【CHANGEL】魔界姫マリーと純粋な見習い天使ジャスの不思議な魔界記

黒山羊

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魔界姫

005・魔王の仕事

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~魔王城の宝物庫~

野球場ほどの広さがある地下宝物庫が半分程度 埋まるほどの財宝が運び込まれていた。
その宝物庫の入口で、マリー、ジャスが何やら話し合っているようだ。
そこに、使い魔のハンがやってきた。

「マリー様、リッチさんからの伝言ッス!
 旧リッチモンド城の財宝が もう少しで運び終わるそうッス!」

「マリーさん、かなりの量になりましたね。
 こんなに財宝があったなんて・・・。」

「まさか、あの城内の財宝だけだったら、ここまでないよ。
 魔界商人のウィンターに、あの城を買い取ってもらったんだよ。
 それに、加えて魔界商人のウィンターに資金を援助してもらったからかな。」

「えっ!
 資金援助って、何か事業でも始めるんですか?」

「まあ、そんなところね。」

「秘密にしないで教えて下さいよ。」

「うふふ、また今度ね。」


そんなやり取りをしていると、暗黒のリッチと見慣れない紳士がマリーの元にやってきた。
暗黒のリッチは、マリーを見つけると深く礼をし、話し始めた。

「マリー様、魔界商人ウィンターを連れてまいりました。
 今回は ウィンター様より、120億ヘストほどの資金援助をしてもらっております。」

マリーは、暗黒のリッチの紹介を聞き 軽く頷いたあと、魔界商人ウィンターと握手を交わし礼を述べる。

「魔界商人ウィンター、この度の資金援助ありがとう。」

マリーが礼を述べると、ウィンターは手を顔の前で軽く振り返事をする。

「いえいえ、私にも利のある援助ですから。
 で、そちらの天使が密命を受けた天使ですかな?」

(密命・・・?)

