【CHANGEL】魔界姫マリーと純粋な見習い天使ジャスの不思議な魔界記

黒山羊

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魔界姫

008・それを秘策と呼ぶべきか

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~魔王城・食堂~

「ジャスさん、ジャスさーん!
 どこにいるッスかー?」

ハンがジャスを探し回っているようだ。
その声に気づいたジャスが、食堂の扉を開き廊下に出て、大きな声で返事する。

「ハンさーん!
 わたしは、食堂にいますよー!」

「了解ッス!
 そっちに行くッス!」


返事をして暫く待っていると、ハンが食堂の扉を勢いよく開けて現れた。

「はぁ、はぁ、
 ジャスさん、ちょっといいッスか?」

「はい大丈夫ですよ。
 どうかしたんですか?」

朝食後、食器を下げるジャスに、ハンが声をかけた。

「この前のお金稼ぎの事ッス。
 以前、魔界姫ブランドの健康食品を作ってるって聞いたッスけど、俺たちも皆で話し合って考えて、一ついい案を思いついたッス。」

「あっ、あれですね・・・。
 実は、滞納分も全て返済できたのと、マリーさんが飽きてしまったので、その後、健康食品の話は出てないですね。
 お伝えできてなくって ごめんなさい!」

「そ、そうなんスね。
 全額返済したってことは、ジャスさんも天界に帰っちゃうんスか?」

「ええ、そうですよ。
 私もそろそろ天界に帰ろうかなって思ってたところです。」

「そうなんスね。
 寂しくなるッス。」

「大丈夫ですよ。
 一時的な帰宅だと思ってください。
 まだマリーさんのお父さんも見つかってませんからね。」

「あの、ジャスさんが天界に帰らずに魔界に留まる方法とかって無いんスかね?
 マリー様の話相手にもなってもらいたいんスけど・・・。」

「そうですね。
 報告に戻らなければいけないですから、魔界に留まるのは難しいでしょうね。」

「そうッスか・・・。」

「あ、あの。ごめんなさい。」

「あやまることないッスよ。」

「・・・それもそうですね。
 ところで、ハンさんたちは何を思いついたんですか?」

「それなんスけど、実は魔界には迷いの森っていわれる場所があるッス。
 そこは5000年ほど前から、人間界から様々な時代の人間や動物が迷い込んでくるッス。
 そういった人間を保護して、送り返してあげれば、お礼の品とかをもらえると思ったッス。
 それに、人間たちも命が助かり、感謝されて一石二鳥ッス。
 ・
 ・
 ・でも、ジャスさんが天界に帰ってしまうんだったら、実行するのは難しそうッスね。
 可哀想ッスけど、人間たちには死んでもらうしかなさそうッス。」

「私、手伝いますよ!
 困ってる人間たちを救うのも天使の教えって、習ってきました。
 お礼を要求するのは どうかと思いますけど、人助けって素晴らしいと思います。」

「そうッスよね。
 人助けって素晴らしいッスね!
 ジャスさんが実績をいくつか挙げてくれれば、今後も継続してやっていけるッス!
 さっそく迷いの森に行くッス!」

「はい!
 じゃあ、マリーさんを起こしてきます!」

「あわわわわ。
 マリー様には内緒ッス!」

「・・・?
 どうしてですか?」

「そ、それは・・・。」

ハンが回答に困っていると、食堂の清掃をしていたノブナガが話に入ってきた。

「マリー様が出陣して、迷ってる人間が居なかったら今後の継続に繋がらないニャン。
 でも迷ってる人間たちがいるのは事実ニャン。
 だから、ジャスさんに人間を助けた実績を何件か作ってもらいたいニャン。
 ジャスさんが帰った後も、継続して人助けを継続する為ニャン。」


「なるほど・・・。
 分かりました。では、マリーさんに内緒でガンガン人助けをやっちゃいましょう!」


ジャスは支度の為に食堂を後にする。
ハンたち使い魔たちは、集まってなにやらヒソヒソと話し合いを始めた。

「ふぅ、ノブナガの機転で何とかなったッス。
 あとは、迷いの森の秘策を発動させるだけッス!」
「そんなに都合よく人間とかいるニャンかね?」
「別に人間が居なくても、迷いの森の悪魔を演じ切れば何とかなるニャン。」
「そうッスね。あとは演技力の問題ッス。」
「よし、俺らも準備に取り掛かるニャン!」


