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外伝・大商人ハロルド
大商人ハロルド・才能を見つけたのは・・・。
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リリアスから人間の商売の基礎を習って10年の月日が流れた。
この10年で変わったことといえば、レイオンの成長とモリアーニが薬師に転職したことだろう。
長命なエルフからすれば、短い期間だったのだが、人間であるレイオンには 十分すぎる成長を与えた。
レイオンの成長速度はすさまじく、何事も吸収していった。
それは、リリアスから商売の基礎や人間の国の貨幣の違いや、モリアーニから薬の知識を習っていただけではない、
空いた時間があればローレンスと一緒に狩りに出かけたり、魔法の修業などにも真剣に取り組んでいたのだが・・・。
・・・どうも魔法の方は、相性が悪いようでまったくの進歩がない。
今日もローレンスとレイオンは、町の外れで魔法の練習を行っていた。
~町の外れ、森の入口~
そこには、全身から汗が流れ出るほど集中するレイオンと、それを見守るローレンス。
レイオンは、この10年で大きく成長をしているようだ、まだまだ身長は低いのだが・・・。
ローレンスは、エルフにとっての10年は人間にとっての1年程度なのだろう、まったく外見に変化がない。
そんなローレンスが、何かを感じ取ったのか、レイオンに力強く声をかける。
「レイオン、いまよ!
声に出して詠唱して呪文を唱えるのよ!」
「偉大なる暴風の竜神、アミュールよ、我に力を貸し与えたまえ。
天地神明の理にのっとり、その力、正しき道を進むためにのみ使う。
さあ、魂よ我に力を、風の障壁!」
レイオンとローレンスの間を、そよ風が通り抜ける。
「・・・。」
「師匠、今のは成功ですね!」
「・・・いえ、たぶん偶然に吹いた風のようね。」
レイオンは、残念そうに肩を落とす。
その様子を心配したローレンスがレイオンに声をかける。
「レイオン、まだ6,000回程度の失敗じゃない。
まだまだこれからよ!」
「ええ、でも全属性で試してますから、30,000回は失敗してますよ。」
自分の失敗なのに、まるで他人事のように冷静に答えるレイオンの様子にローレンスは笑いそうになる。
「魔法以外は上手くいってるのに、魔法だけダメだなんて、私の教え方の問題なのかしら・・・。」
「師匠、大丈夫ですよ。
魔法以外でも、弓の扱いとかも全然ですから。」
ローレンスは、冷静に笑顔で答えるレイオンに、ついつい笑ってしまう。
「ふふふっ、どうしてそんなに冷静に判断できるの?
だって、自分の失敗でしょ。わざと失敗するようにしてるとか?」
「そんなことないですよ。
私も真剣なんですけど、出来ないことは出来ないんだなって気づいたんです。」
また肩を落とすレイオンにローレンスが声をかけようとしたところに、リリアスが何かの書物を手に持ってやってきた。
リリアスは、レイオンの言葉を聞いていたのだろう、レイオンの肩に手を置くと、優しく声をかける。
「おはようレイオン、あなたの言うとおりね。
昨日、図書館で見つけた文献なんだけど、どうやら種族によっては魔法を唱えることが出来ない種族もあるみたいなの。」
そういって、リリアスは手に持っていた書物を開く。
そこには、禍々しい牙や爪をもった獣人の姿が描かれていた。
「ほら、ここに書いてあるように、獣人は魔法を唱えることが出来ないそうよ、そのかわり、下級魔法を無効化する体質でもあるみたいね。」
その言葉に顔が引きつるレイオン。
なぜなら、ローレンスが何を血迷ったのか、持っていた杖をレイオンの方に向けている。
「し、師匠、こんな至近距離で魔法を受ければ死んでしまいますよ!」
「でも、下級魔法を受けてみれば分かることなんでしょ、炎の矢くらいだったら死なないから。」
「いや、そういう問題ではな・・・。」
「炎の矢(LV1)」
シュウゥゥゥ、ボッ!
