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魔界姫
006・ハンの過去
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「あれは、俺が魔界に転生して1年が経った頃ッス。
あの頃は、燃え尽きてしまって何もする気が起きなかった頃ッスね。」
~西暦1226年・魔界
魔王ゲルモンストの城~
城の悪魔たちが寝静まった中、薄暗い部屋の中に押し込められた使い魔たちが話し合っていた。
「俺、もうすぐ消滅しちゃうニャン。」
「俺もニャン。」
「せめて消滅する前に母ちゃんに会いたいニャン。」
そんな会話をしていると、1匹の使い魔がヒソヒソと話し始めた。
「なあ、知ってるかニャン?
エイルシッド王の所の使い魔は転生できてるみたいニャン。
仕事はキツイみたいだけど人間に戻って家族に会えるって噂ニャン。」
「・・・それ本当なのかニャン?」
「間違いないニャン。
悪魔たちが、エイルシッドの使い魔が転生して数が減ってるって笑いながら話してるのを聞いたニャン。」
「みんなでエイルシッド王の所に逃げださないかニャン?」
「「「それいいニャン!」」」
使い魔たちは、魔王城に向かう準備を始める。
「おい、お前は行かないのかニャン?」
1匹の使い魔が準備をしていないのを不審に思った別の使い魔が声をかける。
「俺はいいニャン。
もう転生したいとも思ってないし消滅してしまいたいニャン。」
「・・・分かったニャン。
何があったか知らないけど、お互い最期の時まで頑張ろうニャン。」
部屋にいた使い魔たちは少ない私物を持つと、夜が明ける前にコソコソと城を逃げ出していった。
1匹の使い魔を除いて・・・。
~翌朝~
悪魔たちが目覚めると城の異変に気付く。
準備してあるはずの朝食もなく、いつも城を掃除している使い魔も居ない。
悪魔たちは使い魔を押し込んでいる物置へと確認に行ったのだが、そこにいるのは1匹の使い魔だけであった。
「おい!
他の使い魔どもは何処に行った?」
「分からないニャン。
起きたら誰も居なくなっていたニャン。」
「はははっ!
コイツ置いていかれてるぜ!」
「マジかよ。1匹だけ置いて行くとかヒデー奴らだな。」
悪魔たちのツボにはまったのか、残された使い魔を見て腹を抱えて笑っている。
しばらく笑って満足したのか、位の高そうな悪魔が、羽の生えた他の悪魔に命令する。
「お前、ちょっと空から逃げた使い魔を見つけてこいよ。
あいつらの足だったら、そう遠くまでいけねーから。」
「えっ、俺が?」
「そうだよ。お前だよ。文句でもあんのか?」
「いえ、ないです。」
命令された翼のある竜人種の悪魔が外へ出ると空へと舞い上がり周囲を見渡す。
「いたいた、草原をテクテクと呑気に歩いてやがる!」
そう言うか言わないかで空へ舞い上がった悪魔は、一直線に東へと飛んで行った。
位の高そうな悪魔は何か思いついたのか、自分の首に下げていた高価なネックレスを残された使い魔にかける。
「おい、裏切られて可哀想だな。
これやるから、これからも俺らに忠誠をつくせよ。」
暫くすると、逃げ出した使い魔の大半は大きな袋の中に押し込まれて城へと運ばれてきた。
空を飛んで捕まえてきた悪魔が乱暴に大きな袋を投げ、地面に落下する。
「「「痛いニャン!」」」
その様子を見ながら悪魔たちは、また笑っている。
「おい、逃げ出した使い魔ども。
さっさと袋から出てきやがれ!」
「「「は、はいニャン。許してほしいニャン」」」
袋の中から使い魔たちがゾロゾロと出て生きた。
袋から全ての使い魔が出てしまうのを確認した位の高そうな悪魔は、逃げ出した使い魔たちに、1匹だけ残った使い魔の肩に手を置き こう言った。
「ここに残った使い魔が、褒美ほしさに丁寧にお前らの居場所を教えに来たぜ!