「「「エイエイオォォ!」」」








~迷いの森・入り口~

ジャスと5匹の使い魔たちが迷いの森の入り口にたどり着いた。
迷いの森は、魔王城から徒歩15分くらいの距離にある大森林で、魔王城から見える景色の3分の1を占めている。


「迷いの森って魔王城の近くなんですね。
 いつも見てる森が、迷いの森だったなんて。」

「そうニャン、別に迷いそうな雰囲気もない普通の森ニャン。
 ちなみに、あの丘の上にある大きな木は、世界樹って呼ばれてる木ニャン。
 ちょうど今日は光を放っている日みたいニャン。」

そういって使い魔のネロが指さす方には、巨大な木が淡く光り輝きながら、魔王城を見守るように立っていた。
ジャスは、世界樹を見て言葉を失っていた。
遠くから見ても、光を放つ世界樹は神々しく、感動を覚えた。


「・・・うわぁ!
 素敵な木ですね。いままで気が付かなかったです。」

「そうッスね。
 光を放つのは数日に1回ッス。それに 光を放っている時間も短いッスから。」

「なかなか神々しい光景ですね。」

 「世界樹は、この魔界の守り神って感じッス。
 でも世界樹も5000年くらい前に、一度枯れてしまったッス。
 だけど、そこから再び芽を出して、やっと今の大きさに成長したッス。」

「凄い!そんなに長生きしてる木なんですね。
 なんだか見てるだけで、心が癒されます。」

「そうニャン。
 立派な木ニャン。
 俺らの心の支えにもなってるニャン。」


暫くすると、世界樹は淡い光を放つのを止めたようで、普段と変わらない大木へと変わっていた。

「魔界って不思議ですね。」

「そうッスね。
 魔界は不思議に満ちてるッス。
 ・
 ・
 ・さあ、ここからは2手に分かれて迷いの森の探索をするッス。
 みんな人間を探して保護するッスよ!」


「「「オォォーーー!」」」






迷いの森へと入る前の話し合いの結果。
ハンは、森に詳しいとの理由から隊を離れて別行動することになった。
ハンと分かれたジャスたちは、ぐんぐんと森の奥に入っていく。


「誰かー迷ってる人、いませんかー?」

「なかなか居ないニャンね。」

「そうですね。
 疲れて声が出せないくらい疲労してるのかも・・・。
 誰かー迷ってる人、いませんかー?」


先頭を歩くジャスに一生懸命付いて行く使い魔たち。

「ヒソヒソ・・・。」
(そんなに迷子がいるわけもないニャン。) 
(早くハンに出てきてもらわないと森の奥まで進んで、俺らが迷子になるニャン。)
(もし他の悪魔と遭遇したらヤバいニャン。)
(とにかく、ハンに合図を送るニャン。)

使い魔たちは ジャスの目を盗んで、目印となる光る球を空に打ち上げた。

「ん?
 あれ?」

「ど、ど、どうかしたのかニャン!?」
「俺ら何にもしてないニャン!」
「気のせいニャン、きっと気のせいニャン!」

使い魔たちは 合図がバレたと思い、動揺を隠せない。

「違います!
 気のせいなんかじゃないです!!」

「「「う・・・。」」」

「ヒソヒソ・・・。」
(思ったより感がいいニャン。)
(どうするニャン?)
(バレてるっぽいニャン。)
(いっそのこと話して楽になりたいニャン。)

使い魔たちがコソコソと話をしているのを気にしていないのか、ジャスは周囲を警戒しているようだ。
そして、ジャスは何かに気づいた走り始めた。

「みなさん!
 こっちから声が聞こえました!」

「ハンなのかニャン?」
「さあ?」
「俺には聞こえなかったニャン。」
「とにかく付いて行くニャン。」


「「「待ってくれニャーン!」」」


ジャスの足が速く、使い魔たちは徐々に距離を話されていく。

「待てニャーン!」
「少し止まるニャーン!」

それは逃げるジャスと、追いかける使い魔のような構図になっていた。


「誰かー!
 誰かいませんかー!!」

「待つニャーン!」
「いいから、止まるニャーン!!」

「誰か返事してくださーい!
 あっ!」

ドサ!!!