「アチ、アチチチ、熱いです!」
レイオンの反応を見て、リリアスが笑いながら言う。
「さすがローレンスね。いまの獣人のページは偶然開いたもので、私が発見したのは、ドワーフのページよ。」
そういって、リリアスは本を開きなおす。
その間に、ローレンスに消火してもらい傷薬を塗りながらレイオンたちも話を聞く。
「いい、ドワーフは、魔法を使うことも、無効化することも出来ないそうよ。
その代わり、手先が器用で、頭も良く、誰も見たことがない武具を想像し作り出すことが出来たそうよ。
ただ残念なことに、戦争に負けて多くの技術者が死んでしまい、その技術の大半は失われてしまったそうね。」
「手先が器用で、頭が良く・・・。」
ローレンスはリリアスの言葉を復唱し、レイオンを見つめる。
レイオンは薬を塗りながら聞いていたので、話半分でしか聞けていないようだ。
「なるほど、手先が器用で、顔が良いのであれば、私の特徴と一致しますね!」
「・・・炎の矢(LV1)」
リリアスの放った魔法で、更にダメージを追うレイオン。
しかも、今回は消火してもらえなさそうだ。
~ゼタ家の広間~
ゼタ家の広間に、レイオン、ローレンス、リリアス、ベラドールが集まり 談笑をしていた。
話の中身は、なかなか魔法を使うことのできないレイオンのことのようだ。
そんな様子を外出先から帰ってきたゼペットは横目に見てレイオンを確認した後、その場を素通りし、部屋へと移動していく。
ベラドールが、そんなゼペットを見たあと レイオンに話しかける。
「レイオン、気にしなくていいのよ。ゼペットは変わり者だから。
いつも部屋に籠って人形に魂を吹き込む実験をしているのよ。
気味が悪いわよね。」
「ベラドールおばさん、言いすぎよ。
ゼペット大叔父さんも、思うことがあって研究しているのよ。
それに、いつかレイオンと仲良くなれる日だってくるわ。」
ローレンスがレイオンにウィンクして見せると、それを見ていたリリアスが笑いながらレイオンの肩に手を置きながら話す。
「仲良くなれる日は、レイオンがゼペットさんと同じくらいの老人になったときかしらね。」
「やめてくださいよ、リリアス師匠。
そうなる前に仲良くなりますから。」
レイオンは リリアスの冗談に答える。
リリアスたちは何が面白かったのだろうか、大笑いしながら話を魔法の話に戻す。
エルフの感性は独特のようだが、そんな中で育ったレイオンには あたりまえの光景であった。
4人の談笑は、夕食の支度の時間まで続いた。
最初に、ベラドールが夕食の支度をする為に席を立ち、続いてローレンスが手伝いをするために席を立つ。
残されたリリアスは、テーブルの上を片付けた後、我が家へと帰っていった。
レイオンは、食事ができるまでの間、広間の掃除をすることにした。
レイオンが広間の本棚を掃除してると、見慣れない手記を見つける。
その手記を興味本位で手開いてみると、達筆のエルフ文字で書かれた人形と魔法の融合について書かれた記述を見つけた。
記述を見る限りでは、どうやら実験は失敗の連続で、先に進めていないようだ。
レイオンは興味がわいてきたのだろうか、掃除の手を止め、無我夢中で手記を読み始める。
そんなレイオンに近づく影があった。
それは、ゼペットだ。
ゼペットは、レイオンの すぐ後ろに立ち、レイオンに声をかける。
「人間、何を熱心に読んでおるんじゃ。
それは、お前さんの役に立つような書物なのか。」
ゼペットの声に驚き、とっさに感じたままに返事をする。
「ゼペットさん、この本を書いた人は天才ですね。
