目指せ地獄の門 ~改訂版~

黒山羊

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5章・英雄の誕生

洞窟12階 落ちたのは(前編)

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「ねえ、レヴィア姉さん。」

隊列の後ろの方でミザリが、レヴィアに小声で話しかける。

「どうした?」

レヴィアの普段通りの声に、メンバーは振り向く。
ミザリは、ごまかすように頭をかきながらパーティに言う。

「あはは、いや、何でもないよ。」

前衛を歩くエイトとアルルが、少し離れて歩くレヴィアとミザリに声をかける。

「レヴィア、あんまり離れて歩かないでよ。」

「そうですよ。ミザリちゃんも 迷子になっちゃいますよ!」

ミザリは照れながら返事をする。

「はーい!ごめんね。」


パーティは、また前を向き先に進み始める。
それを確認して、ミザリは再び小声でレヴィアに話しかける。

「ちょっと、大きな声で返事したらバレちゃうじゃん。」

「ああ、すまなかったね。で、どうした?」

「うん。アルルなんだけど、あの事件以来 エイトのすぐ近くを歩いてない?」

「たしかに言われてみれば。」

レヴィア達の見つめる先に、前衛で並んで歩くようなエイトと アルルの姿がある。
アルルは、歩きながらエイトをチラチラと見ている時がある。

「レヴィア姉さん、エイトは鈍感っぽいから アレだけど、アルルは絶対に意識してるよね。」

「ああ、ほんとだ。いまエイトの方を見た気がする。」

「なんだか面白そうな予感しかしないんだけど。」

「もう少し様子を見てみよう。」


レヴィアとミザリは少しメンバーから距離をとる。
それに気づくレイザーとエイト。

「レヴィア、どうしたの?」

「2人とも大丈夫か?」

「ああ、ちょっと。ミザリが疲れたみたいなんだ。レイザー少し手を貸してもらえないかな。」

「もちろん。構わんよ。」

そういうと、レイザーはミザリに手を貸すように、後方に移動してくる。
レイザーが後ろに下がってくるのを確認したレヴィアは、エイトとアルルに声をかける。

「エイトとアルルは、先行して様子を確認してくれると助かるんだが。」

「ああ、そうだね。アルルは大丈夫?」

「あ、はい!あの、エイトさんと二人っきり、です・・・よね。」

「そうだけど、アルルは、エイトの事、嫌いだった?」

「いえ、そんなことはないです。むしろ・・・。あの。はい。」

にやける、レヴィアとミザリ。


「まあ、ここで話してても意味がないし、隠密の指輪を使って先行しててよ。ミザリの体力が戻り次第、追いつくからさ。もし敵が大勢いるようだったら、隠密の指輪を発動してれば見つかることなく戻ってこれるでしょ。そのときは、合流して戦おうよ。」

「そうだね。なかなか女神様からもらった魔装具の使い道がなくて悩んでたんだ。
 アルル、一緒に行こうよ。」

そういって、エイトはアルルに手を差し出す。
アルルは、顔を真っ赤にしながら、エイトと手をつなぐ。

「・・・はい。エイトさん。お願いします。」

二人の気配が消え、視界から消えると見つけることも出来なくなった。

「ミザリ、期待通りの展開だね。」

「レヴィア姉さん、アルルは このチャンスに告白するのか、そこが重要だよね。」

「・・・まったくだ。二人は何してるんだ。」

「ほんと、アルルは、完全に恋に落ちたよね。レイザーも そう思うでしょ!」

面白がってレイザーに話を振るミザリに、レイザーが言った。

「いや、私が言いたいのは、レヴィアとミザリの二人だったんだが・・・。」

レヴィアたち3人も、後を追うように、先へと進んだ。







魔装具の隠密の指輪を発動し、完全に気配を絶ちながら先を進む、エイトとアルル。
そんな中、アルルは勇気を振り絞り エイトに声をかける。

「あの、エイトさん。」

「どうしたの?」

「いえ、迷宮内は静かですね。」

「そうだね。主父あるじ様の館の廊下を思い出すよ。
 あの時は、すぐにレヴィアと知り合って、それからは廊下が静かに感じることはなくなったけどね。」

アルルは、エイトの手を強く握る。

「エイトさん。レヴィアさんとは、何か特別な、その・・・。」


「・・・?」


「レヴィアさんは、特別なんでしょうか!?」

「どうしたのいったい?」

「いえ、その、レヴィアさんの事なんですけど・・・。」


言葉に詰まるアルルに、エイトがレヴィアの説明を始める。

「そうだね。レヴィアは特別だよね。
 初めて会ったのは、主父あるじ様の館に来て1か月過ぎたころだったかな。あの頃は、まだレヴィアもドラ・・・。
 アルル、どうしたの?」