ジャスが木の根に足を取られ、豪快にコケたところで使い魔たちが追いつき、奇妙な鬼ごっこは終わりを迎えた。

「いたたたた。」


「「「やっと追いついたニャン!」」」


使い魔たちがジャスの元に駆けつけようとしたとき、先の方から渋い男の声が聞こえてきた。

「待て待て待てーい!
 かよわき少女を狙う悪魔ども!
 このアロンソ・・・もとい!
 花咲ける騎士ドン・キホーテ・デ・ラ・マンチャが相手になってやるゾイ!」


「「「人間ニャン!」」」


ドン・キホーテと名乗る老騎士は、とっさにジャスと使い魔の間に割って入る。
さらに、ドン・キホーテの背後からも別の悪魔の声が聞こえてきた。


「ガオオォォッス!
 食べちゃうぞーッス!」


背後の悪魔?は、白いシーツを被った古典的なゴーストといった風貌だ。

「人間、食べちゃうぞーッス。 
 ・・・って、あれ?
 何事ッスか?」

「おにょれ、悪魔ども!
 挟撃戦か!
 お嬢さん、安心するのじゃ!」

「え、その、はい?」


「やばいニャン。剣を持ってるニャン。」
「どうするニャン?」
「とにかくハンに任せて逃げるニャン!」
「ジャスさん、マリー様を呼んでくるから逃げ切るニャン!」

そう言い残すと、使い魔たちは魔王城の方へと駆け出して行った。
残されたジャスと、古典的なゴーストは、あまりの逃げ足の早さに言葉を失っていた。

「さあ、どうするのじゃ!
 お前さんの仲間は逃げ出したようじゃぞ!」

「えっと、降参するッス。」


「なんとも情けない悪魔じゃ。
 ・・・命は助けてやるから、この子に手を出すんじゃないゾイ。」

「わ、分かったッス。」

古典的なゴーストは、老騎士に追いやられるように、森の奥へと追い返された。
残されたジャスと老騎士。
ジャスは、老騎士に声をかけてみることにしたようだ。

「あの、ドン・キホーテ・デ・ラ・マンチャさん、ありがとうございました。」

「いやいや、かよわき少女を救うのは騎士の務め。
 気にせんでください。
 それから、わしのことは、ドン・キホーテとでも呼んでくださって結構ですゾイ。」

「は、はい。
 あの・・・。
 ドン・キホーテさんは、ここが何処だか分かりますか?」

ジャスの質問に、ドン・キホーテは深く頷き、自らの答えを導き出す。

「やはり・・・。」

「やはり・・・?」


「いや、わしも皆目見当がつかないのじゃ。
 実は、村の見回りをしていたところ、急に視界が明るくなり気が付けば森の中にいたのじゃ。
 ・
 ・
 ・しかし、お嬢さん、安心しなされ。
 わしが必ず守りぬくゾイ。」

