目指せ地獄の門 ~改訂版~

黒山羊

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3章・迷宮探索!

第7階 魔法の攻防

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「レヴィア姉さん、それにしても かなり大儲けできたね。」

「まったくだよ。最初から私とミザリに任せてればよかったんだ。」

「はいはい。かなり遅れたから、その分を取り戻そうよ。」

楽しそうに会話するレヴィアとミザリ、エイトも なんだかんだで笑顔を見せる。
エイトの提案を聞きいれ、パーティは急ぎ足で迷宮の奥を目指す。
10階層から店を目指して登ってくる途中、上級冒険者たちが狩りながら来たのか、道中の敵は ほぼ全滅していた。
戦闘もなく、アルルも笑顔で会話に参加する。

「まあ、戦闘がないから先に進むのは早そうですね。」

「ほんと、他のパーティもいるから、面倒な戦闘はしなくていいからね。」

「みんな、こういう時こそ注意しないと、危険なんだよ。」

気が抜けている アルルとミザリに厳しい表情で注意するエイト。
エイトは、何かに気づいているのか、周囲を警戒している。
先ほどまで笑顔で会話をしていたレヴィアも、緊張した表情で周囲を警戒している

「たしかに一理あるかもね・・・。」

レヴィアが立ち止まり、周囲を見渡す。
近くを歩いていた、周囲のパーティたちも動きを止める。
レイザーも、その様子を見て何かに気づきパーティに声を掛ける。

「ああ、まずい展開かもしれないな。」

レイザーとレヴィアは武器を構える。
ミザリは、レヴィア達の表情から何かを察した。
アルルは、魔物の気配を感じていないので、不思議そうな顔をしている。

「どうしたんですか、魔物なんていませんよ。」

エイトも武器を構え、ミザリを中心に守るように、陣形を変える。

「アルル、武器を構えて、レヴィア、レイザーなるべく殺さないように戦おう。」

混乱するアルルにミザリが話しかける。

「周囲のパーティは、たぶん敵だよ。お金を狙ってるんだ!」

レヴィアが反応する!

ミザリのお金だな。」

この状況の中で どうでもいい話に、エイトが注意する。


「・・・どうでもいいから、集中しよう!」

「やった!好きにしてもいいって!」

「・・・。」

レヴィアとミザリは、この状況の中にも関わらず、笑顔を見せる。
と、その時!

「来るぞ!」

レイザーが声を上げると同時に、先制で矢が飛んでくる!



最初の矢は、それぞれが防御した。
レヴィアは ミザリを庇い、エイトは 混乱するアルルを庇う。
敵は、ミザリを庇うために動けないと考えたのか、遠距離攻撃を仕掛けてくる。





次の矢が放たれる前に、ミザリは 防御呪文を唱える。

風の障壁ウインド・ウォール(LV3)」

パーティの周りに下から吹き上げるような風を起こす。
その風に阻まれて、飛び道具は届かない!
敵の魔法使いは、ミザリの風の魔法を確認し、魔法を詠唱し始める。敵の魔法使いの周囲を赤い光が回り始める。
その様子を見ていたレイザーが、パーティに注意を促す。

「敵が炎の魔法を詠唱するぞ!相殺か解除を頼む!」

風の魔法で加護を得ているパーティは炎の魔法を食らえば、ダメージが大きくなってしまう。

「私にはできないよ!」

「あれ、中位魔法じゃないですか!」

魔法は上位の魔法になればなるほど、詠唱に時間がかかると言われている。
敵の魔法使いは、詠唱の準備ができたようだ!

「・・・・・炎の矢ファイアーアロー(LV5)」

敵の魔法使いの放った炎の矢がパーティを目指して放たれる。
魔法使いに背を向けるような位置にいた エイトがパーティを かき分け、敵の魔法の前に飛び出す!
炎の矢は、エイトに直撃し、風の魔法との相性が悪く火柱となる!
敵のパーティは、エイトが燃え上がる様子を見て声をあげる。

「よし!一匹やったぞ!」


エイトが火柱に包まれ燃えているのに、レヴィアは冷静に敵の様子を確認していた。
敵のパーティは、魔法での攻撃が成功したことに集中が途切れている。
どうやらレヴィア達のパーティを格下の相手と認識したようだ。
レヴィアは、そんな敵を攻撃するために、レイザーに指示を出す。