逃げ出すんなら裏切り者を殺していかなくっちゃな。」
「「「それ、本当ニャンか!?」」」
「ああ俺が嘘ついてどうすんだよ。
まあ、お前ら死なねーから殺していくってのも無理だろうけどな。」
「ちょ、ちょっと待つニャン。
俺は起きたら誰もいなくなってたって言ったニャン。」
残っていた使い魔は位の高そうな悪魔に抗議した。
位の高そうな悪魔は、しゃがみこみ使い魔の耳元に顔を寄せると、小声で話しかける。
(お前だって俺らを騙したじゃねーか。あいつらの反応見る感じだと、お前知ってたよな。
それに魔界に転生する使い魔なんざ外道な奴ら、誰も信じちゃいけねーんだよ。)
「ああ それから、逃げ出そうとして裏切ったお前ら全員、さっさと消滅したほうがマシだと思えるほど使ってやるから覚悟しとけよ!」
位の高そうな悪魔は、そう言い終ると残った使い魔の背中を押し、他の使い魔の群れの中にいれた。
「お、お前が裏切ったニャンね!
最初から残りたいだなんて変だと思ったニャン。」
「違うニャン、俺は本当に・・・。」
「だったら、その首飾りは何なのか説明するニャン!」
「こ、これは・・・。」
「「「問答無用ニャン!」」」
逃げ出すのに失敗した使い魔たちは、残った使い魔を集団で殴り始めた。
残った使い魔は気を失っても殴られ続けた。
周囲を取り囲む悪魔たちは、その様子をみて盛り上がり大笑いを始めた。
長寿の悪魔にとってしてみれば、即興の余興だったようだ。
しばらく盛り上がりを見せた後、悪魔たちが食堂へと移動していく。
「おい、使い魔ども!
さっさと飯のしたくをしろよ!」
「「「は、はいニャン。」」」
悪魔も使い魔も皆、食堂へと移動していった。
ただ1匹、気を失ってボロボロになった使い魔を除いて・・・。
その日の夜。
狭い部屋の中で使い魔たちは、城に残った使い魔の腕に目印として紐を結び付けた。
姿かたちに違いの少ない使い魔を見分ける為に必要だったのだろう。
その日の夜から、毎晩のように紐をつけた使い魔は、他の使い魔たちに気を失うまで殴られ続けた。
~2か月後~
場内の悪魔たちが慌ただしく逃げ出していく。
連戦連勝の魔界屈指の魔王であり、この城の城主ゲルモンストが戦死したのだ。
2日前から、他の魔王と交戦状態にあると聞いていたのだが、短期間での決着だったようで、仕える悪魔たちも何も支度をしていなかったのだろう、場内には持ち出せなかった食料や財宝なども多少残されていた。
その結果、戦死の報告から僅かな時間で城には使い魔たちだけが残された。
「俺ら、どうなるニャン?」
「俺に聞かれても困るニャン。」
「たぶん勝った方の魔王の元で、また使われるニャン。」
「それなら、いっそのこと逃げ出すニャン。」
「なあ、逃げ出す前にアイツを部屋に閉じ込めてからにするニャン。」
使い魔たちは、ボロボロの服を纏い、腕に紐を結び付けた使い魔を指さす。
ボロボロの使い魔は自然消滅する前なのか、体が透けるほど薄くなっていた。
「「「それがいいニャン。」」」
ボロボロの使い魔は、空になった倉庫へと押し込まれ、逃げ出せないように扉の外に荷物を置かれた。
「待ってくれニャン。
俺は、裏切ってないニャン。」
「もう聞き飽きたニャン。」
「そこで消滅するまで反省でもするニャン!」
「待ってくれニャン、今度は俺も連れて行ってほしいニャン。
もう裏切り者扱いされるのは嫌ニャン!
・
・
・ねえ、みんな・・・開けてくれニャン。
一人にしないでほしいニャン。」
他の使い魔たちも散り散りに逃げ出したのか、倉庫の外から物音ひとつ聞こえなくなった。
暗い倉庫に残された使い魔は、不思議な気持ちになっていた。
自分の気持ちを声に出してみると、なぜそう思えたのか考えてしまう。
仲間と一緒にいたい。
裏切り者扱いされたくない。
一人になりたくない。
「ウワァァァァァ!」
消滅する前の走馬燈だろうか、人間だったころの思い出や使い魔として生きた短い人生が頭の中を駆け巡る。
使い魔は胸の奥が熱くなり、目頭が熱くなり、呼吸も荒くなり苦しささえ感じた・・・。
「もう俺を一人にしないでほしいニャン。」
ガチャ。
使い魔の目から涙が零れ落ちたとき、倉庫の扉が開いた。
倉庫の入り口から差し込む光の中、一人の幼女が立っていた。
美しい赤い瞳に、黒い服を纏い、美しい黒髪を束ね。
対照的に、背中には純白の美しい羽が見えたような気がした。
まさに地獄に舞い降りた天使のようだった。
「どうして、こんなところで泣いているの?