「あ、あの、ありがとうございます。
 えっと、とにかく私がお世話になっている お城に行きます?」

「この近くに城があるのですな。
 是非!
 わしも騎士として、この国の陛下に挨拶をしておかねばいけませんからの。」


ジャスと老騎士ドン・キホーテは、魔王城を目指して歩き始めた。





~魔王城・王の間~

「なかなか立派な城ですな!」

「そうですよね。
 ところどころ不気味な彫刻もありますけど、見慣れれば可愛らしく感じますよ。
 なんだか、おどけているみたいな表情ですから。」

「言われてみれば。
 しかし、なぜこの城には人外の生き物が徘徊しているのですかな?」

「ドン・キホーテさん、見た目で判断するのは悪いことですよ。
 みなさん、優しくっていい方たちばかりですよ。」

「たしかに、先程からすれ違う悪魔たちも礼儀正しい感じで好感を持てますな。」

「そうですよ。
 私たち天使も悪魔も人間だって、愛を持って接すれば、愛を返してくれるんですから。」

「やはり・・・。」

「ん?
 どうしたんですか?」

「いや、あなた様は天使でしたか。
 と、いうことは・・・。」

「はい。私は見習い天使ですけど・・・。
 どうかしました?」

「いえ、お気になさらずに。」



ジャスとドン・キホーテが、マリーを待っていると、部屋の奥から、プンプンと腹を立てたマリーがやってきた。

「ちょっと!
 ジャスちゃん、聞いてよ!」

「マリーさん、どうしたんですか?」

「さっき、竜王種の魔王ドラニコフの使いってのがやってきて、上納金として城にある財宝の半分を要求してきたんだよ!」

「えっ!
 そんなことを勝手にやってるんですか!?」

「そうなのよ!
 もちろん、上納金を納める義理はないって追い返したんだけど、私に暴言を吐いて去っていったの!
 ちょっと許せないよね!
 暴言ばかりか勝手に上納金なんて制度を始める魔王って!」

「そうですね。
 暴言も許せませんし、天使に断りもなく上納金だなんてあり得ませんね!」

「そんな悪い魔王は、罰が下るよね!
 天使として悪を見過ごせないもんね!」

「そうですよ!
 天使として悪を見過ごせないですからね。
 きちんと罰を与えないと!
 ・
 ・
 ・はっ!
 ・・・しまった!」

「はい。ありがとう。
 録音させてもらったわ。
 ハン!
 天使の言質はとったわ!
 ・
 ・
 ・あれ?
 ハン!
 ハン!」

「はぁ、はぁ、すまないッス。
 ちょっと迷いの森まで私用で行ってたッス!」

「・・・まあいいわ。
 とにかく、全軍を指揮して、魔王ドラニコフを成敗するわよ。
 正義の名のもとに討伐戦よ!」

「了解ッス!」

ハンが慌ただしく王の間をあとにする。
マリーは、ジャスと一緒にいるドン・キホーテに目をやる。

「ジャスちゃん、ソレどこで拾ってきたの?
 中世の置物?」

「マリーさん、ちゃんと生きてますよ。
 こちらは、ドン・キホーテさん。迷いの森に迷い込んできた人間です。」

「ああ、人間ね。
 ・
 ・
 ・
 ・ん?
 ・
 ・
 ・人間?」

「はい、人間です。」

「えぇぇーーー!
 人間なの!?
 ジャスちゃん、まずいって!
 人間を連れまわしたりしちゃったら。
 悪い悪魔に見つかれば、ジャスちゃんごと誘拐されちゃうよ!」

「えっ?
 そうなんですか?
 マリーさんも、お城の皆さんも普段と変わらない様子だったので、当たり前のことだと思ってました。」

「いやいや、うちは私の目もあるし、そういった悪魔の出入りは許してないからだけど・・・。」

マリーとジャスが話をしているところに、ドン・キホーテが割って入る。


「女神さま、差し出がましいようですが、わしなら一人でも戦えますゾイ!
 これでも遍歴の騎士。
 この槍と剣で諸国を渡り歩いた猛者ですゾイ!
 なんなら、魔王討伐に参加させてもらいたいのですがいかがかな?」

「マリーさん、どうします?」

「どうするって言われても・・・。」
(人間を魔王城に置いておくわけにもいかないからな・・・。
 転移装置も今から起動しようとしても、ろくにメンテナスしてないから動くかもわからないし・・・。
 どうしよっかな。ゾイゾイも守りながら戦うのか・・・。)
【※ゾイゾイ=ドン・キホーテ】

「仕方ないわね。
 ゾイゾイ、一緒について来なさい。
 ジャスから離れないでね!」

「畏まりました。
 命に代えても天使様を守りますゾイ!」
(・・・そうじゃないんだけどな。)


