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外伝・大商人ハロルド
大商人ハロルド・マイペースな商人修業
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町に戻ったローレンスは、まっすぐ自宅へと向かう。
とは言っても、エルフたちの生活は、人間の生活とは多少違う点も存在する。
今回の家に関しても違う点であろう。
ローレンスが木の幹や枝を上手く利用したツリーハウスに入る。
ツリーハウスの中は、廊下の奥の壁に並ぶようにして扉がいくつもある作りになっていて、玄関を入ってすぐ左には、広い居間がある。
その居間には台所もあり、そこにローレンスの家族だろうか。
中年の女性と立派な髭を生やした老人がいた。
ローレンスは、居間の敷居をくぐると、元気よく声をかける。
「ただいま、みんな!」
「おかえり、ローレンス。」
ローレンスの家族だろうか、家の中にいたエルフたちは、ローレンスを見つけると笑顔で寄ってきて彼女を優しく抱きしめる。
そして、ローレンスの横にいるレイオンを見つけ、怪訝そうな顔を見せる。
その様子に気づいたローレンスが声をあげる。
「ベラドールおばさん、そんな顔しないでよ。
この子は、レイオン。古くからの習わしに従い、私が師として育てることになったの。」
古くからの習わし、この一言でローレンスの家族は頷き納得してくれたようだ。
ベラドールと呼ばれた女性は、心配そうにローレンスに近寄り、声をかける。
「ローレンス、古くからの習わしなら仕方がないと思うわ。
だけど、子供のいない、・・・それどころか彼氏だっていない貴女に幼い子供の師匠なんて勤まるのか心配よ。」
「ええ、心配ありがと。
・・・まったく問題なしよ。」
少し不服もあるようだが、ローレンスは胸を張って答える。
「だけど・・・、」
それでも心配そうにするベラドールに横にいた立派な髭の老人が声をかける。
「ベラドール、ローレンスが心配ないと言っとるんじゃ。
わしらが心配してどうする。それに人間の子は、あっという間に大人になる。
つまり、わしらが心配せんでも勝手に成長するということじゃろ。」
老人は、あまり人間が好きではないらしい。
それだけ言うと、廊下に出て奥の部屋に引き上げていった。
「ごめんね、ローレンス。あなたも知ってるかもしれないけど、ゼペットは人間嫌いなのよ。」
「ううん。私は気にしてないわ。
それより、荷物を置いたら、ちょっと出かけてくるね、夕飯までには戻るから。」
「あら、どこまで行くの?」
「モロノフ商店に行く予定よ。」
ローレンスが答えると、ベラドールは嬉しそうに頼みごとをする。
「ちょうどよかった、モロノフに毛皮と薬草の交換をお願いしていたの。
もし準備できていたら薬草を受け取ってきてくれないかしら?」
「分かったわ、薬草をもらってくるのね。
じゃあ、準備が終わり次第 レイオンを連れていくね。」
「お願いね。今日の晩御飯は、上等な鹿肉と薬草のスープよ。」
ローレンスは、レイオンの手を引き、奥の自分の部屋に入っていく。
そこで持っていた荷物を下ろし、準備を整え、レイオンに声をかける。
「レイオンくん、いまから商人のところに行くよ。
そこで商人になる為の勉強を一緒にしようね。」
「うん。」
まだローレンスに慣れていないのか、笑顔を見せることはない。
幼いレイオンには、母親が必要なのだろうと、ローレンスも感じていた。
身支度を終え、ローレンスはレイオンを抱きかかえると、モロノフ商店へと向かった。
~モロノフ商店~
ここは、エルフの国で最大の商店である。
とは言っても、エルフの国で唯一の商店でもあるのだが・・・。
そんな唯一商店であるモロノフ商店は、湖のほとりにある大きめの一軒家で、客の数も数えるほどしかいない。
ローレンスが店の前に来ると、中から若いエルフの男性が飛び出してきた。
「や、やあ、偶然だね、ローレンス。
ちょうど僕も出かけようと思ってたところなんだ。
今日は、どこまで行くの?」
「ええ、今日はモロノフ商店に来たのだけれど、お邪魔だったかしら?」
「えっ!うちに来たの!!?