「今のうちだ!他の敵を殲滅するぞ!」

レヴィアが魔法使いと反対の方向に飛び出し、敵をタンタンハン・・・狂える海龍王の撃槌ストリームハンマーで攻撃する!
レイザーも近くの敵の方に飛び出し戦闘を開始する!
エイトの救助をせずに戦闘する2人に、アルルとミザリは、混乱している。

「そんな、いくら生き返るからって・・・。」

「こんなのが、冒険なの・・・。」

エイトを包む火柱が、形を変え、敵の周囲に壁を作り始める!


「な、なんなんだ!」

敵のパーティは、生き物のように動き壁を作り始める炎に恐怖を感じ始めた。
火柱に包まれ燃えていた エイトの周りからは炎が消えていく。

その炎の中には 炎を纏った悪魔が立っていた。
炎を纏った悪魔を見て、動揺する敵のパーティ。

「まずいぞ!
 迷宮内で商売をしてるから、おかしいと思ったんだ!あれは悪魔じゃないか!」

敵の魔法使いが水の魔法で相殺を試みる。

水の圧力アクア・プレッシャー(LV6)」

水の圧力アクア・プレッシャーは、大きな水の塊で敵を包み込み押しつぶす魔法だ!
敵の魔法使いは、自身が持つ最大級の魔法を唱えたのだろう。
魔法を詠唱し終えると、その場に膝を着くように しゃがみこんだ。

炎の悪魔(エイト?)は、水の魔法を相殺する為に、魔法を詠唱する。

獄炎の台所ヘルズ・キッチン(LV4)」


第7階層の床が、炎の悪魔を中心に温度を上げていく!
水の圧力アクア・プレッシャーは、炎の悪魔の頭上で水蒸気へと変わる。
熱した鉄板のように熱くなる地面に、レヴィアが嫌な顔をする。

「エイト!そんな広範囲の魔法を使わないでよ!熱いじゃない!獄炎龍の息吹ヘルズ・ドラゴンブレスくらいでいいでしょ!」

獄炎龍の息吹ヘルズ・ドラゴンブレスとは、失われた魔法と呼ばれる高位の魔法で、唱えることのできる人間は、片手で数えるくらいしかいないだろう。
レヴィアの会話を聞いていた敵のパーティは、完全に戦意喪失している。

獄炎龍の息吹ヘルズ・ドラゴンブレスだって、そ、そんな高度な魔法を・・・。」

「本物の悪魔なんだよ・・・。
 こ、降参します!お願いです!命だけは助けて下さい!!!」

敵のパーティは、炎の壁に周囲を囲まれ逃げ出すこともできないので、必死に命乞いをしてくる。
その様子を見て、エイトが元の姿に戻り、獄炎の台所ヘルズ・キッチンを解除する。
そのまま、燃えさかる炎の壁を消すために、すぐに水の魔法を唱える。

「「豊穣神の雨バアル・レイン(LV1)」

詠唱が終わると、迷宮内にも関わらず、第7階層全域に黒い雲が発生する。
黒い雲は、大量の雨を降らせ、熱した鉄板のように熱くなった地面を冷やし始める。
エイトの作り出した 炎の壁も徐々に弱まっていき、地面の温度も下がり始めた。
ただ残念なことに、周囲は水蒸気で霧ができ、視界が悪くなってきた。
レヴィアは、迷宮内の湿度が上がったことに、また不満がありそうな表情でエイトを睨んでいる。

洞窟内の迷宮の奥へと流れる風に周囲の霧も流され、視界は比較的早く良好になった。
レヴィアは、襲ってきた冒険者たちに、次は 命を奪い 魂を封印すると脅し、そのまま逃がす。
敵のパーティが視界から消えたことを確認し、レヴィアが パーティに戻ってくる。
パーティメンバーは、エイトと距離を起き、警戒しているようすだ。
そんな中、気まずそうにレイザーが質問する。