こうしてマリーたちは、隣城の魔王ドラニコフの元に出撃した。



~死人の荒野~ 

魔王ドラニコフも魔王城へと進軍すべく軍を編成していたため、お互いの城の中央にある死人の荒野での戦闘になった。

「マリー様、敵の数が半端ないッス!」
「俺らの倍・・・3倍はいるニャン!」
「いまから謝って引き返すニャン!」

「使い魔ども!
 見苦しいぞ!
 俺らは戦う準備は出来てますぜ!」

用心棒だった悪魔たちは、それぞれに武器を持ち、対峙する敵の軍勢を睨みつけている。

「魔王ドラニコフの軍勢は、ざっとみて120ってところね。
 私はドラニコフ討伐、あとは、90、20、10かな。」

「えっ!
 待ってください!
 いまの割り方だと、私も頭数に入ってますよね!
 私が10体も倒すんですか!?
 むりむりむりむり無理です!」

「ゲッ!
 ってことは、俺らが20ッスか!
 俺ら全員攻撃で0.2ってとこッスよ!」

 
「おっしゃー!
 アネゴ、心配しないで下さい!
 俺らでアネゴやアニキの分まで殺ってやるぜ!」


「「「よろしくお願いします。」」」


「天使様、わしも及ばずながら剣を振るわせていただきますゾイ!」

「・・・死なない程度にお願いします。」


そんなやり取りをしていると、敵の軍勢が雄たけびを上げながら突撃をしてくる。

「さあ、みんな!
 行くわよ!」


「「「オオォォー!」」」



マリーは槍を構え、目の前に立ちはだかる敵を押しのけながら、一直線に魔王ドラニコフの元に駆け出す。
魔界の争いは、国や領土を奪う戦いではないので、魔王が敗北すれば勝敗が付く。
つまり、マリーが倒れればドラニコフの勝利、ドラニコフが倒れればマリーの勝利となるのだ。
その為、一直線に突撃するマリーに敵の悪魔たちも半数以上が方向を変え、マリーを追従していく。

マリーは群がる悪魔たちを焦ることなく1匹1匹、最小限の動きでダメージを与えていく。

「さすが女神さま、さながら軍神アテネといったところですな。
 わしも負けてはおれませんゾイ!」

ドン・キホーテは、マリーに感化され、用心棒だった悪魔の作る前線を乗り越え、マリーの元に駆けつける。

「ちょ、ちょっと、ゾイゾイ!
 ここは危険よ!
 早くジャスたちの元に引き返しなさい!」

「女神さま!
 これぐらいの悪魔であれば、切り伏せることなど造作にもないことですゾイ!」

そういってドン・キホーテは、手に持った槍で悪魔を切り伏せていく。
その槍さばきは、マリーも目を見張るほどの実力があった。

「ゾイゾイ、なかなかやるわね!
 私がコイツらを引き付けるから、魔王ドラニコフを倒してみない?」

「わしが魔王をですかな?」

「そうよ、危なくなったら助けてあげるけど・・・どうする?
 やめておく?」

「是非、魔王討伐の任、わしにお任せください!」

「OK!
 ゾイゾイに任せるわね!」


マリーは、ドン・キホーテにウィンクすると、敵を引き付けるために、ドラニコフや味方のいない方向へと敵を引き付けて進んでいった。

一人残されたドン・キホーテは、一直線に魔王ドラニコフに向かって突撃をする。
魔王ドラニコフは、風車小屋のような巨大な体をもつ4足歩行のドラゴンだ。

魔王ドラニコフは、ドン・キホーテが突撃してくるのを確認し、首元にある4枚の翼を広げた。
風車のように広がった4枚の翼は魔王ドラニコフの首の周りで激しくプロペラのように高速で回転し、ドン・キホーテの突撃を強烈な風で阻止する。

「お、おにょれ!」

さらに、魔王ドラニコフは、口の中に貯めた燃える水を吐き出した!
燃える水は強烈な風と混ざり合い、激しい熱と炎でドン・キホーテを襲う!

