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3章・迷宮探索!
第9階 余計な戦闘
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いつものようにパーティが下の階を目指し 進んでいると、重厚な扉を見つける。
ミザリが 器用にカギを開けて、扉の中を覗くが、何を見たのか そっと扉を閉める。
レヴィアがミザリの後ろから声を掛ける。
「どうだった?」
「モンスターベースだね。」
「モンスターベース?」
エイトが不思議そうな顔をしている。
アルルは、そんなエイトにモンスターベースの意味を説明する。
「魔物の基地ってことですよ。
この階層以上の魔物がいることもあるから、みなさん避けて通るんですけど・・・。」
「魔物の基地・・・モンスターベースか・・・。
一応聞くけど、どうする?」
「エイトが蹴散らしながら進めばいいじゃないか。偉大なる父の愛と、愛情一本で!」
レヴィアが笑いながらエイトの刀を指さす。
「偉大なる父の愛!?」
「愛情一本!!?」
アルルとミザリが、不思議なネーミングに喰いついた。
慌てた様子で全力でエイトは手を振っている。
「あー!黙ってたのにー!」
ミザリが不思議そうな顔で、エイトを観察しながらレヴィアに質問する。
「でも、武器はその腰のカタナだけでしょ?」
「いや、腰の刀は、愛情一本で、別にブレスレットとして隠し持ってるのが、偉大なる父の愛だ!」
レヴィアは、エイトの左腕を掴むと、みんなに見えるようにブレスレットを自慢げに見せる。
「二人とも変化型の魔装具を所持してるのか!
どうやって入手してるんだ?」
レイザーは、エイトやレヴィアが魔装具を所持していることに驚いているようだ。
魔装具を所有している冒険者は、ほんの一握りで、大半の冒険者は 生涯 魔装具を手にすることも出来ない程、貴重な品である。
「もらいものですよ。盗品ではないです。」
「でしょうね。魔装具は使用者を覚えるっていいますから、殺して奪うか、譲渡されるしか所有することができないですからね。」
アルルの説明に、エイトが何か理解できたというような顔をしている。
「それで、レヴィアのタンタンハンマーを勝手に使えないのか!」
「!!!!!!」
エイトの言葉に激しく動揺し始めるレヴィア。
「タ、タンタンって何よ!
わ、私の魔装具は、狂える海龍王の撃槌だから!」
「レヴィア姉さん、たんたんって・・・。」
ミザリは、レヴィアのネーミングセンスに落胆した表情を見せる。
レヴィアは、顔を真っ赤にしながら、エイトに詰め寄る!
「エイトだって、本名は、エイトランランだからね!」
「違うよ!エイト=タイタンだよ!」
「レヴィアさん、・・・可哀想ですよ。」
アルルは、憐みの目でエイトを見る。
パーティを変な空気が包む・・・。
名前の話に飽きたのか、ミザリがレヴィアに話しかける。
「そんなことよりさ、エイトとレヴィア姉さんで、モンスターベースに突入する?奥に宝箱みたいな物も見えたけど。」
「ミザリちゃん、さすがに危険ですよ。数も多いし、手強い魔物も いますから。」
「どうせ、上級魔物とかでしょ。ちょっと行ってくるから、待っててよ。」
レヴィアは、狂える海龍王の撃槌を構えて扉の奥に入っていく。
レヴィアの後姿を見送るパーティ。エイトは付いて行かないようだ。
「ああ、レヴィアったら。辞めておけばいいのに。」
「でもさ、エイトやレヴィア姉さんの力があれば、敵を倒すのだって簡単じゃないの?」
「言われてみれば、そうですよね。エイトさん、最低限の戦闘しかしないのは なぜですか?」
ミザリとアルルは、付いて行かなかったエイトに質問する。
まさか自分が矢面に立つとは思っていなかったのだろう。
エイトは、少し驚いた表情をした後、質問に答える。
「え?魔物にだって生活はあるんだろうし、こっちの都合だけで殺すのはよくないと思うんだよね。
それに、追い込まれた魔獣は、悪魔以上に手強かったりしたからね。」
レイザーもエイトの意見に頷きながら賛成する。
「確かに、エイトの意見に賛成だ。戦わなくていい場合は、回避して進んだ方がいいだろう。」
「・・・そうですかね?