「エイト、いったい君たちは・・・?」

アルルも、レイザーに便乗し エイトに質問する。

「炎の悪魔の化身なんですか・・・?」


2人の質問に、普段と変わらない表情で答えるエイト。

「ああ、あれは高位変身術で姿を似せることができるんだよ。」

エイトは、2人の質問に答えると笑顔を見せる。
アルルは、まだ質問があるようだ。

「じゃあ、あの強力な魔法は?」

どうやら、アルルはエイトが悪魔の化身であると疑っているようだ。
それも仕方ないことだろう。
なぜなら強力な魔法を発動できる大魔法使いの話は聞いたことがあるが、エイトの場合は、発動するといった次元のレベルではなく、高位魔法の詠唱自体も数秒で終わらせ下級魔法以上の速度で発動している。
大魔導士でも高位魔法を発動するには、数十秒から数分といった詠唱が必要だと習ってきたからだ。

「ごめんね。獄炎龍の息吹ヘルズ・ドラゴンブレスは連鎖魔法に分類される魔法で、炎の壁と相乗効果で威力が上がりすぎる気がしたから、単独魔法の、獄炎の台所ヘルズ・キッチンを選択したんだけど・・・。」

「いや、私が聞きたいのは、そういうことじゃ・・・。」

アルルの質問したいことが伝わっていないのだろう。アルルが再度 質問を変えようとしたとき、いつもの口調でレヴィアが口を挟む。

「ほら、広範囲魔法なんか使うから、みんな怒ってるじゃないか!早く誤って先に進もうよ。」

「・・・レヴィア姉さん、魔法ってレベルの問題じゃないよね。」

「そうですよ、いままで魔法使いとの戦闘も想定して、学校で魔法学を習ってたけど、そんなの聞いたことありませんよ。」

炎の悪魔の化身と疑われているとは、思ってもいないエイトが、何か気づいたように話し始める。

「そうだ!習った教科書が違うんじゃないかな?
 逆に僕は、風の障壁ウインド・ウォールや、炎の矢ファイアーアローとかは知らないよ。
 似たような簡易魔法の、暴風雨の大障壁パーフェクト・ストリームとか、滅炎の光の矢メルキド・フレイムとかなら知ってるけど。」


ミザリ、アルル、レイザーの3人は、開いた口が塞がらない。

「それ、知ってる・・・。」

「ええ。
 ミザリちゃん、それって大魔法ですよね・・・。」

「エイト、いったい何て教科書で習ったんだ?」


レヴィアが、面白くなさそうに答える。

「ネコノコモンモン?とかだったかな。魔導書の話は辞めておこう!
 嫌な思い出しかない。」

レヴィアは、読書好きだが、魔導書は決して読まないからだろうか、魔導書の話は面白くないようだ。

「猫の子もんもん?」

アルルは、不思議そうな顔をしている。
ミザリは、何か考えながら上を見ている。そして何か思いついたように口を開く。

「もしかして、・・・ネクロノミコン!」

3人は驚きを隠せないようだ。

「それで、あんな大魔法が使えるのか!」

「ネクロノミコン、売却価格は、金貨10兆枚はくだらないだろうね。」

「それ、グランツ王国の滅亡と共に失われた 太古の魔導書ですよね!」


「そうみたいだね。
 でも最初は、目指せ!初級魔法使いの本からだったかな。
 中身は別の書物だったみたいだけど。」

レヴィアがエイトを睨んでいる・・・。




 ~ to be continued



【補足】


・悪魔

悪魔は地上にも、たまに出没する。
神の怒りに触れた場合、神が加護を消し去り、悪魔が訪れることもある。



・炎の悪魔

西の村を焼き尽くした伝説の悪魔。
4年ほど前に西の村が、神を冒涜し、教会を燃やしたことから、炎の悪魔が出てきた。王国は軍を組織し討伐に向かうが、半数近くの兵士が命を落とした。西の村の住人は、子供を躾けるとき、炎の悪魔が来るぞ!という。



・魂を封印する

この世界の、迷宮での脅し文句の一つ。
ようするに、遺体を地上に持ち帰れないようにするぞ!と言うこと。



・ネクロノミコン

魔導書の一つで、異世界から持ち込まれたとも言われている。
グランツ王国の滅亡と共に失われたと言われている、太古の魔導書。
実際には、神々の魔導書の入門編で、魔法や戦い方、調合、錬金の法則性などが記載されている。



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