あ、いや、間違えた。いま戻ってきたところだったんだ!
ようこそ、モロノフ商店へ」
若い男性は、ニコニコしながらローレンスを店内へと案内する。
ローレンスは、レイオンを抱きかかえたまま、案内されるまま店に入った。
モノロフ商店は、広い室内に大きな陳列棚、そしてカウンターと休息スペース的なテーブルとイスがあるだけの、いい言い方をすれば シンプルな店だ。
そんなモノロフ商店には、人間の商人の観点からすると気になる点がある。
まず、大きな陳列棚にならんでいるのは、干からびた草、おそらく薬草か何かだろう。それと、古着が数点・・・以上。
次に、店内の客は、ほぼ全員が休息スペースに集まっており、そこで自分たちで勝手に物々交換をしていることだろう。
まるで、商店というよりか、地方のふれあいスペースのような雰囲気を出している。
そんな中、若い男性は、ローレンスに声をかけて来た。
「ローレンス、今日な何の用で来たの?」
そもそも、商人としての自覚がないのが問題のようだが・・・。
他のエルフたちも気にすることがないことから、これがエルフの国の商人の基準なのだろう。
「ええ、ベラドール叔母様が頼んでいた薬草をもらいたいのと、モリアーニ あなたに相談があってきたの。」
「あ、え、僕に・・・。
あ、はい!薬草は無事に採取してきたよ。
・・・。
で、ぼ、俺に何の相談かな?」
モリアーニと呼ばれた青年は、急に性格が変わったようで、キメ顔をしている。
呆れた顔で、内容を話すローレンス。
「ええ、モリアーニ、あなたに商人になる為に必要なことを聞きたくって。」
「なるほど、ようやく俺の魅力に気づいたんだね、ハニー。」
「いや、違うから。
私の子を商人にしたくって、それで質問に来たの。」
「え、その、いま抱きかかえてる子って、ペットとかじゃなくって、ローレンスの子供・・・?」
ローレンスは、面倒くさかったのだろう。
無言で頷く。
「そ、そんな、よりによって人間と結ばれるなんて・・・。
なぜ、僕じゃないのさ!」
ローレンスは余計に面倒になると思ったのか、事の顛末を説明することにした。
その説明を聞き終えると、モリアーニは、笑顔でレイオンと握手する。
「やあ、レイオンくん。お兄ちゃんはモリアーニだよ。
お兄ちゃんがレイオンくんが立派な商人になれるように、いろいろと教えてあげるからね。
お兄ちゃんのことは、パパ。ローレンスお姉ちゃんは、ママって呼んでいいよ。」
レイオンは、何かに警戒しているのか、モリアーニの手を振りほどき、ローレンスにしがみつく。
ローレンスも、モリアーニに警戒しているようだ。
「モリアーニ、レイオンは人間の子で まだ幼いの、同じくらいの大きさだからといって エルフの子と同じことは出来ないわ。
それに言葉も まだ片言なの。変なことを教えないでよ。」
モリアーニは、ローレンスに注意され、すこし落ち込んでいる。
しかし、すぐに元気を取り戻し、商人としての行動などを説明してくれた。
「ところで、ローレンスは商人について、どのくらい知っているの?」
「何も知らないわ。」
「それなら、商人の仕事を説明するね。
まず、店の掃除をして、お客さんが来るのを待つ。
次に、お客さんから薬草採取や、肉の調達などの依頼が入ったら、森に入って依頼をこなす。
最後に、依頼の品と報酬を交換する。あまった品は、陳列棚に並べて他のお客さんを待つ。」
「それだけ?」
「そう、それだけ。」
「それくらいだったら、レイオンもすぐに覚えれそうね。
よかったわ、商人の仕事が簡単な仕事で。」
ローレンスは、明日からレイオンと共にモロノフ商店で修業させてもらう約束をし、家路を急いだ。
その日の、スープが美味しかったのか、レイオンは すぐにベラドールになついてしまったようだ。