倒せるなら倒しておいた方がいいと思いますよ。そうすれば、」
アルルの意見を遮るようにエイトが話し始める。
「そうすれば、多くの冒険者が奥に進み、遺体の回収も出来ずに朽ちていくよ。」
「・・・。」
エイトの正論に、アルルは言い返せない。
戦闘に否定的だったエイトに難しい表情を見せていたミザリも口を開く。
「言われてみれば、そうだよね。
以前、有名なパーティが迷宮に挑んだことがあったんだ。その時も手当たり次第に魔物を駆逐しながら先に進んでたんだ。
で、そのパーティに便乗した多くの冒険者の遺体は戻ってこなかった。」
レイザーが何かを思い出したようだ。
「フランダース傭兵団事件だな。」
「フランダース傭兵団事件?」
王国の騎士養成所で育ったアルルには、聞き慣れない事件なのだろう。
エイトと2人で、不思議そうな顔をしている。
「そう、その有名な冒険者パーティの名前なんだけど、彼らは、当時最下層記録の12階だった記録を大きく上回り、16階まで降りて、そこから引き返してきた。」
「大幅な更新ですね。」
「うん。凄い事だと思うよ。
でも、彼らの駆逐した道を進んでいった中堅パーティ達は、途中で全滅。
フランダース傭兵団は、仲間ではないと言って遺体の回収もせずに引き返していった。」
「えっ!?
・・・冒険者の遺体は どうなったんですか?」
「半年後に、ウィンター商会が16階まで降りたけど、もう遺体を見つけることはできなかったんだ。
冒険者だからしかたないって言えばそうなんだけど・・・。」
「・・・ひどい話ですね。エイトさん、」
アルルがエイトを探す。
周囲に エイトの姿はなく、呼びかけにも答えない。
「あれ?エイトさんは?」
「ほんとだ。拗ねたかな?」
アルルは、少し泣きそうな表情でエイトを探している。
ミザリが笑顔でアルルの背中を叩く。
「・・・ちゃんと謝らないといけないですよね。」
「エイトの事だから、あまり気にしてないよ。それより、ほんとエイトは どこに行っちゃったのかな?」
ミザリに元気づけられ、アルルも少し表情が和らぐ。
ミザリは、扉の方を見ながらメンバーに笑いながら話しかける。
「扉の奥かな? 結局エイトも戦いに入ったんじゃない?」
3人は、そっと扉を開く。
扉の先には、傷だらけで倒れているレヴィア、そして青い肌の女と、エイトが対峙していた。
青い肌の女は、部屋の入り口から見て左側に、右側にはエイトが、エイトのすぐ後ろには、レヴィアが倒れている。
「レヴィア姉さん!」
レヴィアの姿を見て、とっさに部屋の中にミザリが飛びいる。
青い肌の女が3人を指さす。
エイトは、ミザリ達の方を見て 大きな声を出す。
「動くな!」
エイトも3人の方に掌を向ける。
と、同時に青い肌の女が魔法を詠唱する。
「冥界の猛吹雪(LV24)」
エイトも、青い肌の女と ほぼ同時に魔法を詠唱する。
「獄炎龍の息吹(LV24)」
青い肌の女の指から放たれた魔法は、巨大な無数のツララとなって襲い掛かる。
エイトの放った、巨大な火の玉も 飛んできて、巨大な無数のツララと、ミザリの目の前で衝突する!
氷の魔法を、炎の魔法によって相殺し消滅させたようだ。
青い肌の女は、エイトにも指を向ける!
「雷神の雄たけび(LV24)」
「くそ、早い!」
女の指先から、放射状に雷が放たれる!
エイトは魔法の詠唱が間に合わない!
とっさに左腕の腕輪を武骨な棍棒に変えて、直撃を防ぐが ダメージが大きい。
ダメージを受けながらも、エイトは青い肌の女に指先を向ける。
「滅炎の光の矢(LV2)」
エイトは、光の矢を連続して放つが、直線的な魔法なので、横に避けられて回避されてしまう。
「風の刃(LV3)」
ミザリが青い肌の女に魔法を唱える。
青い肌の女は、一瞬だけ確認するが、そのまま ミザリの攻撃を喰らう。
風の刃(LV3)のダメージより、エイトの方が脅威なのだろう。
しかし、その考えが失敗の始まりだった。
ミザリの放った魔法の すぐ後ろには、アルルとレイザーが飛び込んできていた。
青い肌の女は、アルルの一撃を後ろに体を引き避ける。
そのまま反撃しようと、右拳を出そうとしたところ、脇腹をレイザーに突かれ、レイザーの方を見てしまう。
そこに、魔法で加速したエイトが近づき、武骨な棍棒の一撃を、青い肌の女の頭部に決める!