ただ、魔法石と人形の連結部分に銅を使ってますけど、魔銅鉄と浮遊石の合金を使った方が魔法を上手く伝えることが出来ていいでしょうね。
たぶん、このページに書かれている失敗の原因は、銅の伝導率では人形に細かい魔法を伝えることが出来なかった為だと思いますよ。」
ゼペットは、少し驚いた表情を見せた後、レイオンに質問する。
「合金か・・・。
そもそも、魔銅鉄のことは、どうやって学んだんじゃ?」
「はい、ローレンス師匠から魔銅鉄の特性を習いました。
まだ習ったばかりですが、純粋な銅よりも はるかに魔法の伝導率が高いと聞いています。」
ゼペットは、軽く頷き口を開く。
「しかし人間、そもそも魔銅鉄は加工も難しく合金にするのは物理的に不可能じゃろう。
それに加工するのに高温に熱し溶かす必要があるため、着火点の低い木材との相性は最悪だ。
しかも人形は木材を使わなければいけない、魔力の蓄積が必要じゃからな。
以上のことから、人間の考えている方法では実現不可能じゃろう。」
「そうですね、でもそれは問題ないと思いますよ。
人形の形に加工した木材に石灰土を使い ひな形を作り、そこに耐熱粘土を流し込み 耐熱粘土で人形を作ります。
その耐熱粘土の人形を、熱して溶かした魔銅鉄に浮遊石を粉上にしたものをふりかけて混ぜ合わせた物につけ冷やし固めます。
最後に、耐熱粘土から取り外し、人形にはめ込み トンカチで調整をおこなえば完了です。
合金の混ぜ合わせや、最後の調整には技術を要しますが、私だったらできます。」
レイオンの言葉に深く頷き、ゼペットは言う。
「なるほど・・・さっそく材料を調達してこよう。
レイオン、君に作業を頼んでもいいかな?」
「いいですよ。
それとゼペットさん、石灰土なら、私の商売箱に入っていますし、魔銅鉄や浮遊石も授業で使った物の残りがあったはずです。
なので、ベースとなる人形さえ準備してもらえれば作業は可能です。
出来れば今回の報酬として、今後も私と仲良くしてもらえれば嬉しいのですが、いかがでしょうか。」
ゼペットはレイオンが人間というだけで、レイオンのことを知ろうともせず、無知で野蛮な者で間違いないと蔑み、相手をしなかったことを恥じた。
と同時に、レイオンの知識や応用力を高く評価した。
「レイオン、いままでの無礼は詫びよう。
種族は違えど関係ない。君はゼタ家の人間だ。」
そういうと、ゼペットとレイオンは固く握手をした。
レイオンは材料を準備し終えると、作業に取り掛かる。
完成した人形は、ゼペット式自動人形と呼ばれ、エルフ文字で簡単な指示を与え魔力を注ぎ込めば、その文字に従い行動することが出来る。
ただ、注ぎ込む魔力の量が大きく燃費が悪いことと、認識できる文字の量が24文字と少なく複雑な行動は出来ないのだが、娯楽の少ないエルフたちに大人気で国内に一気に広まった。
レイオンは、ここで商才を発揮した。
ゼペット式自動人形に装備させる小道具を作り出し、セットで提供をしたのだ。
・・・提供の見返りとして、国内で自由に商売をできる権利を要求した。
その考え方や行動力に、女王をはじめ 長老衆も感心したようで、エルフの国で育ったという事実もあり、レイオンは要求以上の見返りを得た。
それは、エルフの国で国民権を得ることができたことだ。
レイオンの前に国民権を得ることが出来た他種族(ハーフエルフ含む)はおらず、異例の出来事であったという。
~国民権を得た日の夜~
ゼタ家の広間に、レイオン、ローレンス、リリアス、ベラドール、ゼペットが集まりレイオンの国民権取得を祝っている。
レイオンの師匠でもあるローレンスが、レイオンに祝いの言葉を述べる。
「レイオン、国民権取得おめでとう!