ベラドールも久しぶりの子供が可愛かったのだろう、とても嬉しそうにしていた。
~翌日~
朝からモロノフ商店に来た、ローレンスとレイオンは、店の掃除を手伝う。
陳列棚には、相変わらず同じ商品が並んだままだ。
「ねえ、店の掃除が終わったら、あとは待つだけ?」
「そうだよ。昼過ぎには、お客さんでいっぱいになるからね!」
そういうと、モリアーニは仮眠をとる準備をし始めた。
ローレンスは、人間の寿命は短く レイオンには時間がないことを知っていたので、午前中に自分の教えれることを遊びを通して教えることにした。
「レイオンくん、今日は私と浮遊石で遊ぼうか。」
「ふゆーせき?」
ローレンスは、昨晩、部屋の中を整理していて見つけた遊び道具を 小さな革袋から取り出す。
取り出された おはじき程度の石は 虹色に輝く石でとても美しい。
ローレンスは その石を強く握るとそっと手を開いた。
すると、浮遊石はゆっくりと空に浮かび始める。
レイオンの目がキラキラと輝いている。どうやら興味を示してもらえたようだ。
「ほら、凄いでしょ。レイオンくんもやってみてごらん。」
そういって、レイオンの小さな手に浮遊石を握らせる。
レイオンもローレンスと同じように浮遊石を強く握りしめ、そっと手を開いてみる。
「・・・。」
しかし、浮遊石は彼の小さな手のひらから浮かび上がることがない。
レイオンは、何度も何度も繰り返している。
しかし、なかなか浮遊石は浮かび上がらない。
「あれ、へんだね。普通の石が混じっていたのかな?」
そういうとローレンスは、さきほど自分が飛ばした石を拾い上げ、レイオンの手に握らせる。
「・・・。」
やはり結果は同じで動く気配すらない。
そんな、やり取りを店の入り口から見つめている人物がいた。
「ローレンス、たぶん石は浮かないわよ。」
声のする方を振り返ると、そこにはリリアスの姿があった。
「おはよう、リリアス。
でも、なぜ浮かばないのかしら?」
リリアスは、書類のようなものをローレンスに渡しながら説明する。
「私たちエルフと違って、人間は魂の存在を感じることが出来ないのよ。
ようは、魔法が使えないってこと。
もちろん、完璧に詠唱をして、魂の存在を感じることが出来れば、魔法を唱えることもできるはずだけど、そんなことが出来る人間は少ないし、そもそも教えられてもいない詠唱を小さな子供ができないわよ。」
「そうなんだ・・・詠唱って、あれよね。
魔法を唱えるときの、【竜神の父にして竜神の王よ、】ってやつ。」
「そう、あれ。」
「こんな体内の魔力を使うときにも必要だなんて、人間って不便な生き物ね。」
そう言うとローレンスは、レイオンの小さな手を包み込むように優しく手を添える。
そして、二人で手を開いた瞬間、浮遊石がゆっくりと浮かび始めた。
「できた、できたよ、ママ!」
レイオンは興奮しているのか、ローレンスのことをママと間違えて呼んでいるようだ。
「よかったね、レイオンくん。他のも一緒に飛ばしてみようよ。」
「うん!」
こうして、ローレンスとレイオンは、浮遊石を飛ばして時間をつぶした。
午前中も終わろうかというとき、ずっと見守っていたリリアスが口を開く。
「ねえ、ローレンス。まさかと思うけど、モリアーニに商売のことを聞いたんじゃない?」
「えっ、そうだけど、何かあったの?」
「いえ、人間の商人は時間との闘いよ。
早朝から商品を仕入れたり、仕入れた商品を当日中に売り切ったり、モリアーニのような商人はいないのよ。」
「・・・レイオンくん、いまからリリアス先生に習うことにしましょうか。」
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とは言っても、エルフたちの生活は、人間の生活とは多少違う点も存在する。