エイトの魔装具で 頭部を殴打された瞬間、青い肌の女は、激しく痙攣し倒れた。
エイトは、倒れた青い肌の女の頭に手を置き、何か聞き取れない言葉で魔法を詠唱している。
魔法の詠唱が終わると、青い肌の女は、灰になって消えた。
エイトは、よろけながらも立ち上がり、笑顔を見せ パーティに声を掛ける。
「みんな、ありがとう。怪我はない?」
「あの、レヴィアさんは・・・。」
「ああ、大丈夫だと思うよ。最初に魔法をかけておいたから。
念のために、すぐにフルポーションを飲ませよう。
それと・・・この戦いは レヴィアに黙っててよ。」
エイトが立ち上がり、レヴィアの方に歩いていく。
その背中には、魔法を受けた跡なのか、大きく火傷をしていた。
アルルは、心配そうな表情でエイトに声を掛けようとした・・・。
「エイトさん、背中・・・。」
しかし、なぜか言葉が出ない。
エイトを心配しているのだが、エイトに声を掛けることが出来なかった・・・。
エイトは、薬が飲めないほど、傷ついているレヴィアの鼻をつまみ、口移しで薬を飲ませる。
レヴィアが むせるように吐き出すが、エイトは レヴィアが薬を飲み込むまで口を離さない。
レヴィアも落ち着き、薬を飲み込んだようだ。
傷が癒え、目を覚ますレヴィア。
「・・・あれ?」
「レヴィア、宝箱は空箱だったみたいだね。」
「ああ、そうだったんだ。」
「さあ、何もなかったんだから、先を急いで いいよね?」
「う、うん。そうだね。
エイトと戦ってた気がするんだけど、気のせいかな?」
「さあ、気のせいじゃない?」
エイトは 立ち上がり、倒れているレヴィアに手を差し伸べる。
「ありがと。」
レヴィアは、立ち上がりエイトを見つめる。
「あのー、・・・私が気を失ってるときに、変な事したでしょ。」
ミザリと、アルルがフォローをいれる。
「いや、レヴィア姉さんの勘違いじゃないかな?」
「ええ、みんなで外で話してましたし。」
レヴィアは、かなり疑っている。
「だって・・・。」
「・・・なぜか、口の周りが濡れてるんだけど。」
~ to be continued
【補足】
・モンスターベース
魔物の基地(たまり場)。この階層以上の魔物がいることもある。
モンスターベースは、知能のある魔物が冒険者を殺した際に奪った戦利品をため込んでいる場合がある。モンスターの種類によっては、冒険者の死骸が入っていたりする。
・変化型の魔装具
本来の姿をとっておらず、装着者が使いたいときにだけ、本来の姿に変化する魔装具。
有名な変化型の魔装具は、ダンテ国王が所有する、聖なる外装剣である。
聖なる外装剣は、一振りのロングソードだが、本来の姿は、全身鎧・片手剣・縦長盾のセットである。
ダンテ国王は装着する際に変身ポーズを決めるのだが、それが子供たちに人気のようだ。
・フランダース傭兵団
団長のパトラッシュと、廃人ネロの率いる傭兵の集団。
有名な戦いでは、魔法使いの集団が攻めてきたときに、王国の騎士団6000名の部隊が倒され、王都を占領された翌々日、わずか30名の傭兵団で、王都を奪還して、敵の王を捕らえた 戦いである。
・青い肌の女
ドラゴンの鱗のような、青い皮膚をもった裸の女の悪魔。
大魔法を連発し、エイトを苦しめた。
宝箱を開けた際の罠だったようで、エイトの神言の詠唱で消滅した。
・魔法で加速した
身体強化の魔法や、重量軽減の魔法などがある。火の魔法が得意なエイトは、身体強化の魔法を使っていると考えられる。
・最初に魔法をかけておいた
ゲームのように一瞬で傷を癒す回復魔法は存在しない。
エイトがかけておいた魔法は、フルポーションで回復するところから考察してみると、血止め、痛み止め(睡眠)などの単純な魔法だと思われる。
ミザリが 器用にカギを開けて、扉の中を覗くが、何を見たのか そっと扉を閉める。