今日、この日をもって、レイオンはエルフを名乗ることが許された。
あなたを連れて帰ってきてから、たったの10年でここまで成長してくれたことを 私は誇りに思うわ。」
ローレンスが祝いの言葉を述べ終えると、リリアスが口をひらく。
「レイオン、これでエルフと結婚することも出来るわよ。
しかもエルフとの子であれば、国民権を得ているレイオンが直訴すれば、レイオンの子はハーフエルフとしてではなく、エルフとしての正当な扱いを受けることもできるのよ。
こんな凄いことが実際に起こりうるなんて、想像もしなかったことよね。」
リリアスの言葉に皆が頷き、ゼペットも笑顔で感謝と祝いの言葉を述べる。
「わしも、レイオンの おかげで長年の悲願であった自動人形を完成させることができた。
今年は830年の人生の中で最高の年になった、ありがとう。」
ベラドールは涙を流している。
レイオンとゼペットが仲良くなったことや、レイオンがエルフの仲間として認められたことなどの思いがこみ上げているようだ。
そんなベラドールも祝いの言葉を述べる。
「レイオン、おめでとう。
最初に来た頃は、まだまだ言葉も覚えていない幼子だったのに、たった10年で こんなに成長して、ゼペットや国の皆にも認めてもらえるようになるなんて、私は嬉しいよ。
これからも、その知識を生かし、最高の人生を歩んでおくれ。
あと、偏屈ゼペットや変人モリアーニたちのようなエルフたちを救ってくれてありがとう。」
「・・・。」
ベラドールの余計な一言に、場の空気が固まる。
そんな中、何かに気づいたローレンスがレイオンに言う。
「レイオンと関わるエルフは、急激な成長をしているようね。
私は軍隊から除名されたけど普通では味わえない経験をさせてもらってる。
リリアスは私たちと仲が良くなったし、人間への偏見もなくなった。
ゼペット大叔父さんは長年の夢が叶い、モリアーニは薬師に転職して安定した生活をしている。
それにベラドールおばさんだって、料理のレパートリーが増えて、さらに味も良くなったわ。
あなたと関わると人生が動き出すのかもね。」
そんな持ち上げ方をしてくれるローレンスに、気まずそうな表情を見せるレイオン。
その横で、ベラドールも気まずそうに答える。
「ローレンス、私の料理は変わってないわ。
料理の基礎を教えてあげて以降、レイオンが創作料理をしているのよ・・・。
今日の料理だって・・・ごめんなさい。」
ベラドールの一言に、場の空気が凍り付く。
なんとか気まずい空気を終わらせようと、ローレンスがフォローする。
「あ、あの、ベラドールおばさんの料理は・・・。」
が、なんと言ってフォローすればいいのか思いつかない。
そんな中、リリアスがレイオンに話しかける。
「ベラドールさんは、レイオンの才能を引き出したのね。
レイオン、いっそのこと 料理人を目指したら?
本当に料理の才能があるわよ。手先も器用みたいだし・・・。」
「そうですね、商人と言ってもレストラン経営の商人になろうかな・・・。」
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この10年で変わったことといえば、レイオンの成長とモリアーニが薬師に転職したことだろう。
長命なエルフからすれば、短い期間だったのだが、人間であるレイオンには 十分すぎる成長を与えた。
レイオンの成長速度はすさまじく、何事も吸収していった。
それは、リリアスから商売の基礎や人間の国の貨幣の違いや、モリアーニから薬の知識を習っていただけではない、
空いた時間があればローレンスと一緒に狩りに出かけたり、魔法の修業などにも真剣に取り組んでいたのだが・・・。
・・・どうも魔法の方は、相性が悪いようでまったくの進歩がない。
今日もローレンスとレイオンは、町の外れで魔法の練習を行っていた。
~町の外れ、森の入口~
そこには、全身から汗が流れ出るほど集中するレイオンと、それを見守るローレンス。
レイオンは、この10年で大きく成長をしているようだ、まだまだ身長は低いのだが・・・。
ローレンスは、エルフにとっての10年は人間にとっての1年程度なのだろう、まったく外見に変化がない。
そんなローレンスが、何かを感じ取ったのか、レイオンに力強く声をかける。
「レイオン、いまよ!
声に出して詠唱して呪文を唱えるのよ!」
「偉大なる暴風の竜神、アミュールよ、我に力を貸し与えたまえ。
天地神明の理にのっとり、その力、正しき道を進むためにのみ使う。
さあ、魂よ我に力を、風の障壁!」
レイオンとローレンスの間を、そよ風が通り抜ける。
「・・・。」
「師匠、今のは成功ですね!」
「・・・いえ、たぶん偶然に吹いた風のようね。」
レイオンは、残念そうに肩を落とす。
その様子を心配したローレンスがレイオンに声をかける。
「レイオン、まだ6,000回程度の失敗じゃない。
まだまだこれからよ!」
「ええ、でも全属性で試してますから、30,000回は失敗してますよ。」
自分の失敗なのに、まるで他人事のように冷静に答えるレイオンの様子にローレンスは笑いそうになる。
「魔法以外は上手くいってるのに、魔法だけダメだなんて、私の教え方の問題なのかしら・・・。」
「師匠、大丈夫ですよ。
魔法以外でも、弓の扱いとかも全然ですから。」
ローレンスは、冷静に笑顔で答えるレイオンに、ついつい笑ってしまう。
「ふふふっ、どうしてそんなに冷静に判断できるの?