今回の家に関しても違う点であろう。
ローレンスが木の幹や枝を上手く利用したツリーハウスに入る。
ツリーハウスの中は、廊下の奥の壁に並ぶようにして扉がいくつもある作りになっていて、玄関を入ってすぐ左には、広い居間がある。
その居間には台所もあり、そこにローレンスの家族だろうか。
中年の女性と立派な髭を生やした老人がいた。
ローレンスは、居間の敷居をくぐると、元気よく声をかける。
「ただいま、みんな!」
「おかえり、ローレンス。」
ローレンスの家族だろうか、家の中にいたエルフたちは、ローレンスを見つけると笑顔で寄ってきて彼女を優しく抱きしめる。
そして、ローレンスの横にいるレイオンを見つけ、怪訝そうな顔を見せる。
その様子に気づいたローレンスが声をあげる。
「ベラドールおばさん、そんな顔しないでよ。
この子は、レイオン。古くからの習わしに従い、私が師として育てることになったの。」
古くからの習わし、この一言でローレンスの家族は頷き納得してくれたようだ。
ベラドールと呼ばれた女性は、心配そうにローレンスに近寄り、声をかける。
「ローレンス、古くからの習わしなら仕方がないと思うわ。
だけど、子供のいない、・・・それどころか彼氏だっていない貴女に幼い子供の師匠なんて勤まるのか心配よ。」
「ええ、心配ありがと。
・・・まったく問題なしよ。」
少し不服もあるようだが、ローレンスは胸を張って答える。
「だけど・・・、」
それでも心配そうにするベラドールに横にいた立派な髭の老人が声をかける。
「ベラドール、ローレンスが心配ないと言っとるんじゃ。
わしらが心配してどうする。それに人間の子は、あっという間に大人になる。
つまり、わしらが心配せんでも勝手に成長するということじゃろ。」
老人は、あまり人間が好きではないらしい。
それだけ言うと、廊下に出て奥の部屋に引き上げていった。
「ごめんね、ローレンス。あなたも知ってるかもしれないけど、ゼペットは人間嫌いなのよ。」
「ううん。私は気にしてないわ。
それより、荷物を置いたら、ちょっと出かけてくるね、夕飯までには戻るから。」
「あら、どこまで行くの?」
「モロノフ商店に行く予定よ。」
ローレンスが答えると、ベラドールは嬉しそうに頼みごとをする。
「ちょうどよかった、モロノフに毛皮と薬草の交換をお願いしていたの。
もし準備できていたら薬草を受け取ってきてくれないかしら?」
「分かったわ、薬草をもらってくるのね。
じゃあ、準備が終わり次第 レイオンを連れていくね。」
「お願いね。今日の晩御飯は、上等な鹿肉と薬草のスープよ。」
ローレンスは、レイオンの手を引き、奥の自分の部屋に入っていく。
そこで持っていた荷物を下ろし、準備を整え、レイオンに声をかける。
「レイオンくん、いまから商人のところに行くよ。
そこで商人になる為の勉強を一緒にしようね。」
「うん。」
まだローレンスに慣れていないのか、笑顔を見せることはない。
幼いレイオンには、母親が必要なのだろうと、ローレンスも感じていた。
身支度を終え、ローレンスはレイオンを抱きかかえると、モロノフ商店へと向かった。
~モロノフ商店~
ここは、エルフの国で最大の商店である。
とは言っても、エルフの国で唯一の商店でもあるのだが・・・。
そんな唯一商店であるモロノフ商店は、湖のほとりにある大きめの一軒家で、客の数も数えるほどしかいない。
ローレンスが店の前に来ると、中から若いエルフの男性が飛び出してきた。
「や、やあ、偶然だね、ローレンス。
ちょうど僕も出かけようと思ってたところなんだ。
今日は、どこまで行くの?」
「ええ、今日はモロノフ商店に来たのだけれど、お邪魔だったかしら?」
「えっ!うちに来たの!!?