アルルは、歩くのを辞め、下を向いている。

「エイトさん、私・・・汚くないですか。」

「ぜんぜん。とても綺麗だよ。」

「でも、わたし・・・。」

「アルル、初めて出会った瞬間から、いままでずっと、綺麗な人だって分かってるよ。」

どんな時でも優しい言葉を掛けてくれるエイトを、アルルは 強く抱きしめる。
おっぱいを顔に押し付けられ、動揺したエイトは 隠密の指輪の効果を止めた。

「エイトさん。わたし、レヴィアさん以上に特別になれるように頑張るので見ていて下さい。」

「あ、はい。こちらこそ、宜しくお願いします。」

そんな2人の姿を、遠くから見つめる6つの瞳があった。








~15分後~

エイトたちは、しばらく進むと、少し広い場所を発見する。
ちょうど分かれ道になっていたので、レヴィアたちを待つことにした。








~20分後~

「ちょっと、みんな遅いですよね。」

「ああ、確かにレヴィアは強いけど、この組み合わせに、この待ち時間は嫌な予感しかしないんだけどな。」

「少し、戻ってみましょうか。」

「そうだね。急いで戻ろうか。」

アルルとエイトは、いま来た道を引き返すことにした。
とくに魔物のいた様子もなかったし、一本道だったので、迷うこともないと思うのだが。









先ほど、エイトが隠密の指輪を解除してしまった場所に、レヴィアとレイザーがいた。
アルルとエイトは、ミザリの姿を探すが見つけることが出来ない。

「レヴィア、ミザリは?」

エイトが声をかけると、安心した表情を見せ、レヴィアがエイトに言った。

「よかった。レイザーを宜しく頼む。私は、この割れ目に突入する。」

周囲には、争った跡もあり、レヴィアも軽症を負っている。

「レヴィア、落ち着いて説明してくれ。何があったんだ!?」

「実は、ここでケルベロスの奇襲にあったんだ。ケルベロスを追い返すことはできたんだが、戦闘中に、ミザリが足を滑らせて、割れ目に転落してしまったんだ。」

「・・・すまない。私がミザリにぶつかってしまって。」

レイザーは自責の念からだろうか、涙を流している。
最初は悪い冗談だと思っていたアルルも、レイザーの涙を流す姿を見て、事の重大さに気づいたようだ。

「・・・まさか、本当に落ちたの?」

レヴィアは頷く。

「・・・わかった。僕が行こう。レヴィア、荷物を出してくれ。」

「エイトさん、危険です!」

制止するアルルの意見を聞かず、レヴィアに指示を出すエイト。
レヴィアも エイトの指示に従い、四次元ポシェットから荷物を取り出す。

「ロープ1巻き、ナイフを全て、フルポーション2つ、食料をバックパックに入る分だけでいい。
僕ならナイフとロープを使って、一番下まで降りることもできるし、戻ってくることもできる。
 ・・・アルル、必ず戻ってくる。」

「だけど・・・。」

エイトの事が心配だが、いまエイトが助けに行かなければ、ミザリは遺体さえ回収できなくなってしまうだろう。
アルルは 本当はエイトを止めたいのだが、それを言い出せずにいた。

「レヴィア、3人には、先に進んでもらいたい。
 ケルベロスが10階の階段の方に逃げ出したのであれば、下に進む方が安全に進めるはずだから。」

「でも、ここで待っていた方が・・・。」

アルルは、ここで待ちたかったのだろうが、レヴィアに反対されてしまう。

「いや、先に進もう。手負いの魔獣は 悪魔より強い。
 もう私一人では勝てないかもしれないから。」

「3人とも、必ず追いつくから、死ぬなよ!」

エイトは何か魔法を詠唱すると、食料と予備のナイフを入れたバックパックを背負い、ロープを肩にかけ、両手のナイフにも強化魔法を詠唱し、そのナイフを崖に突き刺しながら 断崖絶壁の割れ目へと降りていく。
エイトを見送ると、レヴィアがアルルとレイザーに声をかける。

「ケルベロスが戻ってくる前に先に進もう。」

「・・・はい。」

アルルは、エイトを失う不安からか、目に涙を貯めていた。





 ~ to be continued





【補足】


・女神様からもらった魔装具

女神様がくれた魔装具(隠密の指輪など)
「私の辞書を含め、よく考えれば、なかなか素晴らしい魔装具だった。」
 とレヴィアは言っている。



・レヴィアは特別

エイトにとって特別という意味ではない。



・おっぱいを、顔に押し付けられ

それほど 身長に差がある。
要するに、エイトは 見た目が子供。



・6つの瞳

分かってるとは 思いますが、3人分の目。
つまり 3つの頭。



・ケルベロス

3つの頭を持つ地獄の番犬。地獄の入り口付近には、結構な数が生息しているらしい。
大きさは、中型~大型バス程度の大きさで、3つの頭が、それぞれに考え攻撃をしてくる。
ケルベロスの毛皮は 魔法の効果を弱めるので、魔法による攻撃は効きにくい。
敵との相性によっては、中級悪魔をも凌駕する。上級魔獣クラスのモンスター。



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