不思議そうな顔をするジャスを気にすることなく、意味の分からない会話を続けるマリー。

「ええそうよ。
 此度の資金援助のおかげで、魔界統一の足がかりが掴めそうよ。」

「それはよかった。
 魔王マリー様、今後ともレヴィア商会 魔界支店を宜しくお願いいたします。」

「レヴィア商会?
 まあいいわ。今後とも贔屓にさせてもらうわ。」

「ありがとうございます。
 では、私は次の予定がありますので失礼させていただきます。」

「マリー様、私もウィンター様を外まで案内してまいります。」

魔界商人ウィンターと暗黒のリッチは、軽く会釈をすると部屋をあとにした。
リッチとウィンターが部屋を出たのを確認し、ジャスがマリーに疑問をぶつける。

「あの、マリーさん?」

「どうしたのジャスちゃん?」

「いえ、私が受けた密命って何なんですか?」

「それは・・・。」

「それは?」

「それは、私にもわからないよ。
 だって思いついて言ったことだから。
 なんだったら今から密命を考える?」

「いえ、もういいです。
 ・
 ・
 ・っていうか、マリーさん。
 悪魔は嘘をつかないんじゃないですか?」

「ええ、そうよ。
 だからジャスちゃんが嘘をついたんじゃない。」

笑いながら答えるマリーと、やり取りを見て笑っているハン。


「えっ!?
 私が嘘をついたんですか?
 あれ?
 私が嘘?
 ・
 ・
 ・ん?」


混乱するジャスを見て、笑っていたマリーもハンも困惑した顔をしはじめた。
思ったよりも動揺しているジャスに 申し訳ないといった表情をみせる。

「マリー様、ジャスさんも混乱してるッス。
 笑えないッス。可哀想ッス。」

「・・・それもそうね。
 なんだか可哀想な気がしてきた。」




何とも言えない空気になったところに、使い魔のネロが入ってきた。
ネロは、マリーを見つけると慌てた様子で駆け寄ってきた。

「マリー様、大変ニャン!
 地下のアレが目覚めたニャン!」

「あれ?」

「あれッスよ!
 1000年前に城の地下深くに封印した!」


1000年前に封印と聞いた瞬間、マリーの表情が険しくなった。

「マリー様、どうするニャンか?」

「しかたがないわね。
 私が再び封印を試みてくるから。
 ハンは、リッチの配下だった使い魔たちに仕事を与えてちょうだい。」

「わかったッス。
 マリー様、気を付けて下さいッス。」

「ええ、ありがとう。」

マリーは、一人で地下への階段を駆け下りていった。
その様子を心配そうに見つめるジャスは、ハンに質問した。


「あの、用心棒さんたちを連れて行った方がよかったんじゃないですか?」

「それなら問題ないッス。
 地下の悪魔は、危険だけど危険は無いッスから。」

「危険だけど危険は無い?
 どういう意味ですか?」

「俺らは勝手に教えることが出来ないッス。
 マリー様が帰ってきてから直接聞いて欲しいッス。
 ・・・その代わり、使い魔に仕事を与えるのを観に行くッスか?」

「・・・それもそうですね。
 地下の悪魔も気になりますけど、魔界の使い魔さんたちの仕事も気になります。
 一緒に連れて行ってもらってもいいですか?」

「もちろんニャン、大歓迎ニャン!」



こうして、ジャスと使い魔のハン、ネロは、使い魔に仕事を与える為に大広間へと向かった。





~魔王城・大広間~

魔王城の大広間には、リッチモンド城で使えていた使い魔が30体ほど集まっていた。
そんな使い魔たちの前に、ハン、ネロ、ジャスが立ち、話を始めた。

「えー、それでは、仕事のタイムスケジュールを発表したいと思うッス。
 起床時間  2:00~ 2:20
 城の清掃  2:20~ 6:55
 朝食準備  7:00~ 8:25
 各自業務  8:30~20:00
 自由時間 20:00~20:10
 片付け  20:10~22:00
 風呂   22:00~23:00
 風呂掃除 23:00~23:30
 準備   23:30~ 1:00
 就寝    1:00~
 以上になるッス。
 ちなみに、休みは年に3日もあるッス!
 質問がある奴は、手をあげて質問するッス!」

ハンの発表に対して、質問の声が一斉にあがる。


Q「朝食準備後の食事の時間がないニャン。
 いつ食べるのかニャン?」

A「これはマリー様の食事の準備ッス。
 俺らは、前日のうちに準備をしておいて、起床時間内に食べるッス。」


Q「各自業務ってところが分かりにくいニャン。
 具体的には何をするのか教えてほしいニャン。」

A「その日によりローテーション早見表を見て確認ッスね。
 たとえば、城の外壁磨きとか、武具の手入れとか、庭の清掃なんかもあるッス。
 当たり日は、マリー様の食事の準備と買い出しッス。」


