目指せ地獄の門 ~改訂版~

黒山羊

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8章・最終章

洞窟23階 洞穴の主様

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レヴィアが振り返りながら、メンバーに話しかけている。

「結構迷宮も広いね。」

「ええ、下の階に行くほど広くなっていくそうですよ。」

後衛のアルルの返事に、泣きそうな表情になるミザリ。

「レヴィア姉さん、もう1週間だよ。
 今日は休まない?」

フラフラと歩くミザリを気遣って、リリアスもレヴィアに声をかける。

「ええ、少し休息日をいれましょ。」

「そうだね。定期的な休息だけでは疲れも抜けきらないね。
 今後いつ休息をとれるかも分からないし、今日はゆっくり休むとしよう。」

「やった!」

とたんに元気になるミザリの表情に、レヴィアは微笑みながら休めそうな場所を探す。
周囲を見渡すと、休めそうな洞穴ほらあながあった。
洞穴ほらあなは、狭い入口と比較的広めの内部で休むには最適だろう。
また周囲に魔物の痕跡もなく、安心して休めそうだ。
レヴィアは、四次元ポシェットからキャンプ道具を取り出し、炭に火を着けて調理を始める。

「レヴィア姉さん、そんなものも荷物に入れてたの?
 ・・・さすがだね。」

「ああ、迷宮で休息することもあるかと思って準備しておいた。
 実際は、保存食を調理するから、普段と変わらないんだけどね。
 ほら、雰囲気も大事でしょ。」

レヴィアの準備の良さに、メンバーは感心している。
ミザリは、いままでの辛さが吹き飛んだのか、楽しそうに声を上げる。

「そうだね、雰囲気は大事だよ。だってコレだけで迷宮を忘れさせてくれるんだもん。」

「ミザリも元気が出てよかったね。
 じゃあ、レヴィアに料理は任せて僕らは2人ずつ交代で見張りをしよう。」

エイトの意見に、フラウが手を挙げる。

「最初は、うちら前衛組がするよ。6時間交代でいいかい?」

「うん。私たちも問題ないよね。」

ミザリが リリアスの顔を見上げながら答える。
リリアスも 軽く頷き答える。

「では、私たち中衛組が 2番手ね。」

「私とエイトさんは 3番手ですね。」










~見張り(前衛組)~

フラウとレイザーが最初の見張りをしている。

「レイザー、もし地獄の門をあけたら、みんなに会えるのかな?」

「そう願いたいな。まあ、誰も行ったことがないんじゃ。行ってみらんと分からんな。」

「そうだよな。もし・・・。」

何かを言いかけた フラウの目線が下がり、少し寂しそうな表情に見えた。

「もし、・・・もし家族に会えても、いまは幸せにしてると伝えるじゃろうな。」



「・・・。」



「・・・。」


徐々に明るい表情に戻るフラウ。

「あのさ、地獄の門を開放して、早く家に戻ろうな。」

「ああ、アリスも待っとるからな。」

「そうだな。アリスに早く会いたいね。」









~見張り(中衛組)~

6時間後、見張りが交代し、ミザリとリリアスが見張りに立つ。


「・・・。」


「ねえ、リリアス。
 どうしたの?」

何か思いつめたような表情をしているリリアスを心配したミザリが声をかける。


「・・・。」


「ほんと、どうしたの?
 何か隠し事してるでしょ。」

「いや、何も隠してないわよ。」

「なーんか、おかしいんだよね。
 もしかして、僕をママと間違えたこと、まだ気にしてるの?」

「いや・・・。」


「それとも何か怒ってるの?」

「いや、まったく怒っているとかは ないのだけれど・・・。」

「はっきりしないなー。」

ミザリは、リリアスの横に座る。


「僕たち仲間でしょ。
 悩みがあるなら、言っちゃいなよ。」


「・・・。」


リリアスは 大きく頷くと、ミザリを見つめて答える。
その声は少し低くなり、男性的な雰囲気も出ている。

「ミザリ、真剣に聞いて欲しい。」

「どうしたの急に、声がちょっと低くなってるよ。」

「実は、私は一つの肉体に 二つの魂が宿っているんだ。
 強力な魔法使いだった姉の魂と共存している。」

「あ、それで・・・今はアースさん?だっけ。」

「そうだよ。
 普段は、姉に肉体の使用権限を譲渡しているが、君の前だと・・・。」

悲しそうな顔でミザリが口を開く。

「・・・僕がハーフエルフで半端だから?
 もしかして、お姉さんが・・・リリアスが僕を嫌ってるとか?」

アース(リリアス)は、首を横に振る。

「それは違う。リリアスは君のことを信頼している。
 私が・・・、」

アースは、話の途中で顔を横に向け少し間を置く。
そして一呼吸、大きく息を吸うと話を続ける。

「それは、私が君に恋をしているからなんだ。」


「・・・。」


ミザリの顔が赤くなる。
ミザリも年頃の女性なのだが、いままでハーフエルフの遅い成長から外見は幼い子供。
初めての真剣な告白でもあった。、

「・・・その、私も最初は気が付かなかった。
 しかし、姉のリリアスの助言もあり これが恋なんだと気づいた。
 ハーフエルフが 私たちエルフから迫害を受けているのも知ってる。
 それでも自分の信念を貫く君に、いつの間にか心を奪われていた。
 この気持ち僕の声で、ちゃんとミザリに伝えておきたかった。」

真剣なアースの眼差しに胸の鼓動が早くなり、いままでに感じたことがない気持ちに包まれ動揺するミザリ。
初めての経験に、正解の答えが思いつかない。

「あ、あの、僕は・・・。
 ごめん、ちゃんと告白とかされたことなかったから、嬉しいんだけど・・・。
 アース、返事とかすぐしなくちゃダメなのかな?」

アースは、ミザリに優しく微笑む。

「いや、私も切り出すのに勇気が必要だった。
 エルフの寿命は長い。ミザリの気持ちが整理できるまで、何年でも待つよ。」




2人は、何とも言えない微妙な空気の中で見張りを続ける。
交代の時間になり、やってきたアルルは何かに気づく。


~見張り(後衛組)~

アルルとエイトの見張りの番になった。
アルルは先ほどのミザリの様子が気になっていたようで、ミザリとリリアスが休憩に戻ったのを確認し、エイトに声をかける。

「エイトは、気が付いた?」

「ん?敵でも発見した?」

「違うよ。ミザリちゃんたちだよ。」

「何かあったの?」

「もー。
 エイトは、ちょっと鈍感だよね。」

エイトは、首をかしげる。


「たぶん、ミザリちゃんか、リリアスさんが告白したんだよ。」

「え!?」

「そうじゃないと、あの元気なミザリちゃんが黙ってるはずないでしょ。」

「たしかに、そう言われてみれば・・・。
 そうだ!
 レイザーたちも ちゃんと結婚式を挙げてないって言ってたよね。
 冒険から無事に戻ったら みんなで結婚式を挙げてもいいかもね。」

「うん。パーティ全員で結婚式とか楽しそうだね。」

笑顔で答えるアルル。
エイトの優しい笑顔での提案に、アルルは迷宮にいることを忘れそうになるくらい嬉しくなった。
すると・・・。
洞穴ほらあなの奥の方から、声が聞こえる。



「おーい、私を忘れてるぞー。」


「「「・・・。」」」



「ああ、しまった・・・。
 まずいことになりそうな予感がする。」





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