間一髪、燃える水の直撃を回避したドン・キホーテだが、その熱気で左足に軽い火傷をおってしまう。

「なんなんじゃ、あの炎は!
 あんなものを喰らえば ひとたまりもないゾイ!」

魔王ドラニコフは、再び燃える水を口の中に貯め始めた。

「よ、よし、一か八かじゃ!」

ドン・キホーテは、魔王ドラニコフが再び 燃える水を吐き出した瞬間、持っていた槍を空高く投げ、その後に燃える水を回避した。
槍を投げる動作が入った分、回避が遅れ、次は左足にまともに燃える水を浴びてしまった。
ドン・キホーテは、転がりながら火を消し、あざ笑う魔王ドラニコフめがけ、足の痛みに耐えながら腰につけた剣を引き抜き、決死の突撃を行った。

魔王ドラニコフは、突撃してくるドン・キホーテに、三度目の燃える水を吐き出そうと口に貯め始めた。
そして、首の風車のような翼を高速回転させる。

ヒュウーーン!

「おまえさん、油断しすぎじゃて。
 少しは状況把握をしたほうがいいゾイ。」


ドス!


ドン・キホーテの投げた槍が、落下の速度と風車の巻き込む風で加速しながら魔王ドラニコフの首を貫く。
首に空いた穴から、燃える水が流れ落ち、魔王ドラニコフを炎が包み込む。

「おのれ、魔王マリーに使える人間風情が!
 この魔王ドラニコフ、何度でも転生し貴様を見つけ出し必ず復讐を果たしてやる!!!」

「魔王マリーじゃと・・・。」



「グギャァァァァ!」

魔王ドラニコフは、自らの燃える水に焼かれて断末魔をあげた。
断末魔を聞き、敗北を察した敵の悪魔たちは、散り散りに戦場から逃げ出していく。


「我が友 ゾイゾイが魔王ドラニコフを討伐した。
 よって、この争いは 私たちの完全勝利だ!」



「「「オオォォー!」」」


マリーたちは、傷ついた英雄ドン・キホーテに手を貸す為に駆け寄る。

「ゾイゾイ、やるじゃん!
 人間なのに魔王を倒すなんて、なかなかだね!」

マリーがドン・キホーテに手を差し出すと、ドン・キホーテは、その手を払いのける。

「ゾイゾイ、どうしたの?」

「わしは、正義の騎士じゃ。
 魔王マリー、正式に決闘を申し込みますゾイ!」

「それ、本気で言ってるの?」


ドン・キホーテの態度に一触即発の状況になる。
使い魔たちは マリーをなだめようと、マリーを説得している。
ジャスは、マリーとドン・キホーテの間に割って入り、ドン・キホーテに話しかけた。

「ドン・キホーテさん、マリーさんは魔王ですけど、とてもいい人です。
 決闘なんて止めてください。
 それにドン・キホーテさんは、足に火傷をおってるじゃないですか、いまは傷を治すことが先決ですよ。」

「天使様、なぜ止めるのですかな。
 悪を成敗するのは、正義の務め。
 魔王を名乗るからには、相当の悪に決まっていますゾイ。
 わしは正義の為に悪を打ち滅ぼす騎士!
 命に代えても魔王を退治してみせますゾイ!」

ドン・キホーテの意思は固いようだ。
その言葉に、マリーも怒りを通り越してあきれている。
寂しげな表情を見せるジャスは、そんなドン・キホーテに質問する。


「ドン・キホーテさん。
 ドン・キホーテさんの正義って何ですか?」

「わしの正義ですかな。
 それは、悪を打ち滅ぼすことですゾイ!」


ドン・キホーテは、ジャスの質問に堂々と答える。
ジャスは、ドン・キホーテにさらに質問を続けた。


「では、ドン・キホーテさんにとって悪って何ですか?」

「それは、人々を騙したり、苦しめたりする事ですゾイ。」

「ありがとうございます。
 では、人を信じ、愛を与え、幸せにする事って正義ですか?
 それとも悪ですか?」

「それは、正義ですゾイ。」

「だったら、マリーさんは正義ですよ。
 ドン・キホーテさんとは違う正義に感じますが、見方を変えれば同じ正義です。
 彼女も仲間を信じ、愛を与え、幸せにしています。
 たしかに、敵対する魔王と戦ったり、気にくわないことがあれば すぐに怒ります。
 ですが、彼女は彼女なりに正義を貫いています。
 ドン・キホーテさん、自分の信じる正義と違うものが悪ではありません。
 自分の信じる正義と違うものにも、違った正義があるのです。
 私は魔界にきて、それに気づかされました。」