あ、いや、間違えた。いま戻ってきたところだったんだ!
ようこそ、モロノフ商店へ」
若い男性は、ニコニコしながらローレンスを店内へと案内する。
ローレンスは、レイオンを抱きかかえたまま、案内されるまま店に入った。
モノロフ商店は、広い室内に大きな陳列棚、そしてカウンターと休息スペース的なテーブルとイスがあるだけの、いい言い方をすれば シンプルな店だ。
そんなモノロフ商店には、人間の商人の観点からすると気になる点がある。
まず、大きな陳列棚にならんでいるのは、干からびた草、おそらく薬草か何かだろう。それと、古着が数点・・・以上。
次に、店内の客は、ほぼ全員が休息スペースに集まっており、そこで自分たちで勝手に物々交換をしていることだろう。
まるで、商店というよりか、地方のふれあいスペースのような雰囲気を出している。
そんな中、若い男性は、ローレンスに声をかけて来た。
「ローレンス、今日な何の用で来たの?」
そもそも、商人としての自覚がないのが問題のようだが・・・。
他のエルフたちも気にすることがないことから、これがエルフの国の商人の基準なのだろう。
「ええ、ベラドール叔母様が頼んでいた薬草をもらいたいのと、モリアーニ あなたに相談があってきたの。」
「あ、え、僕に・・・。
あ、はい!薬草は無事に採取してきたよ。
・・・。
で、ぼ、俺に何の相談かな?」
モリアーニと呼ばれた青年は、急に性格が変わったようで、キメ顔をしている。
呆れた顔で、内容を話すローレンス。
「ええ、モリアーニ、あなたに商人になる為に必要なことを聞きたくって。」
「なるほど、ようやく俺の魅力に気づいたんだね、ハニー。」
「いや、違うから。
私の子を商人にしたくって、それで質問に来たの。」
「え、その、いま抱きかかえてる子って、ペットとかじゃなくって、ローレンスの子供・・・?」
ローレンスは、面倒くさかったのだろう。
無言で頷く。
「そ、そんな、よりによって人間と結ばれるなんて・・・。
なぜ、僕じゃないのさ!」
ローレンスは余計に面倒になると思ったのか、事の顛末を説明することにした。
その説明を聞き終えると、モリアーニは、笑顔でレイオンと握手する。
「やあ、レイオンくん。お兄ちゃんはモリアーニだよ。
お兄ちゃんがレイオンくんが立派な商人になれるように、いろいろと教えてあげるからね。
お兄ちゃんのことは、パパ。ローレンスお姉ちゃんは、ママって呼んでいいよ。」
レイオンは、何かに警戒しているのか、モリアーニの手を振りほどき、ローレンスにしがみつく。
ローレンスも、モリアーニに警戒しているようだ。
「モリアーニ、レイオンは人間の子で まだ幼いの、同じくらいの大きさだからといって エルフの子と同じことは出来ないわ。
それに言葉も まだ片言なの。変なことを教えないでよ。」
モリアーニは、ローレンスに注意され、すこし落ち込んでいる。
しかし、すぐに元気を取り戻し、商人としての行動などを説明してくれた。
「ところで、ローレンスは商人について、どのくらい知っているの?」
「何も知らないわ。」
「それなら、商人の仕事を説明するね。
まず、店の掃除をして、お客さんが来るのを待つ。
次に、お客さんから薬草採取や、肉の調達などの依頼が入ったら、森に入って依頼をこなす。
最後に、依頼の品と報酬を交換する。あまった品は、陳列棚に並べて他のお客さんを待つ。」
「それだけ?」
「そう、それだけ。」
「それくらいだったら、レイオンもすぐに覚えれそうね。
よかったわ、商人の仕事が簡単な仕事で。」
ローレンスは、明日からレイオンと共にモロノフ商店で修業させてもらう約束をし、家路を急いだ。
その日の、スープが美味しかったのか、レイオンは すぐにベラドールになついてしまったようだ。