レヴィアがミザリの後ろから声を掛ける。
「どうだった?」
「モンスターベースだね。」
「モンスターベース?」
エイトが不思議そうな顔をしている。
アルルは、そんなエイトにモンスターベースの意味を説明する。
「魔物の基地ってことですよ。
この階層以上の魔物がいることもあるから、みなさん避けて通るんですけど・・・。」
「魔物の基地・・・モンスターベースか・・・。
一応聞くけど、どうする?」
「エイトが蹴散らしながら進めばいいじゃないか。偉大なる父の愛と、愛情一本で!」
レヴィアが笑いながらエイトの刀を指さす。
「偉大なる父の愛!?」
「愛情一本!!?」
アルルとミザリが、不思議なネーミングに喰いついた。
慌てた様子で全力でエイトは手を振っている。
「あー!黙ってたのにー!」
ミザリが不思議そうな顔で、エイトを観察しながらレヴィアに質問する。
「でも、武器はその腰のカタナだけでしょ?」
「いや、腰の刀は、愛情一本で、別にブレスレットとして隠し持ってるのが、偉大なる父の愛だ!」
レヴィアは、エイトの左腕を掴むと、みんなに見えるようにブレスレットを自慢げに見せる。
「二人とも変化型の魔装具を所持してるのか!
どうやって入手してるんだ?」
レイザーは、エイトやレヴィアが魔装具を所持していることに驚いているようだ。
魔装具を所有している冒険者は、ほんの一握りで、大半の冒険者は 生涯 魔装具を手にすることも出来ない程、貴重な品である。
「もらいものですよ。盗品ではないです。」
「でしょうね。魔装具は使用者を覚えるっていいますから、殺して奪うか、譲渡されるしか所有することができないですからね。」
アルルの説明に、エイトが何か理解できたというような顔をしている。
「それで、レヴィアのタンタンハンマーを勝手に使えないのか!」
「!!!!!!」
エイトの言葉に激しく動揺し始めるレヴィア。
「タ、タンタンって何よ!
わ、私の魔装具は、狂える海龍王の撃槌だから!」
「レヴィア姉さん、たんたんって・・・。」
ミザリは、レヴィアのネーミングセンスに落胆した表情を見せる。
レヴィアは、顔を真っ赤にしながら、エイトに詰め寄る!
「エイトだって、本名は、エイトランランだからね!」
「違うよ!エイト=タイタンだよ!」
「レヴィアさん、・・・可哀想ですよ。」
アルルは、憐みの目でエイトを見る。
パーティを変な空気が包む・・・。
名前の話に飽きたのか、ミザリがレヴィアに話しかける。
「そんなことよりさ、エイトとレヴィア姉さんで、モンスターベースに突入する?奥に宝箱みたいな物も見えたけど。」
「ミザリちゃん、さすがに危険ですよ。数も多いし、手強い魔物も いますから。」
「どうせ、上級魔物とかでしょ。ちょっと行ってくるから、待っててよ。」
レヴィアは、狂える海龍王の撃槌を構えて扉の奥に入っていく。
レヴィアの後姿を見送るパーティ。エイトは付いて行かないようだ。
「ああ、レヴィアったら。辞めておけばいいのに。」
「でもさ、エイトやレヴィア姉さんの力があれば、敵を倒すのだって簡単じゃないの?」
「言われてみれば、そうですよね。エイトさん、最低限の戦闘しかしないのは なぜですか?」
ミザリとアルルは、付いて行かなかったエイトに質問する。
まさか自分が矢面に立つとは思っていなかったのだろう。
エイトは、少し驚いた表情をした後、質問に答える。
「え?魔物にだって生活はあるんだろうし、こっちの都合だけで殺すのはよくないと思うんだよね。
それに、追い込まれた魔獣は、悪魔以上に手強かったりしたからね。」
レイザーもエイトの意見に頷きながら賛成する。
「確かに、エイトの意見に賛成だ。戦わなくていい場合は、回避して進んだ方がいいだろう。」
「・・・そうですかね?