だって、自分の失敗でしょ。わざと失敗するようにしてるとか?」
「そんなことないですよ。
私も真剣なんですけど、出来ないことは出来ないんだなって気づいたんです。」
また肩を落とすレイオンにローレンスが声をかけようとしたところに、リリアスが何かの書物を手に持ってやってきた。
リリアスは、レイオンの言葉を聞いていたのだろう、レイオンの肩に手を置くと、優しく声をかける。
「おはようレイオン、あなたの言うとおりね。
昨日、図書館で見つけた文献なんだけど、どうやら種族によっては魔法を唱えることが出来ない種族もあるみたいなの。」
そういって、リリアスは手に持っていた書物を開く。
そこには、禍々しい牙や爪をもった獣人の姿が描かれていた。
「ほら、ここに書いてあるように、獣人は魔法を唱えることが出来ないそうよ、そのかわり、下級魔法を無効化する体質でもあるみたいね。」
その言葉に顔が引きつるレイオン。
なぜなら、ローレンスが何を血迷ったのか、持っていた杖をレイオンの方に向けている。
「し、師匠、こんな至近距離で魔法を受ければ死んでしまいますよ!」
「でも、下級魔法を受けてみれば分かることなんでしょ、炎の矢くらいだったら死なないから。」
「いや、そういう問題ではな・・・。」
「炎の矢(LV1)」
シュウゥゥゥ、ボッ!
「アチ、アチチチ、熱いです!」
レイオンの反応を見て、リリアスが笑いながら言う。
「さすがローレンスね。いまの獣人のページは偶然開いたもので、私が発見したのは、ドワーフのページよ。」
そういって、リリアスは本を開きなおす。
その間に、ローレンスに消火してもらい傷薬を塗りながらレイオンたちも話を聞く。
「いい、ドワーフは、魔法を使うことも、無効化することも出来ないそうよ。
その代わり、手先が器用で、頭も良く、誰も見たことがない武具を想像し作り出すことが出来たそうよ。
ただ残念なことに、戦争に負けて多くの技術者が死んでしまい、その技術の大半は失われてしまったそうね。」
「手先が器用で、頭が良く・・・。」
ローレンスはリリアスの言葉を復唱し、レイオンを見つめる。
レイオンは薬を塗りながら聞いていたので、話半分でしか聞けていないようだ。
「なるほど、手先が器用で、顔が良いのであれば、私の特徴と一致しますね!」
「・・・炎の矢(LV1)」
リリアスの放った魔法で、更にダメージを追うレイオン。
しかも、今回は消火してもらえなさそうだ。
~ゼタ家の広間~
ゼタ家の広間に、レイオン、ローレンス、リリアス、ベラドールが集まり 談笑をしていた。
話の中身は、なかなか魔法を使うことのできないレイオンのことのようだ。
そんな様子を外出先から帰ってきたゼペットは横目に見てレイオンを確認した後、その場を素通りし、部屋へと移動していく。
ベラドールが、そんなゼペットを見たあと レイオンに話しかける。
「レイオン、気にしなくていいのよ。ゼペットは変わり者だから。
いつも部屋に籠って人形に魂を吹き込む実験をしているのよ。
気味が悪いわよね。」
「ベラドールおばさん、言いすぎよ。
ゼペット大叔父さんも、思うことがあって研究しているのよ。
それに、いつかレイオンと仲良くなれる日だってくるわ。」
ローレンスがレイオンにウィンクして見せると、それを見ていたリリアスが笑いながらレイオンの肩に手を置きながら話す。
「仲良くなれる日は、レイオンがゼペットさんと同じくらいの老人になったときかしらね。」
「やめてくださいよ、リリアス師匠。
そうなる前に仲良くなりますから。」
レイオンは リリアスの冗談に答える。
リリアスたちは何が面白かったのだろうか、大笑いしながら話を魔法の話に戻す。
エルフの感性は独特のようだが、そんな中で育ったレイオンには あたりまえの光景であった。
4人の談笑は、夕食の支度の時間まで続いた。
最初に、ベラドールが夕食の支度をする為に席を立ち、続いてローレンスが手伝いをするために席を立つ。
残されたリリアスは、テーブルの上を片付けた後、我が家へと帰っていった。
レイオンは、食事ができるまでの間、広間の掃除をすることにした。
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その手記を興味本位で手開いてみると、達筆のエルフ文字で書かれた人形と魔法の融合について書かれた記述を見つけた。