あなた名前は?」
「俺は、泣いてな・・・。
俺の名は、い、偉大なるハーン。ジョ、」
「いだいなるハン?
あなたはハンって言うのね。
私の名前はマリエル。みんなからはマリーって呼ばれてるわ。
よろしくね。ハン。」
「・・・マリー、よろしくニャン。」
マリーと名乗った幼い幼女は、薄暗い倉庫の中、使い魔のハンに近寄り優しく手を差し伸べる。
ハンは、差し伸べられた温かい手を握ると涙が滝のように流れ始めた。
「ハン、ケガしてるの?大丈夫。」
「大丈夫ニャン。
俺、嬉しくって涙が止まらないニャン。」
~現在・魔王城地下への螺旋階段~
「・・・ってな感じで出会ったッス。
それから、いろいろあって俺はマリー様と契約したッス。
ちなみに、このリボンはボロボロになった紐の代わりにマリー様がくれた俺の宝物ッス。」
階段を下りながら話を聞くジャスは、涙をぬぐっている。
「そんなに感動する話ッスか?」
「はい、感動しました。
悪魔たちは、騙しあい、奪いあい、殺しあう生き物だと習ってきました。
でもそうじゃないんですね。
悪魔も信じあい、与えあい、愛しあうことができるんですね!」
「そうっスかね?
きっと、マリー様が特別なんスよ。」
「でも、いくつか腑に落ちない点があるんですけど。」
「なんッスか?」
「まず出会ったのが、8千年くらいまえですよね。
ハンさんの悪徳ってまだ続いているんですか?
それから、ハンさんの話し方なんですけど、ニャンって言わないですよね?」
「ああ、そんな事ッスか。
それは・・・。」
「あああああ!ダメだって!」
ハンが答えようとしたとき、階段の下の方からマリーの叫び声が聞こえる。
「ジャスさん、先を急ぐッス!」
「はい!」
→007へ
あの頃は、燃え尽きてしまって何もする気が起きなかった頃ッスね。」
~西暦1226年・魔界
魔王ゲルモンストの城~
城の悪魔たちが寝静まった中、薄暗い部屋の中に押し込められた使い魔たちが話し合っていた。
「俺、もうすぐ消滅しちゃうニャン。」
「俺もニャン。」
「せめて消滅する前に母ちゃんに会いたいニャン。」
そんな会話をしていると、1匹の使い魔がヒソヒソと話し始めた。
「なあ、知ってるかニャン?
エイルシッド王の所の使い魔は転生できてるみたいニャン。
仕事はキツイみたいだけど人間に戻って家族に会えるって噂ニャン。」
「・・・それ本当なのかニャン?」
「間違いないニャン。
悪魔たちが、エイルシッドの使い魔が転生して数が減ってるって笑いながら話してるのを聞いたニャン。」
「みんなでエイルシッド王の所に逃げださないかニャン?」
「「「それいいニャン!」」」
使い魔たちは、魔王城に向かう準備を始める。
「おい、お前は行かないのかニャン?」
1匹の使い魔が準備をしていないのを不審に思った別の使い魔が声をかける。
「俺はいいニャン。
もう転生したいとも思ってないし消滅してしまいたいニャン。」
「・・・分かったニャン。
何があったか知らないけど、お互い最期の時まで頑張ろうニャン。」
部屋にいた使い魔たちは少ない私物を持つと、夜が明ける前にコソコソと城を逃げ出していった。
1匹の使い魔を除いて・・・。
~翌朝~
悪魔たちが目覚めると城の異変に気付く。
準備してあるはずの朝食もなく、いつも城を掃除している使い魔も居ない。
悪魔たちは使い魔を押し込んでいる物置へと確認に行ったのだが、そこにいるのは1匹の使い魔だけであった。
「おい!
他の使い魔どもは何処に行った?」
「分からないニャン。
起きたら誰も居なくなっていたニャン。」
「はははっ!
