんじゃないかな。」

エイトの提案に不思議そうに質問するレヴィア。
その様子を見ていたミザリもエイトに質問する。

「硬貨でも食べるの?」

「お金があれば何とか我慢できるってことかな?」

「違うよ。そんな無謀なことは提案しないよ。」

「あっ!分かりました。食料と交換してもらうんですね!」

アルルが嬉しそうに答えを言う。

「そのとおり!まあ、見ててよ。」


エイトは、近くを冒険していた他のパーティに声をかける。
他のパーティは、エイトが商品を並べている間に先に進んでしまった。
1人だけ残った冒険者は、エイトが並べた商品を手に取って見ている。

「宝石にポーションか、このポーションは、いくら?」

「食料3食分でいいですよ。」

笑顔で答えるエイト。
その返事に難しい顔をする冒険者。

「ちょっと高いよ。食料は貴重だから、1食分なら買ってもいいけど。」

「ですよね。では、それでいいです。」

冒険者は、対価を払い、フルポーションを持って先に進んだ仲間の元に走って行った。
エイトは、手を振り冒険者を見送ったあと、笑顔でパーティメンバーに話しかける。

「ほら、こうすれば簡単に食料を手に入れることができるよ!」

「いい案ですね。」

「薬を売ってしまえば、食料に困ることはないな。」

アルルもレヴィアも、エイトの作戦に感心している。
しかし、ミザリは とても不満そうな顔をしていた。
その様子に気づいたレイザーが、ミザリに声を掛ける。

「ミザリ、どうした。」

「いや、地上に戻れば、フルポーションなら、金貨30枚の値段が表示されていたとしても、即完売する貴重な人気商品なんだよ。それを銀貨5枚分の食料1食分だなんてもったいないよ。」

「たしかにそうだな。数日くらいなら、私が食事を抜いてもいいから、先の事を考える必要もあるな。」

「いや、そうじゃなくて、エイトの売り方がもったいないんだよ!」

ミザリが、商品の配列を変える。並べてある、フルポーションを回収し、1つだけ表に出す。
しばらくすると、先ほどの冒険者がパーティを引き連れて走って戻ってきた。

「さっきの薬だけど、あるだけ全部買いたいんだ!」

「フルポーションですね。それなら・・・。」

ミザリが エイトの口を塞ぐ。

「それなら、残念なんですが、あの後、高名な魔導士様が大量に購入されまして、残り1つなんですよ。」

「では、それをくれ!」

冒険者は、食料を差し出す。

「いえいえ、もう食料は魔導士様から頂いたので、通常価格に戻して、金貨25枚で販売しております。」

「金貨25枚・・・・・・。宝石払いでは?」

顔を横に振るミザリ。
その様子に冒険者は悩んでいるようだ。

「通常は 金貨払いのみですが・・・。」

「が・・・?」

「あなたは最初のお客様ですから、食料10食分で特別にお譲りしますよ。」

「・・・ちょっと仲間と相談してくるから、売らずに待っててくれ!」

冒険者は、仲間の元に走っていき、相談しているようだ。
冒険者と仲間が慌てて戻ってくる。

「食料10食分は、捻出が難しい。食料6食分と金貨4枚で譲ってもらえないだろうか。」

「地上に比べて破格的に安いのは分かる。しかし、私たちも手持ちが少ない。そこを理解して妥協してもらいたいのだけど。」

他のパーティからの交渉提案に無言で考えるフリをするミザリ。

「・・・。」

「・・・。」

「・・・。」

「分かりました。では、特別に譲りましょう。
 その代わり、今後、ハロルド商会ミザリ売店を ご贔屓ひいきにお願いしますね。ご贔屓ひいき様には、迷宮内で特別に優先してお譲りしますから。」

ミザリの妥協した様子に安心したのか、他のパーティは、笑顔で お礼を言う。

「おお、助かります。今後ともお願いします。」

ミザリは、食料と金貨を受け取って、商品を渡し、他のパーティと別れた。
その様子を見て感心するパーティ。

「いや、見事だな。」

「あれ?ミザリちゃん、いま何か魅了の魔法とか使いました?」

「エイトの滑稽さが泣けてくるな。」

「凄いよ!この調子で販売すれば、食料に困ることないよ!!!」

メンバーから絶賛され、気分が良くなったのか、恥ずかしそうにしながらも自信満々の表情になるミザリ。

「ほら、これでも大商人の娘だからね!」

ミザリは、何か思いついたようにレヴィアに提案する。

「そうだ!レヴィア姉さんの錬金術も使えないかな?」

ミザリが、レヴィアに耳打ちする。
レヴィアは、その内容を確認すると、満面の笑みを浮かべた。

「それは、実に興味深い。次のパーティでチャレンジだ!!!」












~数日後・地上の宿~

様々な冒険者が集まるこの宿で、大きな噂になっている、パーティがいる。
数名の女性冒険者たちが情報共有していた、噂の真相は・・・。


「ねえ、6階層の噂聞いた?ミザリ売店の話。」

「聞いた聞いた!迷宮なのに、おしゃれな服を売ってるんでしょ!」

「えー!なにそれ、教えてよ!」

「貴重な薬や可愛い服とか、何でも売ってるみたいよ!」

「しかも、高級店なのに、商品を見るだけなら、食料1食分で見れるんだって!」

「えー、凄くない!高級店って、入場に金貨3枚とかかかるよね!」

「行くんなら、急いだほうがいいよ。期間限定の売店みたいだから。」

「お店の名前は何だっけ?」




「・・・えっと、・・・レヴィア商会ミザリ売店だったかな?」







 ~ to be continued



【補足】


・高級店

貴族向けの洋服店。
貴族向けの服は仕立てもよく、生地も高いので、一般人が入ってきて店の雰囲気や商品を汚さないように、店にはいるだけでも、金貨3枚~5枚(高級店の平均的な相場)払わなければならない。

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