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そんなレイオンに近づく影があった。
それは、ゼペットだ。
ゼペットは、レイオンの すぐ後ろに立ち、レイオンに声をかける。
「人間、何を熱心に読んでおるんじゃ。
それは、お前さんの役に立つような書物なのか。」
ゼペットの声に驚き、とっさに感じたままに返事をする。
「ゼペットさん、この本を書いた人は天才ですね。
ただ、魔法石と人形の連結部分に銅を使ってますけど、魔銅鉄と浮遊石の合金を使った方が魔法を上手く伝えることが出来ていいでしょうね。
たぶん、このページに書かれている失敗の原因は、銅の伝導率では人形に細かい魔法を伝えることが出来なかった為だと思いますよ。」
ゼペットは、少し驚いた表情を見せた後、レイオンに質問する。
「合金か・・・。
そもそも、魔銅鉄のことは、どうやって学んだんじゃ?」
「はい、ローレンス師匠から魔銅鉄の特性を習いました。
まだ習ったばかりですが、純粋な銅よりも はるかに魔法の伝導率が高いと聞いています。」
ゼペットは、軽く頷き口を開く。
「しかし人間、そもそも魔銅鉄は加工も難しく合金にするのは物理的に不可能じゃろう。
それに加工するのに高温に熱し溶かす必要があるため、着火点の低い木材との相性は最悪だ。
しかも人形は木材を使わなければいけない、魔力の蓄積が必要じゃからな。
以上のことから、人間の考えている方法では実現不可能じゃろう。」
「そうですね、でもそれは問題ないと思いますよ。
人形の形に加工した木材に石灰土を使い ひな形を作り、そこに耐熱粘土を流し込み 耐熱粘土で人形を作ります。
その耐熱粘土の人形を、熱して溶かした魔銅鉄に浮遊石を粉上にしたものをふりかけて混ぜ合わせた物につけ冷やし固めます。
最後に、耐熱粘土から取り外し、人形にはめ込み トンカチで調整をおこなえば完了です。
合金の混ぜ合わせや、最後の調整には技術を要しますが、私だったらできます。」
レイオンの言葉に深く頷き、ゼペットは言う。
「なるほど・・・さっそく材料を調達してこよう。
レイオン、君に作業を頼んでもいいかな?」
「いいですよ。
それとゼペットさん、石灰土なら、私の商売箱に入っていますし、魔銅鉄や浮遊石も授業で使った物の残りがあったはずです。
なので、ベースとなる人形さえ準備してもらえれば作業は可能です。
出来れば今回の報酬として、今後も私と仲良くしてもらえれば嬉しいのですが、いかがでしょうか。」
ゼペットはレイオンが人間というだけで、レイオンのことを知ろうともせず、無知で野蛮な者で間違いないと蔑み、相手をしなかったことを恥じた。
と同時に、レイオンの知識や応用力を高く評価した。
「レイオン、いままでの無礼は詫びよう。
種族は違えど関係ない。君はゼタ家の人間だ。」
そういうと、ゼペットとレイオンは固く握手をした。
レイオンは材料を準備し終えると、作業に取り掛かる。
完成した人形は、ゼペット式自動人形と呼ばれ、エルフ文字で簡単な指示を与え魔力を注ぎ込めば、その文字に従い行動することが出来る。
ただ、注ぎ込む魔力の量が大きく燃費が悪いことと、認識できる文字の量が24文字と少なく複雑な行動は出来ないのだが、娯楽の少ないエルフたちに大人気で国内に一気に広まった。
レイオンは、ここで商才を発揮した。
ゼペット式自動人形に装備させる小道具を作り出し、セットで提供をしたのだ。
・・・提供の見返りとして、国内で自由に商売をできる権利を要求した。
その考え方や行動力に、女王をはじめ 長老衆も感心したようで、エルフの国で育ったという事実もあり、レイオンは要求以上の見返りを得た。
それは、エルフの国で国民権を得ることができたことだ。
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~国民権を得た日の夜~
ゼタ家の広間に、レイオン、ローレンス、リリアス、ベラドール、ゼペットが集まりレイオンの国民権取得を祝っている。
レイオンの師匠でもあるローレンスが、レイオンに祝いの言葉を述べる。
「レイオン、国民権取得おめでとう!