コイツ置いていかれてるぜ!」
「マジかよ。1匹だけ置いて行くとかヒデー奴らだな。」
悪魔たちのツボにはまったのか、残された使い魔を見て腹を抱えて笑っている。
しばらく笑って満足したのか、位の高そうな悪魔が、羽の生えた他の悪魔に命令する。
「お前、ちょっと空から逃げた使い魔を見つけてこいよ。
あいつらの足だったら、そう遠くまでいけねーから。」
「えっ、俺が?」
「そうだよ。お前だよ。文句でもあんのか?」
「いえ、ないです。」
命令された翼のある竜人種の悪魔が外へ出ると空へと舞い上がり周囲を見渡す。
「いたいた、草原をテクテクと呑気に歩いてやがる!」
そう言うか言わないかで空へ舞い上がった悪魔は、一直線に東へと飛んで行った。
位の高そうな悪魔は何か思いついたのか、自分の首に下げていた高価なネックレスを残された使い魔にかける。
「おい、裏切られて可哀想だな。
これやるから、これからも俺らに忠誠をつくせよ。」
暫くすると、逃げ出した使い魔の大半は大きな袋の中に押し込まれて城へと運ばれてきた。
空を飛んで捕まえてきた悪魔が乱暴に大きな袋を投げ、地面に落下する。
「「「痛いニャン!」」」
その様子を見ながら悪魔たちは、また笑っている。
「おい、逃げ出した使い魔ども。
さっさと袋から出てきやがれ!」
「「「は、はいニャン。許してほしいニャン」」」
袋の中から使い魔たちがゾロゾロと出て生きた。
袋から全ての使い魔が出てしまうのを確認した位の高そうな悪魔は、逃げ出した使い魔たちに、1匹だけ残った使い魔の肩に手を置き こう言った。
「ここに残った使い魔が、褒美ほしさに丁寧にお前らの居場所を教えに来たぜ!
逃げ出すんなら裏切り者を殺していかなくっちゃな。」
「「「それ、本当ニャンか!?」」」
「ああ俺が嘘ついてどうすんだよ。
まあ、お前ら死なねーから殺していくってのも無理だろうけどな。」
「ちょ、ちょっと待つニャン。
俺は起きたら誰もいなくなってたって言ったニャン。」
残っていた使い魔は位の高そうな悪魔に抗議した。
位の高そうな悪魔は、しゃがみこみ使い魔の耳元に顔を寄せると、小声で話しかける。
(お前だって俺らを騙したじゃねーか。あいつらの反応見る感じだと、お前知ってたよな。
それに魔界に転生する使い魔なんざ外道な奴ら、誰も信じちゃいけねーんだよ。)
「ああ それから、逃げ出そうとして裏切ったお前ら全員、さっさと消滅したほうがマシだと思えるほど使ってやるから覚悟しとけよ!」
位の高そうな悪魔は、そう言い終ると残った使い魔の背中を押し、他の使い魔の群れの中にいれた。
「お、お前が裏切ったニャンね!
最初から残りたいだなんて変だと思ったニャン。」
「違うニャン、俺は本当に・・・。」
「だったら、その首飾りは何なのか説明するニャン!」
「こ、これは・・・。」
「「「問答無用ニャン!」」」
逃げ出すのに失敗した使い魔たちは、残った使い魔を集団で殴り始めた。
残った使い魔は気を失っても殴られ続けた。
周囲を取り囲む悪魔たちは、その様子をみて盛り上がり大笑いを始めた。
長寿の悪魔にとってしてみれば、即興の余興だったようだ。
しばらく盛り上がりを見せた後、悪魔たちが食堂へと移動していく。
「おい、使い魔ども!