倒せるなら倒しておいた方がいいと思いますよ。そうすれば、」
アルルの意見を遮るようにエイトが話し始める。
「そうすれば、多くの冒険者が奥に進み、遺体の回収も出来ずに朽ちていくよ。」
「・・・。」
エイトの正論に、アルルは言い返せない。
戦闘に否定的だったエイトに難しい表情を見せていたミザリも口を開く。
「言われてみれば、そうだよね。
以前、有名なパーティが迷宮に挑んだことがあったんだ。その時も手当たり次第に魔物を駆逐しながら先に進んでたんだ。
で、そのパーティに便乗した多くの冒険者の遺体は戻ってこなかった。」
レイザーが何かを思い出したようだ。
「フランダース傭兵団事件だな。」
「フランダース傭兵団事件?」
王国の騎士養成所で育ったアルルには、聞き慣れない事件なのだろう。
エイトと2人で、不思議そうな顔をしている。
「そう、その有名な冒険者パーティの名前なんだけど、彼らは、当時最下層記録の12階だった記録を大きく上回り、16階まで降りて、そこから引き返してきた。」
「大幅な更新ですね。」
「うん。凄い事だと思うよ。
でも、彼らの駆逐した道を進んでいった中堅パーティ達は、途中で全滅。
フランダース傭兵団は、仲間ではないと言って遺体の回収もせずに引き返していった。」
「えっ!?
・・・冒険者の遺体は どうなったんですか?」
「半年後に、ウィンター商会が16階まで降りたけど、もう遺体を見つけることはできなかったんだ。
冒険者だからしかたないって言えばそうなんだけど・・・。」
「・・・ひどい話ですね。エイトさん、」
アルルがエイトを探す。
周囲に エイトの姿はなく、呼びかけにも答えない。
「あれ?エイトさんは?」
「ほんとだ。拗ねたかな?」
アルルは、少し泣きそうな表情でエイトを探している。
ミザリが笑顔でアルルの背中を叩く。
「・・・ちゃんと謝らないといけないですよね。」
「エイトの事だから、あまり気にしてないよ。それより、ほんとエイトは どこに行っちゃったのかな?」
ミザリに元気づけられ、アルルも少し表情が和らぐ。
ミザリは、扉の方を見ながらメンバーに笑いながら話しかける。
「扉の奥かな? 結局エイトも戦いに入ったんじゃない?」
3人は、そっと扉を開く。
扉の先には、傷だらけで倒れているレヴィア、そして青い肌の女と、エイトが対峙していた。
青い肌の女は、部屋の入り口から見て左側に、右側にはエイトが、エイトのすぐ後ろには、レヴィアが倒れている。
「レヴィア姉さん!」
レヴィアの姿を見て、とっさに部屋の中にミザリが飛びいる。
青い肌の女が3人を指さす。
エイトは、ミザリ達の方を見て 大きな声を出す。
「動くな!」
エイトも3人の方に掌を向ける。
と、同時に青い肌の女が魔法を詠唱する。
「冥界の猛吹雪(LV24)」
エイトも、青い肌の女と ほぼ同時に魔法を詠唱する。
「獄炎龍の息吹(LV24)」
青い肌の女の指から放たれた魔法は、巨大な無数のツララとなって襲い掛かる。
エイトの放った、巨大な火の玉も 飛んできて、巨大な無数のツララと、ミザリの目の前で衝突する!
氷の魔法を、炎の魔法によって相殺し消滅させたようだ。
青い肌の女は、エイトにも指を向ける!
「雷神の雄たけび(LV24)」
「くそ、早い!」
女の指先から、放射状に雷が放たれる!
エイトは魔法の詠唱が間に合わない!
とっさに左腕の腕輪を武骨な棍棒に変えて、直撃を防ぐが ダメージが大きい。
ダメージを受けながらも、エイトは青い肌の女に指先を向ける。
「滅炎の光の矢(LV2)」
エイトは、光の矢を連続して放つが、直線的な魔法なので、横に避けられて回避されてしまう。
「風の刃(LV3)」
ミザリが青い肌の女に魔法を唱える。
青い肌の女は、一瞬だけ確認するが、そのまま ミザリの攻撃を喰らう。
風の刃(LV3)のダメージより、エイトの方が脅威なのだろう。
しかし、その考えが失敗の始まりだった。
ミザリの放った魔法の すぐ後ろには、アルルとレイザーが飛び込んできていた。
青い肌の女は、アルルの一撃を後ろに体を引き避ける。
そのまま反撃しようと、右拳を出そうとしたところ、脇腹をレイザーに突かれ、レイザーの方を見てしまう。
そこに、魔法で加速したエイトが近づき、武骨な棍棒の一撃を、青い肌の女の頭部に決める!