Q「そもそも寝る時間が極端に短いニャン。」

A「そうっスね。慣れるしかないッス。」


Q「休みが年に3日しかないニャンか?
 月の休みが3日とかじゃないのかニャン?」
 
A「休みは年に3日で間違いないッス。」


Q「地獄のようなスケジュールだニャン。
 せめて給料がいいなら我慢できるニャンけど、いくらぐらいもらえるのかニャン?」

A「ヘスト払いで、年に362ヘスト支給されるッス。
 ただし、食事は毎日1食の保証があるッス。」


Q「俺らは、リッチモンド城で働いていた時は、1日8時間労働で月に12万ヘスト支給されていたニャン。
 しかも、休みは週に2日もあったニャン。」

A「ここは、マリー様の魔王城ッス。」


ハンの回答に、リッチモンド城で使えていた使い魔たちが不平不満を口にしている。
見習い天使のジャスも見かねたのか、リッチモンド城で使えていた使い魔たちに味方する。

「ハンさん、さすがに酷い待遇ですよ。
 こんなの奴隷じゃないですか。
 私は職場の改善を要求します!」


「「「そうだニャン!
   こんなの横暴ニャン!」」」


「ジャスさん、これはマリー様の決定事項ッス。
 俺らが勝手に変えていいものじゃないッス。」

「だったら私がマリーさんに抗議します。
 マリーさんは使い魔のことを道具か何かと勘違いしているんじゃないですか?」


興奮したジャスをなだめようと、ハンが一生懸命説得するが、ジャスの熱は収まらない。
それどころか、周囲の使い魔を巻き込んで暴動が起きそうな雰囲気にさえなっている。

「やばいッス。ジャスさん、それ以上の先導は止めるッス。」

「嫌です!
 私は断固としてゆずりません!!」

そんなジャスや使い魔たちの声をかき消すくらい大きな声で、別の使い魔が声を張る。



「あんたたち静かにしな!」

あまりの声量に、大広間は静けさを取り戻した。
大声を出した使い魔は、少し声のボリュームを下げて話し始めた。

「いいかい、あたいは1度しか話さないから、黙ってききな!
 そもそも、あんたら人間界で悪事を働いて転生してきたんだろ?
 それなのに、休みを要求したり、遊ぶ金を稼いだりして、どうしようってんだい?
 罪を償って人間に戻りたくないのかい?
 罪を償って転生するのが目的じゃないんだったら、勝手にマリー様の元から離れていきな!
 他の悪魔にコキ使われて自然消滅するなり勝手にしたらいいさ。 
 ・
 ・
 ・それに、ジャスちゃんだっけ?
 あんたもあんただよ!
 あたいも言いたかないけど、あんた天使のくせに使い魔を応動してストライキ起こしてどうするんだい?
 コイツらは罪人だったんだよ。罪を償わなくっちゃ悪徳が溜まって自然消滅しちまう運命なんだよ。
 本当にコイツらの事を思うんだったら、罪を償って転生する方法を実践するのが大切なんじゃない?」

「それは・・・。」

「魔界で人間に転生した使い魔は、魔王城以外では限りなくゼロに近いのは知ってる?
 それは悪魔が使い魔のことを考えてない証拠さね。
 でも魔王城では、ほぼ100パーセントの使い魔が人間に転生して魔界を去っていく。
 それは、エイルシッド王やマリー様が、あたいらの罪を軽くするために激務を与えてくれているからなんだよ。
 そこを考えたうえで物を言いなよ。」


声の大きな使い魔が話していることは、言葉は乱暴だが、優しさの溢れる話であった。

「あの・・・、すみません。」

「「「俺らも悪かったニャン。」」」

「別に敵対するつもりはないよ。
 あたいも言い過ぎたところがあったし、悪かったね・・・ニャン。」


泣き出しそうなジャスや、酷く落ち込む使い魔たちにハンが声を掛ける。

「ジャスさん、そんな泣きそうな顔しなくていいッス。
 俺は気にしてないッス。マリー様だって、水に流してくれるッス。
 それから、オコン。助かったッス。」

「ハン、気にしないでよ。
 あたいらの長い付き合いじゃないか。
 礼なんていいよ・・・ニャン。」

オコンと呼ばれた声の大きな使い魔は、他の使い魔たちの列の中に入っていった。
その後、ハンは新参の使い魔たちの班分けをして明日からの激務に響かないように、最後の休暇を満喫するように使い魔たちに告げ、報告の為にジャスと共に マリーのいる地下へと向かった。

地下へ向かうための、暗く長い螺旋階段を下りていると、ジャスがハンに声をかけてきた。


「あの、ハンさん。」

「どうしたんスか?」

「さっきは、すみませんでした。」


「別に俺は気にしてないッス。
 でも、マリー様のことを悪く言わないでほしいッス。
 マリー様は、俺ら使い魔や配下の悪魔のことを一番に考えてくれる稀有な悪魔ッス。
 俺が自然消滅しようとしていた時に俺を救ってくれたのもマリー様だったッス。」

「いつも一生懸命な ハンさんでも自然消滅しそうになるんですか!?」


「・・・ちょっと長い話っすけど、聞きたいッスか? 」




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