今日、この日をもって、レイオンはエルフを名乗ることが許された。
あなたを連れて帰ってきてから、たったの10年でここまで成長してくれたことを 私は誇りに思うわ。」
ローレンスが祝いの言葉を述べ終えると、リリアスが口をひらく。
「レイオン、これでエルフと結婚することも出来るわよ。
しかもエルフとの子であれば、国民権を得ているレイオンが直訴すれば、レイオンの子はハーフエルフとしてではなく、エルフとしての正当な扱いを受けることもできるのよ。
こんな凄いことが実際に起こりうるなんて、想像もしなかったことよね。」
リリアスの言葉に皆が頷き、ゼペットも笑顔で感謝と祝いの言葉を述べる。
「わしも、レイオンの おかげで長年の悲願であった自動人形を完成させることができた。
今年は830年の人生の中で最高の年になった、ありがとう。」
ベラドールは涙を流している。
レイオンとゼペットが仲良くなったことや、レイオンがエルフの仲間として認められたことなどの思いがこみ上げているようだ。
そんなベラドールも祝いの言葉を述べる。
「レイオン、おめでとう。
最初に来た頃は、まだまだ言葉も覚えていない幼子だったのに、たった10年で こんなに成長して、ゼペットや国の皆にも認めてもらえるようになるなんて、私は嬉しいよ。
これからも、その知識を生かし、最高の人生を歩んでおくれ。
あと、偏屈ゼペットや変人モリアーニたちのようなエルフたちを救ってくれてありがとう。」
「・・・。」
ベラドールの余計な一言に、場の空気が固まる。
そんな中、何かに気づいたローレンスがレイオンに言う。
「レイオンと関わるエルフは、急激な成長をしているようね。
私は軍隊から除名されたけど普通では味わえない経験をさせてもらってる。
リリアスは私たちと仲が良くなったし、人間への偏見もなくなった。
ゼペット大叔父さんは長年の夢が叶い、モリアーニは薬師に転職して安定した生活をしている。
それにベラドールおばさんだって、料理のレパートリーが増えて、さらに味も良くなったわ。
あなたと関わると人生が動き出すのかもね。」
そんな持ち上げ方をしてくれるローレンスに、気まずそうな表情を見せるレイオン。
その横で、ベラドールも気まずそうに答える。
「ローレンス、私の料理は変わってないわ。
料理の基礎を教えてあげて以降、レイオンが創作料理をしているのよ・・・。
今日の料理だって・・・ごめんなさい。」
ベラドールの一言に、場の空気が凍り付く。
なんとか気まずい空気を終わらせようと、ローレンスがフォローする。
「あ、あの、ベラドールおばさんの料理は・・・。」
が、なんと言ってフォローすればいいのか思いつかない。
そんな中、リリアスがレイオンに話しかける。
「ベラドールさんは、レイオンの才能を引き出したのね。
レイオン、いっそのこと 料理人を目指したら?
本当に料理の才能があるわよ。手先も器用みたいだし・・・。」
「そうですね、商人と言ってもレストラン経営の商人になろうかな・・・。」
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サラリーマン、少女になる。
あさき のぞみ
ファンタジー
目が覚めたら、俺は見知らぬ10歳の少女になっていた。
頼れるのは、唯一の理解者であるはずの同僚「まい」だけ。彼女はなぜか僕を**「娘」として扱い始め、僕の失われた体を巡る24時間の戦い**が幕を開ける。
手がかりは、謎の製薬会社と、10年前の空白の記憶。
時間がない。焦るほどに、この幼い体が僕の理性と尊厳を蝕んでいく。そして、僕は知る。最も近くで微笑んでいた人物こそが、この絶望的な運命の**「設計者」**であったことを。
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