さっさと飯のしたくをしろよ!」
「「「は、はいニャン。」」」
悪魔も使い魔も皆、食堂へと移動していった。
ただ1匹、気を失ってボロボロになった使い魔を除いて・・・。
その日の夜。
狭い部屋の中で使い魔たちは、城に残った使い魔の腕に目印として紐を結び付けた。
姿かたちに違いの少ない使い魔を見分ける為に必要だったのだろう。
その日の夜から、毎晩のように紐をつけた使い魔は、他の使い魔たちに気を失うまで殴られ続けた。
~2か月後~
場内の悪魔たちが慌ただしく逃げ出していく。
連戦連勝の魔界屈指の魔王であり、この城の城主ゲルモンストが戦死したのだ。
2日前から、他の魔王と交戦状態にあると聞いていたのだが、短期間での決着だったようで、仕える悪魔たちも何も支度をしていなかったのだろう、場内には持ち出せなかった食料や財宝なども多少残されていた。
その結果、戦死の報告から僅かな時間で城には使い魔たちだけが残された。
「俺ら、どうなるニャン?」
「俺に聞かれても困るニャン。」
「たぶん勝った方の魔王の元で、また使われるニャン。」
「それなら、いっそのこと逃げ出すニャン。」
「なあ、逃げ出す前にアイツを部屋に閉じ込めてからにするニャン。」
使い魔たちは、ボロボロの服を纏い、腕に紐を結び付けた使い魔を指さす。
ボロボロの使い魔は自然消滅する前なのか、体が透けるほど薄くなっていた。
「「「それがいいニャン。」」」
ボロボロの使い魔は、空になった倉庫へと押し込まれ、逃げ出せないように扉の外に荷物を置かれた。
「待ってくれニャン。
俺は、裏切ってないニャン。」
「もう聞き飽きたニャン。」
「そこで消滅するまで反省でもするニャン!」
「待ってくれニャン、今度は俺も連れて行ってほしいニャン。
もう裏切り者扱いされるのは嫌ニャン!
・
・
・ねえ、みんな・・・開けてくれニャン。
一人にしないでほしいニャン。」
他の使い魔たちも散り散りに逃げ出したのか、倉庫の外から物音ひとつ聞こえなくなった。
暗い倉庫に残された使い魔は、不思議な気持ちになっていた。
自分の気持ちを声に出してみると、なぜそう思えたのか考えてしまう。
仲間と一緒にいたい。
裏切り者扱いされたくない。
一人になりたくない。
「ウワァァァァァ!」
消滅する前の走馬燈だろうか、人間だったころの思い出や使い魔として生きた短い人生が頭の中を駆け巡る。
使い魔は胸の奥が熱くなり、目頭が熱くなり、呼吸も荒くなり苦しささえ感じた・・・。
「もう俺を一人にしないでほしいニャン。」
ガチャ。
使い魔の目から涙が零れ落ちたとき、倉庫の扉が開いた。
倉庫の入り口から差し込む光の中、一人の幼女が立っていた。
美しい赤い瞳に、黒い服を纏い、美しい黒髪を束ね。
対照的に、背中には純白の美しい羽が見えたような気がした。
まさに地獄に舞い降りた天使のようだった。
「どうして、こんなところで泣いているの?
あなた名前は?」
「俺は、泣いてな・・・。
俺の名は、い、偉大なるハーン。ジョ、」
「いだいなるハン?
あなたはハンって言うのね。
私の名前はマリエル。みんなからはマリーって呼ばれてるわ。
よろしくね。ハン。」
「・・・マリー、よろしくニャン。」
マリーと名乗った幼い幼女は、薄暗い倉庫の中、使い魔のハンに近寄り優しく手を差し伸べる。
ハンは、差し伸べられた温かい手を握ると涙が滝のように流れ始めた。
「ハン、ケガしてるの?大丈夫。」
「大丈夫ニャン。
俺、嬉しくって涙が止まらないニャン。」
~現在・魔王城地下への螺旋階段~
「・・・ってな感じで出会ったッス。
それから、いろいろあって俺はマリー様と契約したッス。
ちなみに、このリボンはボロボロになった紐の代わりにマリー様がくれた俺の宝物ッス。」
階段を下りながら話を聞くジャスは、涙をぬぐっている。
「そんなに感動する話ッスか?」
「はい、感動しました。
悪魔たちは、騙しあい、奪いあい、殺しあう生き物だと習ってきました。
でもそうじゃないんですね。
悪魔も信じあい、与えあい、愛しあうことができるんですね!」
「そうっスかね?
きっと、マリー様が特別なんスよ。」
「でも、いくつか腑に落ちない点があるんですけど。」
「なんッスか?」
「まず出会ったのが、8千年くらいまえですよね。
ハンさんの悪徳ってまだ続いているんですか?
それから、ハンさんの話し方なんですけど、ニャンって言わないですよね?」
「ああ、そんな事ッスか。
それは・・・。」
「あああああ!ダメだって!」
ハンが答えようとしたとき、階段の下の方からマリーの叫び声が聞こえる。
「ジャスさん、先を急ぐッス!」
「はい!」
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