「しかし!
 ・
 ・
 ・。」


ジャスの言葉に何かを感じたのか、ドン・キホーテは 反論をやめた。
そんなドン・キホーテに マリーが声を掛ける。

「ねえ、ゾイゾイ。
 もう少し肩の力を抜いたら?
 昔から感じてたことなんだけど、人間って善とか悪とか、正義とかに こだわりすぎだよ。
 確かに、自分の正義を貫くために他に迷惑をかけることは いいこととは言えないかもしれない。
 でも、自分が信じた道なんでしょ。苦労もあるかもしれないけど、もっと楽しんだらいいのに。
 人間の一生って、たかが300年くらいなんでしょ。短い人生を楽しまないと損するよ。」
(・・・人間は100年も生きないニャン)

「人生を楽しむ・・・。」

「うん。人生を楽しむ。
 それでも決闘がしたいのなら受けてあげる。
 だけど、私も仲間を守り抜く義務があるから手を抜いたりしないよ。」

「わしは・・・。」



ドン・キホーテは、うつむき何か答えをだそうと必死だった。
そこにマリーが再び手を差し伸べる。

「ほら、まずは城に戻って手当しよ。
 足、痛いでしょ?
 魔界の若き英雄、ドン・キホーテ・デ・ラ・マンチャの凱旋よ!」

「わしが若き英雄とは・・・。
 ・
 ・
 ・魔界の英雄と呼ばれるのも、わるくないですゾイ。」


目から零れ落ちる涙をぬぐいながら、ドン・キホーテは、悪魔たちに肩を借り、魔王城を目指す。
その道中・・・。


「そういえば、ゾイゾイとジャスちゃんって、どうやって知り合ったの?」

(ギクッ、まずい展開ニャン!)
(ハン、何とかするニャン!)
(分かったッス!)


「マリー様、ゾイゾイさんも疲れているでしょうし、まずは魔王城まで急ぐッス!
 足の火傷を治してから、ゆっくりと茶でも飲みながら話を聞けばいいッス!」

「いやいや、使い魔殿。
 わしは大丈夫ですゾイ!」

「で、でも・・・。」

「ハン、ゾイゾイが大丈夫って言ってるんだから、大丈夫よ。
 あなたも心配性よね。」

「は、はははっ、そ、そうッスね。
 心配性すぎて、お腹が痛いッス・・・。」

(ダメニャン!)
(ハンは言い訳が下手すぎるニャン!)
(とにかく、ずらかるニャン!)


「「「マリー様、俺ら先に城に戻って手当の準備をしておくニャン!」」」


数匹の使い魔が列を飛び出し、全速力で魔王城へと駆けていった。

「ううう、ずるっこいッス!」

「ハン、どうしたの?」

「・・・なんでもないッス。
 観念するッス。ゾイゾイさん、話の腰を折ってすまないッス。」

「いやいや、わしは気にしてないゾイ。
 そうそう、天使様と出会ったのは、わしが森を彷徨っていたところ、悪魔に襲われる天使様を見つけたのがきっかけですゾイ。
 その悪魔は、2mはあろうかという巨大な白い魔物!
 ・
 ・
 ・そう!
 白き巨人だったのですゾイ!」

「違いますよ、ドン・キホーテさん!
 あれは、人の命を奪うゴーストですよ!」

(あっ、あれ?
 なんか違うッスね?)


「いやいや、白き巨人だったですゾイ!」
「違います。人食いゴーストですよ!」
「白き巨人ですゾイ!」
「人食いゴーストです!」
「白き・・・。」

「もう、うるさーい!
 別にどっちでもいいわよ!
 とにかく、そんな危険な魔物を放っておけないわ!
 ゾイゾイの傷が癒えたら、白き人食い巨人を討伐に行くわよ!」

「「「はい!」」」

(と、とにかく、
 俺の秘策通りの展開だったッス!)


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