ベラドールも久しぶりの子供が可愛かったのだろう、とても嬉しそうにしていた。
~翌日~
朝からモロノフ商店に来た、ローレンスとレイオンは、店の掃除を手伝う。
陳列棚には、相変わらず同じ商品が並んだままだ。
「ねえ、店の掃除が終わったら、あとは待つだけ?」
「そうだよ。昼過ぎには、お客さんでいっぱいになるからね!」
そういうと、モリアーニは仮眠をとる準備をし始めた。
ローレンスは、人間の寿命は短く レイオンには時間がないことを知っていたので、午前中に自分の教えれることを遊びを通して教えることにした。
「レイオンくん、今日は私と浮遊石で遊ぼうか。」
「ふゆーせき?」
ローレンスは、昨晩、部屋の中を整理していて見つけた遊び道具を 小さな革袋から取り出す。
取り出された おはじき程度の石は 虹色に輝く石でとても美しい。
ローレンスは その石を強く握るとそっと手を開いた。
すると、浮遊石はゆっくりと空に浮かび始める。
レイオンの目がキラキラと輝いている。どうやら興味を示してもらえたようだ。
「ほら、凄いでしょ。レイオンくんもやってみてごらん。」
そういって、レイオンの小さな手に浮遊石を握らせる。
レイオンもローレンスと同じように浮遊石を強く握りしめ、そっと手を開いてみる。
「・・・。」
しかし、浮遊石は彼の小さな手のひらから浮かび上がることがない。
レイオンは、何度も何度も繰り返している。
しかし、なかなか浮遊石は浮かび上がらない。
「あれ、へんだね。普通の石が混じっていたのかな?」
そういうとローレンスは、さきほど自分が飛ばした石を拾い上げ、レイオンの手に握らせる。
「・・・。」
やはり結果は同じで動く気配すらない。
そんな、やり取りを店の入り口から見つめている人物がいた。
「ローレンス、たぶん石は浮かないわよ。」
声のする方を振り返ると、そこにはリリアスの姿があった。
「おはよう、リリアス。
でも、なぜ浮かばないのかしら?」
リリアスは、書類のようなものをローレンスに渡しながら説明する。
「私たちエルフと違って、人間は魂の存在を感じることが出来ないのよ。
ようは、魔法が使えないってこと。
もちろん、完璧に詠唱をして、魂の存在を感じることが出来れば、魔法を唱えることもできるはずだけど、そんなことが出来る人間は少ないし、そもそも教えられてもいない詠唱を小さな子供ができないわよ。」
「そうなんだ・・・詠唱って、あれよね。
魔法を唱えるときの、【竜神の父にして竜神の王よ、】ってやつ。」
「そう、あれ。」
「こんな体内の魔力を使うときにも必要だなんて、人間って不便な生き物ね。」
そう言うとローレンスは、レイオンの小さな手を包み込むように優しく手を添える。
そして、二人で手を開いた瞬間、浮遊石がゆっくりと浮かび始めた。
「できた、できたよ、ママ!」
レイオンは興奮しているのか、ローレンスのことをママと間違えて呼んでいるようだ。
「よかったね、レイオンくん。他のも一緒に飛ばしてみようよ。」
「うん!」
こうして、ローレンスとレイオンは、浮遊石を飛ばして時間をつぶした。
午前中も終わろうかというとき、ずっと見守っていたリリアスが口を開く。
「ねえ、ローレンス。まさかと思うけど、モリアーニに商売のことを聞いたんじゃない?」
「えっ、そうだけど、何かあったの?」
「いえ、人間の商人は時間との闘いよ。
早朝から商品を仕入れたり、仕入れた商品を当日中に売り切ったり、モリアーニのような商人はいないのよ。」
「・・・レイオンくん、いまからリリアス先生に習うことにしましょうか。」
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