エイトの魔装具で 頭部を殴打された瞬間、青い肌の女は、激しく痙攣し倒れた。
エイトは、倒れた青い肌の女の頭に手を置き、何か聞き取れない言葉で魔法を詠唱している。
魔法の詠唱が終わると、青い肌の女は、灰になって消えた。
エイトは、よろけながらも立ち上がり、笑顔を見せ パーティに声を掛ける。
「みんな、ありがとう。怪我はない?」
「あの、レヴィアさんは・・・。」
「ああ、大丈夫だと思うよ。最初に魔法をかけておいたから。
念のために、すぐにフルポーションを飲ませよう。
それと・・・この戦いは レヴィアに黙っててよ。」
エイトが立ち上がり、レヴィアの方に歩いていく。
その背中には、魔法を受けた跡なのか、大きく火傷をしていた。
アルルは、心配そうな表情でエイトに声を掛けようとした・・・。
「エイトさん、背中・・・。」
しかし、なぜか言葉が出ない。
エイトを心配しているのだが、エイトに声を掛けることが出来なかった・・・。
エイトは、薬が飲めないほど、傷ついているレヴィアの鼻をつまみ、口移しで薬を飲ませる。
レヴィアが むせるように吐き出すが、エイトは レヴィアが薬を飲み込むまで口を離さない。
レヴィアも落ち着き、薬を飲み込んだようだ。
傷が癒え、目を覚ますレヴィア。
「・・・あれ?」
「レヴィア、宝箱は空箱だったみたいだね。」
「ああ、そうだったんだ。」
「さあ、何もなかったんだから、先を急いで いいよね?」
「う、うん。そうだね。
エイトと戦ってた気がするんだけど、気のせいかな?」
「さあ、気のせいじゃない?」
エイトは 立ち上がり、倒れているレヴィアに手を差し伸べる。
「ありがと。」
レヴィアは、立ち上がりエイトを見つめる。
「あのー、・・・私が気を失ってるときに、変な事したでしょ。」
ミザリと、アルルがフォローをいれる。
「いや、レヴィア姉さんの勘違いじゃないかな?」
「ええ、みんなで外で話してましたし。」
レヴィアは、かなり疑っている。
「だって・・・。」
「・・・なぜか、口の周りが濡れてるんだけど。」
~ to be continued
【補足】
・モンスターベース
魔物の基地(たまり場)。この階層以上の魔物がいることもある。
モンスターベースは、知能のある魔物が冒険者を殺した際に奪った戦利品をため込んでいる場合がある。モンスターの種類によっては、冒険者の死骸が入っていたりする。
・変化型の魔装具
本来の姿をとっておらず、装着者が使いたいときにだけ、本来の姿に変化する魔装具。
有名な変化型の魔装具は、ダンテ国王が所有する、聖なる外装剣である。
聖なる外装剣は、一振りのロングソードだが、本来の姿は、全身鎧・片手剣・縦長盾のセットである。
ダンテ国王は装着する際に変身ポーズを決めるのだが、それが子供たちに人気のようだ。
・フランダース傭兵団
団長のパトラッシュと、廃人ネロの率いる傭兵の集団。
有名な戦いでは、魔法使いの集団が攻めてきたときに、王国の騎士団6000名の部隊が倒され、王都を占領された翌々日、わずか30名の傭兵団で、王都を奪還して、敵の王を捕らえた 戦いである。
・青い肌の女
ドラゴンの鱗のような、青い皮膚をもった裸の女の悪魔。
大魔法を連発し、エイトを苦しめた。
宝箱を開けた際の罠だったようで、エイトの神言の詠唱で消滅した。
・魔法で加速した
身体強化の魔法や、重量軽減の魔法などがある。火の魔法が得意なエイトは、身体強化の魔法を使っていると考えられる。
・最初に魔法をかけておいた
ゲームのように一瞬で傷を癒す回復魔法は存在しない。
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